終焉
今回ちと自分の好きなU.Nボーカルの歌詞を少し借りています。
わかる人にはわかるでしょう。あの歌凄くいいよね、色んな意味で。
「宙に浮いたままの月 寂しいんだね
そう 最初から解っていた 帰れないと〜♪」
「秘密の果実とそばにある私の罪は あぁ
沈んでく 想いと共に 朝日は昇る〜♪」
フランが何かの歌を歌っている。
「……この歌、よくお姉様が歌ってくれたな……昔」
「…私はこの歌が大好きだったから……この歌を聴いていると何故か心が落ち着いた」
「……」
「この後の歌詞なんだっけ?……何だか、凄く寂しくて儚い歌詞だったような気がするんだよなぁ」
「!」
フランが何かに気付いた。
「こころ!ここから紅魔館までどれくらいある?」
「…あともう少し」
「あ、あの……どうして手伝ってくれるんですか?」
「霊夢の操りが解けたんだ!…ごめん、迷惑かけたよ……後で神奈子にも謝りにいかなきゃな」
「……」
「よーし!心強い味方もできた!フランちゃんを倒して止めよう!」
「…どうしてフランちゃんはこんなことを……」
「…理由はわからないけど……あいつは絶対にこんな真似はしない。きっと何かに操られているんだ…!」
「…私もそう思う」
こころと諏訪子、そして妖精達が紅魔館の近くにきていた。
「見えてきたな!急ごう!」
「うん!」
そんな様子を、紅魔館の庭で見つめる者が一人……
「…来たか」
「……ここが最終決戦の場でいいの?」
「…ええ!」
「……私の邪魔をしないでよ、みんな」
フランが言った。
「フランちゃん!何があったかわからないけど……あたいらは貴女の友達なんだ!止めるからね!」
「……貴女は、氷の妖精のチルノかな?」
「?そうだよ!」
「…私は貴女の知るフランじゃないよ。別世界の人物だ」
「…え?」
「……まあ深くは話さない」
「!」
「ここから先はただ、戦いよ」
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「……」
こいしが目を覚ましていた。
−どれくらい時間が経ったのだろう?
「…急がなくちゃ」
立ち上がろうとした時、目に入ってしまった。
「……ッ……」
この世界のフランの、遺体である。
「……私があの時、来なければこんなことにはならなかったのかもしれない……私があの時フランの企みに気付いていれば、フランは死ななかったのかもしれない……!!」
「……もう二度と……フランと笑いあえる日はこないんだ……!」
こいしはそう言い終えると、紅魔館に向かって飛んでいった。
その顔には、涙が伝っていたのだった。
「見えてきた…紅魔館!」
しかし、様子が変だった。
−まだ太陽が昇っていないのに…何で紅魔館の庭だけが極端に明るい?
「……」スタッ
ザッ ザッ ザッ ザッ
こいしが開いたままの門の前に立ち、ゆっくりと紅魔館へ入っていった。
「……!?」
辺りは燃え盛っていた。
その中に一人、立っている人物がいた。
それは……
「……また来たの?古明地こいし」
並行世界のフランだった。
「…フラン…!」
「…破壊の力を破壊したのか……もう残っていないの?その力は」
「…残ってるよ。けどもう使わない」
「…何?」
「……私はフランの意思を受け継ぐんじゃない。フランの意思を守り抜くんだ!」
「……何が言いたいのかわからないけどね。意味に違いがあるの?」
「…貴女を倒すのは、フランの能力じゃなく私の能力じゃないといけないんだ」
「…?」
