美しく残酷な世界
「これから、作戦についての訓練をしてみようと思う」
妹紅が、フランを含むみんなを集めて何やら始めようとしている。私、古明地こいしは、私は興味ない、と言った感じでクールに本を読んでいるフランの隣の席に座って紅茶を啜っている。
周りの人達は、みんな妹紅に注目していた。
「まずこの作戦は、敵の戦力を分担させるのが基本となる!」
妹紅が机の上にある大きな紙に何か書いている。
「右側に私や霊夢達、左側に魔理沙やアリス達に分かれて敵を誘い込むんだ」
「誘い込むって、具体的にはどうするんですか?」
今回の作戦には、危険だと言われメンバーから外されていた妖夢。しかし、作戦が成功すれば援軍として駆けつけるらしい。
「誘い込むというよりは、誘き寄せる、だな。フランと古明地こいしの一騎打ちに持っていくために」
「具体的な方法として、奴等は地底全域を支配している。だから、地底のどこかで大爆発でも起こして向かわせるんだ」
「その時に、フランが気付かれないように地霊殿に行って古明地こいしを倒してもらう。それが今回の作戦だ」
「そう上手くいきますかね…?」
「一か八か、やってみるしかない。正面からまともに戦ってもいいけど、まずは一人だけになるように上手く誘き寄せて戦力を分担させて、その後に援軍として数人を呼ぶ」
「そうすれば一網打尽だ。勝てる確率は充分すぎるほどある」
「私らはここを守れって言われたけど……敵がここに攻めてくる保証はないだろ?なら私らも攻めていいんじゃ……」
生き残っている中でおそらく最年長のてゐと鈴仙。
二人の力を信用してここの守りをお願いしたい、とフランが言っていたのを思い出した。この二人も作戦が成功すれば援軍として駆けつける。
「万が一、っていう場合もある。鈴仙とてゐは強くて頼りになるから、ここの守りをしてほしいの」
フランが本を畳んで立ち上がり、本棚に向かいながらそう言った。
「つ、強いだなんてそんな…えへへ」(フランから強いって言われちゃった…やった)
「そ、そんなこと言われても嬉しくないぞ!うへへ」(あのフランから…へへへ)
しかしこの兎共、デレッデレである。
これでほんとに最年長なのか…?
「ところでフラン、お前今朝は顔色が悪いぞ。何かあったのか?」
魔理沙が、本を直し終えて、机に肘をついて顔を手に置いているフランに問いかけた。
「…別に。何もないよ」
フランは素っ気なく答えた。
「…?」
フラン……吸血鬼が顔色を悪くするなんて……そんなことあるのかな?
「……!も、もしかしてフラン…!」
そういえば昨日は、スペルカードをずーっと使ったまま私を誘導してくれていた……!もしかしてそれが原因なのかも。謝らなくちゃ…!
そのまま言おうとすると、フランに口を阻まれた。
「……」しー……
フランが人差し指を口の前に持ってきて、私を注意した。……可愛い。
「…やっぱり何かあったんだろ?」
「何もないの!聞かれたくないからこれ以上聞かないで!」
フランが若干頬を赤らめる。…けど多分これはわざとだろう。
「は、恥ずかしいことなのか?なら聞かないよ」
やっぱりこうするために誘導したんだね。フランが凄く悪い顔で笑ってる。
…頭良いというか、性格が悪いというか……。
「さて、話を戻そう。ね?妹紅」
「あ、ああ、わかったよ。話を戻すが、今日は実践に近い形で訓練を行いたいと思ってるんだ」
「具体的にはどういう?」
「誰かが敵役をしてもらって、私達が全力で誘き寄せる。それで私達が誘き寄せられれば勝ち。誘き寄せられなかったら敵役の勝ちだ」
「?どういう?」
「たとえば……」
ドオォーーンッ
フランが立ち上がって、次の瞬間魔理沙の少し横に立っている。ミニ八卦炉を時を止めて奪ったのかな?
