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魔法王国で暮らそうと思います。

作者: 書蠹

今回が初めての投稿となります。


わぁー。遠くから見てもすごく大きいとは思いましたけど、やっぱり近くで見ると圧倒されます。この1週間の馬車旅ですっかり仲良くなったほかの乗客の方たちも、皆口をぽかんと開けて目の前の国境門を見上げています。門というか、ものすごく大きな壁に、これまたものすごく大きな両開きの扉がついている感じです。壁が高すぎて扉が小さく見えます…。



「ほらな?俺の言ったとおりだろ?でかすぎて口が開いちまうって!」



毎年ここに出稼ぎに来ているというおじさんが誇らしげに話してます。これ、貴方の門じゃないですけど!まぁ、これだけ立派だと自慢したくなる気持ちは分かります。やはり王都の門はほかの門と比べ物になりませんね。手作りのアクセサリーを売りに来たという同い年の女の子が私のほうを不安そうに見てきました。実際不安なのだと思います。。ほかの国と比べれば確かに治安は良いですが、女の子一人で暮らしていくのはいろいろと大変で心細いと思います。。私は少しでも元気づけられたらと思い、心からの笑みを浮かべました。



「大丈夫ですよ、きっと売れます。ここは魔法王国なんでしょう?きっと変わり者がいっぱいいます、貴方のその独特ななアクセサリーを喜んで買ってくれる人とかね。」



「もうっ!リルネシアったら!」



少女は不満そうに頬を膨らませるが、その瞳には希望の光が宿っている。一人で町をとびだしてきたのだから、きっとこの子は芯がしっかりしている子なんでしょう。とっくに覚悟は出来ているのでしょう。私は少し緊張をほぐしてあげることしか出来ませんが、この子ならきっとうまくやっていけると思います。



「冗談ですよ、貴方のアクセサリーはどれも上手に出来ているから、数日で売り切れちゃうのではないでしょうか。良い宿を見つけたらすぐに新しいのを作っておいたほうがいいです。私もお金があったら1つ買いたいくらいですから。いや、2つですね。リーナっていう健気で可愛い女の子にプレゼントしなくちゃいけませんから。」



リーナはぶわっと顔を赤くした後、涙目で私に抱きついてきました。どうしましょう、怒ってしまいました。すこしからかいすぎたかもしれません…。どうしたらよいか分からず周りを見渡してみても、おじさんたちはなにやら温かい目で見つめ返してくるだけです。



「まったく、これだから人たらしは恐ろしいぜ。」



出稼ぎのおじさんが首を横に振りながらなにやらぶつぶつ言ってます。人たらしとはどういう意味なんでしょう?たしかにリーナが私に抱きついている様子は人をぶらさげているようにみえなくもないかもしれませんけど、そういうことではないでしょう。意味が分からず首をかしげていると、



「おまけに自覚もないときた、こりゃあ いつか刺されるんじゃないか?」


「いや、確かに男だったら確実に刺されてたが、リルネシアは女だ。被害者が悶え死にそうになっているところを何食わぬ顔で『大丈夫ですか?』とかいって手を差し伸べるタイプだぜ。」


「うわ、容易にそうぞうできるわそれ。」


「被害者、可哀想だけど羨ましいぜ。」


「はぁ、すこしは俺たちにも天然を発揮してくんないかな。」



なにやら男たちがお互いに顔を見合わせうなずき合っています。心が通じ合っているようで何よりですが、私には話の内容がこれっぽっちも分かりません。それよりも、こっちを何とかして欲しいです。怒らせしまったときはどうすればいいんでしょう、これ。そうだ!あれをやってみましょう!師匠に怒られたとき、これをやると師匠は許してくれました。リーナも許してくれるといいんですけど。まずはリーナの目をまっ直ぐ見ます。うん、いつ見てもきれいで透き通った薄茶色の瞳です。次に細くて女性らしい手を両手で包み込みます。包み込む、といっても小さくて幼子みたいな私の手では挟み込むことしかできませんが。



