1分程度で読める、掌編小説集です。「こちら」から、他の掌編小説を読みにいけます。
透明人間?
もう耐えられない。イジメられるだけの人生なんてこりごりだ。
私は何の為に学校に行っているのだろう。何で苛められる為に学校へ行かなければならないのだろうか。
親も、教師も、イジメっ子の親も、クラスメイトも、私自身も、誰一人解決策なんて持ち合わせていない。
もう嫌だ。透明人間になりたい。
そうすれば、あいつらにイジメられずに済む。
そんな願いが天に届いたのか、私は透明人間になれました。
いつもイジメてきたあいつらは、私に見向きもしません。
やった。これで平和に学校生活を送れる。どうせ気付かれないなら、仕返しもしてやろう。
そう思い、廊下を歩いていたイジメっ子の足を引っ掛けようとしました。
狙いを定めて……ここだ!
私は勢いよく足を出します。
けれどその前に、イジメっ子は飛んできたプリントを踏みつけて転んでしまいました。
いったーい。
大丈夫?
転ぶなんてドジだなー。
少々予定とは変わってしまいましたが、これはこれで結果オーライです。周囲の人からも笑われていい気味だ。
今日は気分が良い。そのまま上機嫌で帰宅しました。
ただいまー!
お母さんからの返事はありませんでしたが、この時はまだ違和感に気が付けませんでした。
お母さんは忙しいのかな。なんてことを思い、部屋に戻って夕食の時間まで待ちました。
そして夕食の時間、リビングへ向かうと、私のご飯がありませんでした。
ねぇ、どうして私のご飯が無いの?
私はお母さんに問いかけます。けれど、返事がありません。
その時に帰宅してきたお父さんも、私のことを無視してテーブルに着きました。
ねぇ、無視しないでよ! 私の話を聞いてよ!
どれだけ叫んでも、両親はわたしに一瞥もせずに夕食を食べ続けます。
私はお母さんに掴みかかりました。けれど、揺すっても何をしても反応がありません。
ねぇ! ねぇ! ねぇってばぁぁあ!
私が何をしても、両親は反応を示さない。
その時にふと、食器棚のガラスに映る光景が目に入りました。
テーブルを囲って楽しく夕食を食べる両親。
そして……、私の姿は映っていません。
私はそこで理解しました。
私は透明になりすぎて、誰にも気付いてもらえなくなったんだ。
私は確かにここにいる。願い通り透明人間にもなれた。
けれど誰にも気付いてもらえないなら、それはもはや死んだも同然なのではないだろうか……。