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#5 襲来2

 見晴らしの良い崖の上にたどり着くと、村の人々が慌ただしく動いている様子が僕の目には映る。しかし原因まではわからない。

「火事ではねぇな………………。んっ……」

 ロン爺が何か見つけたようだ。


 西の方角に目を向けて細める。

「村の西になんぞおるな……ありゃ野盗か? 四、五十人はおるんじゃねぇが」


 五十人の野盗…………。

 それはいつもならどうにかなる人数だ。


 人口が六百人ほどの領主様も代官様も常駐していない村だ。野盗の他にも火事や自然の災害など、力を合わせて対処しなきゃいけないことは多い。

 自衛のための組織立てと定期的な訓練は行われており、鐘の音から五分もあれば百人程度の村人が武器を手に集まる。

 実際に五年前にも六十人ほどの野盗が現れたが、その際も門と柵で防ぎ、被害は放牧中の家畜が略奪された程度だ。


 だが、今は兵役で村に若い男性が少ない。さらに壮年の男性もこの時期、この時間は村の外へと出ているものが多い。今、村にいるのは老人と女性、子供たちばかり。


「ロン爺、僕は戻る! 今日はお婆ちゃんとエミリーが二人きりなんだ!」

「……危ねぇがらやめどげ、やめどげ。おらは行がねぇぞ」

「大丈夫、なんとかなるよ!」



 そう言い残しながら山の斜面を駆け下る。

 走りながら考える。


 村は柵で囲まれ、出入り口は三つの門しか無い。だが十分な人数で中から投石や矢を射ない限り、門などすぐに乗り越えられる。今、村に残っている大人の人数では守り切れないだろう……。


 その後、野盗はどうするか?


 村人を追いかけて皆殺しにし、その後ゆっくり略奪するのか。

 村人には構わず、個々の家に上がり込み略奪するのか。


 ………………。


 村の規模と盗賊の人数を考えると後者の可能性が高い。

 きっと大丈夫だ。


 元来、この国では貧困にあえぐ者たちが行き場を無くして野盗になることが多いのだ。いつもは国境付近で護衛という名目で通行料をせびっている程度であり、暴力に慣れているものは少ないのだから。


 野盗はまずは家の中に押し入り金品、食料を狙うだろう。

 仮に家人が家にいたとしても、金品や食料を素直に差し出せば野盗も無茶はしないはずだ、従順な相手に無駄な暴力を振るっても時間がもったいない。

 ただし奴隷として商品価値の高い若い女性、子供を見つければ多少手荒な真似をしてでもさらうだろう……。


 また若い女性にはもっと別の例外がある…………。


 一瞬、悪いほうへ予想してしまい表情が強張る。

 その考えを頭から振り払いながら、ただ少しでも早くたどり着くために、より足に力を込める。



 最短距離の道なき道をひた走る。


 足場が悪い所も半ば転がり落ちながら走り続ける。

 木の枝が容赦なく僕を叩き、体中が痣とみみず腫れだらけになっていく。

 まるでナイフでつけたかのような切り傷も、素肌を晒している頬や手の甲に刻まれていく。

 それでも手にした弓は手放さないように、なお一層強く握りしめる。


 間に合えっ……。


 他の村人には期待出来ない。村の人々はお互いを助け合う心が息づいている。しかしそれはあくまでリスクが少ない範囲でだ。他人を助けることで自分の身に火の粉がかかるなら情け容赦なく切り捨てる。

 天災一つでコロコロと弱い者から死んでいく、そんな日々を過ごす田舎の村ではそれが当然なのだ。

 村に守るべきものが無い独り身であれば、ロン爺のような考え方が当たり前なのだ。



 いつもの半分以下の時間で村の前へと到着する。

 ただし、門が備えられていない村の南側(・・)だ。


 僕の目の前にあるのは大人の背丈よりも高い丸太で出来た柵。

 この村の規模に不釣り合いなこの柵は百年前に戦場になったときの名残だ。野盗対策、獣除けとして代々村で手入れされ続けてきた。

 先を尖らせた丸太は隙間なく地面に突き刺され、それを支える丸太も内側のみに組まれている。

 外側からでは人が登れるような掴み所も無く人が登ることは困難だ。



 でも子供達だけの秘密。

 抜け穴があるのだ。


 民家の裏手でいつもは木箱などで隠されたその場所は、南の野原への近道。

 とは言っても丸太の根元が腐り落ちて出来た抜け穴だ。

 幅は丸太一本の太さしか無い。大人では通り抜けるのが無理な狭さだし、僕も来年か再来年には通れなくなるだろう。



 「はぁ、はぁ、はぁ、ふぅ……ふぅ……」


 まずは息を整え耳を澄まし、慎重に向こう側に人の気配が無いことを確認する。

 顔を出したとたん、野盗とばったりということもあるのだから。


 気配が無いことを確認すると、木箱を押しのけ村の中に侵入する。

 頭だけ出してキョロキョロと周りを見渡す…………人影は見えない。


 大丈夫そうだ。

 また耳を澄まして、状況確認……。


 町の中央から言い争うような怒声が聞こえてくる。ただし悲鳴や剣戟の響きは聞こえない。左手となる西側からは、下卑た笑い声に混ざって子供らしき悲鳴が聞こえている。右手となる東側では女性達の掛け声、西側に通じる道々に障害物を積み上げているようだ。


 情報不足で推測するしか無いが、きっと野盗はまだ村の中央を超えていない。

 西側を略奪中でさらに一部の野盗が東側に行こうとしている。

 それを中央の広場付近で村人が抵抗しているのだろう。

 村人は樽や木箱、家具、木材など障害物を積み上げることで侵入路を中央に限定し、中央に人を集めているはず。もちろん障害物だけで放置では無く女、子供が監視には着く。

 その形も昔から村に伝わる訓練の一つに組み込まれているのだから。



 僕の家は村の北西側だ。

 最短で行くには中央の広場を通らないといけない。

 他の道筋として西側からも回り込めるがそれは論外だ、野盗に出会う可能性が高い。障害物を乗り越えるなりすれば東側でも回り込めるが、村の誰かに捕まり何かを手伝わされるかもしれない。

 一度外に出て、ぐるりと北門を目指すことも考えられるが、この状況だと北門が開いているとは限らない。


 僕は意を決して南通りからまっすぐ広場を目指すことにする。

 危険だけど他に道は無い……。


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