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第九「病んだ愛って拒むのか?」

読む人によってはご不快に思われるかもしれません。ご注意です。

具体的に反道徳的な内容があります。まぁ、ぬるいかもしれませんが。

  だいきゅう――やんだあいってこばむのか?




 勇者を知っているだろうか?

 ご存知の通り、この世界にも存在するらしい。

 この世界の主な宗教の一つ、創造神教はこう謳っている。


“世界の危機たるその時、神は希望を異世界より連れたる”


 と。私が思うに、この異世界というのは私の前世の世界だったりするというのはどうだろうか。だってテンプレでしょう?








 私にとって衝撃的な逃走劇はインさんに私があっけなく捕まるという幕引きで終わった。その結果私のファーストキスの相手がインさんになった訳だけど。その時の事はあんまり思い出したくない。羞恥心で私が死ぬからだ。

 私が目覚めたら、インさんの度アップの綺麗な顔が目の前にあって心臓が止まるかと思った。

「ッ!? インさんッ?!」

「ん、やっと起きたね。ハナ」

 驚いて飛び上がる私の頭突きをインさんは体を起こして避けた。あまりに自然な動作に私は驚けばいいのか、感心をすればいいのか複雑だ。

 私はごくりと唾を飲み込み、インさんの顔を覗き込む。見上げたインさんの顔はいつも通りの無表情の怜悧な美貌だった。一片の隙すら見当たらない冷静な面立ちだった。やっぱりアレは夢だったのか、と私は思ってしまう。

「ねぇ、インさん」

「なに?」

「あの……さ。私、気絶?する前の記憶ってハッキリしないんだけど、インさん何かやったかな?」

「?…………ああ、あれね」

 もじもじとしりごみした私の問いにインさんは不思議そうな顔をした後納得したように頷いた。インさんの無表情に変化が見当たらない。こう、私的には顔を赤らめてもらいたい所なんだけど……。あ、でもあの私の脱走自体夢なのかもしれないしなぁ……。


「ハナ。……なんで逃げたの」


 私の儚い願いをインさんは冷たい声でぶち壊す。私の胃がきゅっと縮こまる思いである。

 だってインさんの威圧感が倍増していて、効果音にゴゴゴゴとつきそうな勢いなのだ。怖すぎて私がガタブル震えても仕方ないと思いたい。だって今は私十三歳ですよ!

 私がふざけた脳内会議をして沈黙しているとインさんがグッと顔を近づけた。


「はな……。俺、さっき言ったよね。“逃げられると思わない方がいいよ”って」


 インさんの吐息が感じられる程に近い。間近で見えるインさんの銀色の睫毛の長さ、透き通るような銀色の虹彩、白い滑らかな頬、肌、首筋。私は呆然としながら視線でそれらを辿っていく。

 綺麗だった。男の人に言う事じゃないけれど、インさんは素直に綺麗だと言える。見た目もそうだけど、その真っ直ぐな在り方もそう思わせるのかもしれない。私はそこまで考えてハッと我に返った。

 私は我に返って戻ってきた羞恥心であわあわしながら、ベットの上でじりじりと後退していく。インさんはそれにフッと笑った。

「かわいい、な。……俺、全部が欲しいんだ」

「ぜんぶ?」

 私の反芻した言葉にインさんは一つ頷いてから私の左手を握った。彼の右手で握られた左手は確かに温もりを感じさせた。

「そう、ハナの全て。その為なら俺、ハナに何あげたっていい。俺の魂も、体も、心も、ぜんぶハナにあげる」

 近いインさんの顔は、冗談を言っているように見えない。いつも冷たい色の銀の瞳は、今は確かに熱を孕んでいて、随分人間らしい輝きだった。そこにはいつもの無機質さは微塵もない。

