プロローグ
「アルド。お前をこのギルドから追放する。これは既に決定したことだ」
いつも通りギルドに向かい、仕事を引き受けようと思った矢先、俺はギルドマスターにそう言われた。
「な、なんで追放なんだ! 仕事はちゃんとしているじゃないか!」
「お前が不正をしているからだ。この書類を見ろ!」
そう言って奴が投げ捨てた紙には様々なことが書かれていた。
『アルドはS級モンスターを倒せると言ってるが、それは嘘であり、他の奴の手柄を奪っているだけである』
『アルドはC級モンスターすら狩れない雑魚である』
『アルドは女にだらしなく、何人もの女から金を貰っている』
まさかとは思うが、奴はこんな根も葉もないうわさを信じているというのか。
「アルド。お前は素晴らしい奴だと思ってたのに。目にした時は信じられなかった。しかし、あの大貴族様が嘘を言うはずがないからな。それに、いくつもの証言も出ている」
「大貴族? ああ。最近入ってきた能無しのカスか。そんな奴の言葉を信じてるのか?」
「口を慎め! あの方は我らのギルドに寄付をし、この領地を支えてくれてる素晴らしき人なのだぞ! カスとは何事だ!」
領地を支えてるから、ギルドに寄付をしてるからなんだ。俺からすればあいつは犬のクソみたいな性根だ。人を見下す事しか出来ない哀れなゴミ貴族。それが奴の正体だというのに、この男はそんなことにすら気づけていないらしい。
「とにかく! 貴様はもうこのギルドにいらぬ存在だ」
「S級モンスターの退治はどうする? 俺以外にS級モンスターを倒せる奴はいないぞ」
「心配するな。このギルド最強の戦士レーナもいるし、貴様がカスと言ったエルデス様もS級モンスターを討伐できる」
レーナか。確かに彼女なら、S級モンスターを倒すことは出来るだろう。だが、あのカスじゃあ絶対に勝てない。俺の見立てだと、奴はC級モンスターにすら勝てるか怪しい所だが、まあどうでも良いか。こいつらは俺を追放した。なら、さっさと出て行くのが正しい判断だ。
「そうか。なら俺は失礼する。今まで世話になったな。もう会うこともないだろう」
そう言って俺は踵を返し、ギルドを去ろうとする。扉を開けると、ちょうどカスと鉢合わせになった。
「おやああ? 不正をしたアルド君じゃないかあ。一体こんなところで何をしてるんだい? もうここには、君の居場所はないんだよ?」
「らしいな。どっかの誰かさんが嘘をまきちらしてくれたおかげで」
「おいおい嘘とは酷いな。偉大なる大貴族たる僕が、嘘なんてつくわけないじゃないかあ」
あくまでもしらを切るか。まあいいさ。こいつとはもう関わり合いになることもないだろうし、下手に絡むのも得策ではない。だから、俺は奴を強く睨み付けた。
「!? な、なんだ。体が動かないぞ……一体どうなっている!」
「エルデス様! 一体どうされましたか!」
「貴様! エルデス様に何をしたあ!」
取り巻きが突っかかろうとしたので、俺はそいつを睨み付け、動きを止めた。
「なっ!? どうなってる。なんで動けないんだ」
「くそお。お前ら何してんだ! さっさとあいつを叩きのめせ!」
奴らがガヤガヤ騒いでいたが、俺はそれを無視してギルドを出た。今の技は蛇睨み。B級モンスターなら動きを止められるが、それより上は一瞬しか動きを止められない雑魚技だ。この程度の技も一瞬で解けないのなら、奴の実力はB級以下。S級モンスターを倒すなど、夢のまた夢だろう。
「さて。これからどうするべきか」
ギルドを追放され、俺は金を得る手段を無くしてしまった。
「……気は進まないが、あいつの所に行ってみるか」
あいつなら、良い働き口を見つけてくれるだろう。