「それが私の出した答え。フランの力はもう使わない……私自身の力で……未来を拓く!!」
そう言って、こいしがフランに突撃していく。
「…何度やっても同じことだよ」
フランが腕を顔の前で交差させる。
「『The World』」
ドオォーーンッ
「……決意が変わったからといって何か変わるわけじゃない。貴女のその強く誇り高い精神には敬意を表するよ」
「…けどそれだけじゃあ世の中は生きていけない。あの世界を生き抜いた私が言うんだ……間違いない」
フランがこいしの近くに行き、爪を立てる。
「あの時は警戒して直接攻撃はしなかった。けどもう警戒する必要もない」
「さようなら、古明地こいし」
ピクッ
「!!」
こいしの左手が、少し動いた。
−…今、確実に……
「…今の話、聞こえてるね。古明地こいし」
「”入門”してくるとは思わなかったよ。この止まった時の世界に」
「……時間切れ、時は動き出す」
ブウゥンッ
「……」
「……」
二人が見つめ合っている。
「…どうやった?」
「……どうやら私は、無意識のうちに動いていたみたい」
「…無意識に止まった時の中を動いたと?」
「……そうだと思う。私もどうして動けたのかわからない」
「……ふふっ、ははは…」
「…?」
フランが笑う。
「いや……私の能力に無意識に介入してくるなんてさ……想像もしてなくて。うふふ」
「……」
その面白そうに笑うフランを見て、こいしはこの世界のフランの面影を感じた。
「古明地こいし…貴女とは違う出会い方をしたかったよ……ここでも、向こうでもね」
「……」
「…さあ、決着をつけよう。私はこの後もう一つ戦いを控えててね……」
「…そっか。なら頑張って」
「ふふ、他人事ね」
「悪いね、私は自己中なんだ」
「世の中渡るならそれが一番だよ」
「それはどうも」
二人が笑いながら話している。
その笑いは、友人同士での会話の笑いではなかった。
「…行くよ…!」ニィィ…
「…来なよ…!」ニィィ…
世界は違えど、戦う人物は同じ。
やはりこの二人は戦う事を運命付けられていたのだ。
古明地こいしとフランドール・スカーレットの、世界を跨いだ最終決戦が今始まろうとしていた。
「戦いを楽しむなんて、何年ぶりだろう…」
フランが言った。
「…?フランは戦い好きじゃなかった?」
「…へえ、こっちの世界ではそうなんだね」
「……」
「私は一番好きなものは平和だよ。……前は確かに、戦いを遊びと言って楽しんでいたね」
「…!」
「…世界は残酷だよね。せっかく幸せを手に入れられたと思ったのに」
「……」
「…無駄話が過ぎた。やろうか」
「…うん」
その時だった。
パリーン…
「…!!」
「!?」
フランの持っていた混玉が砕けた。
「……!!」
「…!!」(混玉が…何で!?)
「……そうか……」
フランが何かを察したのか空を見上げた。
「…あと一分」
「…え?」
「…時間がないから、悪いけど一撃で終わらせるよ」
「…うん!」
バッ
「「ラストスペル!!」」
「QED『495年の波紋』!」
「『サブタレイニアンローズ』!」
ドオオオオオオオンッ
「うおおおぉぉああああ!!!」
「…ッ…ぐっ…」
−…こいしか……もっと別の出会い方をしていればな……
貴女みたいな人と、あの世界のあの時代で逢えたら……私も変わらずにいられたのかもね
「…何でだろう……貴女には…………負けたくない!!」
「!!」
「WRYYYYYYYYYYAAァァァーーッ!!」
「ぐぐっ…!!!」
(古明地も全力!!全力の勝負は私の方が威力は上みたいだな!!)
