異世界での戦い
「こいし、貴女は私についてきて。途中で別れるけどね」
「!了解!」
「行くぞみんなぁ!!ここで別れて左右で大爆発を起こせ!」
「私達は左に行く!妹紅達は右行ってくれ!アリス!ぬえ!私についてくるんだぜ!」
「ええ!」「うん!」
「了解した!行くぞ霊夢!」
「はい!早苗!正邪さん!行きましょう!」
「ええ!」「ああ」
全員が散開していった。
ここから先は、地霊殿への一本道。
私とフランは正面から突っ込んでいく。
けど、まだ地底に入ったばかり。地霊殿は遠い。
このペースで行けば多分、あと数十分は掛かるだろう。
その間に妹紅達が爆発を起こしてくれればいいわけだ。
「今のところは調子がいいね。このまま上手く行くといいのだけど」
「そうだね……フラン、別れるって言ってたけど……いつ別れるの?」
「爆発が起きた後。初めから一緒に居てもいいけど、もし燐と空の両方が片側に行ったら大変だからね。連絡を待って、奴等がどう現れたかを確認した後に援護に行ってもらいたいの」
「合点承知!」
さあ、どんな相手でもどんとこい!今の私はそこそこ強いぞ!フランには負けるけどねッ
「…まさか、こいしと共闘することになるなんて……」
「え?」
「私は貴女との戦いが終わって飛んでいく時、絶対に味方にはならないだろうな、って思ったんだ」
「へぇ…まあ、この世界ではみんなの敵だもんね」
「…それもそうだね。だけどそれだけじゃなくて……私が現れて攻撃してきた時……こいしは私を壊そうとしか考えてなかったでしょう?」
「……まあ、ね」
「罪悪感は感じなくていいよ。そりゃあそうだよ、自分の親友が目の前で死んだのに、偽物が出てきて攻撃してくれば殺意だって湧くさ」
「……うん」
「実は私も、貴女を殺すつもりで戦ってた」
「!……そりゃあそうだよ。だって、仇だもん」
「まあね。けど、後々考えたんだ。ここは別の世界なんだ。あの子にはあの子の家族や友達がいるじゃないか、ってさ……だから、破壊の力をぶつけてしまった事を少し後悔したんだ」
「そっか……でも、私は生きてるから大丈夫だよ」
「……この戦いも、本来なら貴女はここにいないはずだったんだ。貴女は別の世界の住人なんだから」
「それは気にしないでって言ったでしょ……私は自分の意志でここに来たんだから」
「…まあようするに……こいしも私も互いを敵として認識してたわけだよね」
「うん」
「それが今は、こうして手を取り合って共闘している……何だか素敵だと思わない?」
「……」
この世界のフラン、基本世界のフランにそっくりだ……言うことやものの考え方がまんまだ……ただこっちのは少しめんどくさがりなところがあるかな。けど実力は本物。むしろ最強クラスだ。
多分、やる時はやるタイプの子だったんだな……。
「こいし?」
「フランは、私のよく知ってるフランにそっくりだなーって思ったんだ」
「…ああ……あの時、こいしの近くで、その……死んでた……」
「いいよ、気を使わなくて。今はフランは生きてるんだから」
「……そっか」
「フラン、貴女は絶対に死なせない」
「こいし……」
「貴女は私が守るよ。この命に代えてもね」
「…何言ってるの」
「え?」
「二人共生き残って……また色んな話をするんでしょ?」
「…!……うん!」
「それじゃあ行こうか……別世界の親友さん」
「うん!この世界を救いに…!」
私達が勝つ!そして、絶対に生き残るんだ……そしてみんなでまた、楽しく会話を……。
ドオオオオオオオンッ!!
左右から爆発が起きる。
「来たね……連絡が来るはずだから…頼むよ、こいし」
「うん!」
《フラン!!大変だ!!片方に両方が来てしまった!》
「了解、聞こえてた?妹紅」
《ああ!了解した、すぐに向かう!》
「こいし」
「うん!」
私が行こうとした時、脳裏に浮かんだもの。
それは、基本世界の閻魔様の言葉だった。
−『貴女はこれから、三つの大きな戦いをすることになります』
ふと、思い返した。
私は、霊夢をほんの数秒で倒した。あれを”大きな戦い”とは呼ばない。
”絶望の結末になろうと……受け止める覚悟はありますか?”
