現れた土着神と二人の悪魔 前篇
「そうか……なら、こいしは殺していないのね」
「……はい」
「萃香……随分とやられたみたいだけど……」
「ぜんぜん平気です」
「そう。ならよかったわ……さて、みんなもう戻っていいわよ」
霊夢がそう言うと、周りにいた十人が一斉に立ち上がり、玉座の間から出て行く。
報告後、正邪と萃香は自室に戻る為に夢幻館の廊下を歩いていた。
「正邪ァ〜、部屋に戻ったら酒飲んでいいよなぁー?」
「好きにしろ……」
「なら飲むよ!」
「そうか」(しかし……あのこいしとか言う奴……)
−やはり気になるな……殺すに足らぬ塵だとは言ったが…奴のあの魔力……
「……何か用か」
「あらら、バレちゃってたかぁ」
諏訪子が廊下の柱の裏から現れる。
「よお、古明地こいしを殺し損ねたらしいじゃん」
「諏訪子…!」
「…それが何だ」
「何で逃した?」
「奴もそこそこ強かったんだ!それに……紫も藍も居たし……」
「っはっ!言い訳はよしなよ……殺さなかったんじゃない、殺せなかったんだろ?なあ、萃香?」
「なっ…!お前、私をおちょくってんのか!?」
「だったら何だよ?」
諏訪子が嘲笑うように萃香を見ている。
「やめろお前達……」
「このっ……!私に潰されたいんだな!?」
「お前如きが?私を?はっはっは!笑わせないでよ!」
「おい……いい加減に……」
正邪が止めに入るも、二人は全く聞かなかった。
「ぶっ潰す!!」
「はっは!やってみなよ!」
萃香と諏訪子が魔力を高めようとしたその時
ゴオォッ
「「!!?」」
「お前たち…私に殺されたいのか?」
正邪が魔力を少しだけ解放した。
「…!!わ、悪かったよ正邪」
「分かればいい。後…諏訪子。お前はもう少し言葉を考えろ。面倒事を起こしてくれるな……」
「…分かったよ……悪かったね萃香、正邪」
諏訪子が歩いていった。
「…正邪……諏訪子の奴、何か考えてないかな?」
「…大体は分かる。いざとなれば止めにかかればいい」
「…それもそうだ」
−それに、これで奴も分かるだろう……あいつの中に眠る何かが……
「さっさと戻るぞ。お前も疲れただろう」
「あー、疲れた疲れた。早く休みたいよ」
少し歩いて、上の階に上がるための階段の場所まで来た。
「お疲れ様、二人共。大丈夫だった?」
階段を上ろうとした時、何者かから声を掛けられる。
「…フランか」
「おお、フラン」
「おっす。随分疲れてるじゃない萃香。こいしは強かったんじゃない?」
「ああ…思ってたより、強かった」
「だろうねぇー……ふふ」
フランが、少し悲しそうな顔をする。
「……お前とこいしは確か…前は親友だったらしいな。それでか?その反応は」
「……よく見てるねぇ。その通りだよ……こう見えても友達は大事にするタイプでね……それに、こいしの場合は親友だったから尚更別れたのが辛くてね」
「……あまりそう言う風に思ってる様には見えんがな」
フランは薄ら笑いを浮かべて正邪達と話していた。
「んん?そうかな?」
「…相変わらず何を考えているのか分からん奴だ」
「ははっ、謎めいている女は魅力的なのよ?」
「…知ったことか。私は戻る」
「お疲れ様」
「じゃあフラン、また夕食ん時にね!」
「ええ!ゆっくり休みなさい」
「……」
−フランは……何を考えているか分からないが……自然と信頼してしまう。奴には何か、人を魅きつける何かがある
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紅魔館
「へ?眼を開きたい?」
「…うん」
紅魔館の屋上で、こいしと早苗が話している。
「…自分から閉ざしたのでは?」
「…確かに、ね。けど今は……力が欲しいんだ。役に立てるように……」
「……なら、開いてあげましょう……と言いたい所なのですが、私の奇跡の力でも開くかどうかは分かりません。それと、二日ほど時間を貰えませんか?」
「分かった」
「ありがとうございます。それでは!」
ガチャ バタンッ
早苗が紅魔館に入っていった。
「……」
−無意識能力が消えるか否か……それだけが気になる
「…消えたら、むしろ弱体化かもしれない……」
−けど、さっきのもう一人の私の様子……
−『変われ』
「……!」ゾクッ
「……久し振りに、入ってみようかな……そうすれば、何か分かるかもしれな…」
その時
ドンッ
「……!?この感覚、まさかまた奴らが…!?」
「さーて、準備いい?夢月に幻月」
「ええ」
霧の湖の畔に、諏訪子、幻月、夢月の三人がいる。
「遠慮はいらない……とりあえず人を見つけ次第ぶっ殺していいからね」
「この魔力はおそらく夢幻姉妹だわ…あと一人は………どうしたものかしらね……」
「今は夜だし、廊下とかの暗がりで待ち伏せとか……」
「見つかるに決まってるわ。ここは真っ向から対峙するしかないわね」
「よーしみんな!今回の奴らは少し前の二人よりよっぽど荒っぽい奴らだから……気をつけなさい!」
「了解!」
「久しぶりねぇ……暴れられるのは」
「姉さん、私、あの正邪が殺し損なった古明地こいしって奴が気になるの。探してきていい?」
