憎しみの涯に
「!?な、何!?」
「爆発!?」
「…!!嫌な予感がする…!急ごう!!」
「はい!」
並行こいし達が、急いでフランとこいしの元へと向かう。
「……」
ザァーー……
地面から少し盛り上がっている岩場に、フランが倒れている。
その前に、こいしが立っていた。
岩場には、先ほどの大爆発による水しぶきが雨のように降り注いでいた。
「……」
フランの腹部が、赤い液体で濡れていた。
「…勝った……私の勝ちだ……!」
こいしが、不気味な笑みを浮かべる。
「世界は、私という恐怖に支配される!!破壊神の力を手に入れ、全ての世界に破壊という恐怖を齎し!圧倒的力で全てを捩伏せ、世界を手に入れる!!」
「さあ待っててねフラン…!!もうすぐ…もうすぐだよ!!…くくっ…ははははっ……
あーーっははははははは!ははははは…!はは…は……」
「……」
−『なっ…!!』
フランのレーヴァテインがこいしの攻撃に打ち勝った。
しかし……
−『……』
フランはこいしを攻撃しなかった。
−『……!?』
とても悲しそうな目で、こいしをじっと見つめていたのだ。
ドッ
−『ぐっ…!』
その時だった。フランが自分からこいしの攻撃に当たりに行ったのだ。
−『!?』
「……」
ドクンッ
「!?うぐぅっ…!!」
こいしが、全身に痛みを感じた。
先ほどまでの戦いのダメージを魔力で誤魔化していたため、蓄積されていたダメージが一気に戻ってきた。
「ぐっ…がぁっ…!!」
こいしが前のめりに倒れ込む。
両手をついて、四つん這いの状態となった。
その時、こいしの顔がフランの顔の少し手前で止まった。
「はあっ…!!はあっ…!!」
フランは目を閉じたまま、全く動く事はなかった。
呼吸すら、していない。
−……私は……。
−『私が貴女の傍に居てあげる』
「…フラン…ねえ、フラン…?私の勝ちだよ…?貴女が間違ってたんだよ?勝者こそが全てなんだ……」
「……ねえ、だからフラン?これからの素晴らしい世界を見せてあげたいんだ。起きて?私の名前を呼んで?」
「…ねえ、フラン……前みたいに……さっきみたいに……私の名前を……」
再び立ち上がり、そう言った。
しかし何度フランの名前を呼んでも、微動だにしない。魔力も感じない。
「……」
−……フランを殺したんだ……私が……。
「……」
−そうだ……私が望んでやった事なんだ……
私がフランを……殺したいと思ったんだ……私が……
なのに……この感情はなんだ?
「……私が…間違ってたって言うの…?」
−こんな世界……壊した方がいいに決まってる。
なのにどうして私はこんなに後悔している……?
「どうして私はこんなに……涙を流している……?」
こいしの目からは、大量の涙が溢れ出ていた。
「教えてよ、フラン…………うっ…」
こいしがその場に崩れ落ちる。何故か涙が止まらなかった。
「うわぁあっ……あぁああっ……」
−何で…?何でこんなに……涙が……!?
その時こいしは、フランやさとり達との思い出が脳裏に浮かんできていた。
−『こいし』
「……憎しみからは……何も生まれない……」
生まれて初めて味わった虚無感。
それはこいしの心をどんどん破壊していった。
そして、気が付いた。自分がした事は、最愛の友であるフランの覚悟を……意志を裏切る最低の行為だったという事に。
「……やっぱり私は……大馬鹿だ……」
−そうだ……いっその事……もう終わってしまおう……。
何も恩返しできなかった……フランの意志を裏切る事しかできなかった……。
こんな最低なクズは……死んで当然だ……。
誰も悲しむ人なんていない……私は死ぬべきなんだ。
「……ははっ……ははははははっ…」
こいしが自らの手で胸を貫こうとしたその時だった。
ガッ
「…えっ…」
「……だ…め……」
フランが、こいしの腕を掴んでいた。
「…フラン…!!」
「……死んじゃ……だめ……」
「……!!でも、私は…!」
「ごふっ」
フランが口から血を吐き出した。
「フラン!!」
−そうだ……流水でさらにダメージが…!
「どうしよう……!」
−私のせいでまた……友達を殺してしまうの…?
しかも今度は自らの手で…!?
