制限時間は
魚の焼ける香ばしい匂いに反応してかユーストマの可愛らしい鼻がひくひくと動く。
『起きたなら、食べるか?』
こんがりと良い具合に焼けた枝に刺さった魚をアルはユーストマの方に差し出すと、むくりと起き上がったユーストマは目を擦りながら魚を受け取り、寝ぼけ眼でかじり始めた。
二口、三口目でユーストマの眉間に僅かにしわが寄る。
「苦い、でも……暖かい」
『王宮の料理みたいに美味くはないがな』
苦笑を漏らすアルにユーストマは首を横に振り、四口、五口と食べ進める。
「美味しいです。まだ、あたし食べれるんです。アル様ありがとうございます」
礼を言い目に涙を浮かべながら魚を頬張るユーストマをアルはなんとも言えない雰囲気で眺めていた。
腹が満たされたユーストマの瞼がトロンと落ち始める。
『眠いなら寝とけ』
見かねてアルが声をかけるとユーストマはフルフルと頭を左右に振り気合で目を見開く。
「私は大丈夫です。アル様こそ休まれてはどうですか?」
『俺は大丈夫だから気にするな』
「でも……」
なおも食い下がろうとするユーストマの頭をアルは優しくなでた。
『俺よりも自分の身体を気遣ってやれ。ユーストマはまだ生きたいんだろ?』
こう言われてはユーストマに返す言葉はなかった。「分かりました」と頷くとユーストマは毛布にくるまると寸刻で眠りに落ちていった。
暫く穏やかな寝息が静かな森に響く。
生きる鎧になったアルに睡眠は必要なかったが、気を休ませようと目を瞑ると同時にユーストマが苦し気にもだえ始めた。
『ユーストマ』
アルが声をかけてもユーストマの目を開かず、額に大粒の汗を浮き上がらせ苦し気に息を吐く。
(あまり、時間はなさそうだ)
毛布にくるまったユーストマを抱き上げると、アルは星明りのみを頼りに川上に向かって走り始めた。