夢
今回は少し今後の展開を意識した回になります。多分……
白玉楼に行く前に、一日休もうという話になった。
その日、紅魔館にはもう誰もいないことが分かった為紅魔館の内部でそれぞれの部屋で寝た。
色々あったから……精神的に滅入ってしまっていた。
「……フラン……」
親友の名を自然と口ずさんでしまった。……もう二度と会えないと分かっているのに……
「……」
窓から外を眺めると、どこも物静かで明かり一つない暗黒の世界が広がっていた。
別に見慣れていないわけではなかったが、その暗さが私を不安にさせた。
窓の隣にベッドがあるから、外を見ながら寝転んでいた。今思えば、どうして外を眺めていたんだろう?
さっきまでお姉ちゃんと私の部屋で喋っていた。その時、地霊殿であった笑い話をたくさんした。
その後だからか、暗闇に恐怖を覚えてしまった。そのまま寝ようと、そう思った。
「……」
ベッドに横になり、これまであったことを思い返す。
何もかもが唐突すぎて理解が追いつかなかったし、受け入れられなった。
そんなことが重なり、気が滅入ってしまっている。
いつも励ましてくれる親友も、今はこの世にはいない。
「……明日は……白玉楼か……」
頑張ろう……そう思いながら、眠りについた。
「……ん……」
「…おはよう、こいし」
「…え?」
この声には、聞き覚えがあった。
「フラン……?」
「うん。あの後こいし寝ちゃったんだよ?だから、私の部屋で寝かせてたの。ごめんね、こんなところで寝かせちゃって」
「えっ…え?ええ!?」
「ん?どうかしたの?」
「な、何で……私は…え?」
「こいし?」
「な、何で生きてるの?フラン」
「……悪い夢でも見てたの?」
「!」
−そうか……!夢だったんだ…何もかも夢だったんだ!フランが死んだのも、ルーミアやチルノや大ちゃん達もみんな…!
「うん……とっても嫌な夢を見てたの」
「そう……あ、そうだ。クッキー焼いてるよ。食べる?」
「あ、食べる食べる!わーい、フランのクッキーだー♪」
「お、気に入ってくれてたみたいだね。私のクッキー」
「……あ……」
「ん?」
−思い出した……これは……
あの日だ。私がフランを初めて外に連れて行った……あの日と同じだ。私が前の日に紅魔館で遊んでたら、そのまま寝ちゃって……そして、次の日に起きたらフランの部屋に居て……フランのクッキーを食べて……そして他愛のない話をして……
「こいし?」
「あ、う、ううん!なんでもない!」
−…じゃあ……これは……夢……?
「……こいし、今日ちょっと変だよ?何か考え事があるなら……私でよかったら相談してもいいんだからね?出来る限り力になるから」
「うん、ありがとうフラン……でも本当に何もないから……」
「……そっか。話したくないならそれでいいわ……」
「だ、だから考え事なんて……!」
「本当に耐えられなくなった時は……」
「……!」
「私に言ってね」ニコッ
「……!」
涙が出てしまった。本当に嬉しくて嬉しくてたまらなかった。
今まで私のことをこんなにも大切に思ってくれる人は……お姉ちゃんやお空やお燐達以外いなかったから。
「……うぅ……!」
「……やっぱり、何かあったんだね……」
「フラァン……!」
「…よしよし」
私は、フランに抱き付いてしまった。
久しぶりに話したかのような感覚になった。そして、また会えるんだという喜びで涙が止まらなかった。
……きっと、これも夢なのだろう。何となくわかった。
「……夢のことなの……」
「…うん」
私は、今まで起こったことの全てを話した。
「……嫌な夢だね……」
「うん……」
「……私が死んだあたりから……こいしは涙ぐんでたね…」
「だって……!本当に辛かったんだもん……!」
「……ふふ、そう……ありがとう、それほど大切に思ってくれてるんだね」
「もちろんだよ!フランは掛け替えのない親友だもん!」
「ありがとう。……ごめんね、あまり話したくなかったんじゃない?」
「いいよ……隠し事した私が悪い」
「……そう……」
「……多分、これも夢だと思ってるんだ……」
「……根拠は?」
「……なんとなく……」
「……そう……でも、こいしが言うならきっとそうなのかもしれないね……」
「……」
今私と話してるフランは……私がほんの数日前まで一緒に遊んでいた頃のフランだ……。
でも今は……もうこの世界にいない……。
話せるのは……今の夢の中だけなんだ……。
「……そんな寂しそうな顔しないでよ……」
「……フラン……抱き付いていい?」
「……うん」
私は思いっきりフランに飛びついた。
少しフランがバランスを崩しそうになってしまったけど、フランは全然気にしていないようだった。