「そんなの嫌だよ…!!ど、どうすれば……」
「……心配、しないで……」
「フラン…!!」
「私は……死なないから……」
「…うん」
しかし、フランはこのままでは死んでしまう事はこいしでもすぐにわかった。
「…私が自分からこんなにしたのに……何を言い出すのかと思うかもしれないけど……フラン」
「……?」
「私にも、フランを救わせて……」
こいしがフランを抱きかかえ、そのまま飛んでいく。
「……こい…し……」
フランがこいしの服を弱々しく握りしめた。
フランの目からは、涙が流れている。
「……私のせいでこんな目にあったのに……まだ私の事で泣いてくれるの…?」
「……嬉、しい…の……」
フランは笑顔だった。泣きながら笑顔でこいしの胸に顔を埋めていた。
「……フランは優しすぎるんだよ…!!」グスッ
こいしも涙を流しながら、笑顔でそう言った。
「…あれって…」
「フランと……こいし…?」
「別世界のこいしさん…ですよね?」
「…二人はここで待ってて」
「え?…は、はい」
並行こいしが、フランを抱えているこいしに近付いていく。
「……貴女は…」
「…貴女がフランをそんなにしたの?」
「…うん」
「…どういう意図で?」
「……世界を壊そうとして」
「それでどうしてフランに手を出したの?」
「……別の世界のフランを……このフランの魂を使って復活させようとしていたんだ」
「…そっか……」
「…許されないのはわかってる……私は元の世界に戻るよ」
「…貴女の世界のみんなは、貴女に殺されちゃったんでしょう?」
「…うん」
「だったら、ここでやり直そうよ。貴女ならみんなもきっと……受け入れてくれる」
「……そう言ってくれるのはありがたいけど……私は…取り返しのつかない事をしてしまったんだ……だから……」
こいしが涙を流しながらそう言った。
「!」
その時、こいしに抱えられていたフランがこいしの頬に伝う涙を指で拭いた。
「…フラン…?」
「……来てよ……こいし……」
「…いいの…?私は……あんな事をしたのに…?」
フランが笑顔で、うなづいた。
「……ありがとう……!」
「……それじゃあ、急いで紅魔館に戻ろう。フランの治療をしないと」
「うん…」
その後、こいし達は紅魔館に戻った。
フランの治療は、すぐに終わった。元々のフランの生命力と回復力があったからだ。
今こいしは、並行こいしから病室から出てほしいと言われたので屋上に来ていた。
「……」
−私のせいで……みんな死んだ。
私のせいで……フランの行為が全て無駄になってしまった。
それなのに……私が生き残ってどうするんだ。
「私に生きる価値なんてない……」
こいしがポケットからナイフを取り出す。
「……」
−このナイフで胸を貫くだけで……私はみんなのところに行ける。
……みんなのところに……。
その時、屋上の扉が開く。
「こいしー、居る?晩御飯食べ…………!?こいし!?」
姿を見せたのは、フランだった。
こいしの手元にあるナイフを見た瞬間、急いで止めにかかる。
「何をしようとしてたの…!言って!!」
「止めないでよフラン……私は……」
「ダメだよこいし!そんな事しちゃ!!」
「……私はもう……死にたいんだ」
「……ッ……」
死にたいという言葉を耳にした瞬間、フランの表情が変わった。
まるで、トラウマを呼び覚まされたかのような…そんな顔だった。
「…言わないで……」
「…フラン…?」
フランの様子がおかしい事に、こいしが気がついた。
「そんなこと……言わないでぇ……」
フランは、泣いていた。
そして、膝をついて地面に崩れ落ちた。
「…!?フ、フラン!どうしたの!?」
「嫌だ……もう失うのは…嫌ぁ……!」
「…!」
こいしはふと、思い出した。
この館の住人以外は誰も生き残っていないと言っていた事を。
つまり、フランは元の紅魔館の住人……即ち家族を美鈴一人を除いて全員失っている事になる。
こいしは、フランの心を読んだ。
−『パチュリー!逃げようよ!!紅魔館に!!』
−『……こあ……』
−『パチュリー!!』
−『…ごめんなさい…フラン……私はもう……』
−『諦めないでよ!ほら、私に捕まって…!』
−『…私はもう……死にたいのよ……』
−『…えっ……』
直後、パチュリーの顔がバラバラに弾け飛んだ。
−『…パチュ……リー……?』
パチュリーの体が、倒れた。
まだ、ビクンッビクンッと痙攣している。
