少女が夢見た世界
フランとこいしが狂気果実のもとへ転移されていた時、すでに幻想郷には異変が起きていた。
空は雷雲に覆われ、大地は所々崩壊を起こしていた。
雨は降っていないにもかかわらず川の流れは早まり、山は姿を変えていった。
天変地異……今の状況を一言で表すのならそれが思い付く。
とある村
「地面が崩れるぞ!!急いで逃げろー!!」
そこで、大きな地割れが起きていた。
そこからどんどん地面が崩れていく。
「う、うわぁあぁああ!!助けて!!お母さん!」
一人の子供が、転けてしまった。
「由美香!」
由美香と呼ばれた少女は、転けた際に足を怪我してしまいすぐには動けなかった。
地面はもう、由美香のすぐ近くまで崩れてしまっていた。
「由美香ー!」
由美香の母親が助けに行こうと走り出す。
とんっ
「…え?」
何者かに肩を叩かれ、母親は思わず立ち止まった。
ビュンッ!
「うわぁあぁああ!!」
由美香が落ちていきそうになった瞬間、何者かが由美香を抱きかかえて助けた。
「ふぅっ…大丈夫だった?」
それは、並行世界のこいしだった。
「はい、お母さん」
こいしが母親の前まで飛んでいき、ゆっくりと由美香を降ろした。
「ありがとうございます…!おかげで助かりました!」
「いえ、いいんです。早く逃げてください!まだ崩壊は治っていませんから!」
「助けてくれてありがとう!綺麗なお姉ちゃん!」
「…!うん、気を付けてね?」
「うん!」
並行こいしは本来、このような優しい性格である。
ヒロトという存在があったから非情になっていただけで、本来はこういう性格だ。
「村の皆さん、急いでください!」
並行こいしは村の人々を助けて回っていた。
「はあぁっ…!」
並行こいしが、何かの結界を張った。
「これでしばらくは地面の崩壊が止まる…!みなさん!紅魔館という館はご存知ですよね!?そこへ向かってください!あそこなら安全です!」
並行こいしが、大声でそう叫んだ。
「一気に紅魔館へ移動できるところがあります!私の仲間が案内してくれるので、それについて行ってください!」
こいしが指差す方には、咲夜と美鈴がいた。
「みなさーん!私達についてきてください!」
「できる限り私物は少なめにお願い致します!この魔法陣…円の中にお入りください!」
こいしが、紅魔館内にいる並行世界の魔理沙に連絡を取る。
「そっち、今どれくらい人いる?」
『ざっくり言うと村二十個分は来てる。紅魔館じゃなかったら収まりきらなかったかもな』
「そっか……他にまだ村はある?」
『いや、そこで最後だ。他の連中はもうこの世界のレミリアや私らの方の正邪、ぬえが協力してくれたおかげでみんなここに避難してる』
「意外と村の数が少ないんだね」
『まあほとんど街みたいなもんだからな……色んな村がまとまってたんだろう。人里も村に入れてるならそれなりの数はあったしな』
「そっか。まあでもみんな避難が完了したのならよかった。それじゃあ私達も作戦に……」
『いや、ちょっと待て……咲夜と美鈴も連れて一旦紅魔館に戻れ。もしもって事もある。紅魔館の守りのメンバーも考えなきゃな』
「了解!」
連絡を切った。
「咲夜さん!美鈴さん!どうやら村はここが最後みたいです!一旦紅魔館に戻りましょう!」
「了解よ!」
「はーい!」
その時だった。
バキィッ!!
「!?」
空に浮かぶ紅い月を背景に、空間に亀裂が入る。
その亀裂が入った場所に、雷雲が渦潮の様に逆巻く。
「…な、何よ、あれは」
「…い、一体何が出てくるんですか…?」
「…あれが、フランの言ってた……
破壊神と化した……別世界のフラン…!」
バリィンッ
「……」
亀裂が大きな空間の穴に変わり、その中からフランが出てくる。
「…い、妹様…!!」
「フラン様っ…!?」
「落ち着いて二人共!今私達があの別世界のフランに挑んでもやられるだけ!
−でも、何だあの魔力…いくら何でもヤバすぎる!
…正直、フランでも勝てるかどうか…!
