Dive To Another World
そうだ、過去篇をいい感じに並行世界篇の合間に出せばいいじゃないって思った。
結果がこれ。今までの話の中で一番長くなった気がする笑
「あら、お帰りフラン。散歩は済んだの?」
「お姉ちゃん……」
「…え?」
はっ…!しまった…!
「い、いやちょっとこいしと遊んでて…!その影響だよ」
「あ、ああそう?けど貴女こいしがいないって言って探してなかった?」
「み、見つけたんだよ!そのまま遊んだの。ところで、お風呂って沸いてるかな?入りたいんだけど」
お姉ちゃん、記憶戻ってないんだな……まあさっきまでは私も記憶は戻っていなかったけど。
「ええ、どうぞ。湯船にもちゃんと水は入ってるわ」
「ありがとう。それじゃあね」
混玉のせいで、私の脳に掛かってた封印のようなものが解けたんだろうなぁ。
「ええ」
「……」
今の平和な世界の霊夢はきっと、こんなことはしていないんだろうね……混玉の願いで、別の誰かが過去に私の家族を襲うように仕向けて、あの時のエレナのも別の誰かが仕向けたことになってるんだろうなぁ…。
私も、さっき思い出したって事になっているしな……。
「……フラン」
「なぁに?」
「何があったの?」
何か、じゃなく、何が、か……鋭いなぁ。
「別に何も。ただ、今日は早く寝たいだけ」
「…そう。ならいいわ」
……こう言うものの、お姉様は私の事を監視するだろう。蝙蝠を使って。
「それじゃあ……お風呂入ってくるよ」
「ええ」(……おかしいわ)
−今、フランにお姉ちゃんって呼ばれて、凄く懐かしい気分になった……まるで、以前もそう呼ばれていたみたいな…そんな感覚。
「……」
お姉様、何か悩み事でもあるのかな……っと、もう既に私の歩いている後ろから蝙蝠がつけてきている。が……あえて気付かないフリをする。
「流水に注意しなきゃ」
混玉から教えてもらったこの記憶。
……正直、驚きが大きすぎるし信じられない。
「んー、いい湯加減。最高」
大体、時を止められる私だって?何だそれかっこいいじゃん…ちょうだいその能力。咲夜の気持ち味わってみたい……
「今日の夕飯は何かなー…」
よくよく考えたら最後の夕飯になるかもしれない。
「今日はいっぱい食べよう」
独り言を言うのは大事だ。今の状況に置いては。
お姉ちゃ……お姉様に見張られてるし。
「……」
と言ってもこれ以上言うこともないし……てきとうに歌でも歌うか…?
「…あー…よそう。私すんごい音痴だし恥ずかしい」
…あれ、今口に出てたかな。もしかしたらさっきまでのも口に……いや大丈夫。きっと大丈夫。
「ふぅー…」
どうしようか…明日にするか、今日の夜にするか……。
誰にもバレないようにってなら今日の夜がいいかな?
いやでも私の部屋の隣がお姉様の部屋だしな……。
…決めた。今日の夜、屋上でやろう。
「ふー、いいお湯でした」
若干流水に当たっちゃって怪我したけどまあ、これくらいなら平気だ。
「さてお姉様、そろそろ監視はやめてくれないかな?」
「…気付いてたんなら何で言わないの」
「私の裸体には満足したかしら?」ニヤニヤ
「こ、こんの、生意気な妹っ…!」
と言いつつもお姉様…鼻から愛情が出てるよ。とっても赤い愛情が。
「とりあえず鼻血拭きなよ」
「はっ!?鼻血なんて出してたの!?私!?」
「お姉様は変態だね」
「ちゃう!別にフランの裸体に興奮したとかそんなんじゃない!」
「あっそう?なら何で鼻血が?」
「これは…あれだ。デザートのチョコを食べ過ぎたんだ!」
「ふーん…」
「……ごめんなさい」
「…ぷっ、ふふふっ」
「!」
「ふふっ、あははは」
面白くてつい、笑っちゃった。お姉様は相変わらずだなぁ。
……混玉の記憶の通り、”お姉様”は何も変わっていない。
「……」(ああ……
この子はこんなに立派になったのね……家に行ったら私に甘えてくれた頃が懐かしい……?あれ…?フランは昔から私達の家族だったはずよ……なのに何で家に行ったら…………)
あ……
−『また来てくれたの?お姉ちゃん!』
−『ねえ、遊んでよー!お姉ちゃん!』
−『お姉ちゃん!』
「…………」
「…お姉様」
「なぁに?」
「今日さ、色々と話したい事があるんだ」
「…そう。私もよ」
…?急に冷静になったような……お姉様らしくない。
「……お姉様…だよね?いつもの様子が違うよ」
「さあ、どうかしら。もしかしたら”お姉ちゃん”かもね」
え……
「い、今なんて……」
「……」くいっ
親指を斜め上にして、くいってした。
屋上行くぞ、って意味だろう。……そんなことより……。
「……」
「……さっきの言葉の意味だけど……」
「!」
「貴女には今まで辛い思いをさせてしまったわ。記憶、とっくの前に思い出してたでしょう?フレア」
「……いいや、私も今日、今さっき思い出した」
「!そうなの。……それでも、ごめんなさい」
「……記憶が戻ったのなら……聞きたい事があったんだ」
「…何?」
「どうして私を吸血鬼にしたの?どうして私の名前を変えたの?」
「……貴女を吸血鬼にした理由は……」
お姉ちゃんは少し黙り込んで、私の目を真っ直ぐ見つめて話し始めた。
「今から何年前の話になるかしらね……五百年くらいかな?」
「そう、だね。大体それくらいだよ」
「……今まで私達が見ていた記憶は、全てあいつの記憶変換による捏造だったようね」
「……うん」
「……少し、ショックね」(ハロウィンの日に、私が思い出してた記憶。あれも偽物の記憶なのね)
「……うん」
「……でも、一つ確かなこと。”エレナ”は確実に実在していたということ」
「うん…!」
「どこまでが本物の記憶なのかわからないけど多分、エレナが館に来て、そしていなくなる時までの記憶は本物なんでしょうね」