「終わりだよ!!別世界の親友さん!!」
「……ごめん……」
「!?」
「…本当に、ごめんね…!」
ドスッ
「…何…!?」
背後に、レミリアが現れた。
「…お姉様…!?」
「…悪いわね、別世界のフラン」
フランの腹部に、グングニルを突き刺していた。
「……ぐぅっ…」ゴフッ
フランが放っていた弾幕が、消えた。
「……ッ…!」
こいしは、申し訳なくて仕方ないと言った顔で弾幕を打ち続けた。
ドドドドドドドドドドオオオオオオオンッ
全弾、フランに直撃した。
「はあっ…!はあっ…!」
辺りはこいしの弾幕の爆発で煙が充満していた。
「…こいし。ごめんなさいね……こんなことをさせてしまって……」
「…仕方ないよ」
「……終わったのかしらね、本当に」
「…それこそレミリアが見てよ」
「…見えないの、運命が」
「……混玉はさっき、壊れたよ」
「…なら、終わりね…きっと」
その時、空が晴れだした。
そして、煙の中から声が聞こえる。
「…一分」
「!!」
ザッ……ザッ……ザッ……ザッ……
フランが立ち上がり、ゆっくりとこちらに向かってきていた。
「…ぐっ…!」
「…ごめんなさいこいし、私はもう…!」
レミリアは空が晴れだしたことに気付いていた。
「…うん。どうせもう決着はついてるから」
フランがこいしの前で立ち止まった。
「……それが貴女の出した答えね」
「……ごめん、フラン」
「……いいと思うよ、私は……どんな手を使っても守りたいものは守り抜く……私のお姉様の考えとよく似てる……」
「……」
「……この戦いは貴女達の勝ち。私はもう負けを認めるよ」
「……」
「…ねえ、自分勝手だと思うけど…混玉。まだ力残ってるでしょ?」
砕けた混玉にフランがそっと語りかける。
「…最後の私の願い、叶えてよ」
その時混玉が、凄まじい光を放った。
「うわぁ!?」
光が収まり、フランの掌からは混玉は消えていた。
「……」
ジュウゥー…
「!!…フラン……」
フランの羽が煙を上げだした。
「……私はただ、この世界を手に入れてみんなの苦しい生活を変えたかっただけだった」
「…!」
「…けど、段々敵を倒していくにつれて私は調子に乗ってしまったみたい。支配するのも悪くないと……そう考え出したの」
フランの全身から、煙が上がり始めた。
「私はそんな自分に嫌気が刺した……だから途中、混玉が砕けてくれないかと願いだした」
「…!」
「その願いは叶い、混玉は砕けた……こいし、ここに倒れてるみんなはまだ生きてる。早く介抱してあげてよね」
「…うん」
「…それと……」
「…?」
「……いや、これはいいや。自分の目で確かめてほしいから」
「…え?」
「…少しの間だったけど、貴女と一緒にいれてよかったよ。ありがとう」
フランから上がる煙の量が、凄まじい量になっていた。
「…フラン…!」
「……もしも、私が生まれ変わってこの世界に生まれたら……貴女に逢いに行くよ」
「……待ってるから、いつまでも」
「……ありがとう」
−思い出した。歌の歌詞の続き……
泣かない約束した 限りなく続く未来に
明日また会えるから 言葉を残して……
……んー、違うな。これは二番目だったかな
ま、いいや……今の状況…まさにそうだ……
また会えるから……待っててね…こいし……。
フランは、笑顔で消滅していった。
「……ッ…ぅ…!」
こいしが少し涙ぐむ。
「……あんないい人だったのに…私はあんな卑怯な手を使って殺したのか…!私は…!」
「……こいし……」
「……あの子が生まれ変わってほしい…!生き返ってほしい…!うぅ……混玉……何で消えたの…!?」
「……行きましょう。みんなを介抱しなきゃいけないし、死んでしまった人達のお墓も建てなきゃいけないしね」
「…うん」
−……この世界も……あのフランがいた時代と同じような状況なのかもしれない……
仲間が死に、友達が死に…たったひとり取り残されたら…私なら寂しくて死んじゃう。
きっとフランは……あの世界で数人の仲間と一緒に生きていたんだな……。
だから死への恐怖もなく、誇り高き精神を残したまま散る事が出来たんだ。
「…行こう、レミリア、咲夜さん」
「……」
「…ええ」
こいしとレミリアと咲夜は、全てを失い何を信じればいいのかがわからなくなっていた。
この世界はもう二度と、栄えることはないだろう。
皆の魂は、混玉が壊れたことにより解放された。しかし、その魂は霊界へ運ばれる。
混玉とは、世界そのものを覆しかねない代物である。
それに一度取り込まれてしまえば、もう二度と肉体に戻ることはない。
幻想郷の主要人物で生き残った者は……たったの三人だけだった。
長かった戦いは、終焉を迎えた。
幻想郷の勝利である。しかし、その勝利の代償はあまりに大きすぎたのだった……。
To be continue…