「とにかく今は紅魔館に急いで戻るんだ!」
「え、ええ」
「わかりました!」
「幻想は幻想。決して存在する事の無い架空の存在。私達は何が故に生まれ、何を欲し生きている…?」
フランが崩れゆく幻想郷の見て言った。
「所詮夢想は夢想…叶う筈の無い儚き想い……決して叶わぬ悲しい夢」
「想いも願いも全ては虚…この世界は残酷なんだ」
「そんな世界に…足掻いてまで生きる意味は無い」
「……そう、思ってたんだけどね」
フランは、並行こいしを見つめた。
「来てくれたんだね……世界を越えて」
フランが博麗神社の方へ飛んでいく。
「みんなでこいしを助けてあげて。私は私のやるべき事をする」
フランは、意識を操られてなどいなかった。
ヒロトを油断させる為にわざと命令に従っていた。
「もうあの時のように……誰かを失うのは御免だ」
狂気果実に飲み込まれていた時、フランはこいしとレミリアが自分を殺してくるという幻覚を見せられていた。
全身に触手が突き刺さり、幻覚の強さは今までに無いほどの強さになっていた。
しかし、フランはその幻覚をものともしなかった。
二人を心の底から信じていたからだ。
「自分があの二人を殺すってなると……精神、ちょっと危なかったかもね」
フランはこいしが自分を助けに来る事を知っていた。
だから、演技をする事にした。
−私は暴走していて、こいしに助けられる……そうすれば、こいしはきっと自信を取り戻す。
「……」
「なーんだ、そういう事だったのか」
「うひゃあ!?」ビクッ
いつの間にかフランの後ろにこいしが居た。
「よかったよフラン。私てっきり、意識を蝕まれてるのかと思って心配したんだから」
「こ、こいし!いつの間に…」
「私にも破壊の力があるせいか、無意識能力が通用するみたいだね。…でも久しぶりに見たよ、あんなに可愛く驚くほどフラン…ふふっ」
「わ、忘れて…!一応私今は破壊神なんだから威厳ってもんが……」
「お?私破壊神の弱み一つ握っちゃったわけだ。私が破壊神の威厳をいつでも壊せるようになっちゃったね」
「はっ!!」
「あははは!…よかった、いつものフランだ」
「…!」
こいしの目尻に涙が浮かぶ。
「あ、あれっ…泣くつもりはなかった、のになぁ…」
「…心配かけて、ごめんね」
「ち、違う!フランは何も悪くない!悪いのは私だよ!…いつも助けられてばっかりなのに……いざという時は助けられない…!私が弱いのが全部全部わるっ…!」
フランが、そこでこいしの口を抑える。
「誰にだって出来る事と出来ない事がある……だから、私を助けられなかった事は悔やまないで。それに…おかげでこんな力も手に入っちゃったし」
「…それでも…あんなに怖がってたフランを…私は…」
「あ、あれは…その、なんだ。あれだよ、あのー…うん、そう!あれ!」
「あれってなんぞ!?」
「いやーあれはあれだよ。あの、場を盛り上げるための何たらって奴?」
「雰囲気で怖がってたの!?」
「そうそれだ!雰囲気!」
−いや、マジで怖かったんだけどね?こいしに悲しんで欲しくないし……。
「……心は正直だよ」
「……読まんといて」
「…ぷっ…ふふふっ」
こいしが笑う。
「…ふふっ」
フランもつられて笑う。
「よし…行こっかフラン!みんなのところ」
「…うん。けど、ちょっと待って」
「え?」
「私は後で行くからさ……こいしは先に行っててくれる?」
「…何をするつもり?」
「まあ、色々と。別に危険じゃないから心配しないで」
「…わかった。それじゃあ、先に行ってるよ。…また、後でね?絶対だよ?」
「うん」
「…それじゃあ、ね」
こいしはとても心配そうに行こうとする。
「…こいし!」
「!」
「この戦いが終わったら、また遊ぼうね!」
「!…うん!」
こいしが笑顔で去っていった。
「……」
こいしが去っていったのを確認すると、フランは真剣な顔つきになる。
「まずは……紫の開放」
フランが凄まじいスピードで飛んでいく。
−この世界は、私に生きる事の喜びを教えてくれた。
こいしという、掛け替えのない存在に出逢わせてくれた。
私に居場所を与えてくれた。
私を受け入れてくれる、たくさんの優しい友達や仲間をくれた。
お姉様が……みんなが愛するこの”幻想郷”という理想郷。
私のかつての夢がやっと叶ったんだ。
「この世界は必ず守ってみせる……絶対に壊させたりなんかしない…!」
「…おかしいな、須佐能乎が別の方向へ飛んでいったぞ」
「?どういう事です?」
「そのままの意味だ……須佐能乎が博麗神社から遠ざかっている」
「……何かありましたかねぇ、全く使えない……やっぱりゴミはゴミですか」
ドオォーーンッ
その時、ラインの頭上に並行フランが現れる。
「!?」
ブンッ
並行フランが、レーヴァテインを振るう。
「カカッとね!」
ラインはバックステップでそれを躱す。
並行フランは、ラインとシリウスに挟まれる形で地面に着地した。
「おやおや!ここで貴女のご登場ですか!あの世界で私に操られ、大切な友達を傷付けてしまうような弱い精神のてめえがこの俺様達に勝てるかなぁ!?ヒヒヒッ!」
