0時限目 適性は0です
初めましてあくたと申します。
よろしくお願いします
『ゼロ。適性はありません』
無機質な機械音声がこんなにも憎らしく感じたのは、きっと人生の中でこの日が最初で初めてであろう。
『冒険者はいいぞぉ~。強い男の象徴とも言っていい!』
幼き頃から今は亡き祖父から聞かされた冒険者としての数々の武勇伝。剣を握りモンスターとの白熱した戦闘。迷宮の奥底で見付け出した眩いお宝の数々。仲間と手を取り合い冒険者を達成した時の高揚感と達成感。
祖父の口から、溢れる様に語られる冒険譚は俺に憧れという一つの希望を芽吹かせた。
そして今日、16歳。中学を卒業した俺は冒険者育成学校の試験を受ける資格を受ける為の検査、何ともややこしい検査を受ける為、会場に来たのだ。
冒険者になるための、重要な第一歩。俺は遠足前夜の小学生の様に興奮し夜も眠る気になれず、祖父から託された『冒険者としての心得第100条』というなんとも達筆な字で記されたノートを深夜まで読んで両親に怒られたぐらいだ。
だが、今。その希望を叩き潰すかのように、
『健御勇さん、貴方の冒険者としての適性はゼロです。能力も0。入学はオススメ出来ません。』
列の後列からはクスクスと笑い声が聞こえ、俺の脆くなった心に傷を付けていく。まだ自分の結果が出てないというのに随分とご余裕なようで。
そして機械、迷宮ーーーーダンジョンから入手出来るというこの国の貴重な資源の一つ。迷宮宝の鑑定石というアイテムから作り出された冒険者適性鑑定マシーンは俺の傷を抉るかのように何度も復唱する。
冒険者育成学校に入る為には『特殊能力』という物が必要だ。
特殊能力ーーーー突如として日本に現れたダンジョンと呼ばれる広大な迷宮。それに対抗するかの様に、能力者と呼ばれるおとぎ話に出てくる様な摩訶不思議な力を持った人々が現れた。ある者は、巨岩をも意図も容易く持ち上げる程の怪力を。またある者は、水を操り怪物を屠る。多種多様な力を得た人々は、その力を用い迷宮より出でた怪物と対峙し、ダンジョンの奥底に隠された宝を見つけ出し巨万の富を得た。
彼等の活躍により、ダンジョンが日本に出現してから僅か200年程で日本は目覚ましい発展を遂げ、過去の人々が思い描いたような世界を造り上げたのだ。
その特殊能力は先天的に備わっている者も入れば、後天的に覚醒する者もいるらしい。
俺は先天的な能力持ちではない為、一縷の望みに掛け試験会場に赴いたのだが。
ちなみに、この検査では特殊能力のランク、もしくは後天的に覚醒する可能性を秘めた者を見極めるものらしい。
またとんでもなくショボイ能力の者もしくは、卓越した身体能力の持ち主でも、冒険者として資格有りと判断され入学試験の資格を得ることが出来るらしい。
それだけ、冒険者という職はこの国で特別な資産なのだ。またそれだけ危険な職業である事というでもあるという証明でもある。
『適性は......』
もういいっての、ほら後ろのやつらがまた笑いだした。俺は敗者になったとしても道化になる気はない。
俺はキリキリと胸中から込み上げてくる塊のような悲壮感に似た憤りを握り潰すように、機械から出てきた結果書類を引ったくる。
糞ッ! この日の為に剣道を習い鍛練を続けてきたというのに俺は......。
こうなったら、給料や待遇はだいぶ変わるが一般高校を受験して卒業後、自営業冒険者を目指すしかないか。俺の頭じゃ大学なんて良くてF欄辺りだろうし。
「はぁ、諦める訳にもいかないし、頑張るしかないか......」
鯨が吐き出したような大きな溜息を付き、出口に向かう。
さっさと帰って高校入試の勉強でもするかと憂鬱さに足取り重く、涙が零れぬ様うざったい程に輝く太陽を見上げ、
「へっくしょん!」
涙と鼻水でめちゃくちゃである。
(俺って冴えてねぇ......)