「……そっか……」
「話を戻すけど……覚えてる?貴女が私と初めて会った時の事」
「……うん、覚えてる。ふふっ」
「あの時の貴女、とっても可愛かったわよ……もちろん今もだけど」
「ありがとうお姉ちゃん。あの時のお姉ちゃんは本当は何歳くらいだったの?」
「さあ……今の年齢が500ぐらいだからねぇ……」
「私より”五つ”上だったよね、お姉ちゃん」
「そうね。今はフランが吸血鬼になってから490年くらいだったかしら?」
「うん。だから500から505の間だと思う」
「そうね。…お姉様としての私は三つ上。本当は五つだったわね」
「うん」
「……」
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495年前…
「レミィ、あんまり遅くまで散歩はするんじゃないぞ。四時までには帰るようにな」
「はーいお父様」
「気をつけて行ってくるんだぞ」
「はい!」
私はまだ生まれたばかりだった。
けど、吸血鬼と吸血鬼の間から生まれた純血の吸血鬼には、とある特性がある。
親の記憶が、一部引き継がれる。
だから生まれたばかりでも吸血鬼は血を吸うし、戦闘能力も高い。たとえ二歳の子供でもそこらの妖怪には負けることはない。
私の親は、吸血鬼の中でも比較的温厚だったのだ。
血はそんなに多く取る必要がない為、動物の血をちょっとだけもらって吸っていたりしていた。
街の一部の人間からも慕われていて、時に街に招待されることもあった。その度、お父様は断っていた。
”自分が行けば、周りの者たちが怖がる”……そう思ったからだとお父様は言う。
だから、私は今まで街を見たことがなかった。
だから、散歩の許可が下りた時はとても嬉しかった。
そして私はここで、運命の出会いをする。
「うおぉー…!」
街は、もう夜の八時だと言うのにどこもとても賑わっていた。
辺りを見れば人、人、人である。
私は人間はとても優しいとお父様から聞いていた。
一応羽をしまってはいるものの、羽を出してもお父様の名前を出して娘だと言えば優しく接してくれるだろう。
「一人でどうしたんだいお嬢さん」
「わっ!?」
急に後ろから話しかけられて驚いた。
後ろを向くと、少し老け気味のおばさんが立っていた。
「あ、えーと……お父様からお使いを頼まれたんです!」
「へー、その年でしっかりものだねぇ!どこに行くんだい?案内してあげようか?」
「あ、大丈夫です!場所はちゃんとお父様から聞いているので」
「おやおや、そうだったか。なら余計なお世話だったかな?はっはっは」
「そんなことありませんよ!心配してくれてありがとうございます!」
「本当にしっかりものだねぇお嬢さん。そんじゃ、気を付けてな」
「はーい」
実は今のは完全に嘘。お父様がそう言えば何とかなるって言っていたからね。
その時だった。
「なぁーフレアー。これからどこいく?」
「何処でもいいよ!ヒロト君は何処か行きたいところとかある?」
そんな会話が聞こえてきた。声は二つともとても幼い。子供だ。自分と同じくらいの子供が、イチャイチャしているんだ!と思ってとても驚いた。
「どんな子だろう………!?」
私はフレアと呼ばれる少女を見た時、こう思った。
私やお母様にそっくりだ、と。
「ん?」
その時、こちらの視線に気付いたのかフレアと呼ばれた少女がこちらを見てきた。
「どうしたフレア?……ん?」
「……こんにちは、貴女達、何歳くらいなの?」
「私達は今は五歳だよ!」
とても可愛らしい笑顔でそう言った。
「…何かあんた、フレアに似てるなー」
私はヒロトという少年に何か違和感を感じた。が、ここでは気にしなかった。
ヒロトは私よりも若干身長が低い。
フレアは、私の鼻の辺りぐらいの身長だった。
「……そう。私もそう思ってたところ。ちなみに私は七歳よ」
ちょっとだけ盛ってみた。
「へー!じゃあお姉ちゃんだね!」
「お、お姉ちゃん…?」
「うん。私達よりも年上でしょう?」
「ま、まあね」
この頃のフランは、とても素直で明るい子だった。
今のフランは、いい意味で素直じゃなく、知的で冷静なかっこいい系の子になった。
けどまだ何処となく可愛さは残っていて、甘えてきた時とかは結構やばい。手を出しそうなくらい。
……話の路線が桃色になってきたので変える。
「貴女、名前はフレアっていうの?」
「うん。フレア・ランドル!」
「貴女は?ヒロトって珍しい名前ね」
「俺は日本人なんだ!こっちでは東洋人って言うのか?」
「え、貴女東洋人なの?」
「おう!磯崎 大翔だ!」
「よろしくね、お姉ちゃん!」
そう言って、フレアは握手を求めてきた。
「え、ええ」(握手なんて初めてね……。)
今まで私は館から一歩も出た事がなかった。だから、他人との触れ合いはこれが初めてなのだ。
フレアの手を握った瞬間に、とても暖かい温もりを感じた。こんなこと今までなかった。何もかも初めてだ。
「……」
その時フレアが、難しそうな顔をする。
「……どうかしたの?」
そこで私は気が付いた。私は吸血鬼、恐ろしい程低音なのだ。お父様の手は暖かい。それは、体が完全に馴染んだ証拠らしい。吸血鬼は生まれたばかりの頃は体は馴染んでおらず、本来の力を発揮できない。
多くの血を吸う事で、体が徐々に馴染んでいくのだ。
そして完全に馴染んだ時、本来の力と”体温”を手に入れられる。人間に溶け込んで血を吸う為らしい。
かつて若い時のお父様が吸血鬼について深く知りたいと考え、書斎で色々と調べている記憶がある。
それのおかげで吸血鬼については色々と詳しかった。
