刻々と迫る決着の時
「神子!話を聞いてください!!」
「ええいしつこい!戦いに集中できないのですか!!」
「神子!思い出してください!」
「何度言わせれば気が済むのです!」
神子が飛び上がった。
「このまま真っ二つに引き裂いて差し上げましょう!!」
「…貴女の復活させてくれたのは、霊夢じゃない……!」
「まだ言うか!!」
神子が剣を構えて、急降下していく。
「死ねぇい!!」
「貴女の大切な人達の事を!!思い出してください!!」
「…!!」
瞬間、神子の頭に激痛が走った。
「う……!?何だ……これは……」
「……」ほっ
白蓮が神子の様子を見て、一安心している。
「……白蓮…私は誰を信じればいいのでしょう」
「…え?」
白蓮は、神子の顔を見て驚愕した。
「記憶が……入り乱れているんです。布都や屠自古が私を助けてくれた記憶や、霊夢様が私を助けてくれた記憶や……何が、どうなって……ああ……」
目が片目だけ黒くなり、その黒くなった目と逆の目からは涙が流れ出ていた。
「…神子…!?だ、大丈夫なのですか…!?」
「…わからない……わからないんです……けど……段々記憶が、なくなっていっている気がするんです……」
「…記憶がなくなる?」
「…もう私は……貴女の名前がわかりません……」
「…え!?」
「……ああ、布都……屠自古……貴女達のことだけ……こんなに鮮明に……」
「神子!!」
「……それは、私の名前ですか?」
「…!!」
「…ああ……!!いやっ…!忘れたくない…!布都…屠自古……!!」
「……」
「いやぁぁぁ……!!布都…!!屠自古…!!」
神子は必死に二人の名前を呼び、忘れまいとしている。
「……」
その時、白蓮が神子の後頭部を叩いて気絶させた。
「……おそらく目覚めた頃には……全て忘れてしまっているのでしょう。ですが……きっと記憶は戻ります。だから待っていてください」
そう言うと、白蓮は走り出した。藍達の下へ。
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「くっそがぁ……!!」
「…数の暴力という奴だな」
萃香が圧倒されている。
「途中で小町が加わっての七対一だもんなぁ…」
「……もう、怒った…!!ぶっ殺してやる……」
すると、萃香が酒を飲みだした。
「…?」
「…あ〜〜〜…!!なんだかこの酒飲んだら、力が湧いてくるんだよねぇ〜〜……」
萃香の顔が、恐ろしい形相になっていた。
「…萃香…!?」
勇儀が萃香の心配をする。
「…あ、あれ…?何だか、今日のは変だ……あ、頭が……!!」
萃香が頭を抑えて地面に座り込んだ。
「萃香!?」
「うお、オォオオ……!!
URYYYYYY!!!」
萃香が突然叫び声をあげた。
「…な、何だ…!?」
「ほんっと……胸糞悪い奴らだなぁ!!」
「何があったんだよ……萃香」
「どいつもこいつもぶっ殺す!!私の手で!!」
「…萃香…!」
「UOORYYYYYY!!!!」
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「藍んん!!もう諦めたらどうだ!」
「誰が、諦めるものか…!!」
「藍しゃま…!もう逃げようよ!このままじゃ殺される!」
「駄目だ!!ここで逃げたら……他のみんなはどうなる!!」
「でも!このままじゃ…!!」
「…橙。紫様はやられはしたが死んではいないようだ」
「…?」
「…任せたぞ」
「…な、何を…言って…!」
「ここは私が抑える。お前は紫様を紅魔館にまで連れて行き休ませるんだ」
「え!?ら、藍しゃまは!?」
「私はここに残る。それが役目だ」
「そんな!嫌だよそんなの!」
「…橙、頼む。これしかもう、お前が助かる方法はないんだ」
「なら!藍しゃまも一緒に逃げれば…!!」
「私はもう充分生きた。あとはお前に任せるよ」
「そんな…!!そんな!!嫌だ!嫌だ!!」
橙が涙声で言った。
「……文、はたて。いるんだろう?」
そういうと、二人が現れる。
「橙を頼む」
「…はい」
「は、はなしてよ!藍しゃまも一緒に連れて行くんだ!」
「…耐えなさい、橙…!私だってね……好きでやってるんじゃないわよ」
「藍しゃまぁあ!」
三人が、逃げていった。
「…私がすることは決まっている」
藍が帽子を取った。
「行くぞ……!ここから先へは絶対行かせん!!』
藍が妖狐化した。
ズシィィンッ
『この姿なら!!少しは時間稼ぎはできる!!あとは、霊夢を倒してくれるのを待つだけ!!』
『二人は……私が守ってみせる!!』
「…自己犠牲…いい心構えだと思うよ。けどそれには実力が伴うかな…ねえ姉さん?」
「そうね。ちゃっちゃとやっつけ……」
ドオオオオオオオオオオンッ!!
