命令3
霊夢の死から、すでに数時間が経過している。
魔理沙は未だに悲しみに暮れていた。
「霊夢が死ぬわけないんだ……あいつは…あいつは……」
「……」
大親友を目の前で失くす……それがどれほど辛いことか。
こいしも……私が死んだ時はこんな気持ちだったのだろうか?
……パチュリーや、紅魔館のみんなが心配だ。
「…魔理沙さん……」
早苗さんは、心配そうに魔理沙を見ている。
「……くっそ……何、だよ……!ふざっけんなよ…!!」
「…魔理沙……霊夢の仇は必ず……」
「お姉様、今はそっとしておいてあげて」
「!」
今の魔理沙に励ましの言葉なんてかけたら……何をしでかすかわかったものじゃない。
「…もしパチュリーが死んじゃったらって、考えてみなよ……」
お姉様は少し申し訳なさそうに魔理沙を見つめている。
「…悪いわね」
魔理沙の表情が変わった。
「…覚悟は決まった」
「!」
「私は支配者をぶち殺す」
「……」
また一人、復讐者が増えてしまった。
……復讐は周りを見えなくする。ただただ後悔することになるだけだ。身を以て体験している。
だから……魔理沙達が同じ道を辿らないように誘導するのが私の役目だ。
「…こんな時に私情を挟んで悪いんだけどさ」
「?」
「こいしの言っていた事…覚えてるよね?」
「…何?」
「私とこいしを遠ざける奴らを片っ端から殺していくって……」
「そうね……それが?」
「…紅魔館のみんなが心配なんだ。私一人でも行ってきていいかな?」
「私も行くわよフラン」
「ありがとう、お姉様」
「……私もついていくよ。こいしはレミリアを目の敵にしてるだろうから、こいしを助けるのならレミリアについて行くのが一番だ」
「…そっか。ありがとう、魔理沙」
それが本心ではないだろう。
私は魔理沙の考えている事は読めていた。
こいしを助けたいという気持ちはあるが、それが第一の理由ではないという事はすぐにわかった。
支配者が私ではないかと疑っているのだろう。
霊夢の死に方もそうだ。あの音からしておそらく爆裂して死んでしまった。
そんな事ができる者は数が限られてくる。
魔理沙の身近にいる者の中で、それができるのは私だけだ。だから、支配者である片鱗を少しでも見せれば殺す気なんだろう。
……こいしは無自覚の殺人鬼だった。
ならば、私が無自覚の支配者である可能性もある。
もし本当にそうだったとすれば、潔く殺されよう。それで罪が洗い流される訳ではないだろうが。
「…フラン、考え事?」
「…!…うん」
「何かあったら、私にも言いなさい。できる限り力になるからね」
私の事となると、本当に心の底から心配してくれる。
……私は幸せ者だ。こんなに優しい
姉がいるのだから。
「…ありがとう、お姉様」
「ええ」
「……」
魔理沙が私を見る時の目は、やはり疑いの目だった。
無理もないが、先ほどまで仲良くしていた者から突然こんな目で見られるといい気分はしない。
かと言って口に出しても気不味くなるだけだし、耐えるしかないか…。
「…魔理沙、あんた何でフランをそんな目で見てるのよ」
「えっ?そ、そんな悪い目つきしてたか?」
「ええ、してたわ。まさかあんた、フランを何かしら疑ってるんじゃないでしょうね」
「な、何でそうなるんだよ…!」
……優しさは時に厄介事を生み出すって事を忘れていた。
「図星じゃない…あんたねえ、フランがこんな悪趣味なゲームすると思う?」
「な、何だよ…!別に疑ってないって!」
「いいよお姉様、魔理沙の方が正しいんだから」
「…貴女は自分が諸悪の根源扱いされてもいいの?」
「いいよ。むしろ、これまでの出来事からすればそう思われて当たり前だから」
こいしの正体、霊夢の死……それが全て私の身近で起こっているのだから、疑われて当然だ。
「…ったく、相変わらず自虐的なんだから…!わかったわよ!魔理沙、悪かったわね」
「……ああ」
「…ねえ、魔理沙」
「…何だ」
「魔理沙の思う支配者の正体って……どんな感じ?」
「……いいのか?言っても」
「魔理沙はそういうところは鋭いからさ。貴女の意見を参考に考えてみたいの」
