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Step4:ヤバイでしょ

「私が、キャラメル味にするからぁ、前田君は、チーズ味にして、半分こにしようよ。」


十二歳にしてすでにフェロモン全開な若菜ちゃんは、ねっとりとした声で言うと、前田君の腕に飛び付いた。


「ああ、いいけど。」


クールぶっているけれど、前田君もまんざらでもないようで、二人の周りは、ピンク色オーラが、漂っている。


「あ、あの私は、塩味で。」


ポップコーン売り場の店員さんの口が、への字になっていることに気が付いた私は、慌てて人気のない味を注文した。


飲み物を待っている二人を置いて一足先に列を抜けた私は、石川君が、待っているベンチへと急いだ。


待ち合わせのベンチに石川君の姿を見つけた私は、走り寄ろうとしたけれど、石川君の隣に座っている人物に気がついて、足を止めた。


「げ。」


会いたくない人ナンバーワン。


道行く人が、ベンチの方をちらりと振り返る。


ドイツ人のお祖母さん譲りの整っていて彫りの深い顔立ちとブラウンの髪は、学校の外に出ても目立っている。


名前は、もろ日本人のくせにクウォーターなんだよね。


「お、小糸ちゃん。お帰り〜。」


邪魔扱いされるの覚悟で、若菜ちゃん達の所に戻ろうと思い、後退りした私に気が付いた石川君が、空気を読まずに声をかけてきた。


も〜、やめてよ。


そりゃ、無視はしないことに決めたけど、こっちにだって心の準備する時間くらいくれたっていいんじゃない。


私の切実なる願いにもかかわらず、一平ちゃんが、振り向いた。


「花ちゃん?」


逆光で顔が見えにくかったようで、一平ちゃんの声は、疑問系である。


できれば、否定したいところだったけど、そういうわけにもいかないので、仕方なく頷いた。


「うん。私達、同じ班なんだ。石川君待たせて、ごめんね。若菜ちゃん達は、飲み物買ってくるから、もう少ししたら来ると思うよ。」


そう言って石川君の隣に腰を下ろした。


「いや、むしろこっちが、ごめん。やっぱり、俺も一緒に行った方がよかったかなとか思ってたんだ。小糸ちゃん一人であの二人と一緒って、キツイっしょ。」


石川君は、苦笑気味に言った。


「正直ヤバイよ。居心地悪いし店員さんとか、超怖かったもん。」


私の言葉に石川君が、吹き出した。


「何それ。ちょっと見たかったかも。」


「人ごとだと思って〜。かなり怖かったんだからね。」


クスクス笑っている石川君のことを軽く叩いた時、石川君の向こうに座っている一平ちゃんと目が合った。


その時、なぜか一平ちゃんの目は、いつもみたいに馬鹿にしたみたいな笑みを含んでいなくて、いたたまれなくなった私は、目を逸らしてしまった。


「仲いいんだね。」


・・・・やってしまった。


一平ちゃんの声は、怒っていないけれど、突き刺さるような視線を感じる。


「おう。小糸ちゃんて、いい奴だよな。楽しいし。日吉って、小糸ちゃんと幼馴染なんだろ。こんな子と幼馴染なんて、羨ましいよ。」


仏の石川君の褒め言葉が、くすぐったい。


「褒めすぎでしょう。てか、石川君。そんなこと、私に言わないで・・」


由美ちゃんと言いかけて、石川君に口をふさがれた。


「ちょっと、小糸ちゃん。恥ずかしいから、やめてくれよ。」


石川君は、ヒソヒソ声で抗議してきた。


「どうしたの?」


一平ちゃんは、怪訝な顔で私達を見た。


「いや、なんでもないよ。ちょっとね、小糸ちゃん。」


そう言いながら石川君は、私を小突いてくる。


「そうそう。」


ひきつった笑いでなんとか誤魔化した私達を一平ちゃんは、見比べた。


「二人って、さあ。」


「あ、いたいた。お〜い、花〜!」


一平ちゃんの言葉は、若菜ちゃんの高い声にかき消されてしまった。


「待たせてごめんね。お店の人が、飲み物間違えてて。」


・・・それって、わざとだろうな。


不満げに口を尖らせる若菜ちゃんを見て、なんとなく店員さんの気持ちが、分かる気がした。


「じゃあ、俺は、戻るわ。」


言いかけた言葉を引っ込めた一平ちゃんは、呼び止める暇もなく、足早に行ってしまった。


「あれ、日吉君じゃん。どうしたの?」


さっき散々騒いでいたわりにやっと一平ちゃんの存在に気が付いた若菜ちゃんが、不思議そうに言った。


「班の女子達が、土産屋で動かなくなちゃったから、つまらなくて抜けてきたんだって。なんか絶叫系も苦手な子が多くて、何にも乗れてないらしいよ。」


そういえば、どうして一人だったんだろうと思った私の代わりに石川君が、答えた。


「は〜王子様も大変だね。その点うちらは、チームワークよくて、楽しいよね。」


若菜ちゃんは、前田君の手をぎゅっと握る。


「うん。」


前田くんも珍しく笑顔で素直に答えた。


わが班の身勝手カップルを見て、私と石川君は、ため息をついた。


ブルブル。


ポケットに入れた携帯のバイブ音が、鳴った。


開いてみると、由美ちゃんからだった。


「石川君、由美ちゃんからだよ。昼ごはんをどこで食べるかのメールじゃない。」


石川君の体が、ビクンと大きく震えたのが、分かった。


「なになに。えっ・・・。」


「こ、小糸ちゃん。どうしたの?」


内容を見た私が、黙ってしまったので、石川君が、心配そうに私の顔を覗き込んだ。


「石川君。気を強く持って聞いてね。」


ちょっと大げさな私の言葉に石川君は、唾を飲み込んだ。


「由美ちゃんね。えっと、言いにくいんだけどね。・・お化け屋敷に並ぶのに時間かかるから、並びながらお昼食べるって言ってる。」


マイペースな由美ちゃんらしいといえば、由美ちゃんらしいけど。


明らかに気落ちした様子の石川君が、かわいそうで・・。


「あのさ、じゃあ、提案なんだけど。静かなところで完全に二人っきりとはいかないけれど、それでもいいなら。」


がっくりとうな垂れていた石川君が、ぱっと顔を上げた。


「とりあえず、今から由美ちゃんと一緒に並んでお化け屋敷に三人で入って、途中から私が、抜けるっていうのは、どうかな?」


私の提案を聞いた石川君の顔が、明るくなった。


「いいの?小糸ちゃんは、大丈夫?」


「もちろん。」


私は、まかせなさいとばかりに胸をドンと叩いた。


・・そんなうれしそうな顔をされたらさ。


今更、言えやしないよ。


私の三大嫌いなものが、テストとゴキブリと・・お化けなんて。



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