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8話 盗賊団結成!

 翌朝。

 俺たちは宿の一階で食事を食べていた。


 あの後……


 誰にも見つかることなく屋敷を脱出。

 安全なところで契約書を焼き払い……

 それから、疲れた体を休めるために宿へ。


 そして……今に至る。


「少し街が騒がしいね」


 アリスがパンを小さな口でもくもくと食べながら言う。


「たぶん、奴隷商人の件だろうな。誰かが死体を見つけたんだろう」

「そっか。それで大騒ぎというわけなんだね」

「それなりの地位の人物みたいだからな。今頃、憲兵隊や冒険者は大慌てだろう」

「ふふっ」

「どうして笑うんだ?」

「その犯人が、まさかこんなところでのんびりと……しかも、ミルクを飲んでいるなんて誰も思わないだろうから」


 俺がミルクを飲んでいるところがツボに入ったらしく、アリスはニヤニヤと笑っている。


「……好きなんだよ。悪いか?」

「ううん、すごくかわいらしいと思うよ」

「くそ。言葉に悪意しか感じないぞ」


 ふてくされるように、俺はミルクをもう一口飲んだ。


「それにしても、キミはとてもすごいんだね」

「スキルのことか?」

「うん、それもあるよ。まさか、『生命を盗んでしまう』なんて……そんな話、聞いたことがないよ」

「俺も驚いているんだよな……」


 ステータスを盗み、スキルを盗み……果てに『生命を盗む』。

 普通の盗賊からは考えられないほどの高い能力だ。


 義賊だから……なのだろうか?

 世の悪と戦うための力。

 そう考えると、わりと納得できることではあるが。


「キミは、これからどうするの?」


 俺の覚悟を試すようなアリスの視線。

 それに対して、俺はしっかりとした口調で答える。


「義賊として活動していくつもりだ」

「そっか……」

「たぶん、アリスみたいな例はたくさんあるだろうな。平和そうな時代に見えるけど……でも、腐った人間は探せばイヤというくらいに出てくるはずだ。そいつらのせいで、影で泣いている人がたくさんいると思う。俺は、そんな人たちを救いたい。力なき人の刃になりたい」


 それが俺の嘘偽りのない本心だ。

 奴隷商人の事件がきっかけとなり、俺は覚悟を持つようになった。


 最初は、なぜ盗賊なのか? と女神さまを恨んだものだけど……

 今では逆に感謝しているくらいだ。

 俺は義賊として生きていこう。

 力なき人々の剣となろう。


 それが俺の使命であり、生きる道だ。


「キミはキミの進む道を見つけたんだね」

「ああ。アリスのおかげでもある。ありがとな」

「お礼なんて言わないで。私は助けられた身だよ」

「それを言うなら、俺もアリスに助けられたよ」

「なら、お互いさまっていうことで」

「わかった、そうしよう」


 互いに小さく笑う。


 アリスと一緒の時間は心地いい。

 できることならば、これからも一緒にいたいが……

 さすがに、そういうわけにはいかないか。


 義賊といっても、犯罪者であることは間違いない。

 辛く険しい道だ。

 そんなものにアリスを巻き込むわけにはいかない。


「ところで……義賊として活動するっていうことは、盗賊団を結成するの?」

「盗賊団? うーん、どうだろうな」

「もしかして、ずっと一人で活動するつもりなの? それはあまりにも無謀だと思うんだけど……」

「それは……まあ、そうだな。でも、新しいメンバーに心当たりなんてないからな……当分は一人で活動するしかないだろうな」

「あら? これはまた、おかしなことを言うんだね。新しいメンバー候補なら、すぐ目の前にいるじゃない」

「アリス、お前……」


 アリスはにっこりと笑う。


「ただの鑑定士だけど……でも、キミと同じ志を持っているつもりだよ。パートナーとして、盗賊団のメンバーとして、立候補をしてもいいかな?」

「いや、まて。それはできない」

「どうしてダメなの?」

「どう考えても茨の道だろう? そんなものにアリスを巻き込むなんて……」

「巻き込まれているつもりはないよ。私から足を踏み入れているんだから」

「しかしだな……」

「ユウキくん」


 初めて、アリスが俺の名前を呼んだ。

 その瞳はまっすぐ俺を見つめていて、強い決意を感じられた。


「私もユウキくんと同じなの。同じ思いを抱いているの。力のない人々の代わりに立ち上がりたい……そう思っているの」

「……アリス……」

「力は足りないかもしれないけど……この胸に抱く思いは負けていないつもりだよ。ユウキくんと一緒に戦いたい。裏で涙する人の力になりたい。それが私の心の在り方だよ。だから……お願い。仲間に加えてくれないかな?」


 迷う。


 でも、迷いはすぐに晴れた。


 俺はアリスと一緒にいたい。

 そして、アリスもそれを望んでくれている。

 なら、答えは一つだ。


 対面に座るアリスに手を差し出す。


「これからよろしくな」

「あっ……うん! よろしくねっ」


 アリスは花が咲いたような笑顔を見せて、うれしそうに俺の手を握り返した。


 こうして、盗賊団が結成された。

 今はまだメンバーが二人だけの小さな盗賊団。

 でも、いつかは……


 その時を夢見て、前を進んでいこう。

 強く決意した。


「ところで、もう一つ、お願いがあるんだけど……」

「うん? なんだ?」

「私のご主人さまになってもらえないかな?」

「ぶはっ!?」


 ミルクを吹き出してしまう。


「ごほっ、ごほっ……! い、いったい、なにを……?」

「実は私、まだ奴隷なんだ」

「なんだと? どういうことだ?」


 契約書は一枚残らず燃やしたはずだ。

 それなのに、どうして……?


