教え10 公爵ですか?
1月後。
国王の下に、1人の男爵が訪れていた。勿論、それはフェルルの父親、ファチーザである。通常、男爵などという地位では国王に面会をすることはむずかしいのだが、
「王よ。我が家より、かき集めてきた3万枚の教会銀貨を献上させて頂きたく存じます」
「うむ。許す。……しかし、3万枚か。よく集められたものだな」
「はっ。王の、そして国のためを思い、死に物狂いで集めて参りました」
嘘である。家にある倉庫から、適当に持ってきただけである。
………ただ、教会銀貨3万枚を数える作業があったので、言うほど適当ではなかったが。
と言うより、家族総出で数週間かけて数えても、かなり疲れた。適当にとか言える疲労ではない。
「我としても、貴様の忠義に報いねばならんな。褒美に、土地と爵位をやろう。貴様は昔土地を失っているようだから、その分の全てと公爵の地位をやろう」
「ありがたき幸せ」
ファチーザは頭を下げる。その顔は、やりきったという達成感で染まっていた。
その後は土地を貰う日や爵位の就任の日などの説明を受け、帰路に就く。そして家に着くと、
「やったぞ!土地も戻ってくるし!公爵にもなれた!」
満面の笑みで言い放った。家族たちもぱっと顔を輝かせる。
父親の元に集まっていき、口々にお祝いの言葉を述べた。
「あなたぁ。凄いわぁ。前以上の成長じゃない!」
「本当です。これで我が家も安泰ですね」
「よく分からないけど凄いねぇ」
「うん。お父様凄い!」
家族たちからの祝いの言葉に、ファチーザは顔をにやけさせる。その様子を見ながら、フェルルは涼しい顔をしながら一言。
「凄いですね。公爵にまでなれるとは、私としても予想外でした」
「あ。そうだよな!公爵だなんて!………ん?公爵?」
「「………こ、公爵ぅぅぅぅぅ!!!???????」」」
ファチーザと、その妻の2人は発狂した。
公爵。それは、王に次ぐ、かなり高位の地位。指で数えるほどの人数しかいない爵位だ。
その日から数日間、公爵になるという意味を知っている大人たちは、現実が信じられずに呆然としながら過ごした。
※※※
ガタゴトガタゴトッ!
現在、私は馬車に乗って移動中です。向かう先は、王城となっております。その目的は、お父様の公爵就任式があるからですね。今日、国王様から爵位を授与されるわけです。
「………ふぅふぅ」
今日の主役はお父様なのですが、当の本人はとても緊張し顔持ちです。呼吸も乱れてますね。勿論、緊張しているのはお父様だけではありません。お母様たちもかなり顔がこわばっています、
「パ、パーティー。初めての、パーティー。………こ、婚約者。お友達。……うぅ~」
「シアネねぇね?大丈夫~?」
シアネさんは公爵というよりも、授与式の後にあるパーティーの方に緊張しているようですね。婚約者とかお友達とか呟いていらっしゃるので、他家との繋がりが作れるか不安なのでしょう。
唯一私以外で緊張していないのは、全く事情が分かってないタウさんだけですね。緊張して表情がこわばってる皆さんを見て、不思議そうにしています。震えているシアネさんをツンツンして遊んでいますね。
「………フェ、フェルルは随分と落ち着いているね」
「ん?そうですか?……まあ、私だけじゃなくて、タウさんも落ち着いていますよ」
「いや。タウは、まだ小さくて事情が理解できていないからだろ」
お父様がジト目で言ってきます。しかし、忘れているのでしょうか?
私は、
「私、タウさんとは1歳差なのですが?タウさんが緊張していないのなら、私が緊張していなくても違和感はないと思いますけど」
「そ、そういえば、そうだったね。大人びすぎてて、フェルルが1番年上な気がしてしまうよ。そこの緊張でガチガチなシアネよりも、凄い年上な気がする」
「ふふふっ。緊張していないという理由で年上になるのなら、私がこの中で1番年上になってしまいますよ」
そうなれば、私は一体誰の子になるのやら。私の言葉を聞いて、緊張していた方々は苦笑いをしています。
緊張がなくなることは無いですが、少しはマシになったのかも知れないですね。お役に立てたようで何よりです。
「……見えてきたよ。あれが。王城だ」
しばらくして、お父様が、外にお城が見えていることを教えてくださいます。皆さんが、窓の外へ視線を向けました。勿論私も外を見ます。
視界に映るのは、いかにもなお城です。さぞ有名な建築家の方が設計されたのだろう独特な形状の白を基調としたお城に、沢山の宝石類が埋められています。豪華ですねぇ~。いったい、アレに幾ら掛かっているのでしょうか?
などと思っていたらすぐに時は経ち、私たちは馬車を降りることに。
「……行こうか」
「「「はい」」」
お父様が先頭を歩き、王城へと踏み入れていきます。入ると、そこにあったのは大きなホール。
「……ひ、広い」
シアネさんが、あまりの驚きに思わず声を漏らしてしまいました。幸い、小声だったので誰にも聞かれてはいなさそうですが。もし聞かれていたら、田舎者だと馬鹿にされていたことでしょう。
お父様が入っていくと、
「お待ちしておりました。ジーモイーブ男爵」




