命令3 その3
「……」
−何か胸騒ぎがする……。
彼岸にて、映姫が幻想郷の異変に気付き小町に解決をお願いしようかしまいかを悩んでいた。
「映姫様ー、私を呼び出したまま黙りこくって…何か悩み事であるんですか?…映姫様ー!聞こえてますかー!」
「少し静かにしてください、小町!」
「あ、す、すいませーん…」
小町が小声で、自分で呼び出したくせにひどいよなぁ、と呟いた。
その時、映姫が何かの気配を感じ取る。
「……小町、重大な話があります。こちらに来てください」
「んー?はいはいー…どうしました?」
「……小町…貴女を解雇します」
「…へ?」
「小町、貴女はクビよ。二度と私の前に現れないでください」
「…!?そ、そんな…!突然どうしたんですか!?確かに私はサボり癖があっていっつも映姫様に迷惑かけてるけど…!私は!」
「…私に逆らうの?」
「…それは……その…!」
「…わかったら早く行きなさい。私が気が短いのは知っているでしょう」
「…せめて…!せめて何がいけなかったかを教えてください!それだけでいいので…!」
「うるさいですね!!とっとと消えなさい!!鬱陶しい!!」
「…!!……い、今まで、お世話になりました…!」
小町が頭を下げて映姫の前から去って行った。
「……」
「……ッ…!!」
−悪いところなんて……何もないわよ…!!
「…ごめんなさい…小町……!」
その時、後ろから声が聞こえる。
「泣ける話をありがとー♪」
「……貴女が異変の主犯なのですか?」
こいしが、映姫の座っている椅子の後ろに立っていた。
「ううん?違うよ。けど多分私もそっち側なんだと思うよ」
「……貴女の目的は何ですか?」
「んん?私はねー、フランとずっとずーっと一緒に居たいの!だからね、それの邪魔をするものを片っ端から殺していく!それが私の殺しをする理由!」
「……フランドールは、そんな事は望んでいないはずです」
「フランが望んでようが望んでまいが関係ないよ!私がフランと一緒に居たいだけだから」
「……そんな私利私欲の為に……!自身の家族を殺した上に……!!フランドールという親友を悲しませているのか!!」
映姫が椅子から立ち上がった。
「そうだよー!けどフランは悲しんでるの?それはいけないなー……フランに知られないようにしないとね!」
「貴女は『黒』です!!私が地獄へと送って差し上げましょう!!」
映姫から、桃色のオーラが発生する。
その様子を見てこいしは、とてもおぞましい笑みを浮かべてこう言った。
「…やってみろよ」ニヤァッ
「…何で急に……私何かしたかなぁ……」
小町は彼岸から幻想郷へと降りていた。
「…?ありゃ何だ?」
小町は、森の中に散らばっている何かを見つけた。
それを見に行くために、その場所に降りていく。
「……」
小町は辺りが赤黒い液体でいっぱいになっている事と、散らばっている物でその散らばっている何かが何なのかを察した。
「…一体、ここで何があったってんだ」
−何で……人間のバラバラの死体がこんなところに……。
グシャッ
「……えっ?」
小町は、赤い何かを踏み付けた。
「…これ……って……霊夢の……」
−……嘘でしょ……!?
「……!?」
上を見上げた時に見えたのは……
木の枝に引っかかっていた霊夢の生首だった。
「うわぁあぁああ!!?」
−な、何で霊夢が!?一体何が!?
「…映姫様…もしかして……これの犯人があそこに……私を逃がすために…あんな事を……!?」
「…だとしたら映姫様は……!!そんな…嫌だ!!」
小町は急いで彼岸へと戻っていった。
「映姫様ーーーッ!!」
「咲夜と美鈴は地底に行った…!?」
「は、はい。フランドール様とお嬢様は無事でよかったです…!お二人も無事だといいのですが…」
地底に行っちゃったって事は…!今回の命令に巻き込まれてしまったのか…!
「そうだね…無事だよ、きっと……パチュリーと小悪魔は無事?」
「はい。お二人共今は図書館で支配者の手かがりを捜索中です」
「そっか」
嫌な予感がする……!咲夜と美鈴の二人なら、殺人鬼の正体がこいしだと知ったら必ず止めに行く……それだけはダメだ。いくらあの二人でも二人だけじゃ今のこいしには勝てない…!
「…フラン、まずいわよ……」
「わかってる。今どうしようか考えてたところ」
地底に行くにしても、今回の命令のせいで全員では地底には入れない……またこいしに襲われてしまう。
追伸・この命令中に地底に入ると殺人鬼にそれが伝わる。入る際はそれを覚悟しておくように。
これは遠回しに仲間を助けたくば地底に来い、と言っているのだろう。
…私一人で行くか……。
「…フラン、どうせ貴女の事だから一人で行こうとか考えてるんでしょう?」
「…!」
「全く……貴女はいつも背負いすぎなのよ。もっと周りを頼りなさい」
「……うん」
確かに、みんなだって強いんだ。
私は何を勘違いしていたのだろう。みんなは頼りないから守らなきゃいけないとか、思っていたのだろうか。
「…ついてきてくれる?みんな」
「もちろんよ、フラン」
「私も行くぜ」
「私も行きます!」
「……ありがとう」
こいしは、私が抑えればいいんだ。きっと大丈夫……
…けど、何だろう……何故ここまで嫌な予感がするんだ…?