「ごめんなさいリーナ。リーナの反応がかわいらしいので少しからかいすぎていまいました。反省しています、許してくれませんか…?」



ここで首を少しかしげる。この動作、何がいいのかわかりませんが意外と効果があるんです。師匠以外にはしたことないので、もしかしたら師匠だけにしか効かないって可能性もありますけど。あれ、リーナが動きません。固まっちゃってます、効かなかったのかも、どうしましょう。



「リーナ…?」



「...っ!許すもなにも最初から怒ってないから!」


親友、私が、リーナの。なんでだろう、すごく不思議な感覚。今まで同い年の友達なんかいなかった。孤児院でほかの小さい子の面倒を見たりすることはあったけど、いつも私は「おねえちゃん」で。みんなをまとめる役で、しっかりしなくちゃいけなくて。親友、とても素敵な響き。あったかくて、焼き立てのパンみたい。一週間しか過ごしてないけど、親友なんて呼んでもらえていいのだろうか。私、リーナの親友としてすごしていいのかな。胸がざわざわする。きっと嬉しいのだと思う、うん、嬉しい。じわじわ来た!リーナの手を両手で包む。きれいですらっとした指。私の指とは大違い、私の指はなんか短くてむちむちしてる。師匠は赤ちゃんみたいでかわいい、なんて言うけど、私もこういう指がいいな。…っじゃなくて!リーナに返事しなきゃ、こういう時はなんて答えるのが正解なのだろうか。



「リーナ、親友って言ってもらえて凄く嬉しい。私リーナの親友にふさわしい人になれるようにこれから頑張るから、リーナもアクセサリー職人になれるように頑張ってね。リーナと出逢えたこと、とても嬉しい。よかったら、その、私のことはリリィって呼んでもいいから!」



言い切った、うん、顔が熱いよ。今絶対顔赤いと思う、しょうがないじゃんか、初めての親友だよ!私の本当の名前、「リリィ」。師匠が、それをもとに新しくつけてくれた「リルネシア」って名前。両方とも私だし、両方ともとても素敵な響きだと思う。師匠が私に新しい名前をくれたとき、教えてくれたの、いつもの優しい笑顔だったけどその瞳は真剣だった。



『リリィ、名前っていうのはとても力を持っている。その人がその人であることを足らしめるものでもあり、祈りをささげるときに、私ですよって精霊に呼びかけるための呪文だったりする。今日、リリィにリルネシアっていう新しい名前を付けたのは、リリィを守るためだ。名前には力がある、それはいい方向に働くこともあるし、悪い方向に働くこともあるんだよ。リリィにはこれから、いろいろなことが待ってる。きっと、リルネシアっていう名前がリリィを守ってくれる時が来る。分かってくれたら嬉しいな。でも、僕のリリィはずっとリリィだからね。リリィって呼んでも愛称だな、思われるようにリルネシアって名前にしたんだもの。リリィに大切な人ができたとき、リリィって呼ばせてあげるといい。精霊のご加護があるようにね。』



師匠、元気にしてるかな。リリィは大切な人ができましたよ!リーナっていうんです!

リーナは瞳をキラキラさせて私の手をぎゅっと握り返してきた。凄く嬉しそうに。



「もちろんよリリィ!私もあなたに出逢えて本当によかった。私、頑張る!職人になって、いつかどこかのお店で働かせてもらえるようになったら、必ずリリィのために作品を作るわ!それまで絶対諦めない、なにがあっても。だからこれ、あなたにあげる、親友の証よ。」



そういって渡してきたのはリーナが王都で売ると言っていたネックレス。しかもこれって、



「一番出来がいいって自慢してくれたものじゃないの、私なんかが貰うのはもったいないよ。」



するとリーナは私が戸惑っているのもおかまいなしにネックレスをつけてしまった。紐の部分は蝋を引いた紐を編み込んで作られていて自然で美しい。中央に向かうにつれて小さめのラピスラズリのビーズがあしらわれていて、洗練されたデザイン。中央には大きめのラピスラズリがどんと入っている。天然の石から加工のだろう、それぞれ発色が違うがどれも穏やかな瑠璃色をまとっている。全体的に清楚で上品、本当に私にはもったいない代物だ。金属で縁取られている高級なものと違って、華やかさは控えめだが、私はこっちのほうが温かみがあって好きだ。一つ一つ手作業で作ったのだろう、かなり時間がかかったに違いない。