「あっ!私の八卦炉!」
二秒ほど感覚を空けて……
ブンッ
あ、八卦炉投げた。
「何ぃぃぃ!?おい!何やってんだフラン!!割と繊細なんだからなあれ!何か少しでも壊れたら…壊れたら!八卦炉ォォーー!」
魔理沙が八卦炉を投げた方へ凄まじいスピードで走っていった。
ドオォーーンッ
「痛いっ!」
「こんな風に」
フランの手元に八卦炉がある。そして魔理沙がこけていた。
「…ぷっ」
『あはははははは!』
魔理沙を含めて、周りの者達がみんな笑い出した。もちろん、私も。
「魔理沙、ごめんね。貴女には犠牲になってもらったわ……フッ」
うっわぁ…フラン白々しい…笑
「ぷはははっ!お前反省の念こもってないじゃねえかよ!」
「あははは!つまりあんな風に敵役が自然と寄せられると負けなのですね」
「そういうこと」
フランが椅子に座った。
相変わらず教え方までクールだ。けどちゃんと笑えるようにしてくれる。この世界でもフランはかっこかわいいなぁ。
「どうやって誘き寄せるかだが…奴等は自分達の拠点を壊されるのを極端に恐れている。古明地こいしを除いてだがな」
「だから、わざと左右に分かれてその左右で大爆発を起こすんだ」
「なるほど」
「そこでだ。そこからフランが単独で地霊殿に乗り込む。そのフランをバレないように逃がすのは私達の動きにも掛かっている。だから私達も素早く動く練習を……」
「その心配は無用よ」
「え?」
ドオォーーンッ
「私にはこの力がある」
フランが戻ってきている最中の魔理沙の隣に立って、不敵な笑みを見せた。
「うおっ!?フ、フラン。事ある毎に私の隣に来るのやめてくれないか…びびる」
「ごめんごめん」
「毎回の事だろう?一々びびりすぎなんだよ魔理沙も!ははは!」
「な、何だとぉ!?お前経験してみろ!時止めで真横にいきなり現れるんだぜ!?」
これがいつものノリなのだろう。フラン達はみんなとても楽しそうだった。
「ふふふ」
私も、つられて笑っていた。
この世界でも、こんな美しい場所もあるんだ。
「とにかくだ!訓練やるぞ!」
「悪いけど、私は外させてもらうよ」
「えぇ!?何でだよフラン!お前が一番重要な立ち位置に……」
「悪いね。少し用事があるんだ」
「そ、そうか……なら仕方ない。訓練は無しだ!みんなもう戻っていいぞ!」
「えー!別に戻るところ無いんだけど!」
「…言われてみれば確かに」
ガチャ
「……!」
フランが図書館の出口の扉を開けている。
フランの用事って何だろう。図書館から出るみたいだけど……。
「…ちょっと後を付けてみるかな」
私は眼を閉じて、無意識能力を使った。
「……」
フランは自分の部屋に行くわけでもなく、紅魔館の外に出た。
危険じゃないのかな…?まあでも少し前にこの世界の私に襲撃をかけたし攻めてくることもないか。
それを見越してかな?外に出たのは。
日傘を使ってるってことは、日光はやっぱりどうしようもないんだね。
止まった時の中の日光は大丈夫みたいだけど。
「…ん?」
私はこの道に見覚えがある。以前、通ったことのあるような……。
「…あ…」
思い出した。紅魔館の墓場。フランが基本世界でエレナとお母様の墓参りをしていた。
基本世界の話ではないが、私を地底に誘導している途中、話の最中に見せたとても辛そうな顔……あの顔が忘れられなかった。
「……」
そこで、漸くわかった。
フランは、レミリアの墓参りに行っているんだ。
フランが、周りの墓よりも一際大きな墓の前で立ち止まった。
その表情は、とても穏やかだった。
フランがその墓の前で右膝をついて屈んだ。
「お姉様が死んでから何年目だっけ……あれから色々あったんだよ?」
そう語りかけるフランを見て、思わず涙が出そうになった。
「私を置いて死ぬなんて……酷いじゃない」