 アリスが肩を見せてきた。

 確かに、そこには奴隷紋が刻まれたままだった。


「契約書は奴隷に言うことをきかせるためのもの。あるいは、反抗するのを阻止するためのものなの。契約書を破棄したから、一方的な命令を受ける恐れはなくなったんだけど……奴隷紋そのものが消失したわけじゃないから」

「そうだったのか……てっきり、契約書をなんとかすればいいと思っていた」

「ごめんね、最初に言っておけばよかったね。勘違いをさせちゃった」

「奴隷紋を消す方法は?」

「わからない……奴隷商人は禁止されている職業だから、その知識が表に出回ることは少ないの。だから、奴隷紋の解除方法はわからない状態なんだ」

「そうなのか……あー、でも、なんで俺に主になってほしいと?」

「奴隷との契約は、わりと簡単に行うことができるの。それこそ、特別な道具は必要ないの。手順さえ知っていれば、そこらの子供でも契約を行うことができるの。例えるなら、生まれたてのひな鳥みたいなものかな? 簡単に刷り込みを行うことができるんだ」

「なるほど……」

「逆に、契約を交わした後ならば問題はないの。横取りをすることは基本的に不可能で、身の安全は保証されるみたい」


 一応、話は理解した。

 奴隷紋が刻まれているアリスは、契約していない今の状態こそが危険であり……

 それをなんとかするために、誰かと契約した方がいい……ということか。


「ただ……なんで俺?」


 他にいないのか?

 俺よりも紳士なヤツなんて、探せばいくらでもいるだろう。


 そんな俺の疑問に、アリスは不思議そうに答える。


「なにを言っているのかな? ユウキくん以上に紳士で、男らしい人なんているわけないじゃない」

「え? いや……そんなことを真顔で言われてもな」

「もしかして、照れている?」

「……照れていない」

「かわいいね」

「お前、からかっているな?」

「ふふっ、バレちゃった?」


 いたずら猫のようにアリスが笑う。

 ただ、その目は以前、俺のことをまっすぐに見つめていた。


「でも、ユウキくんなら、っていう思いはウソではないよ。それに、ユウキくんにならエッチなことをされても構わないよ」

「……そういう冗談はやめてくれ」

「本心なんだけど……」

「というか……なんで俺なんだ?」

「普通に考えれば、わかると思うんだけどな……」


 やれやれ、というような顔をして……

 それから、アリスが話を続ける。


 そんなアリスは、とても優しい顔をしていた。


「ユウキくんは、私のことを魔物から助けてくれた。見捨ててもいいはずなのに、文句は言われないはずなのに……己の身を盾にするように、私のことを助けてくれた」


 その時のことを思い返すように、アリスは胸に手を置いた。


「私は家族に見捨てられて、奴隷に落とされて……そんな私に、ユウキくんは優しくしてくれた。人を人として扱う……当たり前のことなんだけど、でも、それができない人もたくさんいる。ユウキくんは、そんなとても大切なことをしてくれたんだよ」


 アリスは笑う。

 優しく笑い続ける。


「そして……ユウキくんは私のために無茶をしてくれた。傍で見ている身としては、ハラハラドキドキもので大変だったけど……でも、とてもうれしかったことを覚えているよ。ユウキくんの優しさと温もりを感じることができたの」


 そっと、アリスは俺の手を握る。

 大事な宝物を慈しむように、優しく触れる。


「まだまだ理由はたくさんあるけど……これ以上は語らなくても、伝わっているんじゃないかな? だって、ユウキくんは他人の気持ちを自分のことのように受け止めることができる優しい人だから」

「俺は……」

「そんなユウキくんだからこそ、私は、私自身をキミに託したいの。他でもない、ユウキくん……キミに託したいの。お願い、私を受け止めてくれないかな?」

「……なんか、プロポーズされてるみたいだな」


 照れ隠しに、ついついそんな言葉を口にしてしまう。

 照れ隠しということはお見通しらしく、アリスが笑う。


「ふふっ、そうかもしれないね。私の全てを委ねるわけだから、ある意味でプロポーズのようなものなのかも」

「まいったな」

「それで……答えを聞かせてくれないかな?」

「俺でいいのか?」

「ユウキくんじゃないとイヤだよ」

「……わかった。アリスの主になるよ」

「それでこそ、だよ」


 アリスがうれしそうな顔をした。

 あくまでも、奴隷紋を解除する方法を見つけるまでの一時避難なのだけど……

 そのことはちゃんと理解しているよな?


「それで、どうすればいいんだ?」

「指を切って、私の奴隷紋に血を垂らして」

「こうか?」


 アリスの隣に移動して、指を噛み、その肩に触れる。

 瞬間、奴隷紋が淡く輝いた。


 光を通じて、俺の手の平に熱が伝わってくる。

 熱い。

 焼けてしまいそうだ。


 それでも手を離さずにいると……

 やがて光が収まり、熱もなくなる。


 もういいのかと思い手を離してみると、奴隷紋の色が変わっていた。

 今までは黒だったけれど、今は赤く染まっている。


「これで契約完了だよ」

「いまいちピンとこないな」

「なんなら、私に命令をしてみる? どんな命令でも、私は逆らうことはできないよ?」


 どんな命令でも、というところを強調して言う。

 アリスの目は子供のようにニヤニヤと笑っていた。


「お前、意外とお茶目なヤツだったんだな」

「女の子は色々な顔を持っているものだからね」

「主になったの、早まったかもな……」

「そんなつれないことを言わないでよ、ご主人さま♪」

「その呼び方はやめてくれ……」

「残念」


 こうして……

 俺は盗賊団を作り、その最初のメンバーとしてアリスを迎え入れたのだった。

※こちら、間違えて一緒に投稿してしまいました。

 19時にもう一度、更新します。


『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。

よろしくおねがいします!

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