教え13 入学ですか?
「………フェルルという者は強力な駒となりそうであるな」
「え?あっ。その。……はい」
王城の一室。
新公爵の就任式とその後のパーティーも終わり、国王は1人の少女と話をしていた。一方的に話しているといっても良いだろう。
国王が話をしている少女はまだ幼く、身につけている可憐なドレスを着こなせているとは言えない。
「リセス。おぬしはどうしたい?あの駒を得れば、全く無かった継承線への勝利が、砂粒1つ分くらいの可能性になったぞ」
「えっ。あ、あの。わ、私は……」
フェルルが供回りになる予定の少女、第3王女であるリセスは、何かを言いかけて黙り込んでしまった。彼女は彼女で、考えていたことがある。それが、今回の国王の行動で崩れ去ってしまったのだ。
とは言っても、フェルルと同じく4歳児であるリセスの考えたことが上手くいく保証など、全くと言って良いほどないのだが。というか、ゲームではしっかりと失敗している。
「おぬしだけでは、生き残ることは無理だろう。だからこそ、おぬしはあのフェルルという逸材を御してみせるのだ。期待しているぞ。リセス」
国王はにやりと笑う。そしてそのまま歩いて行き、部屋から出て行ってしまった。きっと長い廊下を歩き、また別の部屋へ行くのだろう。
リセスは、父親である国王の出て行った扉をしばらく見つめて、小さく、
「え、えぇ~」
※※※
「君がフェルル君だね。まずは、入学おめでとう」
「ありがとうございます」
私がリセスさんの供回りとなることが決まって数日後。私はまた新しい場所へとやってきていました。
それがどこかと言えば、大きな建物。沢山の人が生活する寮。綺麗になら張られた多くの椅子と、その前にある大きなボード。何かしらの実験をするのだろう、毒々しい色の薬品が並んだ危なそうな部屋。
ここまで言えば分かるでしょうか。……そう。学校です。
「その年で学園に入学すると大変なことも多いだろうが、めげずに頑張って欲しい」
「はい。ご期待に添えるよう頑張らせて頂きます」
とは言いますが、私に言葉を下さる方は、あまり期待もしていなさそうです。
まあ、ある意味、早く失墜して欲しいという方の期待はされているかも知れませんが。きっとどこか、継承戦で敵となる家のお方なのでしょう。誰も見ていないからと言って暴力を振るわないだけ、マシなのかも知れませんね。
「それでは、リセス様のところまで案内するから、ついてきてくれ」
「はい。宜しくお願い致します」
私がリセスさんのところまで案内して貰っている間に、学園へ通うことになった理由をご説明しましょう。
理由は簡単にいってしまうと、リセスさんの取り巻きになったからです。更に詳しく言うと、リセスさんが学園に通っているので、私も一緒に行かなければならなくなったといった感じです。
本来学園に通うのは6歳からなのですが、王族の方は3歳から通うことになっています。因みに姉のシアネさんは7歳で学園に通っていますが、この学園ではなく地元の学園です。
「リセス様。フェルルをお連れしました」
「え、あ、はい。……あ、ありがとうございます」
案内された先にあったのは、少し大きめの部屋。そして、そこにポツンと1人でいた少女の前に私は案内されます。私と同じくらいの年齢の女の子。弱々しいしゃべり方をするこの方が、リセスさんです。
ここまで弱々しいと第3王女という立場を抜きにしても、誰も後ろ盾になろうとしないのも納得できますね。
「お久しぶりです。リセス様」
「あ、は、はい。お、お久しぶりですぅ」
お久しぶりと言ったことから分かるとは思いますが、すでにお会いしたことがあります。
供回りとなる事が決まって、1度顔合わせがあったのです。国王様とお話をした2日後くらいのことだったでしょうか。それに、お父様の公爵就任後のパーティーでもお姿だけ拝見しました。
印象は今のところ、おどおどしたあまり人と関わることが得意ではない方、といったモノで変わりません。
「本日のご予定をお伺いしてもよろしいですか?」
「あっ。は、はい。………あの。と、特に予定は無いです」
「そうなのですね。では、授業なども無いということですか?」
「……は、はい。ない、です」
授業もないのですか。となると、本当にやることが何もないですね。
因みにこの会話中、リセスさんは1度も私と視線を合わせていません。私も心を許されてはいないようです。まずは、ここを改善していかないといけませんね。最低限本心を引き出せるようにしておきたいですから。
そのためにも、一緒にお茶でも飲みながらお話でも、………するつもりでしたが、そうもいきそうにないです。
「あらぁ~。あなたが例の、リセス様の供回りさんですの?」




