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覗いた先

今日の友人はどこか上の空だった。大丈夫だろうか。心配してバイト先に行っても私に気付かなかった。上の空だった。

 心配でバイト終わりに家を訪ねた。

『いつも一人で静かな家にいるのは寂しい。」

 そう言っていたから。一人にしてはいけない気がしたから。

「出て、こない…?」

 インターホンを押しても何の反応もなかった。

 「留守かな…。」

 帰ろう。そう思ったとき、窓が閉じられるのが見えた。友人だった。目が合ったのにすっと中に入ってしまう。

 何かがおかしい。どこか虚ろで寂しそうな目をしていた。

 一人にしてはいけない。強くそう思った。

 きい。

 門扉がきしむ。いけない。そうわかりながらポーチを歩く。

 ガチャリ。

 鈴の音とともに玄関が開く。

 「鍵、かけていないの…?」

 恐る恐る家を覗く。心臓が飛び跳ねる。少し、苦しい。

 「ごめん。勝手に入っちゃうよ?居る?…よね。」

 なんの反応もない。電気もついていない。ただ、少し独特な家のにおいがする。友人のにおいだ。

「誰。」

 冷ややかな声が掛けられた。友人だった。

 「あ。えっと。勝手に入ってごめん。何だか今日はいつもと違う感じだったから心配で。」

 「そう。」

 また冷ややかな声で返された。

 何かがおかしい。機嫌が悪いのだろうか。勝手に家に押しかけて、鍵が開いているからと入っていった事が気に食わないのだろう。

 「お茶でも飲んでいきなよ。」

 いかにも機嫌が悪そうな表情から想像できない言葉がかけられた。

 「え?いいの?」

 じっとこちらを見つめる目。いつもと何かが違う。冷ややかなのに、目が離すことができない。

 「折角来てもらったんだ。お茶ぐらい出すよ。君は友人だしね。」

友人。そう。友人なのだ。間違いなく目の前の人間は友人のはずなのに。違和感が、嫌な予感がした。

 「じゃあ、頂こうかな。」

 席まで案内される。暗い部屋を明るくするために電灯ではなく、何故か蠟燭(ろうそく)を友人は(とも)した。

 しっとりと柔らかなソファー。揺れる影。独特のにおい。まるでどこか違う世界にいるようだった。

 「どうぞ。」

 ふわりと良い香りが漂った。

 「いい匂い。」

 家のにおいや雰囲気と合わさってクラクラする。

 心配していた事による疲れがどっと押し寄せる。

 「眠ってはいけない。」

 そう思っているのに、いつの間にか瞼が重くなり心地よい眠りへと(いざな)われた。

 

 かちゃり。と、金属の音が遠くに聞こえた。手首に感じた冷ややかさが、眠りにつく体温に心地よかった。

「君は最高の理解者になってくれる?」

 そんな声が聞こえた気がした。


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