2話 ステータスを盗む!
街は結界で守られているが……
外に出ると魔物があふれている。
街と街を繋ぐ街道は、人が作った簡易的な結界が設置されている。
街を包む女神さまの結界ほどではないけれど、それなりに効果がある。
日の高い時間……
まだ明るい時ならば、よほど運が悪くない限り、魔物に遭遇することはない。
ないのだけど……
「くそっ、俺は運にまで見放されたのかよ!」
街を出て、街道沿いに歩くこと30分ほど……
魔物と遭遇した。
相手は一匹。
狼に似た魔物、ハンターウルフだ。
「ステータス、オープン」
全ての人に、女神さまのとある加護が授けられている。
それがステータスだ。
個人の能力を数値化したものだ。
これにより、自分の力と相手の力を適正に測ることができる。
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名前:ハンターウルフ
種族:魔物
職業:――
レベル:1
HP :20/20
MP :0/0
攻撃力:11
防御力:8
魔力 :2
精神 :9
速度 :17
運 :6
<スキル>
『疾風:レベル1』
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魔物のステータスが表示された。
ちなみに、俺のステータスはというと……
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名前:ユウキ・アストラス
種族:人間
職業:盗賊
レベル:1
HP :14/14
MP :0/0
攻撃力:6
防御力:4
魔力 :1
精神 :3
速度 :5
運 :8
<スキル>
『盗む:レベル1』
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こんな感じだ。
ステータスは神託と共に授けられる。
だから、初めて自分の力を数値で確認したのだけど……
「俺、弱くないか……?」
全ての能力が一桁だ。
レベル1だから仕方ないのかもしれないが……
それにしても低すぎる。
不幸中の幸いなのは、魔物もレベル1ということだ。
極端にステータスが離れているというわけじゃない。
立ち回り次第では、なんとかなるかもしれない。
俺は護身のために買った短剣を構えた。
安物だけど、ないよりはマシだ。
「グルァッ!」
魔物が吠えて飛びかかってきた。
「くっ……!?」
速い。
速度が俺の3倍というだけのことはある。
避けるのが精一杯で、反撃に移るヒマがない。
「ガァッ!!!」
再び魔物が襲いかかってきた。
横に跳んで、ゴロゴロと地面を転がり、避ける。
あまりにも速いため、こうでもしないと避けられないのだ。
「くそっ!」
三度目の突撃は避けることができず、短剣を盾のように使い、魔物の突進を受け止めた。
ビリビリと手が痺れる。
魔物はそのまま俺に食らいつこうとするが……
その顎をおもいきり蹴り上げてやる。
「ギャンッ!?」
魔物は悲鳴をあげて俺から離れた。
ただ、諦めていないらしい。
警戒するように距離をとり、唸り声をあげている。
「ステータス、オープン」
ステータスを確認すると、魔物のHPが『19/20』になっていた。
今の一撃で、たったの1か……
魔物を倒すには、あと20回も攻撃をしないといけない。
そこまで保つのだろうか?
たらりと汗が流れる。
「くそっ……恨むぞ、女神さま。こんな職業でなければ、安全な街の中にいられたのに! なんで盗賊なんかに……ちくしょう!」
このままだと魔物に食べられてしまう。
なんとかして、この場を切り抜けないといけない。
せめて、あの動きを止めないと。
切り札は……
「職業:盗賊のスキル……『盗む』か。意味がないような気もするけど、なにもしないよりはマシか」
スキルの発動は簡単にできると聞いたことがある。
頭の中で念じるだけでいい。
時に、詠唱を必要とするものもあるが……基本はそれだけだ。
条件が整っていれば、念じるだけで発動できる。
「いくぞっ!」
今度は俺から切り込んだ。
短剣を横に薙ぐ。
魔物は後ろに跳んで避けるが……
それは、俺が待ち望んでいた隙だった。
スキル:『盗む』発動。
「……」
「グルゥ……?」
魔物に変化は見られない。
俺が動きを止めたことを、不思議そうに見ている。
なにも起きない。
つまり……失敗ということだ。
「ちくしょうっ、なんだよこれ! まるで意味のないスキルじゃないか!」
焦る俺を見て、魔物が笑ったような気がした。
魔物は足に力を込めて、今までのような鋭い突進を……
「あれ?」
魔物が再び突進してきたけれど……やたらと遅い。
今までの半分……いや、それ以下だ。
俺は簡単に魔物の攻撃を避けた。
同時に、カウンターで魔物の体に短剣を振り下ろした。
刃が食い込み、魔物が悲鳴をあげる。
しかし、倒すには至らなかったみたいだ。
魔物は再び後ろに跳んで、さらに警戒を強くした。
なにが起きているかよくわからないが……
ひょっとしたら、これならいけるかもしれない。
俺はもう一度ステータスを表示して、魔物のHPを確認する。
==============================
名前:ハンターウルフ
種族:魔物
職業:――
レベル:1
HP :9/20
MP :0/0
攻撃力:11
防御力:8
魔力 :2
精神 :9
速度 :7
運 :6
<スキル>
『疾風:レベル1』
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「よしっ、HPが19から9に減っている。あと一撃で倒せるな……って、あれ?」
おかしい。
速度が減っている。
確か、17だったんだけど……なぜか、今は7しかない。
負傷したことで、ステータスが低下したのだろうか?
