9話 パワーレベリング・その1
盗賊団を結成して、まず俺たちが向かったところは……服屋だった。
いつまでもアリスにボロボロの服を着せておくわけにはいかないからだ。
幸いというか、金は奴隷商人のところから持ち出したものがある。
あんなクズだから、金を奪うことに良心の呵責はない。
そして、服屋へ向かい、アリスの服を買い揃えたのだけど……
「どうかな、ユウキくん?」
「……」
着替えを終えたアリスが更衣室から出てきて、俺は思わず言葉を失う。
服はシンプルなワンピースタイプ。
それにいくつか上着を足しただけなのだけど……
童話の中から飛び出したお姫さまのように輝いていた。
上品で、しかし、嫌味になることはなくて……
アリスという素材を最大限に引き立てていた。
いや。
服が彼女を引き立てているのではない。
彼女が着ることで、衣服がとてつもない高級品のように見えているのだ。
ボロボロの服を着ていても綺麗な女の子だとは思っていたが……
服一つで、まさかここまで変わるとは。
「ユウキくん? ぼーっとしてないで、感想をくれないかな? 一応、私も女の子だから……男の方にどう思われるか、そこは気になるんだよね」
「あ、あぁ」
声をかけられてようやく我に返る。
「……まあまあじゃないか? 悪くないと思うぞ」
「悪くない、か……そっか。ユウキくんを魅了できれば、と思ったんだけど……んー、残念だな」
十分に魅了されているよ。
あと、魅了してアリスはどうするつもりなんだ?
そんな言葉が飛び出そうになるが、我慢した。
「店主、この服をくれ」
「……」
「店主?」
店主はアリスを見て瞳を輝かせていた。
「素晴らしいわ……なんて綺麗な子なのかしら。あなた、もしかして天使さま? あるいは、女神さまがお忍びで地上に遊びに来ているとか?」
「えっと……そのようなことはありませんが。褒められているんですよね? ありがとうございます」
「こちらこそありがとう。あなたのような人が、私がデザインした服を着てくれるなんて……あぁ、服屋を営んでいて今日ほど良かったと思った日はないわ! 女神さま、この子と巡り合わせてくれてありがとうございます!」
ちなみに、この店主は男だ。
しかもごつい。
やたらと体をくねくねさせているものだから、色々な意味で目のやり場に困る。
直視したら石化してしまいそうだ。
「店主? 感極まっているところ悪いが、そろそろ会計を頼む。いくらだ?」
「いいえ、お金はいらないわ。そのまま着ていってちょうだい」
「え? でも……いいのか?」
「こんなに素敵な子に着てもらえるのなら、私の服も本望よ。というか、お金なんかとったら逆に価値を下げてしまうわ。そんなことはできない。それに、私もとてもいい刺激を受けたし……むしろお金を払いたいくらいよ」
「えっと……わかった。そういうことなら、お言葉に甘えさせてもらおうか」
「え? いいの?」
驚くアリスの背中を押して店の出口へ向かう。
「いいんだよ。アリスも店長の言葉を聞いただろう? 問題ないってさ」
「そうよ。気にしないでちょうだい。ただ、また顔を出して、私の新作を着てくれるとうれしいわ」
「……はい、わかりました。またお邪魔しますね。その時はよろしくお願いします」
アリスが店主にぺこりと頭を下げて……
それから、俺たちは店を後にした。
「よかったな、タダで服をもらうことができて」
「うーん、ホントに良かったのかな?」
「気にすることはないさ。向こうが言い出したことだからな。どうしても気になるなら、また顔を出してモデルのようなことをしてやればいい」
「……そうだね。そうすることにするよ」
昼下がりの街を並んで歩く。
「ところで、この後はどこに行くの?」
「街の外」
「街の外? なんでそんなところに? せっかく盗賊団を結成したんだから、世にはびこる悪を次々と成敗! と思っていたんだけど」
「もちろん、それは忘れていないさ。俺は義賊だ。奴隷商人のようなクズをこの世から一掃する……その目的は変わりない」
「なら、どうして?」
「今の俺たちは力不足だ」
幸い、奴隷商人の時は警備の兵などに見つかることはなかった。
運がいい。
しかし、今後もずっと運が続くかというと、そんなことはないはずだ。
むしろ、目的が目的だけに、奴隷商人の時のように戦闘が発生しない方が珍しいだろう。
これからは戦闘が起きることを想定して動かなければいけない。
しかし、俺のレベルは、まだたったの3だ。
魔物からスキルを奪い、ステータス値が補正されているものの、まだまだ弱い。
スキルのレベルも1のままだ。
アリスに至っては……
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名前:アリス・スプリングガーデン
種族:人間
職業:鑑定士
レベル:1
HP :8/8
MP :3/3
攻撃力:2
防御力:3
魔力 :6
精神 :7
速度 :3
運 :2
<スキル>
『鑑定:レベル1』
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……こんな感じだ。
ぶっちゃけ、初期の俺よりも弱い。
こんな状態で盗賊団として活動をしても、すぐに返り討ちに遭うのがオチだろう。
それを避けるために、まずはレベルを上げて強くなる。
それが最初にやるべきことだ。
――――――――――
