番外9 クリスマスSP 前篇
おそらく後篇はクリスマスより遅くなる笑
「…はい?」
「はい?じゃなくて、私は返事が聞きたいのよ…フラン」
「…クリスマスパーティー…するかしないか?」
「そう」
「…お一つ、質問」
「はい?」
「頭大丈夫ですか?」
「殺すわよ」
「ごめんなさい」
「フラン、霊夢だって暇なのよ。たまにはかまって欲しいんだと思うわよ?」
「そうそう。私とっても暇だわ。フラン、遊んでよ」
「……分かりましたよ…全く、クリスマスまで数日しかないんだからちゃんと用意はしておいてくださいね……私は仲間達の統率で忙しいんですよ」
「あらあら、ありがとうフラン。用意はこちらでしておくわ」
「はいはい」
そう言ってフランは部屋から出て行った。
「…しかし、面倒だな……クリスマスパーティーなんてするなよなぁ……」
「まあグチグチ言っても仕方ないか……さて、じゃあ正邪達連れてあの三人止めに行くか」
これは、フランと正邪、そして萃香の三人が、諏訪子、夢月、幻月の三人を止めに行く前に呼び出されたものだった。
だから幽香に対してあんな事を言った。本当はフランも面倒くさい。吸血鬼が何故キリストの降誕を祝わなければならないのだ、と内心思っている。
「……ふっ…」
微笑をこぼしたのは、とある事を思い出したからだった。
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「……」
まだフランが地下牢にいた頃の話。
こいしとも出会っておらず、まだ精神が安定していなかった頃の話だ。
その日もいつも通り暗い地下牢で過ごしていた。
寂しさはあった。けど出られなかった。
外に出たい、そう思った回数は自身の生きた年月よりも多いだろう。
静かな地下牢だったが、今日は違った。
「フラーン」
「!!」ビクッ
急に扉の方から声が聞こえたので、フランはとても驚いた。誰だろう?と思い、問いかけた。
「…フランだけど……どうかした?誰?」
「私よ。レミリア!レミリア・スカーレットよ」
「!…お姉様……どうぞ」
「失礼します」
扉を開けると、確かにレミリアが居た。確かに居たのだが、珍妙な格好をしている。
「…お姉様?その格好は…」
「メリークリスマス!フラン!」
「!?」
レミリアが手に持つクラッカーを鳴らした。
「……」
−通りでこんな格好をしてるわけだ……しかし、お姉様は何でわざわざこんなところに来てまで……何か企んで……って……
フランはここで思考を停止する。
−…何で私はこんな事を考えてる?
この頃感情を忘れている。
レミリアは会いに来てくれる事はあったが、毎日ではない。咲夜は毎日来るが、他に来るとすればレミリアか使いの妖精メイドのエレナくらいだ。
「…急にどうしたの?お姉様」
「えー、何よテンション低いわね」
「だって眠いもん」
「あ、ごめん」
「…でも、ありがとう。この頃忘れかけてたものを取り戻せた気がする」
「…?何?忘れかけてたものって」
「ふふっ、お姉様は気にしなくていいことよ」
この頃からフランは、自分自身の事をよく理解していた。
だからこそ外に出ようとしなかった。
自身の能力は危険で、さらに二重人格だから情緒不安定で、吸血鬼で……
危険でない事など何一つなかった。
自分の居場所はあるのか、私は生きる価値はあるのか、皆は私をどう思っているのか、と様々な感情がフランの中で交錯していた。
「フラン?大丈夫?少しぼーっとしてるわよ」
「…うん、大丈夫。気にしないで」
「…フラン?辛い事があったら何でも言っていいのよ?」
「…ありがとう。けど、今は特に何もないから大丈夫」
「そう……なにかあったら言ってね?咲夜に言ってくれてもいいから」
「…うん。ありがとうお姉様」
−私の居場所は、この紅魔館なのだろうか
私はここに居るべきではない気がする。みんなに迷惑を掛けたくないし……時間を割いてまで私の所に来てもらわなくてもいいのに。