ドスッ
「……え?」
「……がっ……ッ…!?」
「御機嫌よ〜〜……フランドール?」
「…フ……フラン!!」
フランが、左胸を腕で貫かれていた。
「やっほー、こいしちゃん?」
「……お前……!!この世界の、私…!!」
「……こい、し……逃げて……!」
フランが言った。
「大丈夫!ここでこいつを倒せば全て終わる!!」
「違う……こいつ、は……」
「…お前、気付いてたのか……私がこいしじゃないってこと」
「…え!?」
「……そういう、ことだったのね……貴方は……何者……!?」
「さあ、何者でしょうか?」ズボッ
「…ゔぁっ…かはっ……」
フランの左胸から、腕を引き抜いた。
その時、フランが血を吐き出した。
「さらにもう一発…!今度は首を飛ばしてやる」
この世界の私?がフランに攻撃しようとする。
「フラァン!!」
ドオォーーンッ
「…ぐっ…!」
しかし、次の瞬間にはフランがいつの間にか私の隣にいる。
そして、この世界の私の腕が切り落とされていた。
「…おやおや、たまげたな……そんな状態でも時止めが使える上に俺に反撃してくるとは……言っとくが俺の攻撃は再生不能だぞ。つまりフランドール……お前の命はもうそう長くないってことだ」
「そ、そんな……嘘でしょフラン…!大丈夫だよね!?」
「……ちょっと、やばいかも、なぁ……ははっ…」
「何笑ってるの!!どうにかならないの!?」
「なるにはなるんだけど……ちょっと、時間がかかるんだよね、蘇生魔法ってんだけど……」
「…なら私が時間を稼ぐ……!フランはゆっくりと傷を癒してて!」
「…無理しないでね、こいし……」
「それはこっちの台詞だよ……」
「…はあっ…はあっ…」
フランが荒い息をあげている。
基本世界でレミリアに再生不能のグングニルで腹部を貫かれても息を荒げることがなかったあのフランが。
それは、私に状況の深刻さを実感させた。
「……フラン、ちょっとそこの路地裏に隠れてて。…動ける?」
「ええ…それくらいは……私のことは気に掛けないで。ちょっと、油断してただけだから…」
「…うん」
ドオォーーンッ
フランがいなくなっていた。
「……どこに行きやがった……あの状態でそう遠くへは行けないよなぁ……蘇生魔法ってのがちょっと気になるから、早々に始末しておきたいんだが」
「そんなことさせると思う?」
「……めんどくせえ奴だ。速攻で殺してやるよ」
「やってみなよ……たかが一人の妖怪が、二人分の妖怪の、さらにトップクラスに強い妖怪の力を持ってるこの私にとって勝てるかな?」
……ちょっと挑発して、私に完全に意識を向けさせる。フランが少しでもゆっくりと傷を癒せるように……。
「……てめえ、俺をなめてんのか…?よーしいいだろう。その安い挑発に乗ってやる。てめえを瞬殺すりゃいいんだろ?」
「そっちこそなめてんのかな?私を?瞬殺?貴女が?無理無理、おととい来やがれっての」
「……挑発するのが好きらしいじゃねえか。もうめんどくせえのは無しだ……!ここでぶっ殺す!!」
「やっと本気で殺す気になってくれたね……!」
さーて、殺されないように頑張らないとね…!
「こいし!」
「!?」
「加勢するよ!」
空からぬえが降りてきた。
「ぬえ!…ありがと!行くよ!」
「ああ!フランはどうした!?」
「不意打ちで致命傷を受けちゃって…!今傷を癒してる!」
「…さすがは古明地様だ、汚い奴…!」
「ヒャーハハハ!!何とでも言えやぁ!!さあ、殺戮ショーの始まりだぜぇ!!」
この世界の私から、黒と赤色のオーラが出てくる。
あのオーラ……まるでレミリアやフランが本気だした時に出てくるのに似てる。
「こいし!来るぞ!」
「…!うん!」
ひとまず、フランが治るまで私達で持ち堪える…!
