呼び方
第1章4話あたりの話です。
主人公視点で書いています。
私は複雑な気持ちで夜道を歩いていた。
同じように隣を歩いている付き合いの長い相棒が『悪魔』のベルゼブブであるという事がわかったからだ。
(悪魔なのは知っていたけど、まさかベルゼブブだなんて)
悪魔の中でも地位は高かったはずだ。
地位の高い悪魔は「契約」を結ぶために喚び出すだけでも相当な魔力を消費する。そのうえ必ず「契約」が成立するとは限らない。
喚び出して「契約」を成立させた父には尊敬の念しかない。
(これからどう呼んだらいいんだろう)
魔術をかじってる人達も悪魔についての最低限の知識は身につける。悪魔の単語を出しただけでも嫌煙されそうなのに
「ベルゼブブ」なんて言えば排除の対象にされかねない。
声をかけるために足を止める。彼も気づいたようで少し眉を上げて歩くのをやめた。
彼の目を見る。フードを被っているせいで顔全体が暗い。ハッキリ見えるのは目と口元ぐらいで髪型もわからない。
「少し相談なんだけど」
「なんだよ?」
「……なんて呼んだらいい?」
「は?」
彼は相当驚いたようで何度も瞬きをしている。
「そのまま「ベルゼブブ」って呼ぶのは良くないと思って。一般の人はあだ名ぐらいで済むけど、魔法をかじってる人達にとってはそうもいかないから……」
「……好きに呼びゃいいんじゃねぇの」
ため息を吐いてぶっきらぼうに返答される。
彼にとってはどうでもいい事なのだろう。
「でも……」
「普段が呼ばなくてもいいからな。急に言われてもムリだろうよ。
なら、その場に複数いてどうしてもオレ様に話しかけないといけなくなったら、どう呼ぶ?」
「うーん…………」
(2人の時が多いから声をかける相手が決まっていた。
急に考えると思いつかない。
ベルゼブブだという事を隠すために呼ぶ……)
「……………………………………あなた?」
「夫婦かッ⁉」
素早いツッコミが入った。自分でも恥ずかしいのはわかっていたが実際に指摘されると顔が熱くなってくる。
「……今まででも「あなた」って呼んでたよ」
「そうだが……頻繁に呼ばれても困る!」
「なら、何か案はないの?」
私がそう言うと彼は顎に手を当てて考え始めた。
考えが浮かばないのは彼も同じらしい。
じっと眺めていると何か思いついたようで私に視線を合わせる。
「…………………………………………べっさん」
「「あなた」の方がマシだと思う……」
すかさず言うと彼は口を曲げた。
そして私を睨んで指差してくる。
「あーーもう!好きに呼びやがれ!「あなた」でも
「お前」でも「べっさん」でも何でもいいっ!」
「……わかった。変な事聞いてごめん」
「フン、全くだ!」
彼は吐き捨てるように言うと大股で歩き始める。
やっぱり彼にとってはどうでもいい事のようだ。
(臨機応変に呼ばなきゃ。……ベルゼブブだって事がバレなければいいんだろうけど)
自分がうっかり言うなんて事はないとは思うが、用心しておかないといけない。
私は握り拳を作って気合いを入れると彼の後を追った。