第一「死亡フラグが強固すぎる」
だいいち――しぼうふらぐがきょうこすぎる
少し話をしようか。何て事がない、頭のおかしい話を。
与太話だと思ってくれていいから聞いてほしいんだ。
ところで君は思うだろうか。
二十歳を過ぎた時、すぐに死んでしまうなんて
予想できたのだろうか。
私の場合、予想できなかった。ただ、それだけの話だ。
上の話の通り、私は一度死んだ。確かトラックにはねられて、だと思う。曖昧になってしまっているけど。で、何故か生まれなおした時に前世の記憶が飛ばなかった。消えなかったんだ。
「それって不幸って訳じゃないけどさー」
誰に言うでもなく呟く。13年。この世界で生きた時間だ。つい先日13歳になった。わーい若返ったぞッ!とはしゃげる年齢を越えている。若すぎでしょ。
所謂転生ってやつを果たした先は普通の家庭だった。中流家庭。結構結構。平凡万歳だ。普通の幸せを思い知っている私はにこにこが止まらない。
文化、という点ではここは中世ヨーロッパに近いと思う。建物様式もそうだし、着る服もそうだ。
ただ一つだけ違う点を挙げるならば、魔法が使える点だろうか。
「と言っても、ピンキリだけどね」
私は苦笑する。才能がある人だけ凄い魔法が使え、才能のない人はそれほど使えないのだ。ちなみに私は才能のない方になる。つまんないと不貞腐れたのは懐かしい。
「まぁ、生活する分には困らないから有難い」
才能がないと言っても全く出来ない訳じゃなく、指先から少しの火は出せる。ちょっとした魔法は使える。充分だ。
「んー。さて、お使いでも行ってこようかな」
ひとり言と共に私は家を出る。戸締りをして出発だ。
両親も普通に仲がいいし、今世でなんの不満もない私だけど、一つだけ思う事がある。
「何で名前変わらなかったんだろう?」
どうせなら、もっとかわいい名前が良かった。私はため息交じりに言う。
私の名前はハナコ・スミス。前世は山田はなこ。この名前から察せられるように、世界でこっそり善良に生きる一般人だ。転生でもチートはないからね。
付け足すなら、そんなに前世と容姿は変わらなかった。黒髪に黒い目。父は黒髪に金の目、母は金髪に黒い目で両親からの遺伝だ。うん、それはいいんだ。
「でも憧れがなぁ……」
天然の金髪とか日本人では一回は憧れるんだけど。
今この国には『幻影の暗殺者』と呼ばれる殺し屋がいる。依頼料はべらぼうに高いが、絶対に仕事を完遂する完璧な殺し屋がいると。
それは音もなく対象者を始末し、証拠も目撃者も残さない徹底した姿からついた二つ名だ。
世界で百億の賞金額がついた賞金首。そのくせ、その手配書には似顔絵すらもない。
『幻影の暗殺者』は年齢はおろか、出身国、人種、性別、容姿、趣味嗜好等々の個人情報がまったくない人物だ。それは伝説とまで化していた。
彼(彼女かもしれないが)の本当の姿を見た人は誰もいないと言う。依頼人にも変装した姿で会い、会う度に違う姿で現れるからだ。
分かっているのは人里離れた場所に屋敷を持っており、依頼したければそこに手紙を出せばいいらしい。
遅くなってしまった。私はお使い帰りに空を見上げた。そろそろ夕方か。
この辺りは治安が良い方だけど、でもそれでも夜は出かけてはいけない。答えは簡単。ここは前世にいた日本ほど安全がある訳じゃないからだ。
私はチラリと建物と建物の間の路地に視線を向ける。なんとなく視線を感じたのだ。
視界に入る白。
否、銀色か。それにつられて私は立ち止まる。銀色のその人は狭い路地裏で座り込んでいるようだ。顔は伏せられ、膝を抱えている為見れない。
具合が悪いのだろうか?私は恐る恐る路地に踏み入る。
一歩一歩その人に近づいていく。
一瞬白に見えたのは銀髪だった。綺麗な艶を帯びた銀髪は長く、たぶん腰ぐらいまであると思う。シンプルな黒の服はその人に不思議と似合っていた。体の線に沿ってピタッとした動きやすそうな服はなんというか、暗殺者とかが着そうな服だった。ん?暗殺者?
私はそこまで考えて足を止めた。といってももう銀髪の人の目の前まで来てしまったけれど。
バッとその人が顔を上げる。
カッと見開かれる瞳、その色は綺麗な銀色だった。というかなにこれ怖い。開かれる虹彩に私は戦慄する。瞳に光が宿っていない気がする……。
「……だい」
「え?」
ぽつりと、銀髪の人が呟く。が、掠れていてあまり聞こえない。
顔色は悪いが、銀髪銀眼のその人は結構なイケメンさんだった。玲瓏たる美貌は涼しげだ。クール系美人さんと言ったところか。
銀髪なイケメンさんは私に向かって手を伸ばしてくる。
その白い手は赤く染まっている。見開かれた瞳は今はうっとりと細められている。
「……どうも?」
私は引き気味に首を傾げた。装備している愛想笑いも引き攣る勢いだ。
銀髪のイケメンさんは蕩けるように甘い微笑を浮かべ、
「……うん、よろしく。きみ、俺のところ来ない?」
私の腕をがっしり掴んで小首を傾げる。語尾が疑問形だけど、雰囲気が断るのを許していない。私は圧力をひしひしと感じた。それと掴まれた腕に赤い何か(血とか認めない)がべったり付いているんだけど……。
「あの……。無理かなって」
「ん?」
小首を傾げる銀髪のイケメンさんは少し威圧感があった。その人は座り込んでいて目線は私の方が高いはずなのに。逆らってはいけない何かをこの人から感じる。
「えっと、そうだ!あの名前聞いてないですよね?名前、教えてください」
私は話題を逸らすことにした。そして私の長所はのんきだ。この状況だって諦めてない。
「名前……。きみは?」
「ハナコです。ハナコ・スミス」
「ハナコ?……変わってる。…………ハナって呼んでい?」
「ど、どうぞ」
初っ端からあだ名で呼ぼうとする銀髪のイケメンさんに許可をする。というかこの人遠慮がないな。きっと作戦名はガンガン行こうぜ!になっているに違いない。
「俺、イン。よろしく」
「イン?」
「そ、俺の名前」
そこで言葉を切った銀髪イケメン改めインは、不意に黙り頷く。
「聞き覚えない?……そっか、じゃあ『幻影の暗殺者』の方があるかな」
「え?」
「それ俺ね」
「ファ!?」
にっこりと笑みを浮かべるインいや、インさんに私は驚きのあまり口をパクパクしてしまう。驚きすぎて言葉に出来ないってこういうことなんだね(遠い目)。
「もう一度聞こうか?」
インさんは、ゆっくりと立ち上がる。私は目の前の長身を見上げた。顔は影で見えないが声はあくまで愉快そうな響くを保っている。
「ね?ハナ。俺のところに来ない?」
ようやく見えた美貌の顔は微笑を浮かべていた。ただし、その銀色の瞳は凍てつく程に冷たい。断ったら殺されてしまいそうな迫力があった。冗談抜きで。
「……ハイ」
私は壊れた人形の如くガクガクと首を縦に振る以外出来なかった。
そんな私を見てインさんは、
「ハナ、かわいい。……たべちゃいたいくらい」
と恍惚の表情で呟いた。
……なんですと?
この世界のお父さん、お母さん。親不孝な私をお許しください。
とりあえず全力で生き延びます。ええ全力で。
私は立てられた死亡フラグを無視した。
ゆっくりと連載していきます