……いや、夢なんだから……自分の思い描いたものになって当然なのかもしれない。
「……こいし、泣いてる?」
「……ごめん…服濡れちゃったかも……」
「ははっ、そんなの気にしないでよ」
やっぱり、優しいなぁ……夢とはいえ、つい感傷的になってしまう。……私はフランのこの優しさに魅かれたのかもしれない。
「……フラン……外に出ない?」
「外に?」
「うん。地下室から出て、外の世界に行こうよ!」
「……でも、私の能力は……」
「フランは制御出来てるでしょ?」
「……そうだけど……」
「大丈夫!私に任せて!外のことに関しては結構詳しい方だから!」
「……う、うん」
私は、あの日をそのまま再現しようと思った。そうすればきっといい気分になるだろうから。
「あ、フランドール様!おはようございます!」
「うん、おはよう。今日も仕事、頑張ってね」
「はい!」
「すっかり人気者だねフラン!」
「まあね……」
ある日、フランがみんなに謝りたいって事でレミリアに頼んで紅魔館のロビーに集めたんだと。そして謝罪の言葉を言って、『これからもこんな私と一緒にいてくれる?』と言ったらしい。
そしたら効果劇面。妖精メイドはその言葉に魅かれてどんどんフランと関わっていった。
「お姉様も喜んでいたし……私もみんなと話せたりして嬉しかったな」
「まあ、フランと一度でも関わったならフランの魅力は一瞬でわかるだろうしね!」
「ふふ、ありがとうこいし。……ところで、外に行くって言ったけど……具体的には目的地はないの?」
「そうだねー。所謂散歩ってやつ。嫌かな?」
「そうなことないよ!むしろ、嬉しくて。私もこいしとなら外に出ても大丈夫だと思ってるし」
「そう?ならよかった!」
「あ、ちょっと待ってこいし。傘とるから」
「あ、うん」
フランが傘を持って、玄関の扉を開けた。
「あ、フラン!大丈夫なの?」
「多少の日光なら平気だから」
ガチャ
「「え?」」
外に出ると、さっきまで朝だったはずなのに、何故か夜になっていた。
「……え?ど、どういうことなの?」
「……何か……よくない予感がするね」
フランが真剣な表情になっていた。いつもそうだけど、フランはこういう時はすっごく頼りになる。
「……ま、傘がいらなくなったって事だし……散歩がてら少し紅魔館の周りを見ていこうよ」
「……うん、そうしよう。フラン、一応傘、持っておきなよ」
「わかった」
その時だった
「グバァァァーー!!」
ブシャアッ!
「ぐっ!?」
フランにルーミアが突っ込んでくる。フランは避けられず、腕に噛み付かれている。
「フラン!!」
「こいし!周りに気を付けて!」
ぶちぶちぶち……
「あっ……!うぐぅっ……!」
「フラン!!」
フランが腕を噛みちぎられていっていた。
ドガァッ
「ぎゃあっ!」
フランがルーミアのこめかみの辺りを思い切り殴りつける。
「くぅっ……!誰!?この子…!」
「!」(そうか……フランは知らないんだ!)
「その子はルーミアちゃん! 本当は優しい子なんだ…!けど、今日は様子がおかしい!」
「……かぁぁ……!」
「ん?」
「めぇぇ……!」
「……ん?んん?それって…」
「はぁぁ……!」
「軽くOUTだってそれ!」
「めぇぇ……!」
「待ってーー!」
「とでも言うと思うのかー!!」
「えぇ!?」
「油断したな!」
ルーミアが私に噛み付きにくる。……あれ?この感じ……どこかで……
ズバァンッ
「え?」
「大丈夫?こいし」
「あ、フラン!」
「ギャアアア!」
「……あっ…!ご、ごめんなさい……!腕を……!」
「よくもやってくれたなぁ!!」
「本当にごめんなさい……!私が治すから……」
「うるさい!!お前から食ってやる!!」
「グバァァァーー!!」
「……くっ……!」
「フラン、退いて」
「……!」
ズバァンッ!
「……え?」
ルーミアの体を引き裂いた。……誰であろうと、フランを傷付けた奴に容赦はしない。
「ギャアアア!!」
「こ、こいし!何もそこまでしなくても……!」
「フランは黙ってて。大丈夫、殺しはしない」
「…こいし……!」
「なんで私がこんな目に…あわなきゃあ…?」
「……?」
「いぎぃいい!?」
「!?」
「痛い…痛い痛い!!なんだこれぇえ!?」
「……!!」
思い出した…これは……!
「体の中に……何か……!何かいる!やだぁぁあ!!」
「……何……!?どうなってるの!?」
「フラン!急いでルーミアちゃんの体内にいる小さな鬼を破壊して!!」
「!わかった!」
こういう時は機転が利く。流石フラン!
「……きゅっとして……」
「どか」ズバァンッ!!