俺とアリスはフラウハイムの外に出て、魔物が生息する平原へ移動した。
この周辺は、俺の故郷よりもやや強い魔物が出現するが……
ファングベアーなどのスキルを盗み、己のものとした今の俺ならば、さほど苦戦することはないだろう。
あと、俺が考えている作戦もうまく実行できるはずだ。
「街の外に出るなんて……だ、大丈夫なの……?」
アリスはちょっと腰が引けていた。
まあ、無理もない。
基本的に街の外は危険なものと教えられていて、用がない限り外に出ることはないからな。
それに馬車に乗っているところを襲われた経験もあるから……
軽いトラウマになってるのかもしれない。
「大丈夫だ。俺を信じてくれ」
「……うん、わかったよ。ユウキくんを信じるね」
「やけにあっさりとしているな?」
「ユウキくんのことは、全面的に信用しているよ? ユウキくんがカラスは白いと言えば、私は迷うことなくカラスは白いと断言するかな」
「それ、洗脳じゃないか……?」
「ふふっ、どうかな?」
怯えながらも、ちょっとしたいたずら心を出すことができる。
妙なところで器用なヤツだ。
「とりあえず、俺に任せてくれ。いざとなれば、アリスのことは俺が絶対に守る。傷一つ、つけさせやしない」
「……」
「どうした、ぼーっとして?」
「う、ううん……あまりにも格好いいことを言うから、ついついときめいちゃった」
そういうことを言うのはやめてほしい。
照れる。
「あー……とにかく、レベル上げを始めよう」
「でも、どうやって? 私のステータスだと、最下級の魔物を倒すのも苦労しそうなんだけど。むしろ、やられちゃいそうだよね」
「大丈夫だ。そこは俺に考えがある……おっ、ちょうどいい具合に現れたな」
姿を見せたのは、ハンターウルフだ。
最初に出会った時は恐ろしい存在と思ったが……
今は余裕がたっぷりとある。
「さあ、やるぞ」
スキル『盗む:レベル1』発動。
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名前:ハンターウルフ
種族:魔物
職業:――
レベル:1
HP :20/20
MP :0/0
攻撃力:0
防御力:8
魔力 :2
精神 :9
速度 :7
運 :6
<スキル>
『疾風:レベル1』
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ハンターウルフの攻撃力を盗む。
二度、スキルを発動させて根こそぎ盗み……ステータスの値を0にした。
ハンターウルフは、グルルルッ! と凶悪な唸り声をあげてアリスに襲いかかるが……
ぽふぽふ、という擬音が出てきそうなほど情けない攻撃で、まったくダメージを与えることができない。
「えっと……これ、どういうこと?」
「ハンターウルフの攻撃力を全部盗んで、0にした。つまり、どれだけ攻撃されようがダメージを受けることはない。今なら簡単に倒すことができるぞ」
「そ、そんなことができるの……?」
「俺のスキルは知っているだろう? 俺が魔物のステータスを盗み、無害なレベルまで下げる。そこを、アリスが倒す。そうすれば経験値が入り、レベルアップする。俺はステータスを盗み強くなる。アリスはレベルアップして強くなる。良い方法だと思わないか?」
「とんでもないね、ユウキくんは。そのスキルも凶悪ですが、まさか、こんな方法を思いつくなんて……」
「まあ、スキルの回数に制限はあるから、ずっと連続で、っていうわけにはいかないけどな。時折、休憩を挟まないといけない」
「ううん、十分すぎるほどだよ。これ以上ない、レベルアップの方法だと思うな。ユウキくんのスキル、発想力には、もう脱帽するしかないね」
「世辞はいらない」
「お世辞なんかじゃなくて本心なんだけど……まあ、いいや。今は、本来の目的であるレベルアップをがんばるね」
こうして、俺は魔物のステータスを盗み……
アリスは、弱体化した魔物を倒して……
共に力をつけていく。
その結果、こんな風になった。
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名前:ユウキ・アストラス
種族:人間
職業:盗賊
レベル:3
HP :34/34
MP :12/12
攻撃力:68(補正値+30)
防御力:45(補正値+30)
魔力 :12
精神 :3
速度 :58(補正値+30)
運 :19
<スキル>
『盗む:レベル1』『隠密:レベル1』『解錠:レベル1』
『剛力:レベル1』『敏捷:レベル1』
『跳躍:レベル1』
『魔力感知:レベル1』
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名前:アリス・スプリングガーデン
種族:人間
職業:鑑定士
レベル:5
HP :32/32
MP :21/21
攻撃力:12
防御力:15
魔力 :21
精神 :18
速度 :11
運 :8
<スキル>
『鑑定:レベル2』
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俺のステータスは全体的に上昇して……
アリスはレベル5になった。
いい具合だ。
これからも、この調子でがんばることにしよう。
明日から一日一回、12時の更新になります。
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