例えば弱点の、流水は火で焼かれる感覚に似ている、銀は針が深く刺さる感覚に似ている、にんにくは毒を呑んだ感覚に似ている、太陽は全身を業火で焼き尽くされるような感覚等……。
どれも想像しただけで痛い。弱点を克服しようとお父様は奮闘したらしい。その甲斐もあり、銀とにんにくと十字架は克服できたらしい。私はお父様の体質のおかげで十字架と銀は効かない。他の弱点を克服しようとは思わなかった。痛い思いは御免だ。
「お姉ちゃん、これから何処に行くつもりなの?」
「え?えーと…特に行くあてはないわね」
「ならちょっと私とお散歩しましょう!」
「えっ?」
「えー!俺は?」
「ごめんねヒロト君…また明日あそぼ」
「ちぇ、わかった!そんじゃあなフレアー!」
「うん!バイバーイ!」
ヒロトが走っていった。
「…あの子貴女の彼氏?」
「…さあ、どうだろう。今は違うと思う」
「…?」
フレアの雰囲気が、大人っぽくなった。
「さあ!散歩行こう!」
「え?あ、ええ」
そうして私はフレアと散歩に出掛けた。
少し歩いて、フレアが話しかけてきた。
「……お姉ちゃん、吸血鬼でしょう?」
「…!!」
「やっぱり……けど噂されてるこの頃現れた悪い吸血鬼ではなさそう」
「…どうしてそう思ったの?」
「手が冷たかったのもそうだけど、普通の人から感じる何かとはまた違うものを感じるの」
「…感じる何かって、何よ?」
「こう、もやもや〜っとしたもので、人の中から感じるの」
その説明を聞いて、私は驚いた。
魔力だ。フレアはこの歳でもう既に人の魔力を感じ取る事が出来たのだ。
といっても、常人から感じるものは生気のようなもので魔力ではない。
「私からはどんなものを感じたの?」
「何て言うんだろう……何か、トゲトゲしてるような……そんな感じ」
「……へえ」
やっぱり吸血鬼は邪悪な種族らしい。
感じるもの……即ち魔力の質によって邪悪度が判断できるらしい。たとえば普通の人間。さっきフレアが言っていたようにもやもやしている。若干邪悪なところがあるということだ。
次に、動物。魔力を感じ取る事ができる者は、はっきりと感じる事ができる。何かの球体が動物の内側にあるような、そんな感覚だ。
純粋そのもの、という意味である。
そして次に、妖怪。これはフレアが言っていたようにトゲトゲしたものが多い。いい妖怪は人間に近いもやもやしたものを感じるのだが、邪悪な妖怪はとても鋭利なものを感じるらしい。私も、お父様からはその鋭利なものを感じた。
「でも何だろう」
「ん?」
「お姉ちゃんからは悪い人って感じはしないんだ」
「……へえ」
「私、悪い事考えてる人のも何ともなくわかるんだけどね?その人とはまた違った感じなんだ。感じるものは同じ。だけど少し違う」
「…?」
「んー、どう言えばいいのかな……お姉ちゃんから感じるのは単純にトゲトゲしてて、触りにくそうというか……」
「うん」
「でも悪い人から感じるのは、すっごくトゲトゲしてて触りたくない、危ないって感じのものを感じるの」
「……」
この子は将来必ず大物になる。直感でそう思った。
きっと妖怪退治系の職業に就くのだろう。その時、私と貴女が対峙することになったら……と、色々想像しているとフレアが話しかけてきた。
「ねえお姉ちゃん」
「ん?」
「どうして妖怪と人間は争うのかな」
「……そうね、人間からすれば妖怪はただの化け物だから……きっと自分達と姿の違うものを受け入れたくないんだと思うわ」
「でもそんなの、自分勝手すぎるよ!」
「そういう生き物なのよ…人間は。貴女もそうなのよ?」
「私は違うもん!」
「!」
「私は妖怪の人達とも仲良くなりたいよ!」
「……」
「それに思うんだ。もしも妖怪と人間が一緒に暮らせたらきっとそこは楽園になるって!」
「…どうして?」
「妖怪の種類によって色んな事ができるんでしょ?その種類に合った仕事を見つけて人間の手伝いをする!そして人間は妖怪達に食料は居住地を与える!それでみんな平和に暮らしていくんだ!」
この年でこんな事を言うのか、と感心した。視野が広いというだけでなく、博識でもある。その上に心優しい。この調子で行けば、本当に大物になるだろう。
「お姉ちゃんもそう思わない?」
綺麗な碧い瞳がこちらを見つめている。
「……そうね。きっと楽園だわ」
「でしょ?でしょ?だからさ、お姉ちゃん。私達が大きくなったら……今から行く場所で再会しよう!」
「え……」
「ほら、ついてきて!」
「え、ええ……」
−積極的な子だな…。
「ここは……」
「いい眺めじゃない?」
「ええ……とても綺麗だわ」
街のはずれの公園。そこは辺りに緑が生い茂っていて整備されていないものだとわかった。
私たちはその公園の滑り台の上に登っていた。
街より標高が若干高いようで、様々なライトが光る、色鮮やかな夜の街が見えた。
「私ね、ここの公園が何故か好きなんだ」
「…!へえ、どうして?」
「何故かここ、とっても落ち着くの」
「…ふぅーん…」
私はあえて何も言わなかった。
フレアの周りに、多くの幽霊が漂っていた。
が、その幽霊達はフレアの周りに漂い、まるでフレアを守るように覆い被さっていた。
どうやら、私の事が気に入らないらしい。
「……そっか。お姉ちゃんも見えるんだ」
「……え?」
「私にも見えるよ。幽霊さん」
「……う、嘘でしょ?貴女の歳で見えるわけが…」
「嘘つく理由ある?それに、何でそんな的確な嘘つけるの?私は心は読めないよ」
フレアが右手で幽霊の手を握っていた。
手を握られた幽霊はいつも通りだと言うように微笑んでフレアの顔を見ている。
「……!」
−驚いた……この子、私よりも素質があるのかもしれない……。
ただの人間の体なのに、この歳で既に霊力の塊である幽霊が見えている。それもはっきりと、しかも触れられる。