……万全の状態の私なら、勝てないこともないかな?
油断はしないようにしないと……。
「……」
−奴が私の左胸を貫いてきた時……何か私やお姉様と同じようなものを感じた……。
「……あの感じ……奴は……」
私やお姉様と同じ……
「吸血鬼……」
少し、厄介だな……古明地こいしの体に入っているとはいえ……。
「……早く、この傷を治さないと……」
その時、上から物音がする。
「!!」
「……フランドール…」
並行こいしが、顔を出した。
「…ちぃ…!」
「待って…!落ち着いてって…!私はさっきいたあいつじゃない…!」
「……!」
「……私は今はあいつが用意した私のクローン体の中に入ってる……」
「……信用してもよさそうだ。降りてきなよ、もう逃げない…ッ…から」
傷、痛むな……早く治さないと。
「だ、大丈夫…?」
「…何だ、貴女って本当は優しいのね」
「…どうも」
「……ひとつ、質問いい?」
「ん?」(胸の傷、痛そうだな……魔法陣越しでも肉が抉られてるのがわかる……)
「あの時……私とこいしが貴女のところに来た時……”貴女は貴女”だったの?」
「…うぅん…取られてた」
「…そう」
取られてたってことは、グランの話が全てなかったことになる……のか?いや……確かもう一人別の人格の奴も居たって言っていたな……それが、奴?
まず、どうしてあの霊夢は混玉で”この世界”の古明地こいしを無理矢理連れてきた?それがどうしてこいしの精神の中に現れた?
考えれば考えるほど謎が深まっていくばかりだ……。
……待てよ。混玉を使っていたのはあの霊夢。なら霊夢が何か企んでいた……?いや、だとしたら私に直接何か言うはずだ。託してきたんだから……。
今思えば、どうして霊夢は私に託した?自分の私利私欲でやっていたはずじゃないのか?霊夢を裏で操っていた”誰か”が居たのか?確か霊夢は……時代も行き来できる能力を持っていたはず……。
……まさか……古明地こいしに取り憑いた”奴”が仕組んだっていうの?いやまさか…そんなわけ……
「考え事してる時に悪いんだけど……私のこと、話してもいい?」
「!うん、いいよ」
「少し、長くなるけど……傷を治しながらでいいから聞いて」
「うん」
「何年前だったか覚えてないけど……」
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「お姉ちゃん!今日も散歩いってくるねー!」
「ええ、いってらっしゃい。夕飯までには帰ってきなさいよ?」
「はーい!」
この時の私は、心を読んでもいい気分にならない為眼を閉じて散歩をしていた。
散歩と言っても、地底から外にはでることはない。
「あ、おはようこいしちゃん!ゆで卵食べてく?」
「おはよ!何でゆで卵?」
この時の私はそこそこ人望があった。
それに、私も地底の町が好きだった。
ここは旧地獄とは言え、町に住まう人や妖怪はみんな仲がいい。ここは、妖怪と人が共存していた。
互いの仕事を卒なくこなし、快楽の時を共にする。
まさに楽園……誰もが思い描く幸せな理想郷だ。
「おやおや、地霊殿の姫君。今日は何をしに来たんだい?」
「もう……その呼び方やめてよ、花屋のお兄さん!今日は、お姉ちゃんにプレゼントしたくてさ。どんな花がいいと思う?」
「さとり様にプレゼントか。そうだな……こいしの好きな花はなんだ?」
「ん〜……薔薇かな」
「ならそれで決まりだ。『こいしの好きな花だ』って言って渡せばさとり様は喜ぶぞ、いつもこいしが側にいるって言葉付け足してな」
「お〜…ロマンチックで素敵だね!さすがお兄さん!」
