もう一人の自分 〜閉じた恋の瞳〜
「あ〜〜〜〜……」
「……」
「あ〜〜〜〜……」
「……?」
「あ〜〜〜〜……」
「…ど、どうしたの?こいし」
「いやー……何かなぁ……フランにとって私って何なんだろ…って思ってさー……」
「フランにとっての?」
「…今までフランの事を考えず、私の都合ばかり押し付けてたからさ……少し、申し訳なくなっちゃって」
「…そう思えるだけ立派だと思うよ私は」
「…どうも……ところでぬえ」
「ん?」
「何で私の上に座ってんの?」
「何となく」
「あっ、そうですか」
今私は、自室に居ます。
あ、私の名前は封獣ぬえ、鵺って鳥知ってる?それの妖怪。
え?具体的に?んー…虎だったり鳥だったりする奴。うん。
そんでもって、天邪鬼なんだぜ。正邪と似たようなもんだぜ。何故か今はあいつめっちゃくちゃかっこいいけど本当はもっと情けない奴なんだぜ?本当だぜ?
何故魔理沙っぽい喋りをしたかと言うと「あの、ぬえさん。重いっす」
「あ、ごめんよ」
こいしの上に乗っかってたのは完全に気分。
私の部屋に遊びに来たかと思えばいきなりベッドに寝そべってくつろぎだしたから乗ったらどうなるんだろうと思って気分で乗った。結果、可愛い。
こいしは反応が面白いから一緒にいて楽しい。
時折フランと二人で○ョジョだったっけ?それの立ちポーズしてる。どっちかと言うと半強制的にフランはやらされている。恥ずかしがるフランはすっごく可愛い。
……けど、今はもう見る事が出来ない。だってフランは……
「…ねえぬえ?久しぶりに遊ばない?」
「!いいよ。なにして遊ぶ?」
「そうだなぁ…じゃあトランプで。ぬえ弱いもんねぇ〜」
「な、何を!?」
「そうだ!賭け事をしよう。負けたら相手の言うこと一つ、何でもやる!」
「…なるほど…よっしゃ、乗ったぜ…完膚なきまでに負かしたらぁ!」
その後、むしろ完膚なきまでに負けた。
悔しさはなかった。そう、恥ずかしすぎて。
思わずWRYYYって叫びそうになった。
それは吸血鬼専門の叫びだ!ってこいしが言ってきたけど。
「勝ちぃ〜!よーしぬえ。私の言う事を聞くんだぞ〜?」
「う、ういっす!」
「んー…そうだなぁ……よし、決めた!」
「……!」ドキドキ
「聖さんに、お母様って言ってこい!」
「…ん?」
「聖さんにお母様って言ってこい」
「……なっ……
ナァニィィーーッ!?」
ナ、ナンテコッタ……ヤバイヤバイ。コレハヤバイヤツダ。
確実に私のキャラがくだけ散る奴だ。
くっそー、こいしめ…私のキャラを壊したいのか!?そうなんだな!?
「うー…」
とぼとぼと歩いていると
何と……
「あら、どうしました?ぬえ」
「ひじっ!?」
聖が目の前にいた。
「?肘がどうかしたのですか?」
「や、いぃいや、違うよ?肘なんて至って元気だよ?」
「あらまぁ…どうしたのです?そんな慌てて」
言ったらぁ…!そうだよ、一言言えば終わりなんだ!お母様って一回言うだけ。そのあといくらでも言い訳が出来る!