「「『!?』」」
遠くで凄まじい爆発が起こった。
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辺りは、煙で見えない状態だった。
その時、二つの影が煙の中心に高速で移動していった。
ガキィンッ!!
衝突した時に、風で周りの煙は全て飛び散った。
その後、金属がぶつかり合うような音が連続してする。
「くらえ!」
「おっと…」
フランとこいしが、凄まじい攻防を繰り広げていた。
「弾幕パラノイア!!」
「クランベリートラップ!」
ドオオオオオオオンッ!
「イドの解放!!」
「禁じられた遊び!」
ドドドドドドドドドドドドドドド
「弾幕のロールシャッハ!!」
「カタディオプトリック!」
ドオオオオオオオンッ!!
連続でスペルを打ち続ける二人。
その時、こいしが魔力刀を構えた。
「嫌われ者のフィロソフィー!!」
スペルを唱えると同時に、高速でフランに突進していく。
「……」ガチャッ
フランがレーヴァテインに手を伸ばす。
「禁忌……」
『レーヴァテイン』
カッ
「!?」
レーヴァテインが突然凄まじい輝きを放つ。
「!!」(やばっ…)
ズバァンッ!!
ドドドドドドドドドドドドドドド
フランがレーヴァテインを振るった場所に大爆発が起きた。
「…この威力……!」(やっぱりフランは……)
ビュンッ
「こっちだ!」
「!!」
私が今まで戦ってきた誰よりも…強い!!
「そぉら!」
レーヴァテインは既に、刀状に戻っていた。
「くっ!!」
こいしはフランの薙ぎ払いを伏せて躱した。
「…ちぃ…」
「…今日は偉く焦ってるねフラン…!どうしたのかな?」
「…もう、時間がないんだ」
「…?」
「だから早く倒れてくれないかな?こいし」
フランは、いつもの冷静さを感じさせない、険しい表情だった。
「……」(何だ?何が目的なんだ…?)
フランがレーヴァテインを振るう。
「…隙だらけだけど。反撃され……」
こいしが魔力刀をフランに振るおうとした時
パキンッ
「!!」
フランの羽の宝石が取れて、それがこいしに向かっていった。
「うわぁっ!」
ギリギリのところでそれを躱す。
「もらった…!」
その後、フランが右薙ぎ払いで攻撃をする。
「…!」
ダンッ
「!」
こいしが飛び上がり、それを躱す。
「……」スウゥー…
「…無意識能力……」
こいしはその場から姿を消した。
だが、逃げるつもりは微塵もない。
「……時間稼ぎのつもり?」
「まさか」
「!?」
こいしがフランの真後ろに現れる。
その目は、狂状態の目であった。
ズバァンッ
「ッ…!」
「油断してたでしょ、フラン。私の能力は近くに行けば反応される。だから警戒する必要はない…そう考えてたでしょ」
「……」(そうか。なるほど……)
「後ろに高速で移動すれば、反応されることもないってこと。要するに印象が大事なんだよ」
「意表を突かれたから……私は反応できなかったと」
「理解力高くて助かるよ」
「…なーんだ、そんな事だったか」
「…?」
「てっきり完璧に気配を消せるようになったのかと思って焦ったよ」
「……私はその欠点を治したんだ。もう弱点はないと言っても過言じゃないよ」
「こいし、さっき貴女が自分で言ってた事を思い返してみなさい」
「…?……!!」
「要するに”印象の問題”でしょう?ならもう何の問題もないね」
「…!!」(そうだ。種を明かしたんだ……警戒すれば反応出来ないわけはない…!)
