まどろみの中で
1話「まどろみの中で」
「ん・・・ここは?」目を覚ますとそこは見覚えのある校舎の前だった。
「おかしいな・・・さっきまで部屋で寝ていたはずなんだけど・・・」まぁ、現実的に考えてこの状況が夢でないわけがないことから僕は「ああ、夢か」と自覚した。
一応腕をつねったり頬を叩いてみたり試行錯誤してみたがなぜか痛みを感じるようだ。痛みを感じる夢なんて見たことはないがこれが初体験ということで納得しよう。
そして、もうひとつ試せることがある。夢の中ならば僕の思い描いた通りのことが起こる可能性だってある。
思い立ったが吉日。僕はその場で足を肩幅に開き腕を前にかざし、全神経を手のひらに集中させて何かを打ち出すようなイメージをした。
・・・。しかし何かが起こることはなかった。んー夢というのはよくわからない部分もあるなぁ。そう思いつつ僕はまだ覚めない夢の中で暇をするくらいなら何か面白いことをしてやろうと考えた。普段朝の会の時に使用される“日直日誌”の中身を全部抜きとって世界史の有名人がたくさん載っているページの顔にラクガキしたものを挟めておいた。
すべてにラクガキするのはなかなかの重労働だった。だがなかなか楽しかった。
最後に抜き取った学級日誌をラクガキページの裏に挟んだのを最後に僕の意識はいつの間にか闇へ落ちて行った。
翌朝、僕はいつも通り準備を済ませ朝食を食べて玄関を出た。僕が学校に到着して真っ先に思い出したことは昨日の夢だ。それも鮮明に覚えている。夢を鮮明に覚えているということはかなり珍しいと僕は思っている。僕は教室に入るなり“日直日誌”を手に取りまさか夢でやったことがここに起きてるわけないよな。ハハ。なんて考えで日直日誌を開いた。
僕は驚きのあまり声が出なかった。そこには間違いなく昨日夢で僕がしたラクガキされた顔の有名人たちのページが挟まっていた。その後ろをめくるとその後ろにセットされた学級日誌があった。僕はあわてて上のページを破りポケットにつっこんだ。
僕は何が起きたのか理解できないままでいた。落ち着くために一時間目はサボって屋上で考えてみることにした。
僕は屋上にきて先ほどやぶり持ってきたページを眺めていた。どうしてこんなことが起きたのか?僕のほかに同じことを考えているやつがいた・・・?ありえなくはない。だけどこのタイミングで・・・?ありえない・・・。
物思いにふけっていると後ろの屋上のドアのガチャリという開く音が聞こえた。俺みたいに一時間目をサボりにきたやつだろうと特に目もくれずそのページを集中して見ていた僕は突如後ろからかけられた声に驚き、座ったまま少し飛び上がってしまった。
「ねぇ、キミって結城 真くんだよね?」後ろを振り向くと清楚さを感じさせる長い髪を風に揺らしながら少しかがんで座った僕に話しかけてくる美少女がいた。
彼女は1-Bの「四ノ宮 栞」だ。成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群の完璧超人と名高い彼女が僕の目の前にいたのだ。それも一時間目に授業をサボってまで。
「あの、僕に何かようですか?」少し驚いたが僕は冷静に返答した。
彼女は「あなた、わかっているの?」と僕に少し厳しい表情で問いかける。
「何がですか?今が授業中だということならあなたも同罪だしそもそもクラスも違うあなたには関係のないことだ。」澄ました顔で彼女の顔を見ずにそういう僕に彼女はあきれたような溜息をついた。
「はぁ・・・あなたね、私はそういうことを言ってるんじゃないの!その手に持ってるソレよ!ソ・レ・!あなた、それどこでやったの?」
教科書を粗末に扱ったことについて怒っているのか?見た目はいいがうるさい女だと思いつつ僕は答える。
「昨日家でやったよ。暇だったから遊んだだけさ。」
僕がそういうと彼女はさらに深いため息をついた。
「あなた・・・本当に気付いてないのね・・・」まったくほんとうにもうといった感じで彼女は真剣な顔つきで僕にこう言った。
「ここは夢幻よ。結城くん。」