異世界マン
――キン肉ダン(姓がキン肉、名がダン)は鍛えに鍛え抜かれた鋼……いや、ダイヤモンドの肉体を持つ、人類史上最強の高校生である! 異論は認める。
ヒーローに憧れる父、キン肉ツヨシは名前とは裏腹に体が弱く常に病気がちだった。イジメの標的にされることが多く、嫌なことがあるとすぐにインターネットの掲示板に恨みを綴る習慣があった。
ツヨシは己の叶えられなかった『最強』の二文字の夢を息子へと託した。ちなみにダンの名前は父の敬愛するウルトラセブンの仮の姿であるモロボシ・ダンから頂戴してる。父の影響を受け、ダンもまたウルトラセブンが幼い頃から大好きだった。その為、ダンはウルトラセブンをウルトラマンセブンと言い間違える咎人がいると、作者と同じように怒り狂ってTwitterで苦言を漏らすほどだった。
大リーグボール養成ギプスを身につけ父である一徹にしごかれる星飛雄馬か、新技習得の為にセブンの指導を受けるウルトラマンレオか。あるいは強化特訓の為、栄光の七人ライダーにボコボコにされるスカイライダーのごとく、幼少時より洗脳、もといヒーローになる為のありとあらゆる英才教育を施されたダンは、最近の難聴を拗らせたような脆弱なメンタルの主人公などではなく、逆境をノリとハイテンションで突っ切る昔のアニメに出てくるような硬派な熱血漢に育った。
小学五年生のある日、ダンは主人公と名字が同じであるキン肉マンの単行本と出会って強く感銘を受けた。何故このときまでキン肉マンほどの名作と出会わなかったのかと言うと、名前のことで散々からかわれた過去を持つ父が意図的に遠ざけていたのだ。
だが、出会ってしまった。キン肉マンを魂の聖書としたダンは父を説得し、作中の超人に習ってレスリングを極めることとなる。その結果、プロレスラーですら再現が困難な作中のフェイバリットホールドをも使いこなせるようになった。
もはや同年代の少年らはおろか、プロの格闘家や傭兵ですら彼の相手は務まらなくなってしまった。父は喜んだが、夢を叶えたはずのダンは張り合える相手がいないという事実にひとり形容し難い虚しさを覚えるのだった……。
しかし、そんな浮世離れしたダンにも最近の子供らしい憧れがあった。
異世界の存在である。
異世界には想像もつかないような未だ見ぬ豪傑たちがいるかもしれない。
それと闘うことで、自分自身ですら知らないキン肉ダンの本気がわかるかもしれない――。
著名な作品を数多生み出している日本最大級の小説投稿サイト『なろう』こと『小説家になろう』。ダンもまた、なろうで胸を踊らせながら小説を読み漁る数多くのユーザーの中のひとりだった。小説を無料で読み書き出来る超優良サイトであるなろうには、この星で死去した者が異世界で生まれ変わる転生や、生まれ変わらず何らかの手段で姿かたちそのまま異世界へ辿り着く転移といったものを取り扱った作品が数多く存在する。異世界は誰しものロマンなのだ。
そんなダンに、とうとう運命の日が訪れた。
通学時の出来事だった。視界に入るは、ボールを追いかけ道路に飛び出した男の子と迫るトラック。ブレーキもとても間に合いそうにない。
それを確認したダンは目にも止まらぬスピードでトラックの前へと立ちはだかる。
・トラック
・人命救助
・小説家になろう掲載(※例外アリ)
転生チャンスの条件はバッチリだ。この内のひとつでも欠けていたら異世界転生は不可能なので良い子も悪い子も真似してはいけない。作者との約束だぞ!
「へのつっぱりはァ――!!」
アニメでは多用されたが原作では三回しか言ってない上、もう最近のキン肉マンだったらとても使いそうにない台詞を言い終わらぬ内にダンはトラックと衝突した。
そしてトラックとその運転手は異世界転移を果たした。
異世界トラック 完
反応のない執筆は、血を吐きながら続ける悲しいマラソンなんで感想もらえたらうれしいです。