「……お姉様、もしかして運命見えてる?」
「……?何を言ってるの。運命が見えてたら苦労しないわ」
「…そっか」
能力は使えないんだったな……。
「それじゃあ、行ってくるよ」
「はい!お気を付けて!」
「…何だ、閻魔様って大したことないのね」
「……ぐっ…!」
映姫は、右腕を切り落とされていた。
さらに、全身傷だらけだった。
−な、何だ…!?この力は……
「閻魔様はきっと喰らいがいがあると思ってたのに……これじゃあちっとも面白くないや」
こいしが、魔力刀を手に出現させる。
「貴女はいらない。ここで消えてもらうよ」
「……」
−小町、ごめんなさい。貴女には酷いことをしてしまったわ……
私ね、貴女に少し厳しくしていたけど……本当は貴女のことが大好きなのよ?
最後くらい、仲良くしたかったな……ごめんね、小町。
「…その前に、一人お客さんが来たみたいだね」
「…え?」
「映姫様!!」
「!?」
小町がこいしの背後に現れる。
「助けに参りました!!」
手に持つ鎌を振り回し、こいしを攻撃する。
「惜しい!もうちょっと早く来ないと」
こいしはそれを軽々と躱す。
「こ、小町!何で…!」
「私は映姫様を見捨てて逃げるなんてことはできません!大体、何で私にこの事言わずに逃がしたんですか!」
「…貴女なら、私を助けるために残ると思ったから」
「そんなの当たり前ですよ」
「それじゃあ駄目!貴女は生き残らなきゃいけないのです…!」
「映姫様」
「!?」
小町が映姫の頭の上に手を乗せて、笑顔でこう言った。
「私を信じてください」
「…!!」
「でも、多分私だけじゃ勝てないですから…映姫様も、手伝ってくれませんか?」
「…ええ、もちろんよ。一緒に戦いましょう、小町!」
「はい!」
二人がお互いの顔を見て、優しく微笑んだ。
「さあ!行きますよ小町!」
「イエッサー!!」
ドッ
「……え」
ボトッ
小町の方から、重いものが地面に落ちたような音がした。
「まずは一人目」
映姫の足元に、何かが転がってくる。
「…小町…?」
小町の方を見る。
その時映姫は、驚愕した。
「……小町…!?」
小町の首から上が、無かったのだ。
映姫が足元に目を回した。
「…いっ…!!」
小町の生首が、映姫の足元に転がっていた。
「いやああぁあぁああああぁぁあ!!?な、何が!?どうして小町が……何で!?何で!?」
「一度絶望すれば子供のようにのたうち回る……」
「!!」
こいしが、ゆっくりと映姫の方へ歩いていく。
「所詮は見栄張りの閻魔……無様なものね」
手に持つ魔力刀で、映姫の首を切り落とそうとする。
「バイバイ、閻魔様」
「……」
映姫は抵抗しなかった。しようとも思わなかった。
しかし、こいしの刀が映姫に届く事はなかった。
「…?」
「…これって………フラン…!!…っふふふ、あはは…!アハハハ!!」
「待っててね!すぐに迎えに行くよ!!」
「アッハハハハハハ!!」
こいしが凄まじいスピードで飛び去っていった。
「……」
何が起こったのかわからず、困惑している。
「……小町……」
小町の遺体を、じっと見つめる。
頭を元のように戻そうとしたが、今の映姫はとてもそんな事ができる精神状態ではなかった。
「……あぁああぁあああぁあぁぁあ……!!」
「フフフフ…♪」
こいしは、フランに対する思いが変わりつつあった。
一緒にいたいという思いと、最も愛するものだからこそ、もう一つの感情が生まれたのである。
こうすれば、もう誰からも奪われる事はない。
こうすれば、もう永遠に私から離れる事はない。
「今、殺してあげるから…!待ってて……フラァン!!」
「…来る」
「え?」
…こいしが、来る。
「みんな、咲夜と美鈴を探して」
「…?お前はどうするんだ?フラン」
「…私は少し用事がある。あとで地霊殿で落ち合おう」
「…!…頑張りなさい」
「うん。お姉様も、咲夜達を見つけるの頑張ってね」
「ええ。…必ず、また会いましょう」
「もちろんだよ」
お姉様達が、去っていった。
「…さてと」
絶対私が、助けてみせるから。こいし…
To be continue…