フランの表情は穏やかだったが、何処か悲しげだった。私は、家族を失う悲しみを知らない。けど……
「もう一度だけでいい……また、貴女と会いたいな……レミリアお姉様」
この言葉を聞いた瞬間、涙腺が崩壊した。
「……ッ…ひぐっ……ぅ…!」
「……」
しまった…!泣き声が聞こえた…?……よくよく考えたら無意識能力中だ。無意識と言っても何故か私の意識はあるけど。
「……別に隠れて後を付ける必要なんてないよ。無意識の力まで使っちゃって……」
「…えっ」
「最初っから気付いてるよ。隠れてないで出ておいで?こいし」
「な、何で……」
「んー、何となくわかるんだ…この辺りの空気の感じで」
「……」
フランは、ここら一帯の環境や空気の流れは完全に掴んでいるのか……。
……それもそうか。この世界ではフランは閉じ込められていないんだ……何百年もここにいるんだから…。
ふと思い出した。基本世界でフランと初めて会った時のこと。
−『……誰?』
−『うひゃ!?』
−『…?』
−『え?え??私が見えてるの?』
−『……?もちろんよ』
あの時もフランは私に気付いてくれた。
基本世界のフランが気付けたのはおそらく、破壊の能力による能力干渉の破壊のおかげだろう。
「……私がいると気付いてて、あんなこと言ったの?」
「……あれは私がお姉様の墓の前に立った時に、込み上げてくる感情を抑えつける為の言葉。何か言わないと、泣いてしまうもの」
「……その…ごめん」
「あははっ!いいよ、謝らなくて」
そうフランは笑ってみせたが、目が笑っていなかった。きっと、思い出して今にも泣きそうなのだろう。
…美しくも、残酷な世界。それがこの世界なんだ。
私は再度その事を認識した。
「……」
「…?こいし…」
私はレミリアの墓の前に立って手を合わせた。
そして目を瞑り冥福を祈った。
−貴女の妹は、こんなに立派になってるよ。レミリア
世界は違うけど……貴女とは話していて楽しかったよ
どうか安らかに眠ってね
「……ありがとう、こいし」
「……私も元の世界では、レミリアと仲は良かったんだ。そう、友達みたいに」
「…!」
「だから、私も祈らせて」
「…うん」
しばらく私とフランはその場にいた。
一緒にいる間、言葉はなかった。
フランの真剣な表情と、色々な物を背負った眼差しを見て、私は決心した。
この世界は必ず、救ってみせる
たとえ、私の命が果てるとしても、必ず救ってみせると。
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ー基本世界ー フランside
「…こいし…」
こいしが消えてから、一日が経った。
さとりに話しても、そこらへんをうろちょろしているだけだと言われた。
きっとそうだと言い聞かせるが、その度にあの言葉を思い出した。
−『もう帰って来れないかもしれない』
−『私の事を救ってくれてありがとう』
−『行ってきます』
「……」
私はその言葉がずっと気になっていた。もう帰って来れないかもしれない…そんなことを言っていた。
こいしの事で色々と考えている内に、いつの間にか私はこいしが消えた博麗神社に居た。
「…?」
こいしが消えた場所に、何か紫色の光球が見えた。
「何これ…」
気になってそれに手を伸ばす。
「……ッ…!?」
その時、頭に激痛が走った。
そして次に、何かの記憶がなだれ込んでくるような感覚がした。
少しして、頭痛が治まった。
そして私は、思い出した。というより、教えてもらった。”混玉”に。
「……そうか…そういう、事か……」
救ってくれてありがとうって言うのは、そういう事だったのか。
「……待ってて、こいし。すぐに行く」
私は、一度紅魔館に戻る事にした。
とある決心を胸に……。
To be continue…




