ユレル “モノ”
目を開けると友人がいた。
暗い部屋の中、たくさんの蠟燭が灯っていた。灯に照らされてできた影がゆらゆらと蠢き、まるで動物のようだった。
そして友人は意味のわからないことをずっと、ずっと話していた。
意味が分からない。
怖い。寒い。助けて。誰か。助けて。
涙を流しても無駄。
首を振っても無駄。
友人なのに友人ではない誰かが苦しめてくる。
言葉を発したいのに許してくれない。
どうしようもなかった。
悔しかった。辛かった。
自由を奪われ、ただ。ただ、恐怖の中で怯えるしかなかった。
友人の後ろでは悍ましいものが揺れていた。
古いにおいも、新しいにおいもした。
ゆらゆら揺れる“モノ”からぽたり、と、きらめく何かが滴った。
残念そうに友人は言った。
「あれは昨晩、理解者になれなかった“モノ”だ。」
と。
「でも、君は最高の理解者になってくれるよね。」
と。
ゆらゆらと揺れる蠟燭の灯に照らされた友人の顔は恍惚としていた。
顔にできる影が恐ろしかった。壁に移る影が恐ろしかった。
「父も、母も、妹も、兄も、見知らぬ誰かも。運命の人にも。誰にもなれなかった存在に。最高の理解者に君はなってくれるよね?」
期待の表情。いつもと違う彼の表情。笑っているのに笑っていない目。紅潮した頬。その全てが恐ろしかった。怖かった。忌まわしかった。悍ましかった。気持ち悪いと思った。
狂っていると思った。
思った。それだけなのに…。