「ほら、リリィにぴったりよ!ほんとに綺麗…。リリィの瑠璃の瞳にすごく似合ってる。」



確かに私の瞳は瑠璃色だが、こんなに柔らかで穏やかな光は発していないと思う。私の目はどちらかというと険しいし、瞳の色は光を吸い込んでしまうような闇夜の色。



「ほんとにいいの?私からは何もあげられないのに。」



お金は一応少しはあるが、リーナになにかプレゼントできるような余裕はない。私の王都での滞在費がなくなってしまう。なにかしてあげることはないだろうか。



「お返しなんていらないよ!これは親友の証だもん!もしもリリィがそれじゃあ納得いかないっていうなら、王都についてからも時々会えたらいいなーなんて。...いや、やっぱり今のは聞かなかったことに」



「それ、いいね。そうしよう、私もリーナと会えなくなるのは寂しいし、親友なんだからさ。」



「ほ、ほんと?嬉しい、大好きよリリィ。」



「私もだよリーナ。」



二人で手を取り合って見つめあう。師匠、リリィは今とても幸せです。




「や、やべぇ。俺何かに目覚めちまいそうだ。」


「俺もだよじっちゃん、なんか凄い、尊いな。」


「ここは天国か?お花畑が見える。」


「お、お前らしっかりしろ!おい、おい。」


「もう彼女なんかいなくてもこれ見てるだけで満足。」


「みんな頭がどうかしちゃったのか!?目を覚ませ!」



なんか男たちがうるさい、彼らもきっと別れを惜しんでいるのだろう。温かい目で見守ってあげよう。でもそろそろ検問だし、静かにして欲しい。国境門の扉の横には軍の制服を着たお兄さん達が立っている、怪しい者が入国しないか検査するためだ。いよいよ王都に着く、魔法王国ユースミア、王都パディデフに



魔法王国ユースミア、大陸に住んでいるものなら知らない者はいない、魔法の国。王都パディデフでは、平民も下級魔法ではあるが使うことができるという。魔法使いの魔法使いによる魔法使いのための国。魔法王国であるが、魔法を使えない民も住んでいる、王都の外から移り住んできた者たちだ。ユースミアは移民を積極的に受け入れている、魔法王国とはいえすべての設備が魔法で動いているわけではない。例えば、魔法道具を作るにも鉄を製錬する作業があるが、それを全部魔法でやっていては魔力がもったいない、そこで平民や移民たちが手作業で精製するのだ。魔法王国でもあるが、人の力でまかなえるところはきちんと人を使う。バランスの取れた国である。貿易も盛んで、食料などを輸入し、魔法道具などを輸出している。まぁ、全部師匠に聞いたんだけどね。実はここ、パディデフは師匠の故郷なのだ。



「次、前に進め。」



私たちの馬車の検問の順番が回ってきた。御者のおっちゃんが軍人さんと二、三言会話して終了。意外とあっさりしているんだなーと思っっていたら、見つけた。門についてる兵たちが詰めているところに白いローブを着たお兄さんがじーっとこっちを見ていた。目が赤く光ってる!分かった、あれで危険なものを持っていないか見ているんだろう。すごい、さすが魔法王国。なんて思っていたらお兄さんの目の光が消えて、私のほう見てる?目が合った、なんとなくいたたまれなくなって反射的に頭を下げてしまった。するとお兄さんはきょとんと不思議そうな顔をしてからふにゃって微笑んでくれた。わぁ、整ってる顔だこと、優しそうだし、それにすごい高そうなローブ着てる、きっとすごい魔法使いさんなんだろうな。馬車が進む、お兄さんが手を振ってくれた。私も降り返す、王都の人はみんなこんな素敵な人ばっかりなのだろうか。


これから王都での生活が始まる、

不安もあるけどきっと大丈夫。




読んでいただきありがとうございました。

リリィとあなたに、精霊様の祝福がありますように。

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