こういうのを天才、とでも言うのだろうか。
「幽霊さん、この人は悪い人じゃないからさ……大丈夫だよ」
「…なっ…」
そう幽霊に語りかけると、幽霊の表情は少し寂しそうになった。
「ああ……私に構ってもらえなくなるのが嫌だったの?」
幽霊が頷いた。
「大丈夫だよ……私は幽霊さんの事もちゃんと見てるから」
「……!」(す、凄い……普通この歳の女の子が幽霊と会話なんてできるはずが……)
幽霊はそっとフレアから離れた。
「……ごめんね、お姉ちゃんを少し試してみたかったんだ」
「!」
「普通の人間とは違う私を見て、お姉ちゃんはどう思うのかなって……」
「……」
「私ね、嫌われものになるのが嫌でずっとこの事友達に隠してきてるんだ。……といっても、私がこの力に気付いたのは最近だけど」
「貴女、まだ隠してることあるでしょう」
「……どうしてそう思うの?」
「さっきから、その左手を使っていないもの」
そう、フレアはここに来るまでもずっと左手を使おうとしなかった。握手の時も、ヒロトに手を振った時も幽霊の手を握る時も全て右手。
私と話す時も左手は隠して喋っていた。
「…お姉ちゃん」
「ん?」
「逃げて」
「…え?」
パァン
「……はっ?」
一瞬の出来事だった。
私の左腕が、消し飛んだのだ。
「…あっ……あぁああ…!」
フレアが左手を抑えて泣いている。
「…あっ……!!」
私は手が消し飛ぶなんてことを体験したのは初めてだった。だから、痛みに耐えられなかった。
滑り台から、転げ落ちてしまった。
「あぁああぁあああ!!」
「お姉ちゃん!!…くっそ…くそ!!」
フレアは自分の左手を滑り台の手すりに思い切り叩きつけていた。
「ぐうぅう…!……!?フ、フレア…何を…!」
「お姉ちゃん!!いいから逃げて!!」
「……!」
そこで私は気付いた。
「……悪霊…?」
フレアの手にドス黒い何かが取り憑いていたのだ。
そしてもう一つの隠し事。それは……
「…貴女も、何かの能力を……!?」
「何で今になって…!!出てこないでよ!!」
「……まさか…」
−あの左手に秘密が…?
「お姉ちゃん…早く逃げてよ…!」
「……もしかして貴女、ずっと左手にそいつがいたの?」
「いつもは抑えられるんだ…なのに何で今日に限って…!」
「……」
フレアは、泣いていた。
きっとこの悪霊に取り憑かれたのも最近なんだろう。
左手を使おうとしなかったのは、左手を使おうとすると取り憑いてる奴が目を覚ましてしまうからだった。
私が余計なことを言ったせいで、そいつは目を覚ましてしまったんだ。
「私、もう……誰も傷付けたくないよ……」
「…フレア…」
フレアはとても辛そうな顔でこちらを見つめている。
そして、弱々しい声で、寂しそうな声でこう言った。
「おねえちゃん……」
「逃げて……」
私は気付くと走り出していた。
その時、羽も服から飛び出してしまった。
「!!お姉ちゃん!!」
「黙ってなさい!!」
−確か悪霊退散にはこの札がいいんだっけ…!
パァンッ
片翼が消し飛んだ。
「お姉ちゃん!!」
パァンッ
続けて、もう片方も。
けど代わりに、左手は再生した。
「あ、あぁあ……いやっ……いやぁあ!!」
フレアが自分で自分の手を切ろうとする。
−ナイフなんて持ってたのね……この為に。
ガッ
私がフレアの左手を掴んだ。
「…こんな可愛い子にこんな思いさせるなんて……あんたは最低な奴ね」
私は札をフレアの手に貼り付けた。
すると、フレアの手に取り憑いていたドス黒い何かは消えていった。
「…ふぅー……何とか生きてるわ」
「……お姉、ちゃん……なんで……さっき知り合ったばっかりの……私なんかの為に……」
フレアの顔は、涙でぐしゃぐしゃである。
「…ったく、自分の手を切ろうとするなんて……貴女本当に五歳?…何か、貴女は放っておけないのよ。私にそっくりだからかしらね」
「……」
フレアは私の胸に顔を埋めて泣いていた。
「…貴女、この力と悪霊に自分で気付いたのね。だから毎日必死に抑えてた……それが辛くなったらここに一人で来て、殺してしまう心配のない幽霊達と話して心を落ち着けてたのね」
「……お姉ちゃん……!」
「…よく頑張ったわね、フレア。貴女は本当によく頑張った。ずっとずっと、一人で抱えて、我慢してきたのね。でも、もう大丈夫」
「…うぅっ…」
「私がついてるよ……」
「うわあぁぁぁぁぁん…!!あぁああぁあああっ……!!」
「よしよし……」
まるで、妹ができたみたいだな…と、そう思った。
「すー……すー……」
「…あらら、泣き疲れて寝ちゃったか」
−この子の家に送ってあげたいけど、わからないな……。
「…今何時だろう?」
時計は、九時の三十分頃を指している。
「さっきまでの出来事はほんの数分だったのね……凄く長く感じたわ」
「……ん……」
「あら、お目覚め?随分早いわね」
「……お姉ちゃん……私、寝てた…?」
「ええ。何ならもうちょっと寝ててもいいけど……」
「だ、駄目だよ……迷惑かけちゃう」
「そう……なら家まで連れて行ってあげるわよ」
「え、で、でも……」
「いいからいいから。さ、乗りなさい」
−背中におぶって行ってあげよう。道を先に聞かないとね。
「…ごめんね、お姉ちゃん」
「貴女は何も気にしなくていいのよ」
−羽の再生は今は止めておきましょうかね。
「道は?」
「この通りをまっすぐ……それから……」
「…すー……すー……」
「…あらあら、可愛らしい寝息ねぇ……」
私は、この子の力になりたいと、そう思った。
たまに家に出向いてみようかな……。
「…これはまた随分豪華な…」
フレアの家は豪邸だった。
と言ってもやばいほどの豪邸ではないけど。
コンコン
ダバダバダバ…!