……嬉しいけど
「お姉様、明日からはわざわざ時間を割いてまで私の所に来なくてもいいよ」
「…なーに言ってるの。私は別に時間を割いているわけでもないし嫌がってるわけでもないわよ。今の私が貴女の目にはそう見える?」
「…!」
「私が好きでここに来てるんだから、大丈夫よ」
そう言ってレミリアは微笑んだ。
「……」
それでもフランは心を開けなかった。
「…フラン、それよりね」
「…?」
「今日紅魔館でクリスマスパーティーをするのよ!だから、フランもたまには上がって参加しなさいな」
「…せっかくの誘いありがたいけど、私はここにいるよ」
「駄目よ!強制参加」
「ええっ!」
「ほら、来なさい!ていうかお風呂の時に一応上がってるでしょうが!」
「けどその時は魔法で姿を消して…」
「どうでもいいわ!さ、早く行くわよ!」
レミリアが左手でフランの右腕を掴んだ。
「……」
そうして、フランはクリスマスパーティーに参加することとなる。
「フランは少しここで待ってて」
「え?う、うん」
レミリアが食堂に入っていった。そしてその後に聞こえてきた声が……
「みんな!これから私の妹がここに来るから……歓迎してあげてね?」
「はーい」
「お嬢様に妹なんていたんですか?」
「まあね。普段はあんまり出てこないから……」
「なるほどー。早く会いたいです」
「……」
−何でわざわざ……私の事なんて放っておいていいのに……
その時、食堂の扉が開いた。
「フラン!入りなさい!大丈夫よ、みんな優しいわ」
「…うん」
そう言ってフランは、食堂へ入っていった。
「へぇー、あれがお嬢様の妹かー……やっぱり似てるわね!」
「ね!」
「フランドール様でしたっけ?さ、お座りください!」
「う、うん。ありがと」
いきなり手厚く歓迎された為、驚いた。
てっきり自身の事や人柄、情緒の事も知っているものだと思っていた。
「フランドール様!珍しく食堂で食べてるんですね」
「!エレナ……うん、お姉様に無理矢理ね……」
「ああ、なるほどね〜…ふふ、でもフランドール様あんまり嫌がってませんね!」
「…お姉様は私の事を思ってここまで連れてきてくれた……それを楽しまない訳にはいかないよ」
「ふふ、相変わらずお優しい」
「…どうも」
赤髪の長髪、メイド服にカチューシャの代わりに緑色の中国風の帽子を被っている。その帽子には、黄色い星の中に龍と書いたワッペンのようなものがついている。高身長で、長い髪を側頭部に編み上げて、リボンを付けて垂らしている。
「エレナはどうしてここに?ご飯の支度をしていたんじゃ……」
「フランドール様が来ていると聞きまして!」
「…フランでいいって言ってるのに……」
「フランドール様と呼ばせてください!」
「……わかった」
「フランドール様、今日のお料理のお味は如何ですか?」
「ん、おいしい」
「それはよかった!」
「ところでエレナ。今更だけどどうして私に仕えてくれたの?」
「…ここだけの話、私は貴女の事情を知っています」
「!」
フランは心の底から驚いた。館でフランの二重人格を知る者は、レミリア、咲夜、パチュリー以外にいないからだ。
「…お姉様って、本当自分勝手よね」
「あら、今ので誰から聞いたか察するとは!頭いいんですねぇ」
「ありがとう。…エレナ、他の誰にも喋ってないよね?」
「もちろんです。……そんなこと話したら、フランドール様が嫌われちゃうかもしれないし……」
「…優しいのね、エレナは」
「!」
フランはとても明るい笑顔でエレナを見つめていた。
「あ、ありがとうございます」(反則すぎる……)
「?エレナ?」
「い、いえ。それよりも……私、フランドール様の過去について知りたいんです」
「……へえ、エレナって意外と積極的なのね」
「あ、ご、ごめんなさい!嫌ならいいんです!」
「ふふっ………いいよ。今度話してあげる」
