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適性0でも冒険者になれますか?  作者: あくた・あくーた
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1時限目 コネクション・ザ・グランドファーザー

「ホイっとな」


突如として現れた老人は、ヤッサン二人組を片手で放り投げる。その目を疑う光景に俺は目を丸くしポカンと口を空け思考停止した。


「ホッホッホ、久しぶりじゃの健御勇くん。......ん? ああ、赤ン坊の頃じゃから覚えとらんか」


老人は柔和な笑みを浮かべ俺の肩をポンポンと叩く、話振りからして俺の事を知っているらしいが、ガタイの良いおっさん二人を片手で放り投げるような超人爺なんて祖父以外知らないし見たこともない。


「た、助け頂きありがとうございます。ところで貴方は?」


「ん? あっ、忘れとった。この後急ぎの用事があるんじゃった......折角、15年振りの再開だというのに、全く時間というモノは......」


「そういえば、あの女の子は!? 居ない!!! 大変だよお爺さん! 早く警察呼ばないと! スマホは......」


間に合わなかった。俺が老人に呆気を取られてる隙に白髪の少女と白スーツの青年は姿を消していた。

名前も知らない赤の他人だが、この前今日の夜のワイドショーに晒されるような事があっては目覚めが悪い。せめて、警察ぐらいは呼ばなくては。


「ああ、あの子なら大丈夫じゃよ」


「へ?」


「まあ、安心せえよ。そうじゃ、健御くんにプレゼントじゃ。お前さんお祖父さんに感謝せえよ」


「あの、これは? それに大丈夫って......」


俺が手渡された封筒から目を上げた時には既に老人は姿を消していた。

まるで嵐のような出来事に俺は、案山子の様に固まり辺りを見回す。

何時もと変わらない空に、鼻腔を突く排気ガス。両手に握られた得体の知れない封筒に、咄嗟に拾った良い感じの木の棒。そして、地面に転がる二人のおっさん。突如として知らない世界に放り込まれた錯覚に俺は乾いた笑い声を上げ、おっさん達が再度起きぬ内に帰路に着くことにした。


「やっぱ俺って冴えないわ」


ーーーーーーーー


夕飯を食べ終え、何時ものように祖父の仏壇へ手を合わせる。


「じっちゃん。俺、ダメだったよ......特殊能力なんてなくても、自分が特別じゃなくても......じっちゃんみたいになれると思ってた。頑張って頑張っても、無理だったよ。でもさ! 安心してくれよじっちゃん。俺、高校卒業したらコツコツ誰にも認められなくても冒険者になっからさ。絶対じっちゃんとの約束、守るからさ」


死人に口無し。豪快な笑顔で撮影された遺影に手を合わせ、焼香を炊く。


「あっ、そうだ。じっちゃん。俺さ、女の子助けようと悪漢に立ち向かったんだぜ。 まあ、助けられなかったけどさ......」


視界が徐々に滲んでいく。嗚咽を押し殺し、歯を噛み締めズボンの布を握り締める。


「お、俺。じ、じぶんの......弱さが憎い! 憎いよ。じっちゃん!!! クッソ! クッソ!」


拳を握り、畳に強く何度も何度も打ち付ける。涙と鼻水を拭い、振り払う様にズボンに擦り付ける。


ーーーークシャリ


手に当たったのは微かな、紙の乾いた感触。

鼻を啜り、祖父を知っている風であった老人から押し付けられた封筒を取り出す。


「あ、そうだ。じっちゃん、今日さじっちゃんの知り合い? かな。スゲー強いお爺さんに助けて貰ったんだ。そん時にこの茶封筒貰ったんだけどさ」


今は亡き祖父への一日の報告。これは俺の日課である。その日起こったちょっとした出来事や試合で勝ったといった他愛もない独りぼっちの報告会。


端から見れば男が一人でベラベラと仏壇に向かって話してるだけの奇妙な絵面だが、これはまだ祖父が生きていた頃、毎日のように輝かしい冒険譚を語って聞かせ、剣術を教えてくれた祖父へのせめてもの恩返しである。


蝋で封された封筒を開ける。どうやら、中は紙切れが1枚入っているだけのようだ。話しぶりからして祖父の知り合いのようであったし、きっと祖父宛の手紙か何かだろう。


祖父が亡くなって早五年。祖父は生前から『葬式なんてそんな辛気くせぇのは無しだ! 俺が死んだ時はとっとと墓に突っ込んでくれや!』と豪快に宣言をし父と母を困らせたものだ。

まあ、その言葉通り、一応形だけはと葬式は親戚内だけで執り行われた訳だが......もしこの封筒を渡してきたあのお爺さんが祖父が死んでいることを知らずに手紙を出したとしたらと思うと、少し複雑である。


俺は封筒から紙切れを取り出し広げる。そこには目を疑う文が記されていた。


『健御勇。関東冒険者候補生育成学校「聖剣学園」入学試験への参加を許可する。

追伸 お前さんの祖父、ヤマトに感謝せえよ。和の友人、聖剣学園理事長 勇佐ゆさ巌賢がんけんより』


......え? 入学試験への参加を許可? この俺が?


突然の吉事に俺の脳内は先程までの悲しみや葛藤を吹き飛ばし、歓喜に包まれた。


やはり良いことはしてみるものだ! 神様なんて居ないんだろうがやっぱ良いことをするとその分、自分に返ってくる何て素晴らしいプレゼントだろうか。


「じっちゃん! やっぱ先の涙は半分無しだ! ヤッホォーイ」


この手紙の主、今日出会い助けて貰ったお爺さんは目指していた冒険者学校の理事長で和じっちゃんの友達。こんな奇跡の連続あって良いのだろうか! 今晩はひたすら頬をツネッて過ごすとしよう。


俺は何処か諦めた目をし、冒険者を目指す事を許可してくれた両親に手軽に報告を済まし、再度仏壇に手を合わせる。


「じっちゃんありがとう! 俺頑張るよ! そしてさ、じっちゃんの夢......『俺を越える冒険者となれ!』叶えてみせっから!」










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