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適性0でも冒険者になれますか?  作者: あくた・あくーた
3/3

2限目 入学試験とお嬢様

0時に投稿するよ!0だからね!


無知蒙昧の芥が言葉のサラダをこしらえて、それを人前に出したところでお日様が陽気に腐らすのはある意味、バーゲンセールが開かれた流砂と同じなのかもしれない

『聖剣学園入学試験参加者の方々は指定された席にお座りください』


ああ、先日まで嫌悪していた機械音がここまで心地よく聞こえる日がこようとは思いもよらなかった。まだ受かった訳ではないのだがやはり、絶望から這い上がった後というものは全てが清清しい。


受付で貰った番号の席を探す為、会場ホールを進んでいく。

成人式にも使われる様な広さのホールにはざっと見回しても500人は下らないであろう受験生がひしめしあっている。その中でも合格者は毎年約100人。


俺は浮かれた気持ちにそっと蓋をし、褌を締め直す。


「あら? 何処かで見たことある貧相な後姿だと思えば、ゼロくんではありませんか~。貴方は適性無し......ではございませんでしたっけ?」


突如、辺りに響いた馬鹿にするような少女の声。

ゼロくん......間違いなく俺の事だろう。多分同じ会場で適性検査を受け俺の後で笑っていたやつの一人であろう。


痛い所を突かれた様にキリリと心臓が硬直する。


こういうやつは関わっても仕方ない。俺は知らんぷりを決め込みその場を立ち去ろうとしたその時であった。


「無視するとは良い度胸ですわね」


首筋にヒヤリとしたモノが当たるのを感じ歩を止める。


「おいおい、何のつもりだ? 俺はテメェ何ぞに迷惑を掛けた覚えなんてないんだが」


半歩擦れる様に声のする方を向く。

そこには、いかにもお嬢様学校の物であろうウールで作られた高級制服を着た少女が一人、ウェーブがかった艶な金髪をフワリと遊ばせながら、金属製の小さな杖を此方に向けていた。


俺の言葉に反応したのか気の強そうな碧眼が釣り上がる。


「私の様なエリート。芽々雅咲めめがさき家の次期当主である私と貴方の様な適性ゼロの無能君が同じ会場に居る。それだけで迷惑だということを理解出来ないのかしら? 可愛そう......ゼロくんは頭の方も知性ゼロという事なのね」


嫌な女だ。こういう自分の力でもないモノを盾に自分より下の者を見下す。


「なんですの? その憐れなモノを見るようなその目は! さい!っこうっ! にムカつきますわね......瀬葉セバ、この無能くんが二度と私に生意気な口を訊けぬ様、思い知らせてやりなさい!」


耳が痛くなるようなヒステリックな怒声を上げる。


本当に一体全体、俺が何をしたというのか。可愛らしい見た目をしているが、中身の方はまるで傷んだ林檎だな。


「かしこまりましたお嬢様」


瀬葉と呼ばれ現れたのは一人の執事服の少年であった。背丈は俺と同じくらい。中性的で整った女性ならば必ず振り替えるであろう美貌。スラリとした佇まいに腰まで伸ばされた文目アヤメ色の長髪。モノクル越しに向けられた理智的な眼差し。


俺がもし女性であったならばキュンと心がときめくのだろうが、生憎俺にはそっちの趣味はない。お返しに片眉でも上げとくとしよう。


いつの間にか、俺達を囲むように人が集まっており、野次馬の女子からは黄色い歓声があがる。


「ん? 俺みたいな無能くん一人に2対1か? エリート様が聞いて呆れるぜ」


俺の放った皮肉に、僅かに首をもたげた芽々雅咲は、


「貴方の様な雑魚。私が手を下すまでもありませんわ。ただそれだけの事でしてよ。フンッ!」


癪に触ったのかプイッとふんぞり返った芽々雅咲。


その姿を背に、やれやれと瀬葉は肩を竦めた。


「ゼロ様。申し訳ございません。我が主、芽々雅咲様はまだまだ子供......いえ、世間知らずでありまして」


「へっ。お前とは仲良く茶が飲めそうだよ。それと俺の名前は健御勇だ。ゼロなんて数字じゃない」


瀬葉の言葉に、何やら芽々雅咲がキーキーと騒ぎ立てるが無視を決め込む。今日は大切な受験日だ。もうこれ以上、無駄な体力を使いたくないのだ。


それに適性ゼロである言葉のせいだろうか、若干の侮蔑を含んだ見下す視線をちらほらと感じる。


「これは失礼致しました健御勇様。私めもやりたくないのですが、お嬢様の言葉こそ私め、瀬葉才人せばさいとの存在する意味。大変申し訳ないのですが、ここで消えて頂きます」


