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『ユート、お前は生きるんだろ?こんなところで死ぬなよ』


 抱きしめ呼びかけるもアルの腕の中の少女の眼は開かれない。


(あの時、お前はこんな気持ちだったのかアルメリア)


 同じ立場になって初めてアルは共に戦った回復術士のアルメリアの気持ちを理解した。

 徐々に少女の心臓の鼓動が弱まり、ついには止まった。


『ユート!ユート!!死ぬな。お前は生きるんだろ!』


 幾ら揺すったところでユートの眼は開かれない。


(勇者だと大層な事を言われてても、何も俺は出来ないのか?)


 ありったけの知識を総動員してアルは考えた。結果、確証はないものの一つの方法が挙がった。



 アルの蒼い左目は義眼である。一度目のロベリアとの戦いで失った左目の代わりを今までずっと行っていた。この義眼、目の代わりをしつつ、倒した魔物の魔力をため込むという特性を持っていた。

 現在、アルの義眼には生涯最後に戦った邪竜からそれまでに打倒した数多の魔物の膨大な魔力が貯めこまれている。

 魔術師によれば魔法とは想いだといわれている。明確な想いに魔力で形を与えるのが魔法だと。故に、魔力と想いがあれば魔法は完成する。


 左目に手を伸ばすアルに迷いはなかった。抉りだされた蒼い元は左目だった球体からはおびただしい量の紫色の魔力が零れ出る。


 横たえたユートの胸の中心に魔力を溢れさせる蒼い球体を置くとアルは願った。

 蒼い球体から溢れだした魔力はユートの全身を包み覆い隠す。それはさながら繭のようであった。



 どれほど待ったことだろうか?アルの気分としては数年は待ち望んだように感じていたが、実際の時間は1時間にも満たない。

 ピシリと繭に亀裂が入り、中から蝶であるユートの細く白い腕が隙間から覗く。


『ユート』


 アルが声をかけると繭の中から少女の声が返ってくる。


「アルなの?」


 その声は紛れもなくユートのもの。繭から急いで出ようとする少女の小さな掛け声が聞こえる。


「とりゃー」


 掛け声とともに繭を破り姿を現したのはユートと瓜二つの銀色の髪に赤い瞳の少女だった。


『ユートだよな?』


「あたしはユートだよ」


 訝し気に尋ねるアルにユートはコテンと首を傾げながら答えた。

 互いに見つめ合うこと数分。無理やりアルは自分を納得させた。


『ユートがユートって言うならユートだ』


「何、言ってるかわからないよ」


 今度はユートの方がアルを訝し気に見つめた。しばらく見つめて何かを思い出したのかユートの眼が丸くなる。


「そう言えばアル、刺されたところ大丈夫なの?」


『あぁ、それならもう直ってる』


 死神達に穿たれた穴も切りつけられた傷も綺麗に無くなっていた。ただし、自身で抉り出した左目だけは直らず、その辺の布を巻つけただけの眼帯擬きが巻かれている。


『致命傷でも勝手に直るのはありがたいのか難しいところだな』


 アルが困ったような声を出すと傍らに座る少女は少しばかり眉根を寄せた。


「すぐに直るかもしれないけど。あたしはアルが怪我したり、死にそうになったら心配するよ」


『そっか』


 ユートに向けていた視線をアルは中空へと移した。

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