いや、そんな話は聞いたことはない。
なら、どうして……?
「グルァ!!!」
っと。
今は考え事をしている場合じゃなさそうだ。
俺は冷静に魔物の軌道を見極めて……
安全地帯に体を退避させる。
速度が低下しているため、難なくできた。
というか……体がさっきよりも軽い?
わずかにだけど動きやすくなっているような気がした。
そして、カウンターの一撃。
今度は頭部に短剣を突き刺した。
深々と刃がめり込む。
魔物は二度三度、痙攣をして……
そのまま地面に倒れた。
「はぁっ、はぁっ……やったのか?」
念のためにステータスを見て、HPを確認する。
きちんと『0/20』になっていた。
「ふぅううううう……死ぬかと思った」
いきなり魔物と遭遇するなんてついていない。
でも……
これからも先、こういうことが起きるかもしれない。
魔物の対策を考えておかないと厳しいかもしれないな。
「そういえば……この魔物、どうして速度が低下していたんだ?」
魔物の死体を見ながら考える。
「……もしかして」
ふと思いついて、自分のステータスを見る。
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名前:ユウキ・アストラス
種族:人間
職業:盗賊
レベル:1
HP :14/14
MP :0/0
攻撃力:6
防御力:4
魔力 :1
精神 :3
速度 :15
運 :8
<スキル>
『盗む:レベル1』
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「やっぱりだ……俺の速度が上昇している」
最初にステータスを見た時は、『5』だった。
しかし、今は『15』
そして、魔物は速度が『10』低下した。
それらのことを考えると……
「もしかして……ステータスを盗んだ?」
ステータスを盗み自分のものにするなんて……そんな話、聞いたことがない。
聞いたことがないのだけど……
でも、それ以外に考えられない。
「た、試してみよう……!」
妙な興奮を覚えて……
俺は街道を外れて、自分から魔物を探すのだった。
――――――――――
……あれから、3匹ほどの魔物を発見して、交戦した。
この辺りは弱い魔物しかいないらしく、全てレベル1だったため、なんとかなった。
そして……
俺の考えが正しいことが証明された。
盗賊のスキル『盗む』は物に限定されていない。
形のないものを盗むこともできる。
そう……ステータスを盗むことができるのだ!
これは、すさまじいスキルではないだろうか?
相手を弱体化させるだけではなくて、自分を強化できる。
しかも永久的に。
まさか、盗賊にこれほどのスキルが備わっているなんて……
驚きだ。
ついつい、盗賊も悪くないかも……なんて思ってしまう。
とはいえ、『盗む』も万能というわけじゃない。
何度か試してわかったのだけど……
まず、確実に成功するわけじゃない。
レベルが関係しているのかもしれないが……
今のところ、成功率は3割といったところだ。
あと、一度に盗める数値もランダムだ。
『1』の時もあれば、ハンターウルフのように『10』の時もある。
こればかりは運に頼るしかないだろう。
「今のところ、わかったのはこれくらいか……他にも制約や、あるいは、隠された能力があるかもしれないが、今日はこれくらいにしておくか」
気がつけば陽が傾いていた。
予想外の効果に驚き、興奮してしまい、熱中しすぎてしまったみたいだ。
「ひとまず、寝床を確保しないと」
屋根のあるところを求めて、再び街道を進む。
盗賊の意外な力も判明したおかげもあり、その足取りは軽くなっていた。
……ちなみに、今の俺のステータスはこんな感じだ。
==============================
名前:ユウキ・アストラス
種族:人間
職業:盗賊
レベル:2
HP :24/24
MP :5/5
攻撃力:11
防御力:7
魔力 :1
精神 :3
速度 :15
運 :13
<スキル>
『盗む:レベル1』
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ちょっとずつではあるが、強くなっているのがわかる。
レベルも上がり、スキル以外でステータスも上昇された。
これなら、しばらくは魔物で困ることはないかもしれない。
ふと、ミリーの言葉を思い出した。
女神さまのすることに意味はある。
俺が盗賊であることにも意味がある。
「……もしも盗賊であることに意味があるのなら、それは、どういう意味なんだろうな」
小さくつぶやきながら、俺は夕焼けの道を歩いた。
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