貝合せ
こんにちは
さて、今回はお爺さんが出てきます
悲しいお話です
爺さんが死んだと連絡が来たのが一昨日で、仕事を終わらせて有給を使いここに来たのが昨日の真夜中。そして今日、爺さんが使っていた部屋を掃除している
爺さんは昔から口数が少なくて子どもだった俺は爺さんがお化けや妖怪の類いなのではと本気で疑ったこともあった。爺さんはそれが分かっていたようで、たまに悪戯をしてよく泣かされた。中学に入ると流石にそんな考えにはならなくて、少し高く広くなった視点で見ると爺さんがどれだけ不思議で優しい人物だったのかがよく分かった
俺の部屋の周りに防犯グッズをこっそり付けていたり、俺の物が奪われたり壊されたりしたら何時の間にか机の上に置き手紙と共に置いてあって、気をつけろとだけ書いてあるのだ。そして奪った犯人は俺の顔を見て逃げる、爺さんが何か制裁的なのをしたんだと思う。爺さんは無口で何を考えてるか全く分からないけれど、ただ家族の事を第一に考えてくれていたとても恰好いい人で俺の自慢の爺さんだったのだ
俺が無事に就職した時は爺さんは泣いて喜んだと聞いた、俺はその時外に出掛けていたから見れなかったけれど家に帰った時爺さんの目が真っ赤になっていたのを見てニヤけて叩かれたのはいい思い出だ
そんな爺さんが死んだと聞いて最初は信じられなくて爺さんがなかなか家に帰らない俺に早く帰ってこいと言ってるんだと思った。でも母さんの声が、態度がその事を否定したのだ。家に帰ってきて爺さんの顔を見たけれど、いつも通りの寝顔でこのまま起き上がってあの意地悪い笑顔を見せてくれるんじゃないかなと思ったほどだ。でも起き上がってきてくれなくて、顔は紙みたいに真っ白で。爺さんの頬に手を当てると血が通っていないから温かくなくて、リアルな人形の様だと思った
実はまだ俺は爺さんが死んだなんて信じていない、いや信じることが出来ない。だってついこの間電話で話したんだ、そして今度帰ったら渡したい物があるから早く帰ってこいと言われたんだ。爺さんの手から渡して欲しかったんだ。物思いに耽りながら荷物を整理していると俺の手のひらに丁度納まる大きめの袋が出てきた、長い間ここに住んでいたけれどこんな袋見たことがない。その側に置いてあった紙には俺の名前が書いてあった
慌ててその紙を手に取ると裏側にその袋は俺に渡す事と、絶対に捨てないでくれという事が書いてあった。中に何が入っているかは書いてなかったけれどそんなに色褪せていないということはつい最近書かれた物だと思う。爺さんが電話で言っていたのはこれだろうなと思いながら手に取った
袋は良く分からない模様が刺繍されていて袋口を縛っている紐には金色の糸が数本混じっていて高級そうな物だ。そっと紐を引くとキツく縛られていなかったからかするすると抜けて口が開いた。中には二枚貝の貝殻がたくさん入っていた。それぞれに色や絵が付けられていた。そして思い出した、そうだ。これは昔、ぼんやりと覚えている程度だからかなり小さい頃に見つけて、とても綺麗で爺さんにお願いしたのだ。いつか俺に一つでもいいからくれと
爺さんは覚えていたのか、あんな小さい頃の言葉を。実際俺は忘れていた、だから爺さんが覚えていてこれを俺に譲ってくれたのがとても嬉しく思えて、そしてとうとう、爺さんがもう居ないという現実が襲ってきた。袋を下に置いて溢れ出てきた涙を拭かずに泣いた、声は出さないように気をつけながら
泣いていると爺さんが困り顔で、でもあんまり顔のパーツは動いていなくて、やっぱり困った声で何があったとか聞きに来てくれるのを俺は泣きながら待った。ずっと、ずっと泣き続けていても爺さんは来てくれなくて、涙は止まらなかった
閲覧ありがとうございます
書いてて悲しくなりました、今は元気な祖父が最近どこか元気が無いように思えてそんな事を考えながら書いてみました
そろそろ明るい話も書かないと…私のメンタルが…