あれ、何この音…と思っていると…。
バァンッ
「「!?」」ビクッ
−あ、フレア起きちゃった。
「フレアか!?」
「お、お父様?」
「心配したんだぞ!こんな時間になっても帰ってこないんだから…!」
奥の方にある時計を見ると、既に十時を回っていた。
「あちゃー…少しゆっくり行き過ぎたかしら…」
「そういえば君は……」
「……名前、聞いてなかったね。お姉ちゃん」
「そうね……私の名前はレミリア・スカーレット。別に覚えてくれなくてもいいわ。はい、お父さん。フレアはベンチで眠ってたわよ。きっと寒かったのでしょうね」
「君がフレアをここまで連れてきてくれたのか……お礼がしたいんだが、いいかい?」
「いや、いいわ。私はそんな柄じゃないし」
「いや、しかし……」
「お礼は”お預け”ね、お姉ちゃん」
「!」
「また来てね」ニコッ
「…ええ、必ず」
フレアは、笑って私にそう言った。
きっと、自分の抱えていた悩みが消えて気持ちが楽になったんだろう。
「絶対だよ!」
「ええ!」
私の中に芽生えたこの感情は、多分家族愛とかそういう感じだろう。何故か、フレアの事は放っておけなかった。私は痛い思いをするのは嫌いだ。すぐに逃げ出してしまう。
けど、あの子の事になると別だった。
「おかえりレミィ。随分早かったな」
「うん」
「……どうやら、良い思い出が作れたらしいな」
「…うん
とってもいい思い出ができた」
それから私はフレアの家に通うようになった。
あの子といると、とても楽しい気分になるんだ。
「お姉ちゃん!また来てくれたんだ!」
「ええ。今日も私と遊んで大丈夫なの?」
「…ヒロト君ね、日本に帰るんだって」
「…え」
「お父さんの外国での仕事が終わったらしいの。だから、元々の家に帰るって」
「……そうなの」
「少しの間だったけど、色々楽しかったなー……ヒロト君との日々は一生忘れない」
「……ふふ、そうね」
内心私は喜んでしまっていた。これでフレアとの触れ合いの時間が増える、そう思った。何故かヒロトは夜に遊びに来ることが多かったらしい。
だがその日、フレアの運命を大きく変える事件が起きた。
「お姉ちゃん、そういえばこの時間帯にきて大丈夫なの?」
「どうして?」
「だって、吸血鬼でしょ?」
「…ああ、フレアは知らないのね」
「え?」
「実は私、多少の日光は問題ないの」
「へえ!そうなんだ!」
「日傘をさせば普通にこの時間帯でも散歩に出られるわ。お父様が魔力で傘を丈夫にしてくれてるし、まず死んでしまう心配はないわね」
「なるほど…でも一応気をつけておいてね?傘が風で飛んでいっちゃったりしたら大変だよ?」
「ええ、わかってるわ」
「最近は学校も休校になってね……この前吸血鬼に襲われたらしくて……」
「ふーん……」
「…違うよね?」
「そりゃあね。私は人間の血には興味ないもの。…それより、らしくてって?貴女もいたんじゃないの?」
「……その時私学校休んでてね」
「あら、そうなのね」
「……友達も、死んじゃったらしいの」
「…!」
「私もとっても驚いたよ。友達が死ぬなんて、想像もしたことなかったから」
「……ごめんなさい、この話はおしまいにしましょうか」
「…うん」
フレアもきっと辛いだろう。笑っているのは心配をかけまいとしているからだ。
「…何して遊ぶ?」
「今は家で遊ぼう。お姉ちゃんが危ないから」
「…ありがとう」
そして時間はあっというまに過ぎた。時折フレアの両親がお菓子を出してくれたりして、とても楽しい時間を過ごした。
「ねえ、お姉ちゃん」
「ん?」
「今日さ、ちょっと学校の方に行ってみたいんだ」
「夜の学校には近付かないようにって言われてるんじゃなかったの?」
「うん、そうなんだけど……今学校はどんな状態なのか気になってさ」
「わかったわ、私から離れないようにね」
「うん!ありがとうお姉ちゃん!」
私達はフレアの通う学校へ向かった。
学校に着いたはいいものの、何故か辺りは真っ暗で学校の様子は見えそうにない。
「おかしいなぁ…いつもはこの辺は明るいのに」
「そうね……どうしたのかしら」
「もしかしたら吸血鬼に見つからないように電気消してるのかもね」
「あ、なるほど。その可能性高いわね。吸血鬼は千里眼並みに見えるらしいし」
「センリガン?何それ」
「東洋には千里眼って言って何千メートルもの遠さのものが見える目があるらしいわ」
「へえー!凄いなぁ、そんな目欲しいなぁ」
「そうねぇ。まだ私も幼いから千里眼ほどは見えないわ」
「…え、あれって…?」
「ん?…!ヒロトかしら?」
向こうの方に、ヒロトらしき人影が見えた。
「どうしてこんな時間に…」
「ヒロト君って、太陽光アレルギーらしいの」
「太陽アレルギー?そんなのあるの?」
「何でも太陽の光に当たるとジンマシン?がでるらしいの」
「蕁麻疹なんて言葉よく知ってたわねヒロトは」
「ジンマシンって、痒いんだって?」
「ええ。とっても痒いわ」
そんな会話をしていると、ヒロトはこちらに気付いた。
「フレアーー!」
「ヒロト君!やっぱりヒロト君だったんだね!」
ヒロトが暗闇から走って出てきた。
「おう!最後にお別れがしたくてさ…」
「ふふふ、ありがとう!」
二人はとても楽しそうに会話をしていた。
私だってそんな独占欲が強いわけじゃない。
むしろ、フレアが嬉しいのならそれでいい。
「その、約束守れなくてごめんな」
「いいよ全然!」
「今日は何でか知らないけど明かりが少なくて顔がよく見えないけど…今まで色々とありがとうな!俺、お前のこと忘れないよ」
「うん!私も!また、何処かで会いたいね!」
「ああ……会いたいな」
二人の会話が聞こえる。やっぱり、幼い子供の友達同士の会話は聞いていて和むものね。
「私もいつか日本に行ってみたいな〜…行けるようになったら絶対行くよ!その時は、磯崎大翔って名前全力で探すね!」
「ああ……」
ヒロト、今日は素っ気ないわね。何でかしら?