「はは、ありがとうよ。ほれ、薔薇だ。代金はいらないよ」
「え、いいの?」
「ああ!さとり様と仲良くな」
「うん!ありがとー!」
地底において、お姉ちゃんはそこの統制、管理をしている。江戸時代の幕府の仕組みに似ていると思う。
けど、お姉ちゃんは別に税金的な物を取ったりはせず自由にさせていた。時折地底の町に顔を出して、みんなに挨拶をして回ったり、買い物をしていったりと……町の繁栄のために色んな事をしてくれている。
だから、地底の人達からの信頼はとっても厚かった。
私もお燐もお空も、みんなみんなお姉ちゃんの事を慕っていた。私も何か手伝いをしたいんだけど、『私たちに任せて』と言って何もさせてくれない。…させてくれないというよりは、何もかもをやってくれる。
「あ、こいしちゃーん!この前頼んでくれてたマフラー、出来上がったよ!」
「お、ありがとー!」
「こいしちゃんは本当にさとり様が好きなんだね。プレゼントするんだって?」
「うん!私の好きな色の青色のマフラー!お姉ちゃん喜んでくれるといいなー」
「きっと喜ぶよ。こいしちゃんからのプレゼントなら、多分何でも嬉しいと思うよ」
「そうかな?それなら嬉しいけど」
しかし、そんな幸せな日々は終わりを告げる。
ある日、死者の怨霊達の追加が行われた。
冥界だけでは管理できないらしく、こちらにも回された。
「お燐、さらに忙しくなっちゃうねー…」
「ニャー……私の仕事がどんどん増えていって辛いですよ。けど、こいし様やさとり様のために頑張りますよ!」
「ふふ、ありがと。頑張ってね。私にも何か手伝えることがあったら……」
「こいし様は何もしなくていいんですよ!ここは私達にお任せあれ!」
「そ、そう?何か、ごめんね?」
「大丈夫ですよ。こいし様は私達の姫様なのですから♪」
「もう……お燐まで!」
「あははは!さ、お戻りください。私はもう少し怨霊達の様子を見て管理の仕方を考えます」
「うん、頑張ってね」
その時、たまたま目に入った。
多くの怨霊の中に一つ、目があるものがあった。
その怨霊と、目があったのだ。
「……えっ」
「?こいし様、どうかしました?」
「いや、あの怨霊……」
「…?うわっ、目がありますね……目がある奴はそうとうヤバイ奴なんですよ……怨霊体だから何もできないとはいえ、管理が難しそうですね……」
「へえ……気をつけてね」
「はい!」
目があった時、少しゾクッとした。
だが、次第にそれも忘れていった。
その日に、お姉ちゃんにプレゼントを渡そうと思っていたからだ。
「お姉ちゃんはどこだろう?」
いつも仕事をしている場所にはいなかった。
となると、部屋かな?
「お姉ちゃーん、いる?」
部屋の扉をノックする。
「ん、こいし?どうかしたの?」
お姉ちゃんが扉を開けて顔を出した。
「いやね、いつも頑張ってくれてるからお姉ちゃんにちょっとしたプレゼントを用意しててさ……」
「あら、嬉しい」
少し恥じらいながらも、私はお姉ちゃんに薔薇の花とマフラーをプレゼントした。
「そ、その……この頃冷えてきたからさ。風邪ひかないように、マフラーあったらいいかなーと思って……」
「…どちらも、青色ね」
「わ、私の好きな色なんだ」
「……」
お姉ちゃんが、少し沈黙する。
「あ、そ、その!いらなかったら、その、いらないでいいからね…!じゃ、邪魔しちゃって…ごめ」「こいし」
「!」
「ありがとう」
お姉ちゃんは、満面の笑みでそう言った。
「…うん!」
その一連の出来事のおかげで私はとっても気分がよくなった。
