大切な友達
博麗神社の近くの森にて……。
「…これ…」
「どうしたんだ?早く行かないとまずいんだろう」
「…うん、わかってる」
何者か達が、森の中を歩いていた。
一人の金髪の少女が、こいしの帽子を見つけ、拾った。
「もうレミリア達も作戦に取り掛かってる。急いでこいしを連れてくるんだ」
「私達はここで待ってる。早く行ってあげてよ」
「…ええ。すぐに戻ってくるよ」
次の瞬間、金髪の少女が消え、そのかわりに何かの瓦礫がその場に現れた。
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「……フラ……ン……?」
フランの変わり果てた姿を見て、こいしは唖然としていた。
背中の羽は、七色に輝く翼となっていた。
髪の毛は全体的に伸び、少し鋭利になっている。
フランがいつもいつも大事にしていた帽子が、すこしボロボロになっていた。
「……」
座っていたフランが立ち上がる。
眼球は赤く、周りは真っ黒という、こいしがグランの力を借りた時の目によく似ていた。
フランは、辺りを見回している。
「おい須佐能乎!!今すぐ博麗大結界の破壊をしてこい!!」
「…了解」
ヒロトの命令に反発する事なく従うフラン。
「…!?フラン!!どうしちゃったの!?」
「おぉいおい、俺様の話聞いてなかったの〜?須佐能乎を手に入れたって堂々と俺様が言ったじゃねえかよ!須佐能乎ってのはそこにいる化け物の事だよ!!」
「フランを化け物呼ばわりするな!!」
「化け物なんだよォ!!その実に入って進化しちまったからには、俺達とは次元が違うんだ!!こいつはれっきとした化け物だよ!!おい須佐能乎!!博麗大結界の破壊は後だ!!こいつの相手をしてやんな!!」
「…了解」
フランがこいしにゆっくりと歩み寄っていく。
「……フラン…!」
−私が助けられなかったから…こんな…!!
「…ごめん、フラン……本当にごめん…!」
「……」
フランは表情を変える事なく、じっとこいしを見つめていた。
「……」
「うぅっ……うっ…」
こいしは、泣いていた。自分が不甲斐なくて不甲斐なくて仕方がなかった。
「たった一人の大事な親友も助けられない……!やっぱり私は……ただの役立たずなんだ…!」
「……」
フランは、そんなこいしを見て少しだけ表情を変えた。
その表情は、とても穏やかだった。
「…え…」
「残念ながらそいつは意識が無いんだ……つまり、どんなに言葉を投げかけようと意味は無い!!俺様の命令には逆らえないんだよ!!」
「…え!?」
−今のフランに、意識がない…!?嘘だ……今、どう見たって…!
「……え?」
こいしは、フランが横を通り過ぎた事に気付かなかった。
その時、何かが覆いかぶさってくるような重圧がこいしを襲った。
「…はぁっ…!!はぁっ…!!」
フランのあまりにも強大な魔力に、こいしは耐えられなかったのだ。
−何……これ……体に…力が……入ら……
「ヒャーハッハァ!無様だな!!それがてめえと化け物の力の差ってわけだな!!」
「フランを…化け物呼ばわりするな……!!」
その時、フランがこいしの方を見た。
「…!!ど、どうしたの…?フラン……」
「意識はねえっつったろてめえはアホかァ!!」
「……こいし」
「…あぁ…!?なん、だと…!?」
フランが、こいしの名を呼んだ。
「フラン…!!やっぱり、意識があるんだね…!?」
「……」
しかし、その一言だけで後は何も喋らなかった。
「……!」
−何かに意識を縛られてる…?それとも……
「…驚かせやがって…!おい須佐能乎!もういい!博麗大結界の破壊をしてこい!!」
「…了解」
フランがそのまま歩いていく。その時フランが一瞬、こいしの後方に目を向けたのをこいしは見逃さなかった。
「…?」
バリィッ!!
「…!?」
−あれって……空間を破壊して異空間を使って移動していたのか…!
フランが空を切り裂き、その亀裂何中にフランが入っていく。
その時……。
ブウゥンッ
「!?」
こいしに魔法陣が展開される。
転移魔法である。
−フランの分身はまだ正気を保っているの…!?
