Step2:まさかね
バスに乗り込むと、すぐに仲良しの若菜ちゃんに奥の座席に引きずり込まれた。
「ちょっと、花。あんた、日吉君とどういう関係なのよ。」
引き込まれた勢いでバランスを崩した私の上にのしかかる様にして若菜ちゃんは、鼻息荒く迫ってきた。
「どうって、別に。一平ちゃんとは、幼稚園が、一緒で同じ町内だけど。」
私の言葉に一瞬若菜ちゃんの動きが、止まった。
「幼稚園!」
突然、若菜ちゃんが、叫んだ。
「同じ町内!」
いつから、聞いていたのか、後ろの座席から、由加里ちゃんが、顔を出した。
「幼馴染!」
由加里ちゃんの隣の由美ちゃんも顔を出した。
「そこまで、昔からじゃないけどね。まあ、そうともいうかな。」
嫌な話題を終わらせたくて、とりあえず、テキトーに相槌を打った。
「「「何たる甘い響き!」」」
三人の悲鳴にも似た高い声が、響いた。
もっとも、遠足の日のバスって、とにかく騒がしいから、大声でさえ、ほとんどかき消されちゃうけどね。
「大げさな。しょっぱくはないけど、甘くもないよ。」
前の座席から回ってきた袋には、柿の種の周りにチョコレートが、コーティングされている代物が、入っていた。
どうかなって思ったけれど、辛くて甘いのも意外といけるかも。
調子に乗って一人でポリポリ食べていると、若菜ちゃんに肩を揺すられた。
「ちょっと、花。あんた、せっかくの幸運を無駄にしてるよ。だって、あの日吉一平君だよ。頭いいし、顔いいし、野球も上手。」
「ニュートンより馬鹿で、福山よりブサイクで、ハンカチ王子より野球が下手くそな奴のどこがいいの?」
若菜ちゃんは、あからさまに呆れた顔をすると、ため息をついた。
今日で三度目。
まだ、十時前だよ。
「花ちゃんてば、うける〜。」
後ろの席からは、由美ちゃんの笑い声が聞こえる。
ふんだ。
皆して、私を馬鹿にして。
「考えてもみなさいよ。ウチのクラスだけで、一体何人の子が、日吉君のこと好きだと思っているのよ。」
若菜ちゃんは、説得体勢に入った。
「さあ?」
「8人よ。8人。」
「ハチ?」
「そうよ。クラスの女子が、15人だからその内8人ていえば、」
「ひょ〜。半分以上だね。」
「そうよ。ウチの学校は、4クラスあるから、」
「P学園の入試の倍率よりずっと高いわ。」
私立を受験するつもりの由加里ちゃんらしい比較の仕方である。
「骨肉の争いだねえ。」
かわいい外見の似合わず、オヤジな由美ちゃんは、ビーフジャーキーを食いちぎりながら、楽しそうに言った。
「そう。愛の戦争よ。」
芝居がかった様子で言い切る若菜ちゃんは、面白いけれど、少女漫画の読みすぎである。
しかも、昔のお母さん世代のやつ。
「じゃあ、私は、永世中立国で。」
いつになったら、他の話題になるのだろうか。
昨日のドラマ見逃したから、誰かにストーリー話してもらおうと思ってたのに。
「「「だめに決まってるでしょ。」」」
またしても、怒鳴られた。
「そんなのらくらしていて、人生楽しいわけないでしょう。」
ちょっと、断言しないでよ。
「かわいい子が、勝つなんて面白くないじゃない。」
どうせ、私は、ブーですよ。
「恋する花ちゃん、楽しみ〜!」
・・・無責任な。
「でもさ、皆は、どうして、私が、一平ちゃんを好きだって思うの?そう見える?」
素朴な疑問をぶつけてみたら、三人とも一瞬黙ってしまった。
「てか、日吉君の方が、花ちゃんのことを好きなんだよね。」
「頭は良いはずなのに行動が、単純だからね。」
「分かりやすくて、かわいいよね。」
三人の言葉に頭を捻る。
一平ちゃんが、私のこと好き?
普通にそりゃないでしょ。
そういえば、一平ちゃんは、遠くの私立の中学に行くってお母さんも言ってたし、あと半年もすれば、顔も見なくなっちゃうんだよなあ。
口きかないって決めてたけど、やっぱりやめた。
お別れまでもう少しだもんね。
・・・別に好きだからとか聞いたからじゃないよ。