勇者の祠
泣き疲れて再び眠りに落ちたユーストマが目を覚ましたのは日が頂点に上る少し前あたりの頃だった。
『随分、寝坊助なんだな』
アルが苦笑を零すとプンスとユーストマは頬を膨らませる。
「いつもはもっと早いです」
『そうかい、そうかい。準備が出来ているなら出発するぞ』
「準備は大丈夫です。何も持っていませんから」
その言葉にアルは固まった。
『何も持ってないだと?』
「はい。命からがらここまで送り出されたので」
ユーストマの回答にすっとアルの双眸の光が細くなる。
(そんなにまずい状況なのか?)
『とにかくロベリアの元に向かうぞ。案内は頼めるな?』
「はい。お任せください」
アルの問いかけにユーストマは元気に頷いた。
岩壁の間を出て外からアル達は一夜を明かした建造物を眺めていた。
『ほー、こんな風になってたのか』
岩壁の間、もとい、伝説の勇者の眠る祠。岩で組まれた半球型の建造物の正面には年月であせてはいるものの元は美しかったであろう装飾が施された扉がはめ込まれ、頂点には翼持つ人の像が設置されている。
『死にたがり勇者には勿体ない墓だな』
苦笑を漏らすアルにユーストマは
「そんなことないですよ。アル様はそれだけのことをしてきたんですから」
眩しい笑顔を向けられ、アルはばつが悪そうに顔を伏せた。
『俺はただ、手っ取り早く死にたかったからやってただけだ……』
「理由はどうあれ、アル様が多くの人を救ったのは事実です。そこはもっと誇っていいと思いますよ」
『そういうもんだうろか……』
なおも褒めるユーストマの笑顔にアルは気恥ずかし気に鋼鉄の頬を掻いた。