「……がはっ……!」
「フラン!?」
空から巨大な刀が落ちてきて、フランの体を貫いていた。
「……くっ……うぅっ…!」
それでもなお、鬼を壊そうとしていた。
「フラン!無理しなくていい!私が…!」
「あの鬼を壊さなきゃ……あの子が危ないんでしょ!?」
「……!」
「きゅっとして……ドカン」ぐっ
ブシュッ
「いたぁぁいいい!!助け…!…あれ…?」
「……よかっ…たぁ……」がふっ
フランが血を吐いて倒れる。
「フラァン!!」
「……私は……大丈夫だから……それより、ルーミアちゃんは……」
「……!大丈夫……ちゃんと生きてる!」
「……そっかぁ……」
グォオンッ
「!?」
辺りの景色が一気に変わった。
夜なのは変わりないが、人里のような場所に来た。
「……この旅館……まさか……⁉︎」
「……こいし……ここは……?」
「フラン!もう大丈夫なの?」
「う、うん……刀は抜いたし、もう再生した」
「そっか……ここは恐らく…………フランが……死んじゃった場所……」
「……そう……」
ドドドドドドドドドド……
「……!」
「……この…魔力……!」
「ごきげんよう?地底の妖怪さん。まさか、その子の子守として貴女がいるのかしら?」
「風見……幽香……!」
「……!」
同じだ……あの時と全く同じだった。強いて言うならフランが万全の状態ってことだけだった。
「逃げよう!フラン!」
「う、うん」
全速力で走った。おそらく追いつかれるだろうが。
「逃げられると思ってるの?」
「……やっぱり、だめか……!」
「……戦おう…こいし。そうするしかない」
「駄目!絶対戦ったら駄目!!」
「こいし……⁉︎」
戦ったらフランが……フランが死んじゃう……!嫌だ……絶対やだ!
「……腰抜けねぇ……吸血鬼のお嬢様、そんな腰抜け放っといて私と戦らない?」
「……腰抜けだと?」
「……?」
「こいしが……腰抜けだと?」ギロッ
フランの目つきが変わった。私が腰抜けと言われて怒っている……?
「もう一度言ってみろ……問答無用で消す」
「はっ……威勢のいいことね……まあでも、そこの腰抜けなんかよりよっぽどマシよ」
「……こいしは腰抜けなんかじゃない。……私を守ろうとしてくれてるんだ。事情も知らずに腰抜け呼ばわりするのは、頂けないね」
「あらあら……貴女ってそんな怒りっぽかったかしら?もっと冷静なイメージあったけどねぇ……」
「友達を悪く言われて怒らない奴が……どこにいるのかしら?」
「……ごもっとも……なら、戦る?」
「……」ドドドドドドドドドドドドドドド……
フランから幽香に負けないほどの魔力を感じる……こんなに強かったんだ……!
「私もやる!」
「こいし……気をつけてね?」
「うん!」
「……勝った……!勝ったぞー!!」
「ふぅー……勝てた……」
「……」
私達が協力して戦えば……勝ち目があったのかもしれないと……思ってしまった。
私が無意識の能力でフランと私を意識から外して、その隙にフランがレーヴァテインを放つ。その作戦が見事に成功したのだ。
「こいし、博麗神社に行かない?霊夢ならきっと何か知ってるんじゃないかな?」
「そうだね……行こう!」
博麗神社にて、霊夢がいないから探しているところだ。
「霊夢、いないね……」
「…そうだねぇー……!」ぐっ
私が伸びをしたその瞬間ーー
「!!こいし!!」
ドンッ
「え!?」
ドスッ
「……」
「……かはっ……!」
「霊…夢……?」
「……逃げて……こいし……ごふっ」
フランが、霊夢に封魔針で刺されていた。
「フラン!!」
「……ゔっ……」ドサッ
フランが倒れた。
「フラン!フラァン!!」
フランに触れて、驚いた。
恐ろしく、冷たかった。これはーー
「死んで……る……?」
−嘘……嘘でしょ!?フラン!フラン!!
「……順番が逆になったけど、まあいいわ……」
「フラァァーン!!起きてよ!!フラン!!」
「……あんたを殺してお終いよ……こいし。私は何が何でも生き残る」
「……え⁉︎」
−何の話を……!
「さようなら」ブンッ
「うわぁあぁぁあぁあぁあああ!!!!」
「ああぁあぁぁあああ!!」
「はっ…!はっ…!はっ…!はっ…!」
−…やっぱり、夢だった……
あんなこと……ある訳がないもの……フランが生き返ってて……突然夜が来て……ルーミアちゃんも生き返ってて……霊夢がフランを……殺し…て……
−『逃げて……こいし……ごふっ』
「うわぁあぁ…!」
思い出したくない…!あんな夢……あんな夢……!!
「こいし!?どうかしたの!?」
「…お姉ちゃん……!」
私は多分今、涙目だろう。
「こいし……⁉︎何かあったの?」
「……嫌な夢を見たの……!霊夢がフランを殺しちゃう夢を見たの……!」
「……!」
「怖いよぉ……!もうこれ以上……誰も失いたくない……!誰も……!」
「……」
「お姉ちゃんは……死なないでよ……?お願いだから……ずっと、私の側にいて……!」
「…当たり前よ……いつまでもずっと…ずっと一緒にいようね。こいし」
「うん……うん…!」
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「…そろそろ奴らが白玉楼へ向かう頃合いかしらね……」
「藍、橙。頼んだわよ」
「「はっ」」