ヒロトが本性を現す。帽子を取り、髪の毛が逆立つ。
「誰も私一人だなんて言ってないけどね」
「…?」
ドオォーーンッ
「一斉攻撃!!」
フランが時間停止でヒロトの背後に移動し、時間停止をヒロトの足元の一定範囲にだけ発動させた。
「あぁん!?」
動けない事に気付き、焦りの表情を見せるヒロト。
その時、周りから一斉にレミリア、魔理沙、ぬえ、並行世界のぬえ、正邪、妹紅、霊夢、早苗が飛び出す。
「スカーレットシュート!!」
「マスタースパーク!!」
「「恐怖の七色UFO襲来!!」」
他の四人は、シリウスの方へ降り立った。
「ほう…フランドールの時間停止はそんな風にも使えるのか。便利だな」
「お!?おぉい待て!てっ…てめえフランドール!!俺に何しやがったぁ!!うっ…動けねえ!!おぉ、ぉおいシリウス!!助けやがれぇぇ!!」
「仕方あるまい…」
シリウスが指を鳴らすと、ヒロトが転移した。
転移した場所は、並行ぬえの真後ろだった。
「でかした…!」
「!?」
ヒロトの存在に気付くのが遅れた。
ヒロトが並行ぬえに攻撃する。
「飛鎌揬!!」
ヒロトが右足で回し蹴りを繰り出す。
足には青色のオーラが纏われていた。
「ぐっ…!」
ガッ
並行ぬえは両腕を盾にして防ぐ。
ドガァッ
しかし、そのまま蹴りおとされてしまう。
「ぎゃあっ!」
「ぬえ!」
正邪がぬえの方を見た。
「余所見をするとはいい度胸だな」
「えっ…」
ドッ
正邪の心臓部を細いレーザーが貫いた。
「かっ…」
「正邪!?」
妹紅はそのレーザーのあまりの速さに驚き、正邪の身に何が起きたのかまだ理解していなかった。
正邪がバランスを崩し、倒れ込みそうになったのを妹紅が支える。
「し、しっかりしろ!大丈夫か!?おい!正邪!」
「ぐっ…!」
「ぐがっ…あぁっ…!」
「てめえはさっさと死んじまいな…!」
並行ぬえを足で踏みつけているヒロト。
レミリアと魔理沙は、謎の結界に阻まれ援護が出来なかった。
「何よこの結界…!!固すぎじゃない!?」
「くそっ…!ぬえ!!」
「私ー!しっかりしろ!!」
「ぐっ…!」(や、やばい…!)
「死ねぇ…!!」
ヒロトがポケットかれナイフを取り出す。
「さて、そいつにとどめを刺すとしよう」パチンッ
シリウスが指を鳴らすと、正邪がシリウスのところにまで転移した。
「なっ!?」
シリウスが正邪の首を掴み、持ち上げる。
「がっ…あがっ…ぁぁ……」
「まずは一人目だ」コオオオ…
シリウスの右手の人差し指が輝きだした。
そして、黄色い小さな光球ができる。
「やめろぉ!!」
霊夢がそれを止めようとするが……。
「邪魔だぞ。お前達はこいつの後だ」
ドドドドドンッ!!
「うわぁあ!!」
その指を地面に向けて払うと、地面に爆発が起きた。
その際に、謎の結界が張られる。
「さて…これで邪魔者はいなくなったな」
「ぐっ…く……!」(こ、このままじゃ……!)
心臓部を撃ち抜かれてしまったため、正邪は体に力が入らなかった。
「正邪さん!!何とかならないんですか!?」
「おい!!正邪!!」
「やめてぇぇー!!」
次の瞬間。
ドオォーーンッ
バリーンッ
ドゴォッ
「ぐおぉあぁッ!!」
結界が壊されると同時にヒロトが吹き飛ばされた。
「…あれ?」
並行ぬえの傷が治っていた。
バリーンッ
ガッ
「…!?」
「楽しそうだね」
シリウスの右腕を、並行フランが左手で掴んでいた。
ググッ
「…っ…!」
掴んでいた左手に力を込める。
その際にシリウスが少し怯んだ。
バキィッ
そのまま、右腕をへし折った。
「…ちっ…」
「シッ!」
ドガァッ!!
並行フランが左足で回し蹴りを繰り出す。
シリウスはそれを左手で防いだ。
ズザザザァ…
シリウスはその衝撃で後ろに大きく後退する。
「……なかなかやるな」(やはり…こいつは別格か)
「大丈夫?正邪。今治してあげるよ」
「フ、フラン…」
治癒魔法を正邪にかける並行フラン。
ドゴォンッ
瓦礫を吹き飛ばして、ヒロトが飛び上がった。
ダンッ!!
「ちぃ!!あのアマァ…!!」
ヒロトがシリウスの隣に着地した。
「やはりこいつだけは別格だな……気を付けろ、ヒロト」
「ああ、わかってんよ……その腕、治るわけ?邪魔だから下がっててもいいぞ。俺様の足引っ張んなよ」
「心配するな。治る」
バキィッ
シリウスが無理矢理骨を元の形に戻し、治癒魔法を掛けて骨を修復した。
「治ったよ正邪。…さて、それじゃあ…みんな!力を合わせて行くよ!」
「「おお!!」」
「おい、ヒロト。お前も本気を出せ。舐めてかかっていればこちらが殺られる可能性もある」
「んなもんわかってるっつの!…仕方ねえなぁ…!!」
ドォォォォォッ
ヒロトから凄まじい量の魔力が発生した。
「おいシリウス!!てめえも本気でやれよ!?」
「わかっている。まあ、もう少し待て」
「みんな、気を付けてね」
「ああ、わかってる!」
今ここに、幻想郷を掛けた壮絶な戦いの幕が切って下される。
To be continue…