 だからだろうか。私はインさんが随分近づいたような気がした。

 今ならこの人の何かが分かるようなそんな気持ちが私の中に降って湧いた。だから、空いている右手をインさんの頬に伸ばした。

 ピタリと触れた白い頬は滑らかで、ほんのり温かい。

「はな?」

「インさん……。どうしても私が必要なの?」

 不思議そうにこちらを見下ろすインさんに私は純粋な気持ちで問いかける。インさんならもっと凄い人でも手に入りそうなものなのに。どうして平凡な小娘代表な私なのか。

「うん。俺には、きっとハナが必要なんだ」

 迷いなくインさんははっきりと明言した。そのまま、インさんは頬に触れていた私の右手を自分の左手で包み込む。

「初めてハナを見た時、ハナの“黒”に惹かれて」

 インさんの真っ直ぐな銀の瞳が、

「攫ってから、ハナの寛容さに触れて」

 掠れ気味な低い声が、

「俺の暗殺者としての一面に触れても変わらない態度に安心して」

 両手に感じる温もりが、

「このまま、傍に居て欲しくなってしまって」

 全てがインさんの感情を私に訴えかけてくる。目を見開いた私にインさんは止めと言わんばかりに左手で包んでいた私の右手にキスを一つ落とした。

「ねぇ、ハナ?きっと明確な理由なんてないよ。全てが必要な要素で、俺が好きな理由なんだ」

 私の右手はまだインさんの唇の近くで、吐息が手の甲に感じる。熱い、と私はぼんやりと思う。真っ白になった私の頭は目の前の光景に目眩を起こしていた。

「ハナ……。なんか言って」

「へ?」

「俺の傍にいるって、一言でいい」

「お、おう……。えっと」

 インさんの色気に私は戸惑う。縋るように銀色の虹彩に見つめられると頷いてしまいそうになる。

「でも、インさん。私、帰らなきゃいけないよ」

 勇気を出せ私と自分を叱咤し、私はインさんを真っ直ぐに見つめた。言葉を一言紡ぐ度に喉に詰まる感覚がある。


「……ハナは分かっていない。言ったろ、俺はハナを手放すつもりはないって」


 はぁとため息を吐いて、インさんは私の手を離す。そして私の方に手を伸ばし、軽い抱擁をする。

「ハナ、諦めて。俺のそばに居て」

「インさん……」

 すがるように私の背に回った腕の力が強くなる。私の肩に顔をうずめて黙っているインさんの背は手が届かないので腰辺りをポンポンと軽く叩く。更にぎゅっと力が加わるのはやめてもらいたいものだが……。

「インさん。…………うん。わかった」

「!」

「ただし!」

 私の渋々の了承の言葉にインさんは目を輝かせた。私はすかさず待ったをかける。

「ただし、せめて両親に話をさせて下さい」

「!?」

 私の言葉にインさんは眉を下げる。息をのんだインさんの唇が僅かに震える。

「ちゃんと、話さないといけないんですよ。私の大切な二人なんです。私をここまで育ててくれた、愛情をくれた両親にこれ以上心配をかけたくないんです。ねぇ?インさん。分かってください」

「はな……。じゃあ約束、して」

「?」

 インさんの掠れた囁きに私は首を傾げる。

「俺の傍にいて。ずっと」

「はは……。なんだかプロポーズみたいですね」

 いや、愛が重いなーと茶化すような私の言葉にインさんはぎゅっと抱きしめる力を強める。まるで二人の隙間を許すまいとするインさんの腕は言葉よりも雄弁に私に訴えかけてきた。インさんの温もりに、早い彼の鼓動に私の顔が熱くなる。

「……みたい、じゃない」

 ぽつりと落とされる呟きは私の耳にするりと入りこむ。

「ハナコ・スミス。アンタに求婚しているんだ」

 いつの間にか私の顎にインさんの右手が添えられる。彼の右手の軽い力でくいっと私の顎は上に向かされ、その秀麗な顔を見上げさせられる。

 インさんの顔はほんのり赤く染まっていて、淡い微笑みがその顔に浮かぶ。

 初めて、そんなインさんの顔を見た。愛おしそうな、慈しみの表情。

 私の顔はこれ以上ないくらいに熱くて、頭の中が沸騰しそうだった。

「まぁ、偽りの名前しか持たない俺が何言ってるんだって感じだけど。でも、いつか。本当の名前が見つかったら、その時は」

 そこで言葉を切ったインさんは私の唇を右手の親指でなぞる。


「俺に誓わせて。永遠の愛ってヤツを」


 こちらを真っ直ぐに見つめる銀色の瞳は確かに熱が灯っていた。

 私は顔を赤くして、頷くしか出来ない。











 懐かしの我が家を見上げて私は乾いた笑みを浮かべた。赤い屋根と白い壁の二階建ての家は記憶にある中となんら変わりなくあった。もしかしたら、今までが夢だったのではと思える私の“日常”の象徴。でも私の胸中に浮かぶのは懐かしさと苦さに似た感情だ。

 バンッと乱暴に開け放たれるドア。そこからもつれる様に転がり出たのは金髪と黒髪の二人の男女。私の両親だ。焦燥を浮かべた二人の顔は紛れもない親の顔で、私は増々苦しさを感じる。

「ハナコッ!!」

「ああっ!無事だったのね、良かった!! ほんとに、よかったぁ」

「お父さん、お母さん」

 母がぎゅうっと私の身体を抱きしめる。母の後ろの父も涙目で私の頭を撫でた。二人とも目元に浅黒いくまがくっきり浮かび、少しやつれた様子だった。私はそれに胸が痛くなる。

 涙が浮かびそうになる目に力を入れ、私は詰まりそうになる喉を震わせた。

「ごめんなさい」

「えっ?!」

「な、なにを言っているんだい?ハナコ」

「私ね、今日お別れを言いに来たんだ」

 いろんなものをかき集めて必死に浮かべた私の笑顔に、言葉に両親は固まった。その顔に浮かぶのは困惑と驚愕、ほんの少しの恐怖。私は両親の顔を見て、身勝手ながら身を裂かれるような痛みを覚えた。