「…それとその力。私に助けてもらった後も無理して使ってるの?」
「…ええ」
「…あっそ。まあ好きにしなよ。とりあえず…早く倒されてくれない?」
「……貴女の目的は、何?」
「……もうすぐ、霊夢さんが藍さんのところにつく。もしも藍さん達が全滅させられて、霊夢さんが紅魔館に向かっていったら……そうなったらもう、私の負け」
「…!?」
「総取りは失敗して、何もかもを失う事になる」
「…何を、言ってるの…!?」
「貴女が知る必要はないわ」
右手レーヴァテイン、左手に何かのスペルカードを持っていた。
「!」(あれは何だ…!?)
−…そうだ……戦闘スタイルを変えよう。
するとこいしが、サードアイを右手で覆い隠す。
「…なるほど、何か違和感を感じると思えば……貴女、眼を開いたんだね」
「これでフランの考えは丸見えよ!」
「……残念、私に対する能力の干渉を不可能してる」
「…え!?そ、そんなことどうやって……」
「私の破壊の力は、定められた運命さえも破壊する!」
フランがスペルを発動させる。
「フォーオブアカインド!」
フランが四人に分身し、その四人が一斉に攻撃を放つ。
一人は大きな弾幕を、一人は小さな細い弾幕を、もう一人はそれを避けつつレーヴァテインで攻撃を、そのまたもう一人は高見の見物をしていた。
「…!」(彼処にいるのが本体か…!)
ブンッ!
「!!」
こいしが考察していると、分身の一人が攻撃をしてきていた。
「!」
さらに後ろから無数の弾幕が襲いかかる。
「…!!」(行ける!)
「…よく避ける……」
こいしはそれを、全て躱しきっていた。
さらに、分身を三人とも一瞬で倒してしまう。
「どうだ!」
「…凄いよ。たった三日でこの私に追いつくなんてね」
「…まだ本気じゃないくせに」
「そうでもないよ…結構本気だよ」
「…!」
「…だからこそかな……少し、焦っているのかもね。私は」
フランが右手で両目を隠すようにしてそう言った。
「…私をここまで本気にさせたんだ……貴女は強いよ、こいし」
「……!!」ゾクッ
「…行くよ」
フランがゆっくりと手を下げていく。
「…最終ラウンドだ」ニヤッ
フランの目が、赤く光っていた。
ドオオオオオオッ
フランから、凄まじい魔力が発生する。
「…!!」(コンタクトを……
外した!!)
「私が強化できるのはここが限界だよ。貴女はどうなのかな?こいし」
「…私もここが限界だよ」
「…ふーん、よかった」
そういうとフランは、ゆっくりと後ろへ歩き出した。
「…?どこに行くの?」
「…何故今日は太陽が昇らないか、わかる?」
「…?」
「霊夢さんの混玉。それがこの事態を招いてるんだ」
「…だろうね、それ以外考えられないもの」
「…私はね、ある出来事のおかげで吸血鬼であることを誇りに思えるようになったんだ」
「…?」(急に何を…)
「お姉ちゃんはもう忘れてるだろうけどね。……いや、忘れさせられたのだろうけどね」
「…え?……今、お姉ちゃんって…」
「…お喋りはおしまい。…悪いけど本当に時間がないから
もう終わらせる」
フランは、フォーオブアカインドの分身達を自分の体で隠していた。
「なっ!?」
急に三人現れたのに驚いて、対応が遅れてしまった。
「恐怖したね……それが最も判断を遅らせる感情だよ」
分身の一人が、こいしの後ろに回り込んで攻撃する。
「うぐっ!!」
こいしはそれをギリギリで飛び上がって躱す。
−さっきよりも数倍速い!