フレアもどうやらそう感じたらしいわね。
「…ヒロト君今日はあんまり元気じゃないね。やっぱり、寂しいかな……」
「ああ……寂しいよ。今日でお前と会えなくなる」
「…でもまたいつか会えるよ!その時まで、楽しみにしてよう」
「いや、会えないよ」
「え?」
「お前とはこれでもうさよならだ」
……ヒロトの声が、違うような……。
気になって振り返った時、私は驚愕した。
「ヒ、ヒロト君!?」
ヒロトの身長がフレアの二倍はあるように見えるのだ。
「俺はお前の全てを手に入れたい……だからぁ!!」
そして私は、そこで悟った。どうやらフレアも、悟りはしたが信じられない様子だ。
「俺にお前の血を寄越せ!!」
ヒロトが、学校を襲った吸血鬼だったのだ。
「ヒ…ヒロトくっ…」
フレアを抱きかかえて、私は全力で逃げた。
ヒロトの顔が、空に浮かぶ満月によりよく見えた。
まさに、悪魔そのものだった。
「…あれが、ヒロト君…!?嘘、嘘だよ…!」
「どうやらあいつの貴女への好意は本物のようね……だけど、奴は少し頭の方がぶっ飛んでるみたい。貴女の血を吸い尽くして、それで貴女の全てを手にしたつもりになるらしいわ」
「……じゃあ、ヒロト君は吸血鬼だったっていうの…!?だって、親だってちゃんと見たことあるのに…!」
「…多分、多分だけど……あの感じは生まれて間もないって感じじゃないから、あいつは何十年と生きてきた奴なのよ……本物のヒロトは奴に殺されたんだわ……そして、ヒロトの体を奪ってその体に入って両親を騙してきたのよ……ここに留学した時はまだ、ヒロトだったのでしょうね……」
「……そんな……」
「これであの時の違和感の謎も太陽アレルギーの原因もわかったってわけね……でも、あいつが吸血鬼だったなんて……」
「じゃあ……私と遊んでくれたヒロト君は、偽物…?」
「…そうなるわ」
「……そんな……」
「大丈夫、貴女は私が守るわ…!」
「……うん……」
その時、後ろから声がした。
「フレアァァァ!!」
「ひっ…!」
「大丈夫よ!怖がらないで」
「う、うん」
「俺はお前の全てを……その力を!体を!!手に入れたい!!」
「…!!」
「お前にはその力は扱えない!!だからぁ!!俺が貰う!!そして!幼くもその色気のある体!!俺はそいつも欲しいんだ!!」
「……ヒロト君……!」
「俺は誰よりもお前の事を理解してる!!お前の事を愛している!!だから共にあり続けよう!!お前は俺の力として!!俺はお前の体として!!」
「貴様は黙っていろ!!この下衆野郎!!」
「…あぁん?」
「お、お姉ちゃん…!」
「お前のような奴がいるから妖怪と人間が共存することができないんだ…!!邪魔なんだよ!!お前みたいな奴がいなければ!!きっとこの世界は楽園なんだ!!」
「…なんだぁ…?お前吸血鬼だったのか…!その翼…!いいねぇ面白くなってきた!!久方ぶりに暴れられるぜぇえ!!」
「倒せるものなら倒してみなさい!!下衆野郎!!」
「お姉ちゃん!!」
「フレア、ちょっと待っててねすぐに片付けるわ」
私はフレアにそう言うと、奴に突っ込んでいった。
「お前、あの子の体に馴染む為に何人の血を吸い取った…!!」
「…お前は…今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」
「……貴様…!」
「ほぉれ!!隙だらけだぜーッ!」
奴が服のポケットからナイフを取り出し、私に向けて投げつける。
ちなみに奴の服装は今で言う仮想の時に着られるような、あんな感じ。いや、なんて言ったらいいかわかんないんだよ。ほんとに。
「おっと!」
「おぉっと!」
「!?」
ナイフを軽々と躱すが、既に目の前に奴がいた。
「オォラッ!!」
「くっ…!」
さらにもう一つナイフを持っていたようだ。
私は右腕を盾にした。右腕に突き刺さる。
「お姉ちゃん!!」
「ふんっ!!」
左手の爪を立てて、奴の顔めがけて振るう。
が、軽く躱されてしまった。
奴が私と距離を取った。
「ヒャッハーッ!!弱いねぇ!!お前まだ数年しか生きてないんじゃないのぉ〜!?」
「だから、何よ!?」
「そんなちっぽけな小娘が俺様に勝てると思ってんの!?っはぁ〜!無ー駄無駄!やめとけって!」
「喧しい奴ね…!そんな大口叩けるのも今の内よ!」
「そりゃあこっちの台詞だよぉ!!お前は自分の力量ってもんが全くわかってねえ!!お前!今普通に右腕でナイフ受け止めたけど、その馴染んでない体でいつまで再生能力が持つかな!?」
「甘く見られたものね!!私はあのスカーレット家の娘よ!!」