「親不孝で、ごめんなさい。私の事はどうか、“忘れて”幸せになってね」

「ッ!!」

 息を呑む二人に私は笑顔のままに口を開く。

「は、ハナコ……ッ!」

 両親は頭を抱えて蹲る。頭痛があるのだろう、両親は痛みに呻いた。

「さよなら、元気でね」

 別れを言った途端に私の目の前がかすむ。


 少しの浮遊感の後、後ろから抱きしめられる。横から見えた銀色の髪がその人を私に分からせる。

 インさんの魔法は結構多彩だ。この人はどこまで謎が増えれば気が済むのだろうか。私は喪失感でぼんやりとした頭で考える。



 インさんの魔法で、両親から“私”の記憶を消したのだ。その後、瞬間移動の魔法でインさんの腕の中に私を移動させたのだ。



 あのインさんのプロポーズには続きがあった。

「俺の全部をあげる。ねぇ、ハナ。……こんな事を言ったら拒むかな」

 銀色の瞳はどこまでも透明だった。

「俺の全部をあげるから、ハナの大切なモノを捨ててほしいんだ」

 拒まれるなんて欠片も思っていない声だった。静かな、けれど譲らない強さの言葉は、私に頷かせるだけの力があったのだ。けれどその反面拒絶したら、インさんが壊れてしまいそうなそんな不安定さも含んでいた。


 だから私は頷いたのだ。




 と、目の前が暗くなる。少しひんやりとした体温でインさんの掌だと知る。後ろから聞こえるインさんの静かな息遣いが私を少し安心させる。一人じゃないと思わせてくれる。

「はな……」

「インさん?」

 後ろから聞こえたのは弱弱しいインさんの掠れた囁きだ。驚いた私は後ろを振り向こうとする。けれどそれは目元を覆うインさんの掌に阻まれる。後ろをむくなと言わんばかりにインさんは私の項に額を擦りつけた。

「はな」

「はな……。ごめん、でも」

 懇願するようなインさんの囁きに私の鼓動は否応なしに高まる。まるで、私が必要だと言われているみたいで。それ程、インさんの声には切ない熱が込められていた。

「インさん。大丈夫ですよ。大丈夫です」

 インさんの抱きしめてくる腕を私は優しくポンポンと叩く。

「約束したでしょう。インさんの望む限り、私は傍にいます。ね?」

「……ん。じゃあ、ずっとだ。俺といっしょ」

 うっとりとしたインさんの声に私は本気を悟った。ああ、これで両親には会えない。と。


「ばいばい」


 ぽつりとこぼれた私の声は届いたのだろうか?後ろから回る腕の力がぐっと強まった。










 ここは英知の廃墟。栄華の残りかす。かつては魔導技術が張り巡らされ、大都市を築いていた広大な土地は、もはや地上の建物を残さず、残るのは地下に眠っていた古代地下都市。かつての街並みを想像するのさえ困難な荒地を男は歩いていた。

 男は割れたモノクルを右目にかけ、それの縁を指で辿る。

「ああっ!ついに完成したぞッ!我が友よ、この空から見えるか!! 我らが悲願を、英知を、禁忌を、そして復讐を。今この時果たされる」

 恍惚とした表情で高らかに声を上げる。

「あはっ。ハハハハハハアハハハハッ!!!!」

 その瞳には正気が失われ、代わりに妖しい光が灯る。右目は赤、左目は青と奇妙なオッドアイだ。

「日神。我が友よ。我が希望よ。何故お前が死んで、あの実験体が生き残ったのか」

 男はそのまま、足を進める。研究は終わった。男の親友が残してくれたデータを元に行った研究。


 男は目を細めた。そのまま、過去を回想する。

 ここはクレリア帝国だった。魔導国家クレリアの名の通り、魔法の力を最大限に活かし、技術を飛躍的に発展した国。かつて親友が言っていた。ここは、もしかしたら前の世界よりも発展しているかも、と。

 親友の名は日神ひかみ よう。クレリア帝国が古代遺跡から発掘した遺跡から発見された“勇者召喚”の技術から召喚された少年だった。それから四年。実験の毎日だったが、それらが実を結び、最高傑作が出来た。親友たる彼にも、この男にとっても。それから転落が始まったのは皮肉だ。

 クレリア帝国公爵ハーデス・V・バートルトン。クレリア魔導研究所所長。それがこの男の昔の肩書きだ。

「さぁ、日神。我が友よ。その空から見守ってくれ。この復讐を」

 ハーデスは冷酷な笑みを浮かべた。かつては温和な理知的な男だった筈の化けの皮が剥がれた姿だった。

「実験体。あの家畜共の始末をしていこう」

 実験体、それはクレリア国外からさらってきた哀れな被験者。つまりは人間だった者たち、彼らはもはや人間とは言えない人外へとなっている。

 ハーデスの身体はふわりと空気に溶けるように掻き消えた。

 彼もまた研究によって人外になった者だ。







インさんの歪みが……。せ、せーふ……?

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