この後、絶望的な展開が待っているとも知らずに…。
「〜〜♪〜〜♪」
口笛を吹きながら、部屋に戻っていた。
何故か、あの時の怨霊の目を思い出した。あの目を見た時、なんというか、背中に寒気を感じた。まるで取り憑かれるかのような、そんな感覚。
「……何だったんだろう…あれ……」
不思議に思い、そう呟いた。
その時だった。
『答えは俺でした』
「……!!?」
突然声が聞こえた。
『お前の心の中に取り憑いてやったぜぇヒャーッハッハッハ!!』
「……何…!?え…!?」
『俺が怨霊体だからって油断してたのが運の尽きよ……てめえの体、使わせてもらうぜぇ…!!クックック……ヒヒ…ヒヒヒヒ…!!』
「…あがっ…!!」
私は、この時の記憶はあまりない。
ただ、一回だけ意識が戻る時があった。その時に見えたものは……
お姉ちゃんが、私から逃げる後ろ姿。そして、町の妖怪達を殺していく様子だった。
後からお燐やお空に聞いてわかったのは、黒いローブを羽織った少女が地霊殿を攻撃してきたという話だ。
町の妖怪達を殺していっていた理由は、後に怨霊の奴から聞いた。
『あいつらはここ、地霊殿に襲撃をかけるつもりだった連中だ……知らなかったのか?ここに来て大した時間は経ってねえ俺でさえ知ってたってのに……』
お姉ちゃんの事が気に入らない、町を乗っ取りたいという思想を持つ妖怪が集まって、集団で地霊殿を襲撃するつもりだったようだ。
「…どうして……地霊殿を…?」
『んなもん決まってんだろ!俺のために利用させてもらうためだ……!!見ろよ、あの二人の怯えた表情…!可哀想に、ここの主人が見捨てやがったからなぁ……』
「……ッ…!!」
何も言い返せなかった。私は、あの状況なら誰でも逃げるとは思いつつも、どうしてお姉ちゃんはお空とお燐を連れて行かなかったのか、と疑問に思ってしまった。
そして、真っ先に思いついたのが……
”囮”
お姉ちゃんが助かるために二人を囮にして逃げたのか、私は何故か真っ先に思いついた。
だが、お姉ちゃんがそんなことはするはずがない。
きっと、心を読んで私だと気付いたのだろう。
けど、その時の私は怨霊の奴に完全に操られていた。心までも支配されていた。
つまり、お姉ちゃんはあれが私の本性だと思ってしまったんだろう。
このままではまずいと判断したお姉ちゃんが、博麗神社に行って助けを求めに行った。そんなところだろう。
『さて、お前はまた寝てな。これからあいつらペット二人を俺のペットにしてやるよ……』
「うぅっ…!?」
その後のことは、私は何も知らない。
気付いた時には、私はレミリアの頭を掴みあげていた。
「……えっ……?」
既に、私が掴んでいるものに生気はなかった。
レミリアの体は、下半身が抉り取られ、腹部から内臓が飛び出していたり……悲惨な状態になっていた。
「うぅわぁあぁああぁあ!!!」
私は驚いて、レミリアだったものを投げ飛ばしてしまった。それは、生々しい音を立てて地面に落ちた。
「はぁっ…!!はぁっ…!!はぁ、あぁ……ああ……」
私自身、怖くてしょうがなかった。
知らぬ間にまた私は誰かを殺してしまうのではないか、という恐怖が私を襲っていた。
「…あっ……あぁあ……あ…」
手は血塗れ、服は帰り血塗れ。
辺りは一面、火の海。
「……どうして……こんなことに……」
−『あ、おはようこいしちゃん!ゆで卵食べてく?』
−『さとり様と仲良くな!』
−『こいしちゃんは本当にさとり様が好きなんだね』
−私達が何をしたって言うの……?お姉ちゃんが何をしたって言うの……!?この吸血鬼の人が何をしたって言うの!?