「…!!そうか、てめえあの最強の吸血鬼と名高いスカーレット家の……通りで…ふぅ〜ん…くっくっく。んまぁ、もう終わってるよ。親と違って不注意な娘だ」
「……なっ…!?」
急に力が抜けて、地面に座り込んでしまった。
「毒って知ってっかぁ?それをそのナイフに塗ってたのよ!はっはーーッ!そんなことも考えられねえようじゃまだまだお子ちゃまだねぇ!!」
奴がゆっくりと私の方へ近づいてくる。
「さあ、血を吸わせてもらうぜぇ!!」
奴が右手を私の首めがけて突き刺そうとする。
「…ッ…!」
しかし、いつになっても手が首に刺さる事はなかった。
「…はあっ?」
奴の手が、消し飛んでいたのだ。
「…っんだよこれ…はっ!?何だよこれぇ!?」
その時、私の後ろから足音が聞こえた。
「お姉ちゃんを」
私の頬を何かが横切った。
それは、フレアが持っていたナイフだった。
フレアの顔が、怒りで満ちていた。その顔は、私すら恐怖してしまうほどの顔だった。
「…!?」
それは、奴の眉間を捉えていた。
「いじめるな」
「うぎゃあああああ!!ぎ、銀じゃねえか!!何でだ!!」
「フレア…!」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
心配そうな顔で私に駆け寄るフレア。
さっきまでの顔とは大違いだった。
「え、ええ、大丈夫よ。私の体は毒を勝手に治癒してくわ」
「そっか…よかった…お姉ちゃん、ありがとう。私のために戦ってくれて」
「いいのよ。貴女は私の妹みたいなものだし」
「ふふ、そっか!嬉しいよ」
その時だった。
ドスッ
「…えっ?」
「…あっ…!」
フレアの胸に、何か刺さっている。
「この糞ガキ……さっきまでは好きだったが…てめえの事は嫌いだぜ」
「…がふっ」
「フレアァーーッ!!」
フレアが、私に凭れ掛かった。
とても弱々しい息をしている。今にも息絶えそうな、そんな感じだ。
「フレア…フレア!!」
「…お姉、ちゃん……」
「フレアァ…!どうすれば、どうすればいいの…!?」
私は誰かが目の前で死ぬなんて体験はしたことがなかった。延命措置などできるはずもなかった。
「おめえもやかましいぞ…!やっぱ生き血を吸うのはやめだ……全員ぶっ殺す」
「……逃げて、お姉ちゃん……」
「貴女を置いていけないわよ!!」
「……私はどうせ、もう……」
「うるさい!!黙ってなさい!!」
「……お姉ちゃん……私、お姉ちゃんと会えてよかった……お姉ちゃんが一緒に居てくれたから……寂しい思い全然しなかったし……」
「…フレア…?何を、言ってるの…?」
「お姉ちゃん……寒いよ……どうしてかな…?お姉ちゃんに抱きしめてもらってるはずなのに」
私はフレアを抱きしめていた。強く、強く。
「……フレア…!!」
「……苦しい……寒い……寒い…よ…お姉…ちゃん」
「フレアァ…お願い、死なないで……貴女は私の希望なの…!私が真の意味で歩き出せたのは貴女のおかげなの…!だからお願い、死なないで」
「……これが、死ぬっていう…事なんだ……こんなに、寒くて辛くて苦しくて、寂しいんだね……」
フレアの体が、徐々に冷たくなってきた。
「あ、ああぁあ……!!いや……」
「もう…お姉ちゃんと遊べないんだね……」
「いやぁあああ…!!フレアァァァ…!」
「……お姉ちゃん、わたしのこと、好きだった……?」
「…ええ、大好きよ。愛しているわ…フレア」
「……うれ、しい……」
「…フレア…?」
フレアの体が、冷たくなった。
「フレア!!」
返事はない。
「…嘘、でしょ…!?ねえ、フレア!!起きてよ!!」
返事は、ない。
「……ぁあぁぁああぁああぁあああっ……!!」
「ギャァーーハッハッハッハッ!!やっとくたばったか!!お前の悲痛に歪んだ叫びが聞きたくてまってやってたが……さすがに長いぜぇ!!そんな自分の意思がない軟弱なクソガキになんでそんな懐いたんだぁ?っはー、気がしれねえよ」
「……」
「さあ!!あとはてめえを殺すだけだなぁー!!」
「……フレアを、馬鹿にしたな。今」
「死にやがれ!!このクソカスどもがぁーーッ!!」
「お前がな。下衆野郎」
神槍『スピア・ザ・グングニル』
「…あぁ!?」
ドパァンッ
一瞬でコナゴナだ。奴はもう既に跡形もなく消し飛んだ。
「……」
フレアの遺体の前で私は、ぼーっとしていた。
フレアとの思い出を思いだしていたのだ。
「……フレア……フレア……!!」
−私がもっと、強かったら…!!私がもっと、しっかりしていれば……!!フレアは…死ぬ事なんてなかったんだ……!!
