名前を知らないチョコレート
とある作者様のイラストを拝見して、インスピレーションを受けて執筆した即興短編小説です。
キーンコーンカーンコーン
学校からの帰り道、特にこれといったこともない、いつものように帰路に着いていた。
今日は男子にとっても、女子にとってもドキドキする1日‥バレンタインデー。
好きな人のためにチョコを渡す勇気を振り絞る女子もいれば、好きな人からももらえることを天に祈りを捧げる男子もいる。
1日中恋バナで賑わっていた学校であったが、俺にとっては無縁の話だった。
特に好きな人もいない、もちろん彼女もいない。
俺にとっては、バレンタインデーなんて本当にどうでもいい1日だった。
たまに、何者かに後をつけられている気がしてる時もあるが‥いつも後ろを向くと、野良猫だったりカラスが追っかけてきている。
動物にモテるのはきっと才能だ。人にはない才能なのだ。だから別にチョコなんかいらない。
これは決して僻んでるわけではない。
「あ、高橋ー、チョコ作りすぎちゃったからあげるー」
「返すの面倒くさいから、いらね」
帰り道の途中に出くわしたクラスメイト。
せっかくもらえそうだったのに‥と思うかもしれないが、
明らかに 義理チョコ とわかっているものをもらっても嬉しくもない。
わざわざ1ヶ月後に無駄な出費が増えるだけだ。
それに俺は甘いものがそんなに得意じゃない。だからチョコをもらってもそんなに嬉しくないのだ。
重ねて言うが、俺は僻んでるわけではない。
----それから3時間後
辺りは暗くなり、19時を過ぎており、夜になっていた。
街はカップルで溢れかえり、手に紙袋やら何やらを持ちながら、微笑ましいくらいに幸せそうな人達で溢れかえっていた。
そんな中、俺はなぜか一人でいた。家にも帰らずに
言わなくてもわかっていた。ただ、女々しいだけだった。
無駄に強がりを言ったせいで、もらえたかもしれないチョコを断ったことをひたすら悔やんでいた。
俺だってまだ高校生‥‥やっぱりバレンタインデーには夢を見たい。
チョコは欲しい。
「はぁ‥‥何やってんだ、俺」
吸い寄せられるように、綺羅びやかなイルミネーションが広がる広場にやってきたが‥そこは、カップル達の待ち合わせ場所として、名物の広場。
そんなところに一人で来たのだから、傍から見れば余計に虚しい存在に見えるのではないだろうか。
それでも、何故かここに来てしまった。他人のカップルを見ても羨ましくなるだけなのに。
少しだけでも‥気分を味わいたかったのかもしれない。だが、俺には待ち合わせする相手なんかいない‥いるはずもなかった。
広場にあるベンチに座り、時折時計を見る。
何故だろう、一人で来てると見られたくないと脳が信号を出したのか、
誰かと待ち合わせしてる素振りをしていた。
「‥‥誰も来るわけないよな、そもそも待ち合わせなんてしてないし」
ボソリと一人愚痴り、時計を見返す。
気がつけば、この広場で30分もベンチに座っていたようだ。
「帰るか‥」
何を無駄に期待していたのか、自分でもわからないが、落胆の籠もった声が出ていた。
リュックを肩に掛けて、家のある方向に少し歩き出した‥‥その時だった。
トントン
何者かに肩を叩かれる。
即座に振り向こうとしたが、その前に向こうから声が発せられた
「高橋くん‥ハッピーバレンタイン」
その声と共に俺の胸元に、何かを押し付けられる。
押し付けてきた相手は、長い綺麗な茶色の髪を靡かせながら、走り去っていった。
「お、おい!何だよこれ‥‥‥‥って‥‥⁉」
胸元に押し付けられたもの。それはピンク色をしたハート型の箱であった。
リボンで綺麗に結んであり、結ばれたリボンの所には手紙が挟まっていた。
その折りたたまれている手紙を開くと、そこにはただ一言だけ文章が綴られていた。
「ずっと前から大好きでした」
名前もなく、ただ一言だけ書かれていた手紙。
俺はその手紙を持ちながら、女の子が走り去った方向をただただ呆然と見つめ続けるのだった‥
お読みいただきありがとうございました!