「…お……」
「お?」
「……お母…様……」
「…へ?」
「……」
「…ぬえ?今のってもしかして、私に対して?」
「ごふっ」バタッ
「!?ぬ、ぬえ!?」
「…聖〜…!お母様って呼んだのはね?」
理由を話した結果
「あらまあ…ちょっと残念」
「え?」
「ぬえにそんな風に思ってもらえてるなんて…って少し喜んだんですがね…うふふ」
「…べ、別に、そんな風に思ってないって言った訳じゃないけど?」
「え?」
「……お母様は、嫌だけど……母さんってぐらいなら…たまに呼んでやってもいいけど?」
「…ふふ、いつも通りでいいですよ。可愛いぬえ」
そう言って聖は頭を撫でてきた。
「〜ッ!もう!」
私は多分今、顔が真っ赤だろう。
おのれこいしめ……許すまじ
ぬえがあの後ある意味凄い顔で私に襲いかかって来た。
顔が真っ赤で、けど目は異常な程ぱっちり開いており、口はつり上がっていた。その顔で発した言葉がこれである。
「恥ずかしYYYYY!!!!」
いやどうした。何があった。私は聖さんに、お母様って言って来いと言っただけだ。言っただけであーなったのか。
ていうか何故いいーって叫ぶ時上げ調子なんだ。
面白いじゃないかやめてくれ。
「こぃしい!!私はちゃんとぃったぞ!?約束はまもったょなぁ!?」
「う、うん、ありがとう。とりあえず落ち着いて。自分を取り戻して」
「恥ずかしくて死にそうです」
「あ、じゃあ一度死んでみては?」
「冗談に聞こえない!!」
「ところでぬえ。命蓮寺のみんなは紫が操られている時に何処に捕らえられてたの?」
「…んーとね…永遠亭の奥の所?輝夜姫がいた場所?そこに閉じ込められてたんだ」
「へぇ、彼処か」
「……」
「…?ぬえ?」
「ッアーーー!!」
「ファッ!?」
「ヤバイ!ムラサとお茶会(仮)の約束してるの忘れてたァァ!!ごめんこいし!行ってくる!」
「お、おう。いってらー…」
ぬえが凄いスピードで二階の階段を上っていった。
「ぬ、ぬえってあんなに騒がしかったっけ?」
さっきの罰ゲーム、そんな恥ずかしかったのかな?
……ともあれだ。確かめたい事がある。
ぬえの部屋に行ったのは、気持ちを軽くするためだ。
「……」
「……」
まずい……!長らく入っていなかったせいか入り方を忘れている……!ど、どないしよか……!
「…ええい!こうなったらあれだ!魔力を使い果たして無理矢理入ってやる!」
「るオオオオオオ!!」コオオオ…
これで多分入れるだろう!多分!
気がつくと、辺りは見覚えのある荒野に変わっていた。
そう、私の精神世界だ。
「…何処に、いるんだろ」
「ここだよ」
「!」
後ろから声が聞こえた。
「…久しぶり。もう一人の私」
「ええ」
後ろを見ると、荒野の高台に立ってこちらを見下ろすもう一人の私が居た。
「…あのさ。昨日の事なんだけど……」
「……?何の話?」
もう一人の私が素っ頓狂な顔でこちらを見ている。
「え?昨日、私と無理矢理変わろうとしたじゃん」
「…?どういう……私は昨日は寝てたぞ?」
「…え?じゃあ……あれは一体……」
「…こいし。もしかすると、この頃お前の精神が安定していないのはそいつが原因かもしれない」
「…?そいつ…?」
「私も寝てたから知らないけど……この頃よく荒っぽい性格が出てるからさ……私が原因ではないのは、確かだよ」
「え…じゃあ、誰が……」
『お前ら、随分と仲がいいんだなぁ』
「「!?」」
どこからか、二重に重なったような声が聞こえてきた。
『本体であるお前を倒せば、主導権は俺の者となる訳だ』
「…俺…!?」
「…こいし。多分今どこかから話しかけてるこいつだ」
「…うん」
『本当に随分仲がいいんだなぁ……俺はそういう奴らを見てると虫酸が走るんだよ』
「……」
『それが俺の姿なら尚更なぁ!』
そう言って姿を現した。その姿は完璧に私で、驚いた。もう一人の私のさらにもう一人の私。それがこいつなのだ。私は、三重人格なんだ。
「…こいし、下がってなよ。こいつは私が倒してやるよ」
「…いや、ここは協力して倒そうよ。貴女と一緒なら負ける気がしないからさ」
「…そう」
『美しい友情だな。けど、お前らじゃあ俺には勝てん』
「どうかな?やってみなきゃ分かんないぞ?」
「その通り。…ところで、貴女の事なんて呼べばいい?」
「…そうだなー……じゃあ、”グラン”とでも呼んでよ」
「…へえ、意外と名前は拘るんだね」
「…まあね」
「じゃ、行こうか!グラン!」
「ああ!」
