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#4 襲来

「ふぅ、ここからだと村がよく見えるね」

「んだなぁ」


 村を出てから小一時間、村の南東にあるある小高い里山の中腹に僕らはいる。ここからだと僕たちが住む村“ノースレイ”周辺が良く見える。

 丸太柵で囲まれた村は東、西、北の三方向に門があり、村の東西へと街道が伸びている。


「そんいえばおめぇ、昨日、変なことしてたなや。なんぞ浮かして名主様にごしゃがれてだべ」


 ロン爺がシシシシッと癖のある笑い声をあげる。


「名主様は人の話聞いてくれないからね」


 昨日のことを思い出し、苦笑いしつつ答える。


「あれは気球(・・)って言うんだよ。でも昨日も山にいたんでしょ? 僕と名主様だと良くわかったね」


 この山から実験した野原を見れば、人の大きさは豆粒より小さい。僕ではそこに人がいることが辛うじてわかるぐらいだ。猟師は目が良くないと出来ないとは聞くが、誰かまで見分けがつくとはよっぽど目が良いのだ。


「猟師なら当然だべ。鍛冶屋の娘がいるのもわがっだど。んで、あれは何さっする道具なんだぁ?」

「うーん……わかんないや」

「おめぇ、自分でこさえておいてわがんねぇのか?」


 呆れた顔で見られる。


「まだ研究段階だからね、使い道はこれからなんだよ」

「ふーん、んだなもんだべか。おらにはわがんねぇな」


 そんな無駄話を挟みつつ、さらに十分ほど獣道を登り、ようやく獲物を見つけた。


「ほら、おったぞ」


 ロン爺が指さす三十メートルほど先には山鳥が一羽、歩き回りながら地面をくちばしで突き回っている。

 ロン爺は肩から形が特徴的な弓(・・・・・・・)を下し、ゆっくりと矢を(つが)える。キリキリと弓を引き絞る小さな音に、滑車(かっしゃ)(きし)む音わずかに混ざる。

 僕はただ息を潜めて、経緯を見守る。


 シュッと軽い音を残し、見事に山鳥を仕留める。


「やった!」

「んむ、まずまずな大きさだべ」


 矢は見事に細い首を貫通している。これを狙ってやっているんだから、みんなから達人と言われるのも納得だ。


「こん弓はやっぱええなぁ」


 そんな腕前を自慢せずに弓のことを褒めてくれる。その弓は僕が勇者様の手帖を元に作ったものだ。


 ロン爺が使っている弓はぱっと見は変な弓(・・・)だ。

 何が(へん)かって、弓の上下に滑車があり、弦が三本もあるのだから。

 使い方が載っていない図を見て、最初、僕はきっと同時に三本の矢が撃てる弓だと思っていた。


 良くわからないけど、とにかく作ってみた一号機。それは細かい所の細工が僕の手には負えないほどの難しさで完成に至らなかった。

 機構の研究のため、実用性は考えずに僕でも作れる倍のサイズにして作ってみた二号機。

 重くてとても持ち運びなんて出来ないけど、なんとか形にはなり、それで色々試しているうちに気付いたことがある。

 使う弦は一本だ。残り二本の弦と滑車の機構は力の変換のためにある。


 その機構で何が出来るのか?

 引く力が同じなら、普通の弓より硬くて強い弓が引けるのだ。

 逆に同じ威力の弓で良いなら、より少ない力で引ける。


 僕では作れなかった細かい所を、鍛冶屋のジャレンおじさんと木工職人のラルフさんに手伝ってもらった三号機、それを村一番の猟師であるロン爺にプレゼントしたのだ。


 以来、ロン爺なりのお礼なのか獲物を分けて貰ったり、こうしてたびたび狩りに誘われる。

 これまでロン爺には弓の扱い方、山歩きや狩猟のコツ、山菜の見分け方などを教わった。

 おかげで狩りの楽しみを知った僕は、僕専用の四号機を作り、楽しみながらメキメキと狩猟の腕前をあげている。


 もうすぐお昼時という時刻となり、ロン爺が山鳥三匹と野兎が一匹、僕が山鳥二匹を仕留めた所で、今日の狩りは終えることになった。


「今日は大猟だね!」

「んだなぁ。おめぇもちけえ距離ならだいぶ当だるようさなっだな」

「そうかな?」


 達人のロン爺さんに褒められるのは素直にうれしい、おもわず笑みがこぼれる。

 ロン爺の教えによって、僕も山鳥サイズを三十メートルで九割方仕留められるようになった。五十メートルで半々ぐらいかな。


「後は身体がもうちょっくら大きくなれば、距離も伸びるべ。おめぇ、このまんま猟師になっが?」

「うーん、猟師はどうだろなぁ……」

「何が気にぐわねぇだ? おめぇの筋の良さなら村一番の猟師になれっぞ」

「狩りは楽しいんだけどね、たまに気晴らしでやる程度が丁度良いよ」

「シシシシッ、んだな貴族様みてぇな暮らし出来るわけながんべぃ」

「そうだねぇ。まぁ今は色々考えている最中なんだ」


 突如、そんな会話を遮るようにカンカンカンッ(・・・・・・・)と甲高い半鐘の音が村から鳴り響く。

 その音を聞いて僕とロン爺は一瞬だけ顔を見合わせると、すぐに村が見える見晴らしが良い場所へと駆け出す。

 ロン爺は緊張した表情を見せている、きっと僕も同じだろう。


 なぜならその鐘の音は村に危険が近づいていることを知らせるものなのだから。


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