教え1 転生なのですか?
きりの良いところまで書いておりますので、1ヶ月と少し程度の投稿になる予定です(人気があったら続きを書くかも
それではごゆるりと~。
「魔王教設立から早30年。ここまでの時間は短いようで長く、長いようで短い。非常に不思議で、充実した時間でした。この30年で莫大に増えた信者の皆様を見て今、神、いえ、魔王様は喜ばれていることでしょう」
「「「おおおぉぉぉ!!」」」
この日、私は大勢の方々を前に演説を行っていました。
この方々は、私が教祖という位置づけになっている魔王教の信者の皆様です。私と、今は亡き牧師様が共に魔王教を初めてから、コレまでの間に30億人というとてつもない数の信者さんを得ることができました。
これも全て、私にあらゆる技術を伝え、最後には身を挺してかばって下さった牧師様。
そして、牧師様を遣わせて下さった魔王様のおかげ。
これからまだまだ時はあるのですから、この結果にあぐらをかくことなく、更に私たちの魔王教を大きくしていかなければなりません。
……そう、このときは思っていました。
しかし、そんな思いも、次の瞬間には打ち砕かれることとなります。
パァンッ!というような乾いた音が、広い会場に、そして、オンラインで見て下さっている方々の世界各地に響きます。
直後、私は、
「ガハッ!」
口から溢れ出る血。
視線を落とすと、胸の辺りに赤いシミが出来ています。さらに、
パンパンパンッ!
音は続きます。それと共に、私の身体には赤いシミが増えていきました。
あまりの突然の事態に、このときの私は痛みすら感じませんでした。
「……これは、銃、です、か」
血が絡んでよく動かない口を、無理矢理動かしながら私は呟きます。私の視線の先には、銃を持って大きく肩を上下させている男性がいました。
私が助からないことを確信したのでしょうか。その男性はその銃口を、今度は自分の頭へ押し当て、
パァンッ!
この世から旅立ってしまいました。なかなかに狂っていて、シッカリとした教育を受けた方だったようです。
「きょ、教祖様!」
「こ、この中に医者は!?」
数秒遅れて、信者の皆様が動き出します。
しかし、すでにその時には遅いことを私は確信していました。だからこそ、私は最後まで神の意志のために動く、そんな気持ちで口を開きます。
「治療は、間に合わな、いでしょう。ゴフッッ!……ですから、最後に、今回、の、教訓、を」
私がそう言うタイミングで、私に手を当てていた方が首を振りました。今考えてみると、この方はお医者様だったのでしょう。その様子を見て、皆様涙を流されていたのを覚えています。
ただ、その時の私は、伝えることに必死になっていました。
「今回使われたのは、数千年前に使われていたという武器、拳銃だと思われ、ます。最近、の、私たちの、ゴホゴホッ!………ようなモノは、新しいモノにしか、目を、向けま、せん。そこ、が盲、点でし、た。この反省、を、活、用、すれ、、ば、」
そこまででした。ここまでで、私の使命は終わった。
……はずでした。
「………あぁ~。うぅ~。ばぁ~」
気付いたときには、普段出さないような声が出ていました。教祖としての威厳を保つためにも絶対にこのような声は出すべきではないのですが、どう頑張ってもこういった声しか出ません。
その事実に私は困惑。何が起きているのか確認するため、起き上がろうとして、
「……あぶぁ?」
身体の異常に気付きました。
上手く力が入らないのです。それに、いつまで経っても目のピントが上手く合わない。
このときの私が真っ先に思いついたのが、誘拐、でした。
ですが、すぐに頭で否定します。
私は、銃などという大昔の兵器で大けがを負ってしまったはず。ケガの治療代が身代金より高くなりそうですし、わざわざ誘拐する必要など無かったはずなのです。
そう考えると、これは治療されているという確率の方が高く感じられました。一命は取り留めたモノの、身体が正常に動かせなくなった。そんな所だろうと推測します。
そんなことを考えているときでした。私の視界で、何かが動きます。お医者様が観察にでも来て下さったのだろうと思って安心していたのですが、
ふわっ。
身体が浮かび上がる感覚。今までの記憶には無い感覚でした。しかし、そんな感覚も吹き飛ぶような、衝撃の一言が。
「※※※※※。※※※※~」
私は、私に話しかけている方が何を言っているか分かりませんでした。
この、信者様たちへのアピールのため、努力を欠かさず、世界中の全ての言語をマスターしたと言っても過言ではないこの私が、分からなかったのです。
このときは、耳が上手く聞こえないだけだと思っていましたが、違いました。私の知っているどの言語の構成パターンとも違う文章の組み方。
つまり、これはそう。そういうことなのです。私、最近一部の場所で話題になっていた、転生というモノをしてしまったようなのです。
魔王様が、今までの私の努力を見て下さり、この先のチャンスを作って下さったのでしょうか?それは、このときから数十年経っても分かりませんでした。
しかし確かなのは、私に再度、魔王教の素晴らしさを広める機会が巡って来たということです。
それならば、私は使命を全うするのみ。私は気合いを入れました。
それと同時に、
「オギャアアァァァ!!!!!」
私の口から、勝手に声が出て、私の見えにくかった目が、更にかすみ始めました。赤子の仕事として、泣き始めてしまったのです。
きっと、私の大いなる決意の強さに、この貧弱で無垢な赤子の身体が耐えきれなかったのでしょう。明日からは、この身体を強くしなければならないと思ったところで、私の思考はだんだんと薄まって………




