19話 金の亡者の最後
アリスの言うように、隣に隠し部屋が設置されていた。
アジャイルを連れて、その隠し部屋に移動する。
「ひっ、ひぃいいい……!? な、なにをするつもりだ!? この私に手を出せばどうなるか、貴様ら、理解しているのか!?」
アジャイルが喚き散らすが、全て無視する。
幸いというか、この部屋は防音になっていて、外に物音は聞こえないらしい。
コイツ自身が言っていたことだ。
「ねえ、ユウキくん。どうするつもりなの?」
俺がすぐにアジャイルの生命を盗まないことに、アリスは疑問を持っているらしい。
「簡単に終わらせるつもりはない。コイツは、それだけの罪を犯してきた。それ相応の報いを与えないと割に合わないだろ?」
「それは……」
「アリスは反対か?」
「……ううん。私もそれでいいと思うよ。エストちゃんの幸せを奪ったこと。それだけじゃなくて、他の人にもひどいことをしてきたこと……その罪を思い知らせないと、やりきれないよ」
アリスが賛成してくれてよかった。
なにしろ、これからしようとしていることは、少々、刺激的だからな。
「や、やめろ! 私を殺しても意味なんてないぞ!? そうだ、もうこんなことはやめる。非合法なことに手は染めないと誓う! だ、だから……」
哀れだった。
さきほどまで傲慢な態度を見せていたのに、立場が逆転するとコレだ。
しかし、怒りが薄れることはない。
むしろ増大していく。
こんなくだらないヤツにエストの幸せが奪われたのかと思うと……
「助けてほしいか?」
「はひ?」
「助けてほしいか、と聞いている。ちゃんと答えろ」
「あ、ああっ! た、助けてくれ……いや、助けてください!」
アジャイルはその場に伏して懇願してきた。
そんな哀れな商人を冷たい目で見下ろす。
「なら、この金庫を開けてもらおうか?」
隠し部屋の壁一面を改造して作られた、巨大金庫を指さした。
「そ、そうか! 金が欲しいのだな? わかった。いくらでもくれてやる!」
助かるという希望を抱いたのだろう。
アジャイルは喜び、急いで金庫の解錠に取り掛かった。
5分ほどで金庫が解錠された。
左右に扉を開くと……
銅貨、銀貨、金貨の山が見えた。
さらに、金塊やプラチナ、水晶なども収められている。
よくもまあ、これだけの量を集めたものだ。
「さ、さあ、好きなだけ持っていくといい。でも、その代わり、私のことは……」
「ありがとう。お前のおかげで金庫を開けることができた」
「あ、ああ……? 金が欲しいのだろう? そうすれば、私のことは助けてくれるのだろう? なら、それくらいは持っていっても……」
「うん? なにを勘違いしているんだ?」
「え?」
「助けるわけないだろう」
アジャイルを蹴り倒す。
「うぐっ……!?」
アジャイルは金庫の前に倒れた。
足を痛めたらしく、立ち上がれないでいる。
まあ、そういう風に蹴ったからな。
「な、なんで……私は、きちんと金庫を開けたのに……」
「悪いな」
「え……?」
「あれはウソだ」
「そ、そんな……」
なにをされるのかと、アジャイルは哀れなほどに怯えていた。
恐怖に顔を歪ませて、全身を震わせている。
相当な恐怖を覚えているだろう。
絶望を感じているだろう。
しかし、それはエストも同じだ。
殺されたエストの両親も同じだ。
「今まで、散々好き勝手やってきたんだ。そのツケが回ってきた……きちんと受け止めないとな?」
「な、なにを……?」
俺は金庫の中に手を入れた。
そして……
中の金をかき出して、アジャイルの上に降らす。
「あうっ……!?」
一つ一つは小さな硬貨でも、数が揃えばバカにならない。
言うなれば、石の雨だ。
金塊も混じえて、次々と硬貨を落としていく。
「い、痛いっ……ひいいい、痛い痛い痛い!? や、やめっ……やめて、やめてくれぇっ!?」
体のあちこちを打たれ、無数の傷ができていく。
アジャイルはたまらずに悲鳴をあげた。
頭を抱えて、体を丸める。
哀れだと思う。
が、同情は欠片も湧いてこない。
ただただ、怒りが俺を突き動かしていく。
「大好きな金をたっぷりとプレゼントしてやるよ。ほら、全身で受け止めろ」
「やめて、やめてくれえええええっ!? 私が悪かった、悪かったから……もうっ、これ以上は……!?」
「その言葉、エストの両親の前で言ってくるんだな。今、俺がそこまで送ってやるよ」
「やめっ……ぎゃああああああああああぁ!!!?」
残りの硬貨、全てをぶちまけた。
銅貨、銀貨、金貨……
金塊にプラチナに水晶……
ありとあらゆるものがアジャイルの上に降り注ぎ、その体を押しつぶした。
最後にできたものは……
金の山だ。
そして、それはアジャイルの墓でもある。
「罪には罰を。罰には罪を。フラガ・アジャイル、その生命……貰い受けた」