「ええ、いいわよ。多分紅魔館とかいうところにいるはずね…幽香もいるだろうし、飛ばしましょう」
「ええ」
「…神奈子…早苗……どこにいるのかなぁ…ふふ」
諏訪子が既に紅魔館の内部に入っていた。長い廊下を歩いている。
「多分ロビー辺りかなぁ?」
「諏訪子!」
「!」
「…何で、諏訪子が……!妙に馴染みのある魔力を感じると思ったら…お前だったのか……!!」
「…神奈子……会いたかったよ」
「…私はこんな形では会いたくなかったよ……!」
「…お前の意思は聞いてないよ」
「なっ…」
「私はお前と戦いたかったんだ!神奈子!!」
「!!」
諏訪子が神奈子に襲いかかってくる。
「そぉらぁ!!」ブンッ
神奈子に向けて、回し蹴りを繰り出す。
「くっ!!」
神奈子は、それをしゃがんで躱す。
「何でお前がこんなことを……!」
神奈子が悲しそうな声で言った。
「どうしてだ!諏訪子!」
「さっき言ったろ?だからもう…」
諏訪子が不敵な笑みを浮かべる。
「答える必要はないね!」
「おっひさー!元気してた?幽香!」
「…あんまり元気ではなかったわ」
「えー?あっそう。戦いを楽しむ為だけに紫に従ってた事をまだ恥じてるの?」
「…知ってるんなら聞かないでよね」
「悪かったわね。さて…私は今日はただ会いに来た訳じゃあないのは分かるよね?」
「…さあ?分からないわね」
「全く、分かってる癖に」
幻月が爽やかな笑いを浮かべ…
「幽香……私達とまた暮らそう?」
「悪いけど、お断りよ」
……
「え!?」Σ(・□・;)
「いやだから、お断りよって」
「何で!?」
「…気分?」
「おぉい!気分で私の勧誘をさらっと…!」
「というのは冗談で」
「……」
「……私は戦いを楽しむ為に今まで行動していたわ……けど、今は違う」
幽香が真面目な顔付きで幻月を睨む。
「…今は?」
「今は……ある事を確かめたいのよ」
「…ある事?」
「……」
−『生き返らせた理由、ね……さあ、何でだろうね』
「…あの子の……フランの企みよ」
「…フランが何か企んでいると?」
「ええ」
「……例えば?」
「…貴女に話す必要はないわ」
「…そうね。あーあ、幽香が仲間になってくれたら嬉しかったのになー……残念」
幻月が腕を組んで、どうしたものかな、と言いたげな顔で幽香を見つめていた。
「…ふふ、もう考えはまとまってるでしょ?」
幽香が笑みを浮かべる。
「……なぁーんだ、やっぱり分かってた?」
幻月も、笑みを浮かべる。
「さて、始めますか」
「いいね……久々に楽しい戦いになりそうだ!」
こいしは、屋上から急いで降りてロビーの方へと向かっていた。
「まさかこんなに早くまた来るなんて……!もうみんな戦ってるのかな……!」
−今更だけど、屋上で待ち受けているべきだったな…
「見つけた」
「…!?」ザザザァ…
スタッ スタッ スタッ スタッ
夢月が廊下の奥の暗闇の方から、ゆっくりと歩いてきた。
「貴女が古明地こいしね?」
「…!?」ゾクッ
−な、何だ、こいつ……!やばい…絶対やばい!!
逃げなきゃ…!逃げなきゃ殺される…!!
「ちょっと、返事くらいしなさいよー。貴女が古明地こいしなんでしょ?」
「…そうだよ」
「やっぱりそうなのね。特徴が一致してるし」
「…で?どうするの」
「貴女と戦いたくてね。何せあの正邪が殺し損ねたんでしょ?まあ、見た感じ見逃されたっぽいけど」
「…!!」
「さ、遊ぼうよ。殺しちゃったらごめんねー」
−逃げなきゃと思ったけど、ここで逃げれば周りが巻き込まれるな……
やってやろうじゃない……!私だって弱い訳じゃないんだ…勝ってやる!
多分、正邪より下だろうから……私でも頑張れば勝てるはず……!
「あー、一つ良い事教えてあげる。夢幻館は今は、霊夢の支配下にあるんだよね」
「…知ってるよ」
「お?知ってた?なら話は早い。霊夢は、強い順に強さを並べてNo.を決めていってるんだ」
「……」
「総勢十五人いる中で強さの序列を決めているの」
「…それが何?」
「私のNo.は…6。No.6の実力者、夢月。よろしくね」
「…6…!?」
「…おい…戦い始めるぞ……まだいいのか行かなくて」
「もうちょっともうちょっと!」
「しかしフラン……あんまりあいつらに暴れられると霊夢様に怒られるんじゃ?」
「大丈夫さ萃香。霊夢さんもそこまで短気じゃないって」
「……何を言われても知らんぞ」はぁ…
紅魔館から少し離れた上空に、フラン、萃香、正邪の三人がいる。
正邪はポケットに手を突っ込んで、無表情で紅魔館の方を見ていた。
萃香は、腕を組んで、空中に胡座をかいて浮いている。
フランは腰に手を当て、笑みを浮かべながら紅魔館を見ている。
「さあて、お手並み拝見と行こうじゃない……」
「窓越しだが見えるのか?」
「吸血鬼だしね」
「…それもそうだ」
「後で貴女達に魔法で見せてあげるよ」
「おー、楽しみだな」
(…こいし…今の貴女の実力はどれ程なのかしらね)
せっかくだから直接会いたいけども……まあ、やめとくかな
十人の同胞と言いつつ、まさかの十五人。
つまりどういう事だっ○ばよ?
何人かまだ登場していないという事です
…後付けじゃないよ?