「どうしてよ……!」
私はレミリアの遺体の下に降りた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」
必死に謝り続けた。レミリアは、何も悪くない。レミリアは何もしていない。
「……」
その時、私の中の思考が止まった。
考えることが、怖くなったのだ。
「帰ろう……地霊殿に……みんなの所に帰ろう……」
「きっと帰れば……いつも通り…みんながいて……」
「そうだ……もう夕飯の時間だ……帰らなきゃ……」
「あ、こいし様!おかえりなさい!」
「……え…」
「待ってましたよ!さ、早く早く!」
「…えっ?」
ガチャ
「おかえりこいし。夕飯、出来てるわよ?早く食べましょう」
「……お姉ちゃん……」
「…?どうかした?」
「……ううん!何でもない!」
−何だ……夢だったのか……ははっ、よかった。
そうだ……夢だ……夢に決まってる……。
ドサッ
「ねえお姉ちゃん……今日の夕飯は…なあに……?」
燃え盛る地霊殿を前にして、私は膝をついて地面に座り込んだ。
「こいし様!!起きてください!!お願いします!!」
「……んっ…?」
「こいし様!!よかったあ!お燐!こいし様が目を覚ましたよ!!」
「本当!?」
「……お空……お燐……?」
「こいし様が地霊殿の前に倒れてたんです!よかったぁ、生きていたんですね…!」
「……あれ…?私は…」
「ごめんなさいこいし様…私達、言われた通りにずっと地霊殿の井戸の中に入って火から逃れていたんです…!黒いローブを羽織った奴が、急に地霊殿を襲ってきて…!」
「…言われた…通りに…?」
「な、何かショックな事でもあったのですか?記憶が飛んでいらっしゃるようですが……」
「こいし様があの時、井戸に隠れててって言ってくれなかったら私達焼け死んでいました…!ありがとうございます!」
「……お姉ちゃんは…?」
「……さとり様、ですか?私達を見捨てて逃げたと、貴女がそう言っていたじゃありませんか」
「……」
「私達の信頼を裏切る行為です。私はさとりを許しません」
「……」
−ああ……
「そうだお空……さとりは絶対にいつかしかるべき報いを与えてやろう」
−もう二度と……
−『さとり様!お空が嫌いなもの私に押し付けてきます!』
−『こら、お空?ちゃんと食べなさい!太陽神の力を手に入れたからって調子に乗ってはいけないわよ?』
−『ええー…!いいじゃないですかー!ねー?こいし様ー?』
−『ねー!あ、お姉ちゃん。ピーマンも食べてー!』
−『ええ、いいわよ』
−『さとり様ァァァッ!どうして貴女はそうこいし様に甘いのですかァァァッ!』
−あの楽しい時間は……訪れないのか……。
「……お燐、お空」
そうだ……
「「はい!」」
こんな世界……。
「これから私にちょっとした考えがあるんだ。聞いてくれる?」
「もちろんです!私達は貴女にどこまでもついていきます!」
全部壊しちゃえばいいんだ
『俺は予め用意しておいて体がある……そいつに入ってお前に色んな命令を下す……逆らえばあいつら二人がどうなるか……わかるな?』
『さあ、今日から俺達は兄妹だ……よろしく頼むぜぇ……クク、ヒヒヒ……!!ヒャーッハッハッハ!!』
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「……」
「…これで、話は終わり」
「……貴女はあいつに体を無理矢理取られたのね……」
「…あいつさえいなかったら……こんなことにならなかったのに……」
「……悔やんでも仕方ない……今はあいつをどう倒すかを考えるんだ」
「…うん」
「……」
そんな過去が、あったなんて……。
「フランドールは私じゃないってことにいち早く気づいてくれてたよね。どうして、わかったの?」
「……初めから違和感はあった。けど、今日直接攻撃を受けて確信に変わった。それだけだよ」
「……」
「以前、貴女と戦った時……あの時の貴女は貴女だったでしょう?」
「…うん」
「何か、感じが違った。すぐにわかったんだ。前とは違うって」
「……」
「……話してくれてありがとう。本当は、そんな話思い出したくなかったんじゃない?」
「……むしろ逆……忘れたくても、忘れられない」
「そっか」
「……フランドール?」
「なんでもないよ」
……この世界の平穏を壊し、私のお姉様を殺し、この子の幸せを壊し、こいしをこの戦いに巻き込んだ男……。
「……!!」
−その時のフランドールの顔は……
怒りで染まっていた。
To be continue…




