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妹の葬式

作者: 須田良志紀

田舎の葬式は大袈裟だ。

村中の人間が集まってくる。

妹が死んだ。7歳だった。

7つ年下のかわいい妹だった。


※   ※   ※


通夜のあと葬儀。

本当に夜通し通夜をやって酒を飲み続けた田舎の爺どもは、

坊主がお経をあげている間に眠りこけていた。

兄貴は酒を飲む気分ではなかったらしい。

隣でずっと号泣していた。これが普通だ。

ひとの死にも託けて酒を飲みたいだけの田舎の愚老どもこそさっさと死ねばいいのだ。


※   ※   ※


世間より時間が20年ほど遅れて進んでるようなこの村。

有能なひとたちは皆外へ。保守的で閉鎖的な百姓とその子孫たちだけが残った。

子供は本当に少ない。

葬儀の席を見渡しても子供と呼べるのはおれの従弟二人と近所の百姓の息子が三人。

おれを入れても計四人。全員男で10代。

妹はこの村唯一の女児だった。故に丁重に扱われていた。


※   ※  ※


この村唯一の女児である妹は非常にかわいがられていた。

だが、おれは可哀想だと思った。

こんな村に生まれて。

きっとこの先この村を出ていくことも許されず、おそらくは百姓の息子と結婚させられるのだろう。

妹は本当にかわいかった。だからこそ可哀想で仕方なかった。

妹は用水路に落ちて死んだ。遊んでいる時に転落した。


※   ※   ※


葬儀が終わり出棺の時。

相変わらず、酔いつぶれたこの村の愚老どもは、

そこらへんで吐瀉物をぶちまけたり、家の庭で眠りこけていたり。

おれの両親は放心状態。兄貴は相変わらず泣いていた。親戚たちも悲しみに暮れていた。

兄貴が「ごめんな」と呟いた。

何に対してだろう。自分が妹の傍にいれば事故を防げたということに対してだろうか。

確かに兄貴が居たなら妹は死なずにすんだだろう。

用水路に落ちてもすぐに助けられた。そもそも用水路に近づくなと注意できた。

でも、それだけだろうか。兄貴は何か見落としてないだろうか。

妹は幼いとはいえ7歳だ。用水路なんてずっと昔からそこにあるし、両親からも注意するように言われてる。

そんなとこに誤って落ちるようなことがあるだろうか。

落ちても7歳なら自力で這い上がることもできたんじゃないだろうか。

ところで兄貴は弟であるおれのことはどう思っているのだろう。

兄貴は長男だから当然、家でも長子優先。妹はこの村唯一の女児。

その間に挟まれたおれのことにはあまり意識が向いてなかったんだろう。

勘違いされたくないのだが、おれは兄貴を尊敬しているし、妹を心からかわいいと思っていた。

おれが恨んでいるのはこの村であり、この村の愚老ども、おれをこんな村に産み落とした両親だ。

兄貴が気づくべきだったのはそんなおれの心情だった。

だけどもう遅い。


※   ※   ※


妹はおれが殺した。

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