私のせいだ……私の、せいだ……。
どうしてこんな事を思い付いたのだろうと、今でも思う。
私は、恐ろしい事をしようとしていた。
「…貴女を、生き返られる方法……」
私は、自分の手首を少し爪で切り、そこから流れ出る大量の血をフレアに飲ませた。
傷口は塞がった。
フレアは目を覚まさない。
だが、この時点でもう既にフレアは吸血鬼になっているのだ。
「……」
私は、フレアを紅魔館に連れ帰った。
事情はお父様には話さなかった。
吸血鬼の子供が雨に当たって弱っていた、看病したい!って嘘をついた。
私の部屋のベッドで、フレアが眠っている。
−『お姉ちゃんをいじめるな』
あの時のフレアは、一体何を思って破壊の力を使ったのだろう。
「…ん…」
「!フレア!」
「……あれっ…お姉ちゃん…?ここ…どこ?」
「…ここは私の家よ」
「……」
フレアは、どうやら全てを悟ったらしい。
フレアの目の色が、前の碧色ではなく紅色になっていた。
「お姉ちゃんと、同じになったんだね。私」
「……ごめんなさい」
「謝らないでお姉ちゃん。多分だけど、私の両親も殺されてる」
「…えっ…」
「ここからでもわかるんだ。私達が出掛けている間に……街の人はほとんど殺されちゃってたみたい」
「……ど、どうしてわかるの?」
「私は昔からあの街にずっといたから……わかる」
「……」
フレアの表情は、悲しみとはまた違った表情をしていた。まるで、全て吹っ切れたような…そんな表情。
「……助けてくれて、ありがとう」
「……ごめんなさい…」
「謝らないでってば……これが、私の運命だったってことだよ」
「……運、命……?」
「……?お姉ちゃん?」
フレアのその運命という言葉を聞いた時、私は頭に何かがよぎった。
「……何、これ?」
「…お姉ちゃん?大丈夫?」
それは、フレアによく似た子が私の膝上で血塗れになって死んでいる様子だった。
「……お姉ちゃん?」
「…ご、ごめんなさい、何でもないわ」
「そう?」
「ええ」
−何だ…!?今のは…!
「…うっ…」
「!!フレア!大丈夫!?」
「……ちょっと、離れて。お姉ちゃん」
「え?」
すると、フレアの背中から黒い枝のようなものが二本、対になって生えてきた。
「……!!」
その枝から、色んな色の宝石のようなものが発生する。
「……これ、私の羽…?随分特殊だなぁ」
「フ、フレア……貴女本当に……
フレアなの……?」
フレアの顔が、前の可愛らしい垂れ目から釣り目に変わっていた。より私に似てしまった。
「……うん。何か…色んな記憶が頭に浮かんでくる。きっとこれは、お姉ちゃんだけの記憶じゃないね……」
「……フレア……」
「気にしないで。わたしも受け入れるよ……吸血鬼として生きていく」
そういうと、私の部屋を出て行った。
きっと、お父様に挨拶をしにいくのだろう。
「……私は…何て事を……!!」
私は深く後悔した。フレアが羽を自分から生やす所を見て、少し恐怖してしまった。これが、あのフレアなのか…と。
私は、フレアの後を追うように部屋を出た。
「おや、君は…レミィが連れてきた幼い吸血鬼の子だな?」
「はい。レミリアさんには助けられました。是非お礼をさせていただきたいのですが……」
「ははっ、気にするな。レミィはそういうのは気にしないタイプだし、堅苦しいのは嫌いな性格でな。気軽にいてくれて構わないよ」
「そうですか……」
「ところで君、名前は……」
「私の名前は……」
「”フランドール”」
「「!」」
私は一つ、決意をした。これから先何が起ころうとこの子の事を最後の最後まで守り抜く、と。
「この子の名前は、フランドール・スカーレットよ」
「!…ふふ、レミィ。お前も物好きだな。悪いな、私達がお前しか産んであげられなくて」
「いいや、いいのよお父様。おかげでこの子に出逢えたんだもの」
「…?何を言ってるの?お姉ちゃん。私の名前は……」
「フランドール……フランの方が呼びやすいわね」
「…それに…スカーレットって……」
フレア…いや、フランが目じりに涙を浮かべている。本当は泣きたかったんでしょうね……。けど我慢してたのね。
「フラン、今日から貴女は私の妹よ」
「……いいの…?私が妹で……?本当に…?」
「ええ。むしろ、大歓迎よ」
「……お姉ちゃん……!!」
「おいで、フラン」
「…うん…!!レミリアお姉ちゃん!!」
フランが私に抱き付いてきた。これからは、私がこの子を守り抜く。どんなことがあろうと…絶対に。
そしてここからが、記憶が飛んでいた原因。
お父様が、私達が一緒に寝ている時に部屋に入ってきて、こっそり私達の記憶に介入して、枷を掛けたのだ。
「……お前達も辛い思いをしただろう……このことは、忘れるんだ。奴の事も、人間だった事も……」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……」
「…お姉ちゃん、私はこれからもお姉様って呼ぶよ。みんなにこの過去を知られたくないしね」
「…ええ。それでいいなら……」
「だから私の事はフランでお願いね」
「ええ」
「……あとさ」
「ん?」
「私今から少し旅に出掛けるよ」
「……旅?」
「うん。大丈夫、心配はいらないから。必ず戻ってくるよ」
「…そう。わかったわ」
「…それじゃあ……またね」
すると、フランが手で空を裂いた。
「…!」
「……今までありがとう
お姉ちゃん」
「…ええ……
いってらっしゃい」
「……心配するな、とか言いつつ……絶対心配しちゃうような言い方して……」
「……帰ってきなさいよ……フレア」
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「お姉ちゃんも、記憶を取り戻したか……」
−けど、私の記憶と少しだけ違ったな……。
「……懐かしい呼ばれ方だったな……もうどっちが本名かわからないな」
−『いってらっしゃい』
「……行ってきます」
To be continue…