『…そうかこいし……お前はそいつの”正体”を知らないんだな……』
「…!?」
「…私の、正体だと?」
『お前自身知らないのか?そんな訳ないだろう』
「…私はこいしが目を閉じる前の精神そのものだ。正体も何もそれが真実なんだ」
『本当にそうかな?』
「…何が、言いたい」ギロッ
グランがもう一人の私を睨んでいる。
『お前の正体を教えてやるよ。俺が今ここでな…』
「…!」
『こいし。お前にとってそれはいい事なんだろうかな?こいつの存在は、お前にとって邪魔でしかない事を今から説明してやるよ』
「…!」
「……どういう、意味だ…!」
……。
−『これ以上、こいしの事傷付けてやらないでよね』
…グランは……
−『それまで精々……死なないように気を付けな』
……
『教えてやろう……お前の正体は……』
「正体なんてどうでもいい!」
「『!』」
「グランは私自身であり、友達であり、守りたい者の一人だ!例えどんな正体であろうと、それに変わりはない!」
「…こいし…」
「私がいる限り、グランは私と共に在り続ける!覚えておきなよ!」ニヤッ
「……」
『はっは!綺麗事を…そいつの正体知ったら、そんな事も言ってられなくなるんだろうがな!』
「言えるさ」
『…あぁ?』
「言ったでしょ……例えどんな正体であろうと、グランは私と共に在り続ける、とね」
「……」
「でしょ?グラン!」
私はグランの方を向いて、笑った。
「…ああ…その通りだ!」
グランも笑い返してくれた。
よーし、こいつをさっさと倒して、平和な自分を取り戻そう!
『…お前らを見てるとむかつくな』
もう一人の私が、帽子を深く被る。
『よーしいいだろう……お前らの相手をしてやろう!俺が正しいって事を教えてやる!』
「行こうか、グラン!」
「ああ」
『あ、一つ忠告だ』
「…?」
『無理矢理この世界に入った場合、お前は体の所有権が一時無くなるんだ』
「…!?」
「ま、まさか…!」
『察しがよくて助かるよ……今は俺がお前の体が操っているんだよ』
「…まさかみんなに…!」
『安心しろ、そんな事はしない。けど、俺に取っても邪魔な存在である夢幻館の連中は放ってはおけない』
「…なっ…まさか一人で夢幻館に行くつもりじゃ…!」
『ご名答。さっき夢幻世界へと入ったところだ』
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「…どうやら侵入者は一人のようね」
「どうするの?霊夢」
「…あの子の目的はフランでしょうから、任せるわ」
「…それもそうね」
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「な……!そんな事どうやって!?」
『あれはそう簡単に出来るものじゃない。お前は俺より弱いんだよ』
「…!」
『…ああ、そうだ。お前の親友と会ってこようと思うんだが…今の状態で近付いたら何て言われるかな?』
「なっ…!!やめて!!」
『…だが、どうやらお前の異変には気付いてるらしいな……』
「…!!」
「じゃあ、フランはこいしがお前と入れ替わってる事が分かったんだな」
『ああ、どうやらな』
「…よかった…!」
『…俺には理解出来ない感情だな』
「…?」
『どうして裏切られた奴の心配をする?』
「…!」
もう私に迷いはない。フランは私の友達なんだ……必ず、助け出すって決めた。
「…友達だから」
『裏切られたって言ってんだよぉ!!』
「!!」
『俺はお前みたいな楽観的な奴は血反吐が出るほど嫌いなんだよ!甘っちょろい奴め……いいかげん認めたらどうだ!!お前は!フランに!裏切られた!Do you understand?』
「……分からないね…貴女がどうしてそこまでフランを否定するのかが」
「グランの言う通り…何故なの?」
『…あいつは、胡散臭いんだよ。多分だが今も私達の事を騙してる』
「…何?」
『あいつには何か、謎があるんだ…怪しいんだよ。信用ならねえ』
「…だったら、私と貴女は永遠に分かり合えそうにないね」
『…ふん。身体の所有権はおれが貰うぜ……勝負しな、こいし!グラン!』
「望むところだ…完膚なきまでに潰すてやらぁ」
「やめてグラン…それは負けフラグだよ…」
「…見つけた。けど、何であんなところに座って俯いて………ああ、なるほど」
フランが夢幻館の屋根と屋根の間に隠れているこいしを見下ろしながら、何かを呟いている。
「ちょっとお邪魔してみようかな…」
自分で思ったがどんだけフランを出したがるんだ笑