「逃がすかァ!!」
ヒロトが看尾蛇を伸ばす。
「くっ…!」
こいしはそれを防ごうとするも、ウロボロスが速く、間に合わない距離だった。
やられた…そう思いこいしは、目を閉じた。
しかし……
ドオォーーンッ
ガキィンッ!
「…!?」
ウロボロスが弾かれる。
「……てめぇはッ…!?」
「……嘘……!」
こいしが目にしたのは、七色の宝石が付いたような奇妙な羽を持つ、”右側”の髪の毛が少し長い、金髪の少女だった。
「フ……フラン!?」
並行世界のフランが、こいしの前に立っていた。
「何でてめえがッ…!!」
「~~~…」
並行フランが何かの呪文を唱える。
唱え終わると、並行フランが左手の親指と人差し指と中指を立て、時計回りに手首を捻り、こう言った。
「”Shambles”」
並行フランがそう言った瞬間、こいしと並行フランのいた場所に丸太が現れ、並行フラン達が消える。
「あぁん!?今のは転移魔法じゃねえ…!!転換魔法か!!マーキング無しで使える代わり、何か物と入れ替える必要がある…!」
ヒロトが、舌打ちをしてシリウスに連絡を取った。
「おいシリウス!!見てたろ!?」
『ああ、まさか並行世界の奴が来るとはな……面白い』
「空間隔離を解除するタイミングも悪すぎたな……今回は俺らの負けだ。…だがまあ、計画に支障はねえよ……くくくくっ…須佐能乎は無事、手に入ったしな」
『ああ……着々と滅びに進んでいるよ』
「もうそろそろだよなぁ…須佐能乎が博麗神社に辿り着くのは……」
『ああ、あと数百メートルで着く』
「よぉ〜しいいぞ…!!さあ、博麗大結界をぶち壊せぇ!!ヒヒヒヒッ」
『お前も早く来い。いいものが見られるぞ』
「ああ………悪いんですがシリウスさん?転移魔法を頼めないでしょうか」
『突然ラインに戻るんだな……了解した、すぐに行う』
「助かります」
ブウゥンッ
「わっ!」どさっ
「ふうっ」ザッ
こいしと並行フランがとある森の中に出現した。
「こ、ここは…」
博麗神社の社が見える。
どうやら、博麗神社のすぐ隣のようだ。
「無事でよかったよ、こいし」
「あ、ありがとうフラン。どうしてここに…?」
「私の能力!」
並行フランが笑顔で言う。
「…何か、安心するよ……貴女の…フランの笑顔を見ると……」
「……この世界の私は、私がいる事に気付いてたんだ」
「…え」
こいしは、フランが一瞬こいしの背後に目をやったのを思い出した。
「今のこの世界の私は、意識を操られてるはず。なのに、何でヒロトの言う通りに動かないのか…理由はひとつ」
「…?」
「きっと、貴女を殺したくなかったからだよ」
「……!」
こいしは、目に涙を浮かべた。
自分が不甲斐なくて仕方がなかった。
さっきも同じ事で泣いた。
こいしはこう思っていた。助けるどころか、ただただ迷惑をかけてばかり……私はフランの友達である資格はないのではないか…?と。
「…私…フランに迷惑かけてばっかりで…フランの力がないと何も出来なくて…」
「私は……本当にフランの友達でいいのかなぁ…?」
「……」
「私がいるせいでいっつもいっつもフランに迷惑をかけちゃってたんだ……あの時も、あの時も、あの時も……全部全部、私のせい…」
こいしは泣きながら、並行フランに言った。
「フラン…このままじゃ貴女もきっと、私のせいで大変な目にあってしまう…!急いで元の世界へ戻って…!」
「それは嫌だ」
しかし、並行フランはそれを断った。
「…!な、何でよ!私は貴女を心配してるのよ!?話聞いてた!?」
「うん、聞いてた」
「だったら早く帰ってよ!私はフランが心配なの!貴女だって知ってるでしょ!?大切な人が目の前で死んじゃう悲しみを!!」
「うん、知ってる」
「だったら帰ってよ!!さっさと帰ってよ!!もう嫌なの!!誰かの失うのは!!」