「さあ、どこまで持つかな!?」
他の分身がさらに追撃してくる。
ズバァンッ
「うぅっ!?」
今度は少し当たって、横腹を少し抉られてしまった。
「ぐぅっ…!」
「遅い!!」
「!?」
さらに別の分身と同時に本体のフランがこいしの背後に現れ、二人で斬りつける。
ズバァンッ
「うわぁっ!!」
こいしはそのまま地面に落ちていった。
「……」
とどめを刺せるチャンスだったが、フランは何もしなかった。
「…ぐっ…!?」
こいしは、体勢を立て直そうとしたができなかった。
「な、何?あ、足に、力が……!」
「…血の出し過ぎだね。横腹からの出血も酷いけど、それ以前にかなり血を出したみたいだね」
「…!」
「…よくそんな状態で開放前とはいえ私と張り合えたものだ」
ドスッ
フランがこいしにレーヴァテインとは別の刀を刺した。
「……ぁ…」
こいしは、気を失った。
「……この剣は、そういう剣なんだ。ひと刺しするだけで気を失ってしまう。霊夢が混玉を使って作ったものだ」
こいしから、刀を抜いた。
「…しばらくは起きれない。まあ、一時間もない短い時間だけどね」
フランがこいしに手を乗せると、こいしの傷が回復した。
大きな木の下まで、フランはこいしを抱えてきた。
「…これも、乗せておくよ。……目覚めた頃には全て終わっているはずだから……夢だったと、そう感じてくれたら嬉しいな」
こいしの帽子をこいしの頭に被せると、こいしを大きな木の下に凭れさせるようにして置いた。
「……!」
その時、フランが何かを見つけた。
「……」
バサッ
しばらく何かを見つめた後、フランは無言でその場を去っていった。
その顔には、涙が伝っていたのだった。
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「あ、霊夢。うわっ、ちょっと返り血浴びてるじゃん…!誰を殺してきたの?」
「あら幻月。そうねぇ…紫と……なんだったかしらあの猫の奴……ああ、そうそう、橙。それと文とはたてね……あと、天子」
「そりゃまた随分殺ったなぁ…」
『……何だと…!?』
「……何だ、まだ全然元気じゃない」
「そうなんだよ、意外としぶとくてさぁ……まあここは私達に任せて………あれ?れ、霊夢。今さっきなんていった?て、天子を……」
「もう用済みよ」
「…え?」
「…姉さん?」
幻月の首が、切り飛ばされていた。
顔が霊夢の足元に落ちた。
グシャァッ
そして、その顔を霊夢が踏み潰した。
「邪魔だから、消えてもらうわよ」
「姉さん!!」
夢月が、やっと状況を理解して霊夢に襲いかかる。
「よくもおおおお!!!」
瞬間、夢月の体は真っ二つに切り裂かれていた。
「…ぁ……ああ…」
ドシャァッ
『…!!』
「…次は貴様だ」ニヤァ……
『……!!』ゾクッ
『…なっ?』
妖狐化した藍の体が、真っ二つに切り裂かれていた。
『…馬鹿……な……!?』
ズシィィンッ
「……ククク、ククククク……!!」
「あははははははは!!!」
「勝った!!私の勝ちだ!!この世界は私のものだ!!夢幻世界の者達は夢幻姉妹が死んだことで夢幻世界毎消滅する!!この世界の者共にもう私に敵うものはいない!!」
「あははははははは!!」
ドスッ
「はは……はっ…?」
黒い刀が飛んできて、霊夢の胸部に刺さっていた。
「壊せ……レーヴァテイン」
ドグォンッ!!
「がはぁっ!!?」
黒い刀を中心に、霊夢の胸部に大穴が開いた。
「…何……だとぉ…!?」
「…胸に穴が開いて死ぬんだ。本望でしょ」
ザッ
フランが、空からゆっくりと降りてきた。
その目は、殺意に満ちている。
「ふ、フラン…!!き、貴様ァ…!何故ここに…!!」
「まるで裏切ってくることがわかっていたような言い方ね、霊夢」
「…わかって、いたさ……!!だからこそ対策を練っておいた…!!だが、何故このタイミングで貴様が出てくるのだ…!!」
「…諏訪子の気持ちを汲んであげたのもそうだけど、私が夢幻世界にいると思わせている方が油断するだろうと思っただけのこと」
フランが、膝をついて苦しんでいる霊夢を見下しながら言った。
「……」ニヤァッ
「…?」
だが、霊夢の顔にいきなり笑みが浮かんだ。
「…そうか。だから……まあ、いいわ」
「…?」(急に冷静になったな…)
「…ありがとうフラン。死にかけるという経験をしなければ、この進化は起こらない」
「…何…!?」
「混玉には意思がある。この事実を知っているのは私だけよ」
「…!?」
ドオオオオオオオオオオオンッ!!
「ぐっ…!?」
「この段階まできたらあと少し……あとは紅魔館にあるとある装飾品を取り込めば完璧となる…!!」
「…何だ……あれは…!?」
霊夢の姿が、まるで悪魔のような姿に変わっていた。
目は白目と黒目が逆転して、後ろ髪が腰のあたりまで伸びて、少し鋭利になっていた。
背中には、悪魔の羽のような物が三対になって生えてきていた。
「さあ、始めましょうかフラン……」
「…くっ…!!」
To be continue…




