暴走の果て、特別な物
「お前は、ハイド……だよな……?」
リーバルは、独り言の様な声量で問い掛けながら広場に出てくる。 あり得ない、あり得るわけがない。 ふらふらと前に進みながら口をわなわなさせている。
ハイドと思われる彼は、リーバルが視界に入るとゆっくりと剣を構える。 隙しかない、正眼の構えにもならない態勢だ。 しかし、とてつもない威圧が空間に張り詰める。 誰も動けない。
「み、みんなっ! 構えるよ!」
威圧に負けず、声を出したのはカレンだ。 しかし、殆どは腰を抜かしているか、完全に戦意喪失している。 あのダロットもその1人だ。
「誰かわからないがそこの黒い君、知り合いなんだろ? 手伝ってくれないかい。」
「く、くそがっ。 殺してやる……。」
ハイドに対して良い感情を持っていない為か、リーバルも渋々戦闘態勢に入る。 各々が武器を構えたタイミングに合わせたかの様に、ハイドの魔導書の光が目を窄ませる程にまで強まる。
「коремаде……ка」
光の中から微かな声が聞こえたかと思うと視界が開け、ハイドはうつ伏せに倒れていた。 カレン達は何が起こったのか分からず、またも立ち尽くすしか無い。
先に我に返ったのは、やはりカレンだった。
「は、ハイドっ。 大丈夫かっ。」
真先に駆け寄り抱き抱える。 苦しむ様に唸っているハイドだが、外傷は無いように見える。
「動ける者でヒーラーは居ないのかっ。」
そう叫ぶが、抑ライストーングにはヒーラーが居ない。 理解している筈のカレンが言うそれは、相当焦っている事がわかる。
「あ、あのっ、私で良ければ……!」
すぐ横の住居から1人の少女が出てくる。
「私は教会に務めています。 見習いですがお役に立てる筈です。」
そう言うとカレンに近付く。
「ありがとう、必ずお礼はする。」
「お礼なんて…… 《ハイドラー》」
ハイドを鮮緑(黒みがなく、純色に近い緑)の光が包む。
「これで大丈夫だと思います。 通常なら直ぐに目が覚める筈なんですが……。」
「……多分大丈夫だと思う。 ありがとう、本当に。」
「いえいえ、お役に立てたようで何よりです。」
カレンが素直に礼を言うのも珍しい事だ。
「う、うぅ……」
「ハイドっ、大丈夫か?」
「うぅ、ここは……?」
「町の広場だよ、魔物が暴れてたんだ。」
「……っ! そ、そうだっ、皆んなは!?」
バッと飛び上がり、辺りを確認する。
「な、なんだ、これは…… 魔物は……?」
町の有様に驚愕する。
「本当に何も憶えてないのかい? あんたが倒しちまったんだよ。 それでね」
「え…… 僕が、倒した……? それって、これですか?」
指を差された魔導書を取り出す。 先程の光は既に無く、うんともすんとも言わない。
「あ、あの、これは知っての通り魔術も何も使えない、役に立たない物なんですけど……」
ありえない。 抑魔物と戦える程強く無いし魔術も使えない。 しかも町をこんなにするヤツの相手なんか出来ない。 揶揄っているのか……?
「揶揄ってなんかないよ。」
バレてた。
「其れは普通の魔導書とは違う。 私のものとも、ね。」
とても真剣な表情で、真っ直ぐに見つめる。
「そう、特別な魔導書なんだ。」
「とく……べつ……?」
しかしその表情には、何か覚悟の様なものを感じる。
4ヶ月ぶりでしょうか、どうも赤水捺南です。
大変長らくお待たせいたしました。 第7話になります。
いやはや、本当に遅くなってしまいました。 申し訳ないです。
精一杯書いたので是非ともお許しを……
さて、今回のお話では久しぶりのリーバルさんの登場です。
何やら不気味な格好をしているようですが、何があったのでしょうか……。 今後明かされていくとかいかないとか、私次第です。 はい。
さらにさらに、噂のハイド君がうつ伏せで登場。 やはりなにかの言語を話しているようですね……。
皆さんは解読できましたか?
最後にはカレン様が何やら決心が付いたご様子。 次回にご期待ください……
そういえば、最近『三点リーダー症候群』なるものを耳にしました。 まさに自分のことだなぁと感じております。
皆さんも使いますよね……?
こんなふうに。
さてそろそろお別れの時間です。
ここまで読んでいただきありがとうごさいました。 これからも、ゆっくりのんびり頑張っていきますので、どうぞよろしくお願いします。
それでは、暖かな風を運ぶ春の季節に。
赤水捺南