「あ、ありがとうございます!」
「フラン、どう?楽しんでる?」
レミリアがフランとエレナの座っている席に、片手にワインの入ったグラスを持って寄ってきた。
「お姉様…ええ、それはもう最高に」
「よかったわ」
レミリアはフランの隣の空席に座った。
「…それはそうとお姉様。エレナと随分親しいんだね」
「ええ、貴女の世話をしてくれているのだから……」
「……そっか……だから、教えてあげたんだね」
「!?な、何で…!」
「エレナが口を滑らせちゃったよ」
「えへへ…ご、ごめんなさいお嬢様」
「…ごめんなさい、フラン。世話をする者には、貴女の全てを知ってもらった方がいいと、そう思って…」
「…何か勘違いしてるようだけど、私は別に怒ってないからね」
「…え?」
「二重人格の事を知って尚私の世話ししてくれるかどうか……少し不安だったんだ。けど、今ここで心配は無用だって事が証明されたよ」
「……」
「お姉様、エレナに私の事を教えてくれてありがとう。そしてエレナ、話を聞いても尚、私の世話をしてくれて本当にありがとう」
フランは笑顔でそう言った。
「……」
「ま、メイドとして仕えた身ですから!私がフランドール様の世話をするのは当然の事です」
「…エレナ、カレーライスおかわり」
「あ、はいはいー!ちょ、ちょっとお待ちを」
エレナがいそいそと注ぎに行った。
「…これで二人。お姉様に言いたい事があったの」
「…何?」
「そうだな……まずは、変わらないお姉様でいてくれてありがとう」
「…当たり前よ。私はずっと変わらないわ」
「ふふ、そうだね。それと次は……いつも私の部屋に来てくれてありがとう。おかげで寂しい思いをせずに済んだよ」
「…それも当たり前よ。妹に悲しい思いをさせない事は姉として当然だもの」
「そっか、ありがとう。それじゃあ最後に」
「私の事を、愛してくれてありがとう」
「…!」
レミリアは心がズキッと痛んだ。
「…ごめん、なさい…フラン」
「…?」
「あんな、生活…させて……ごめんなさい……」
「…お姉様、泣いてる?」
「ごめん……本当に、ごめんね…?」
「な、泣かないでって……別に大丈夫だよ、お姉様が会いに来てくれるんだし」
「……ありがとう」
「…それはこっちのセリフ」
フランがレミリアの額を人差し指でとんっと突いた。
「痛っ…フラン!」
「あはは!」
「お嬢様ー!記念撮影しますから早くー!」
フランはいつの間にか記念撮影の場所まで移動していた。
「お姉様」
フランが手を差し伸べる。
「…ええ」
「じゃ、5秒後にフラッシュするようにしたから。みんな笑顔でね」
「パチュリー、ここに来なよ」
「!わかったわ」
パチュリーがフランの右側に座った。
レミリアは、フランの左側に座っている。
「こら、もうちょっとつめて」
「いや無理…!これ以上はつめれないって…!」
「あんたの辞書に無理という文字はない!」
「何言っちゃってんの!?」
「おーいそろそろフラッシュよ!やめときなさい」
「フランドール様の近く行きたい」
「させぬ」
「エレナ貴様」
「私だ」
「お前だったのか」
「…騒がしいわね〜…」
「これがいつも通りでしょう?レミィ」
「ふふっ」
私には居場所がある。ここ、紅魔館という、居場所が
「それじゃあ、皆さん!」
『merry Xmas‼︎』
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「…あの頃の私の方が、今より利口だったのかもね」
フランは夢幻館の窓から見える夢幻世界の平原を見ながら、そう口ずさんだ。
「正邪、萃香……」
バサァ……
フランが魔法で赤紫色のローブのような装束を出現させ、それを着た。
「お楽しみの時間よ」
そしてフランは三人を止めに幻想郷へ行ったのだった。三人を止めた後、すぐさまに夢幻世界へと戻った。
幽香に、意味深の伝言を残して