消えて頂くって......後で余裕綽々に構えてらっしゃるお嬢様もそこまで言ってないだろ。


というより、なんでこうも先日のヤグザのおっさん達といい厄介事に会うのか、もしかしたら厄介事の星にでも愛されているのかもしれない。今夜、星空を眺めたら丁重にお断りを入れておこう。


瀬葉はベルトに掛けた鞘から一振りのレイピアを抜き、演劇に出てくる王子の様に優雅な一礼をした。

体の中心、芯が通ったような真っ直ぐな姿勢。フェンシングを修めているのだろう。その優雅な佇まいに俺は身構える。


午後には実技試験も控えている為、受験者は自らの武器を持参してきている。

俺もこの日の為に、手入れをしてきた愛用の木刀に手を掛ける。


「では、参ります!」


冒険者の心得第11条『男なら売られた喧嘩は買ってナンボ』


「やれやれだ。......ふぅ。建御勇、推して参る」


自分なりにカッコいいであろうキメゼリフを決め木刀を振り抜き、正眼に構える。


相手も構えからして実力者であろう。こちらも全力でいかないと怪我をする。しかも相手は本物の鉄で作られたレイピア。


硬くなった身体では素早い刺突には対応できない。

肩の力を抜き呼吸を整える。


正に一触即発。


隙を見せたら確実にやられる。張り詰めた空気が二人の間に流れる。


「そこです」


澄ました声で瀬葉は踏み込み鋭い突きを繰り出す。その風の様な素早い剣先は俺の喉笛を捉えている。


「随分とお行儀がいいな」


肘を伸ばし、その反動で刺突が最も加速する瞬間に合わせ剣先に木刀を合わせる。


「なっ!?」


俺は突きの力を渦潮が飲み込む様にスナップを効かせ、レイピアの力の軸をずらす。


レイピアの柄にまで入り込んだ俺の木刀。喉笛を捉えていた剣先は狙いを大きく外し、頭上斜め橫、虚空を貫く。


「そぉらよっと! 踏ん張ってみな!」


瀬葉が直ぐ様、後に飛び間合いを取ろうとしたその瞬間に合わせバネをいかし一気に間合いを詰め、


「ガッ!? 嘘? 蹴り!?」


勢いそのままに足裏で相手の腹を蹴り飛ばす、ヤグザキックが瀬葉の腹に入る。


「悪いな。俺の剣はお行儀が悪いくてな、つい足が出ちまった」


驚きと痛みに蹲り、荒く咳を吐き出す。


「ゲホッ! ゲホッ! うぅ......」


少しやり過ぎたのかもしれない。瀬葉の眼からは涙が溢れ、その場に崩れ落ちる。

後方で余裕で眺めていた芽々雅咲は何が起こったか分からないという様に固まり、硬直している。


「瀬葉! 瀬葉! 大丈夫!!?」

「お、お嬢様......もうし、わけありません」


やっと状況を把握出来たのか、瀬葉に駆け寄る芽々雅咲。時と場所が変われば美少女のお嬢様が自分の為に傷つき負傷した騎士に駆け寄る感動的な場面となっただろう。


瀬葉を応援していた野次馬の女子達からは俺に対するブーイングが飛び交う。


ん?待てよ、それじゃ俺が襲った悪逆非道の悪漢みたいではないか! 確かに、少しやり過ぎたが俺は悪くない先に手を出してきたのはあちら側だ。


「......貴方、余程......! 余程、私に殺されたいようですわね。瀬葉をこんな目にあわせて......燃え付きなさい『フレイム』!!!」


芽々雅咲の杖から拳大の火珠が飛び出す。

昔、地域の焼き芋大会で近所の婆さんが、落ち葉を燃やそうとして発動させたのを見たことがある。確か、その時は婆さんが火力を間違え芋事に黒く燃え尽きたのを覚えている。もし、生身の人間が食らえば火傷では済まされないだろう。


しゃがみ、回避すれば関係のない野次馬達に当たってしまう。


少しでもダメージを抑えようと、防御姿勢を取ったその時であった。


「あ~! 見付けた! 見付けたのだ~! ふげっ」


あと数秒で火珠が当たり火に包まれるだろう。正にその時であった。場に相応しくない声と共に、俺の背中に何かがぶつかった。


「オゥフッ!」


突如として襲った、意識外からの衝撃に俺は肺の空気を一気に吐き出し顔面から床とディープキスをする。


あまりの突然の出来事に、ギャラリーと芽々雅咲も豆鉄砲を喰らった鳩のようにポカンと口を開けている。


火珠はどうやらギャラリーに当たる前に消えたようだ。


俺は衝撃の正体を確かめる為に後ろを振り向く、


「き、君は!?」


振り向いた視線の先に居たもの。それは、


「痛ててなのだ......えへへ、やっと見つけたのだ」


先日、助けれずヤグザに拐われた筈の白髪の少女が笑顔で俺に抱き付いていた。



次話もよろしくお願いします

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