きっと、ずっと変わらないものがあることを教えてくれた貴女はーー
その昔、私は剣術も弾幕も家事も何も出来ない役立たずだった。
ある日、お祖父様が剣の修行をつけてくれると言ってくださった。私はとても嬉しかった。お祖父様に認めてもらったんだと歓喜した。
だがそれは違った。お祖父様は幽々子様の従者のような関係で、その後継を私にしてほしかっただけだった。それでも認められているのだろう。けど、私はその後継という薄っぺらい認定が気に入らなかった。
「せぃやぁ!」
「甘いな」
ぽんっ
「わっ!わわわっ!」
「いたっ!」どてっ
「全く、剣を振った後に構えが崩れているぞ!それでは簡単に裏をかかれる。もっとしっかりと構えろ、隙を作らないよう意識を持つんだ」
「後は、自分を信じることだ。周りに決して惑わされるな、自分の感覚を信じろ」
「は、はいっ!」
それから、何年経ったかは覚えていない。
けど、お祖父様は突然姿を消したんだ。
剣の修行は途中だった。私はお祖父様に見捨てられたのだと感じた。
その日以来、私は何をするにも感情を表に出すことはなくなった。
そんな時に……
「妖夢〜」
「なんですか、幽々子様」
「最近貴女暗いわね〜どうしたの?」
「どうもしてませんよ」
「嘘ばっかり〜」
「嘘じゃありません」
「……本当に辛い時はね?感情を持つ者は一人で抱え込んでしまうことが多いのよ」
「……?」
「本当に辛くて辛くてどうしようもない時は自ら殻にこもってしまうの…………だから……誰かに話して心を落ち着けるのよ」
「……!」
「何でも言ってごらんなさい?私はどんなことでも受け入れてあげるわ。例えそれが私にとって不都合であっても、幻想郷に影響があるとしても……私は貴女の味方よ」
「……幽々子様……!」
「おいで、妖夢」
「幽々子様ァーー!うわぁはぁぁあん…!」
「思いの外涙脆いのねー」
「な、何ですか!悪いですか!」
「ふふふ、妖夢は可愛いわね〜♪」
「ぬ、ぬぬぬ〜!私だって剣術は出来るんですよー!?」
「お、ならこれからは貴女が剣術指南役兼庭師になってもらえないかしら?」
「え?」
「妖忌は多分、しばらく帰って来ないからさ……だから、そのかわりに妖夢がなってくれたら私は嬉しいな」
「やります!幽々子様のお役に立てるのなら!」
「本当?助かるわ」
「はい!」
その日以来、私は幽々子様のお役に立ちたくて必死に努力を重ねた。剣術だけでなく、料理や家事なども勉強した。
そしていつからか……私は庭師以上の立ち位置になっていた。
幽々子様は、「貴女が居てくれたら安心だ」と仰ってくれた。
嬉しくてたまらなかった。幽々子様に認められたんだ。
私は幽々子様に一生ついて行くと誓った。
今その幽々子様が……私を殺そうとしている。
「ヴヴヴヴ……」
「……」
もう、楽しかったあの頃の生活には戻れないのだろうか
−『妖夢〜、みかん無くなったから買ってきて〜』
『ええっ!?何で私が!』
『だぁって…庭師でしょう?』
『関係ないでしょ!?』
「……」(もう、迷いは捨てろ)
−そうだ……お祖父様からの教えだ。周りに決して惑わされるな、自分の感覚を信じろ……
私は……もう惑わされない!
「キシェアアアアア!!!」
「来るよ!」
「こいしさん、霊夢さん。ここは……私にやらせてください」
「……!」
「何言ってんのよ…!そんなことしたらあんた……」
「わかった」
「えっ…⁉︎」
「ちょ、ちょい待てよこいし…!妖夢一人じゃ流石にきついって……」
「妖夢の意思でしょう?」
「……!」
「まあ、私も綺麗事言ってるけど……危なくなったら助けるよ……それは許してね?」
「……ありがとうございます。こいしさん」
妖夢が、幽々子の方へ飛んでいく。
「幽々子様……」
「フゥゥゥ…」
「……」
−行きますよ…幽々子様
「白玉楼剣術指南役兼庭師、魂魄妖夢……参る!」
「ウオオアアアア!!」
「ッ…!」(耳が…)
「幽々子の奴、何してんの⁉︎あれ……!」
「……!霊魂を吸収しようとしてる……?まさか、さっきの爆発で身体が消し飛んだのに再生したのは霊魂を使って……」
「こいし!あれこれ分析するのは一向に構わないけど……妖夢に伝えなきゃ意味がないわよ?」
「分かってるさ……けど、多分妖夢も……」
−幽々子様を倒すには、幽々子様が吸収した霊魂……すなわち幽々子様の魂全てを成仏させること……。
「幽鬼剣『妖童餓鬼の断食』…!」ガチャ
刀を構え、刀に霊力を込める。
「この楼観剣に切れぬものなど……!