「…一言で言えば、フラン。お前みたいな奴だ。言い方が悪くて悪いが、普段は善人ぶってるが、実は悪人だった…みたいな奴だ。だから、お前を疑ってた」
…やっぱり、か。
「…そっか」
「……」
「…悪いな、レミリア。今のは私の本音だ」
「ええ……構わないわ。私も、フランが支配者だというところ以外はそう思うから」
実は私は、支配者の正体に一つ心当たりがあった。
今までの全ての事が私の身近で起こっている事と、こいしが殺人鬼だったという事。そして最初の命令が霊夢とお姉様絡みだったこと。
「ヒロト君……」
「…!?ちょ、ちょっと待ちなさいフラン。貴女今……!」
「お姉様、あくまで予想だからね。真に受けなくてもいいよ」
「で、でもあいつは私が消しとばしたはずよ…!」
「…私が並行世界……別の世界に行っていた時、ヒロト君に会ったんだ。怨霊となっていたけどね」
「なっ…!」
「もしかしたら…そうなのかもしれない。もしその時はお姉様、気を付けてね。私達が狙われるから」
「……私達への復讐、かしら」
「うん」
「…確かにそうなのかもね。今までの事柄のほとんどが私とフランの周りで起こっているし、最初の命令が私絡みだったし……」
「…!」
記憶を取り戻したお姉様は、大分察しがいいみたいだ。頭の回転も速いし……私が考えてる事を的確に当ててくる。
今のお姉様は頼りになるな。……あれ、何か私すっごい失礼な事考えてない?
とにかく同じラインの思考回路を持ってる人ができたのは嬉しいな。さすがはお姉様。
……あれ、やっぱり私他の人の事見下してんじゃん。直さないと。
強くなって、そのせいで周りの人達に負ける気がしなくなって……そのせいで慢心していたのかもしれない。私が近くにいれば周りの人達は守れる、とたかをくくっていたようだ。
紅魔館でも、油断はしないようにしなければ。命令にはどんな形であろうと従わなければならないのが癪だが……仕方ない。
一刻も早く支配者を見つけ、倒さなければ。
……こいしも。
「おい、ヒロト。あまり無闇に幻想郷の住人を殺すなよ。計画に支障がでる」
「おや、何を心配なさっているんです?魔力の吸収材料ならもう捕まえてあるでしょう?」
「…まあな。だが、下手をすると博麗大結界が計画よりも早く壊れるかもしれん。そうすればここにいる我々も一緒に消し飛ぶぞ」
「大丈夫ですよ。博麗大結界はそう簡単に壊れたりしません。それに……
博麗大結界は……この方がいる限り壊れる事はないのですからねぇ」
紫が、ヒロトとシリウスに捕まって牢屋に入れられている。
「…しかし、八雲紫にどうやって勝った?」
「能力がなければ所詮はただの人喰い妖怪。魔力もそこそこ高めでしたが…まあ、大した事はありませんでしたよ」
「…能力を封じるなどという芸当はお前にはできなかったはずだが……」
「私は以前フランドールさんのお体に入ったことがありましてねぇ……その時にちょっと真似させていただきましてね、魔法を」
「ほう……そんな魔法があるのか。興味深い…術式を教えろ、ヒロト」
「ええ〜…!シリウスさんは元々能力封じできるでしょう…?正直教えるの面倒なんですが……」
「私も魔法には縁がある。ある程度はできるが……そのような上位クラスの魔法は使えなくてな」
「おや、この魔法上位クラスだったのですか?私、才能あるのかもですねぇ〜!」
「術式次第では幅が広がるかもしれん。さあ、教えてくれ」
「全くシリウスさんは人の話を聞きませんねえ……ま、いいでしょう。教えて差し上げますよ。まずはですね……」
「ふむ……なるほど。相手の脳を洗脳するタイプの魔法か。相手の脳に能力は使えないと伝令を送らせる……たったそれだけで使えなくなるとはな」
「つまり、意識して能力を発動できなくなるのですよ。だから、この魔法は相手が能力に頼っていれば頼っているほど効果絶大!という事です」
「だから八雲紫にはよく効いたと……」
「まあ、この方も頼りきりというわけではないのですがね……攻撃の始動のほとんどがスキマ関連なので、それがなくなって倒すのは容易でした」
「いつ頃目覚める?少しこいつに聞きたい事がある」
「おそらくもうしばらくは目覚めません。なのでシリウスさんは古明地こいしのマインドコントロールをしっかりとしていてください」