己の不恰好さを呪った、そんな時であった。
「ーーーー嫌ッ! やめるのだ!」
ふと微かだが会場の裏手から、少女の叫び声が聞こえた。
ーーーー冒険者の心得第7条
「女の子は助けろ、か」
俺は気が付けば駆け出していた。
正直、人助けなんてそんなことをする気分ではなかったのだ。このままいじけ腐るより、少しでも『憧れ』に近付きたいと思っていたのかもしれない。
「嫌と言っているのだ! 離すのだ!」
そこには、白髪の少女が一人。そしてその周りには、いかにもヤの付く職業であろうガタイのいいおっさん達二人と、リーダー格であろういかにもヤバそうなオーラを放つ白いスーツを着た青年が、少女を無理矢理黒、塗りの高級車に押し込もうと取り囲んでいた。
このままでは、少女は身代金を親に要求され金をむしりとられた後、何処かへ連れ去れて再度両親から金をむりし取るための金づるにされてしまうだろう。前のクールのドラマで似たような展開を目にした事がある。間違いない。
助けたい所だが、このまま丸腰で行ってもあっさりとやられてしまうのが落ちだろう。
せめて竹刀か木刀があれば良いのだが、某喧嘩をする番長のゲームでもあるまい、そんな物がそこら辺にポンポン落ちている筈がない。
「誰か! 助けて下けて欲しいのだ!」
一刻を争う。俺は無意識に、足元に落ちていた棒状の物を確認もせずに掴み、
「そこのお兄さん等ちょっと待ちな! その子を離すんだ」
体がブルリと震え、視野が狭まる。剣道をやってる時何度も味わった。自分より上の実力者と対峙した時に感じるプレッシャー。
特に、白スーツの若い男。アレはヤバイ。これがもし、剣道の試合であったならば一瞬でも目を離した隙にやられてしまうだろう。
「なんだガキ!!! 邪魔すんじゃねぇぞ! ゴラァッ!!!」
「『木の棒』なんて持って何のつもりだゴラァッ!!! ガキのチャンバラなら他所でやれやゴラァッ!!!」
木の棒? はて? と俺は相手に視線を向けつつ手元を見る。俺の手には何とも丁度いい『木の棒』が握られていた。
咄嗟の出来事だったとはいえ、木の棒って! いくらなんでも焦り過ぎだろ俺。
「橋田さん、有田さん。構いません、やってしまいなさい。」
「「アイアイサー!」」
「ちょっ! ごめんなさいッ!! タンマ! タンマァァァア!!!」
午後の時代劇に出てくる二人のガードマンか! そんなツッコミをする暇もなく、ガタイのいいおっさん二人は俺目掛け向かってくる。
「今更タンマなんてする訳ないだろがッ! 邪魔じゃゴラァッ!!!」
「二度とタンマ出来ないように口の中ぐちゃぐちゃにしてやんぞゴラァッ!!!」
怖ッ! やっぱ本業はドラマと迫力が違うな。って悠長に考えている場合ではない。
こうなったらやるしかない......か。
冒険者としての心得第2条。
「男ならビシッと! 覚悟決めろ!!!」
俺は棒を正眼に構え呼吸を整える。何千と繰り返してきたこの動作。先程まで、焦燥により見えなかった『相手』が今はクッキリと良く見える。
「顔面破壊だ。ゴラァッ!!!」
正面。有田と呼ばれた男のパンチが俺の顔を捉える。その拳を後ろに下がると同時に木の棒で軸をずらす。
「......あれ? げにゃ!!?」
有田は、自分の拳が目の前の少年からズレた事にすっとんきょうな顔をし自身の顔面に降り掛かった剣激を受け、後ろによろける。
拳をいなすと同時に行われた面打ち。ダメージはぼぼ無いに等しい。だが、その鋭い一撃は確かに大男を怯ませた。
「一本。頂くぜ」
「ほう......」
「す、凄いのだ」
有田のよろけにぶつかり、足を崩した橋田はマヌケにも地面にドシンと尻もちを着く。
その姿に、少女を捕らえたまま白スーツは目を細める。
「ガキが、痛ってぇじゃなねぇか」
有田は微かに赤くなった額を擦りながら、尻もちを着いた橋田を立ち上がらせる。
その目には先程までの余裕はなく、ただひたすらに自分を傷付けた健御への敵意で満ちている。
(あっ......ヤバイかも)
先程とは違う、明らかなる殺意。
じりじりと攻め寄る、二人の大男を前に俺は間合いを取りつつ後ろに下がる。
「あ」
背中に当たった冷ややかな感覚。冷や汗とコンクリートの壁が重なりぐしょりと不快な感触が健御を襲う。
「追い詰めたぜ。小僧が、死ねや」
「糞ッ!」
俺は数秒後に来るであろう衝撃に木の棒で顔を防ぎ、目を瞑る。
「あれ?」
しかし、何時まで経ってもその拳が俺の顔面に直撃することは無かった。俺は恐る恐る目を開く。
「ーーーー冒険者としての心得第10条......「「男なら最後まで諦めるな!!!」」じゃったかの?」
自然と合わせる様に出た祖父の冒険者としての心得。
そして目に映ったのは老人の背中だった。その老人は橋田と有田、二人の拳を軽く受け止めると、クルリと軽く捻る様に二人を捻り倒す。
「あ、貴方は......?」
「ホッホホ、久しぶりじゃの健御くん。......ん? ああ、赤ン坊の頃じゃから覚えてらんか」
突如現れた老人は飄々と笑い俺の肩を叩いた。
少しでも皆様の娯楽となれば幸いです
(久しぶり過ぎてミスって投稿漏らしちゃった☆こうなったら蓄え分出すしかねぇ......9.6 16時16分
)