あんまりない!」
ズバァンッ!
弧を描くように刀を振るうと、空気が歪んだ。
その空気の歪みから弾幕が飛んで行く。
「ウオオオオオ!!」
コオオオ…
幽々子が手に霊力を溜めている。
「!妖夢!光線、来るよ!」
「分かってます!」
「キシェアアアアア!!!」
−相手は暴走しているとはいえ、あの幽々子様なんだ……スペルは出し惜しみ無しに行くべきだ…!
「餓王剣『餓鬼十王の報い』!」
「せえい!!」ブンッ!
ドゴオオオオンッ!!
幽々子の放った光線を妖夢の放ったスペルが相殺した。
「まだまだ!」ブンッ! ブンッ! ブンッブンッ!
四回連続でスペルを飛ばす。
「ウオオアアアア!!!」
幽々子が咆吼でそれを全て掻き消す。
「なっ!?」
次の瞬間ーー
「……」
「……なん…!」
幽々子が妖夢の背後に移動していた。
「シャアア…!」コオオオ…
−零距離!!
「くっ……!」(助けに…!)
「待って霊夢!」ガッ
霊夢が助けに行こうとすると、こいしがそれを止めた。
「なっ…!あんた妖夢を見捨てるつもりなの!?」
「霊夢は妖夢を信じられないの?」
「!」
「よく見てて……妖夢だってあのままじゃ終わらないよ」
「…⁉︎」
−幽々子様……私がお祖父様に一番最初に教えてもらった奥義です。お祖父様が去る前に、唯一教えてくれた奥義……受けてください!
「奥義『西行春風斬』!!」ヒュッ
ズバァンッ! ズバァンッ!ズバァンッズバババ
凄まじいスピードで幽々子を切り刻んでいく。
「はっや……!何だよあれ……あんなこと出来たのか?あいつ…!」
「ね?言ったでしょ?」
「…そうね」
「はっ…!はっ…!」ズザザザァ…
「ガァ…グルルル……!」
−獣のような鳴き声を……!やはり、悪霊の霊魂を吸収しすぎたんだ……。
……というか、倒せなかった。予想外……一旦距離を取って出方を見……
「ガアアアア!!」
る……⁉︎
幽々子が妖夢の目の前にいた。
「うわぁっ⁉︎」ダンッ!
妖夢が飛び上がる。
ガッ
「え?」
何者かから、肩を掴まれた。
「グルルル……!」コオオオ…
「嘘…!」
ドオオオオオオオンッ!!
「妖夢!!」
「……!!」
カラァーン…
妖夢の刀が落ちてくる。
「……妖夢…!」
「……くっそがぁ!!」
魔理沙が幽々子に向けて八卦炉を構える。
「……こいし……あんたのせいよ……!あの時、あんなこと言わなければ……妖夢は……!」
「……私が行く……!!みんなは下がってて!!」
魔力を最大まで高めて幽々子へ突撃していくこいし。
「おっと……手出しは無用ですよ」ガッ
「……!?」
シュンッ
ズバァンッ…
幽々子の身体が真っ二つに切断される。
「グガッ……アア?」
「断命剣…『冥想斬』」カシャンッ
さらに、幽々子の身体が切り刻まれる。
「グギャアアアアアア!!!」
「よ、妖夢…!」(落ちた刀は白楼剣だったのか……)
「ありがとうございます、こいしさん。心配してくれていたのですね……」
「ですが、もう大丈夫です。後は私に任せてください」
「……うん」
こいしが霊夢達の方へと戻っていく。
「……さあ、幽々子様。続き、やりましょうか」
「ガルルル……!」
幽々子の身体が再構成されていく。
「……」
「ガアアアア!!!!」
コオオオ…
幽々子が、今までの中で一番大きな霊力を溜めている。
「……決着をつけようと言うのですね……いいでしょう」
コオオオ…
妖夢も、楼観剣に霊力をありったけ込める。
「……私が編み出した、最強の剣技です。……決着を、つけましょう」
「……」コオオオ…!
「……」コオオオ…!
ドンッ!!
二人が同時に突撃していく。
「『待宵反射衛星斬』!!!」
「グオオアアアアアア!!!」
ドオオオオオオオオオオオオ……
「はあああっ……!!」
「キシェアアアアア!!!」
−『だぁって……貴女庭師でしょう?』
『関係ないでしょ!?』
『あはは、冗談よ〜。さ、一緒に行きましょう?妖夢』
『…!はい!』
−幽々子様……私は貴女に一生ついて行くと誓いました。
誓いは守ります。私は……貴女についていきます。
たとえ貴女がどうなろうと……命が潰えようと……
私が、共に歩みます。
一緒に行きましょう。どこまでもーー