こいしは後ろを向いた。走っていこうと思ったが、足が上手く動かない。
そのまま、転けてしまった。
「っいった…!!」
−『ヒャーハッハッハッハッハッハ!!!』
その時に、ヒロトの笑い声を思い出した。
ヒロトが憎くて憎くて仕方がなかった。
自分の親友を苦しめ続ける者が、今度は親友を奪ってしまった。
それが悔しくて、悲しくて仕方がなかったのだ。
「ヒロト…ヒロト……!!」
悔しさのあまり、こいしは拳を握りしめた。
そしてこいしは、ポケットに入れていたナイフを自身の右腕に刺した。
無力な自分への憎しみと、ヒロトへの憎しみが入り混じり、抑えられなくなっていた。
「ヒロト!!ヒロト…ヒロトォ!!」
ドスッ ドスッ ドスッ
何度も何度も、腕にナイフを刺す。
もう一度刺そうとした時……。
「ヒロッ…!!」
ガッ
並行フランにその手を止められた。
「…何よっ…!!同情しようっての…!?今の私の気持ちなんて、わからないくせに…!!」
「うん、わからない」
並行フランが言った。
「帰れ!!」
こいしが並行フランを押し飛ばした。
その時に、並行フランの帽子が落ちる。
並行フランは、それを地面に落ちる前に受け止めた。
「…さっさと帰って!!帰れ!!帰れッ!!帰れッ…!!帰、れ…!……!!」
こいしは、それ以上言葉が出なかった。
悲しさと悔しさと、自分に対する怒りで。
「……フラン……」
「助けて……」
ぽすっ
「…?」
並行フランがこいしの帽子をこいしに被らせた。
「…その言葉を待ってたよ」
「……!!」
「……自分が出来ない事があってもいいんだよ。
誰にでも出来る事と出来ない事がある」
「……」
「一人で戦ってるなんて思わないで。貴女には、信じられる仲間がいるはずよ」
「……」
「この世界の私も、きっとそう思って貴女を逃したんだと思う」
並行フランがこいしの顔を見てこう言った。
「貴女に出来ない事は私達がする。けど、私達が出来ない事を貴女がして」
「……みんなが……できない事…?」
「貴女は自分が素晴らしい才能を持っている事を知らないだけ……思い出して」
「…え…?」
「貴女は一つ、世界を救っているんだから」
「……あっ……」
こいしは、並行世界での出来事を思い出した。
「…貴女は何も心配しなくていいよ」
「……っ…ひぐっ…」
こいしは、涙を堪えられなかった。
並行フランの優しい言葉が、こいしの悲しみを浄化していった。
「この世界に来た時から、誰にもこの世界を壊させないって決めてたんだ」
並行フランが帽子を被る。
「全部任せて、こいし
私達、友達じゃない」
並行フランが、笑顔でそう言った。
「……!!…ゔんっ…!!」
こいしは、大泣きしていた。
並行フランは、博麗神社の方へ歩き出した。
ザッ
「……!?」
並行フランが歩いて行く先の木に、レミリア、魔理沙、早苗、ぬえ、そして並行世界のぬえ、正邪、霊夢、早苗、妹紅がいた。
「行くよ」
「「オオっ!」」
「……!!!」
途端に、言葉にならない嬉しさを感じた。
自分のためにみんなが来てくれた。その事が何より嬉しかったのだ。
−そうだ……!!私には…こんなに優しい仲間が…友達がいるんだ…!!
「…グスッ…」
こいしは決意した。
フランは、自身の手で必ず救うと。
そして決めた。必ずまたみんなで笑って暮らせる、平和な幻想郷を取り戻すと。
ザッ
並行フランとこいしが、別々の方向へ歩きだした。
それぞれの役目を果たす為に……。
いよいよ、最後の戦いの幕が開ける。
To be continue…
こう、少年漫画によくある神展開っぽくしたかったんすよ。
主人公が挫けそうになって、そこに親友や仲間達が全員駆けつけるっていうあれ。
あの展開ベタだけどすっごいいいよね、感動する