「…その心配はいらない。奴は自らの意思で殺人鬼となり、今はフランドールと深く関わったことのある者どもを殺すために動き回っている」
「…おや、それは本当ですか?……くくっ、面白いですねえ」
「奴のフランドールに対する愛情は本物だな……利用しやすい」
「まあ、なんにせよやる事は終わりましたね。後はこの装置を完全になるのを待つだけ……」
「ああ……この牢屋にいる限りは魔力を吸われ続けているが……目覚めるのか?」
「ええ。この方はこう見えて幻想郷でトップクラスですしね」
「…それもそうか」
「さあて、『滅び』の時ももうすぐですね。楽しみです」
「我々の計画も、成就する時は近いようだな」
「はい……やっとですねぇ……くくっ
”私達”が世界を支配する時も遠くはないですよ……くくくくっ…!」
「…さて、そろそろ次の命令に気付いた頃か」
「そうですねぇ……今度はどんな反応をしてくれるんでしょうか?楽しみですねぇ」
「近寄るな!!それ以上近寄ったら殺す!!」
「何でよお空!!信じてよ!!」
「…!!今回の命令の内容は知ってるんだ!!近寄るな!!」
「そんなのあたいもわかってる!!信じて!!絶対に何もしない!!」
「…!!命令3!!地底に住まう妖怪の中に殺人鬼はいる。その殺人鬼の正体を今現在地底にいる者達で突き止めよ!!こんな命令が来たのにどうやって信じるってんだ!!」
「そ、そんな!あたいが殺人鬼だって思うのか!?」
「…思いたくないけど!!…怖いんだよ…!!」
「……大丈夫、お空。きっとこいし様やさとり様が正体を突き止めてくれるよ!」
「……こいし様は出掛けたばっかりなんだ………そんな優しく声をかけて、私を騙すつもりなんでしょ…!?」
「ち、違うよ!」
「…ごめん、お燐…!どうしても信じられないんだ…!!私は臆病者だから………ごめん、別行動しよう」
「…わかった。けどお空、気を付けてね!?」
「う、うん…!お燐もね」
「それじゃあ、また殺人鬼が見つかった後で会おう!」
「う、うん!」
「…咲夜さん、お嬢様やフラン様は無事でしょうか…」
「きっと無事よ。あの方々がそう簡単にやられるわけがないもの」
「そ、そうですよね!大丈夫ですよね!」
「貴女が買い物の手伝いをしてくれるって言ってくれたから地底にわざわざ1日もかけて徒歩で来たってのに……まさかこんな命令に巻き込まれるとはね」
「す、すいません!」
「いや、貴女は悪くないわ。私がわざわざ買い物の場所にここを選んでしまったのが原因よ」
咲夜と美鈴が、地底のある宿に泊まっていた。
「…地底の町中大騒ぎよ。みんな慌ててたわ。一部は信じていなかったけどね」
「…あの貼り紙、一体誰がいつ貼っているのでしょうか…?」
「さあね……言っとくけど私じゃないわよ?時間停止あるからって疑わないでよ」
「初めから咲夜さんを疑ってなんかいませんよ!失礼な!」
「あらそう?ふふっ、それは悪かったわね」
「今現在地底にいる者達に絞ったのには何か理由があるんでしょうか?」
「さあね。多分だけど、もう既に外じゃ殺人鬼の正体は判明していて、地底にいる者達は知らない。だから地底の者達に絞ったのかもね」
「な、なるほど。だとすれば今日地底から出掛けた者が怪しいってことか……ここに住んでいる人達はみんなここに住み着いているから、出掛けることはないでしょうから……」
「…怪しいとすれば、地霊殿の住人又は鬼かしらね」
「…疑いたくはありませんが、そうですね」
「仕方ないわ。私達が探さなくては罰を与えられるのだから。……霊夢と魔理沙は無事なのかしら……次の命令が来たってことは、罰を実行したってことよね?」
「…殺人鬼が知られているってさっき咲夜さん言ってましたよね?もしかしたら霊夢達が返り討ちにしちゃってそれでもうしられてるんじゃないでしょうか!」
「なるほど、確かにそうかもね。きっとお嬢様や妹様も一緒に戦ったんだと思うわ」
「そうですよ!きっとそうに違いない!」
「さて、それじゃあ捜索を始めましょうか……地霊殿の住人に話を聞きたいわね」
「行きましょう!」
To be continue…