−『…そこの魔女は生きる事を諦めてた……死ねて嬉しかったと思うよ』
並行世界のこいし……即ちヒロトがフランの目の前に立った。
−『…あんたはあの日以来精神力が強くなったからね……今の内に殺しておくかな……』
フランは、時間停止を使って全速力で逃げた。
フランの頬には、大量の涙が伝っていた。
「……」
その壮絶な過去を見たこいしは、先ほどまでの死にたいという感情は消え失せていた。
「……フラン……ごめんね、もう二度と死にたいなんて言わないよ」
「…グスッ……ほんとに…?」
「…うん、約束する」
「……わ、私こそ…ごめん。泣いちゃって……」
「…フランは家族を目の前で失ってるもんね……トラウマを呼び覚ますような事をしてごめん」
「…!…バレちゃった……こいしは心を読めるんだったね……」
「……私も……これから頑張るよ」
「…うん……一緒に頑張ろう……!」
フランはそう言ってこいしに抱きついた。
フランの体は、まだ震えていた。
「……フラン……」
「……何…?こいし……」
「……私の事、好きだったんだね」
「……!!」
「だからこっちの私の好意に気付いていても、それを受け入れられなかったんだ……霊夢のも」
「……こいしには申し訳ないと思ってるよ……」
「……今まで気付いてあげられなくて……ごめんね」
「……あんな状況で気付く方が凄いよ」
「フラン」
こいしがフランの正面に顔を持ってくる。
「!」
そして、フランの顔を見ながら、こう言った。
「こんな私でよかったら……宜しくお願いします」
「……えっ……」
そう言った途端、フランの顔が真っ赤になる。
「…ほ、ほんとに…?本当にいいの!?」
「うん。むしろ、私にはフランはもったいないくらい。……嫌だったかな?」
「うぅん!そんな事ない!……本当に…?本当の本当に!?」
「うん!」
明るい笑顔で、フランにそう言った。
「……うぅっ…」
「…?フラン?」
「うわぁぁぁぁん…!!」
フランが大泣きしだした。
こいしの棟に顔を埋めて、泣いている。
「フ、フラン!?」
「うえぇぇえん…!!ありがとうこいし…嬉しい…嬉しいよぉぉ……」
「……」
基本世界のフランの気持ちは、こういう感じだったんだな。と感じたのであった。
ずっと一緒にいたいという気持ち……そして守り続けたいと思う気持ち。
きっとフランは、自分にこの二つの感情を持ってくれていたのだろう。
「フラン、みんなにはこの事、内緒ね?」
「ふえぇ……う、うん…」
ドーーンッ!
「うわぁ!!」
「「!?」」
屋上の扉が壊れ、並行世界の住人達が倒れてきていた。
「バ、バカ!!何してんの!!」
「いや霊夢が押してきて…!」
「うえぇぇえん!!フランさんおめでとうございます〜〜!!」
「半分悲しみも混じってるなこれ…!」
「や、やっほ〜…フラン…!」
並行こいしが、苦笑いでそう言った。
「……みんなの馬鹿……」
フランは顔を赤くしてこいしの胸に顔を埋めた。
「…ぷふっ」
その様子がとても可愛らしく、思わず笑ってしまった。
「あ、こいし!今笑ったでしょ!」
「ああ、ごめん…可愛かったもんだからつい」
「…ッ〜!もう!!」
「…ふふっ……」
こいしがフランの頭を撫でた。
途端に、フランの顔がもっと赤くなった。
「…これからは、私が貴女を守るわ。フラン」
その言葉で、フランはレミリアを思い出した。
かつて自分の事を愛し、守り続けてくれた人。
こいしとレミリアの姿が重なって見えた。
「……うんっ!」
その日の夜の紅魔館は、とても騒がしかったという。
バサッ
「ふん」
遠くから、虹色の翼を持つ、黄金色の長髪の髪に、赤い服を着た少女がその様子を見て微笑んでいた。
「不幸を破壊して正解だったな……」
その少女が、月明かりの中に消えていく。
「……お幸せに、こいし」
これは、こいしを救いたいという一人の少女の強い思いが起こした奇跡だった。
あの時、本来はこいしは自身をナイフで貫いて死ぬ筈だったのだ。
「おーおー…結構干渉しなさるなぁ破壊神よ」
「…エルギオス……来てたの」
「一人じゃ暇だしな。…いいのかい、取られちまったけど」
「今を生きている人と結ばれるべきだよ。…といってもまあ、女の子同士だから子孫は残せないけど。ふふっ」
「……なあ…向こうの世界もよ……俺たちの手で繁栄させてみないか?」
「……前もその誘い断ったと思うけど」
「だよなぁ〜……」
「……考えとくよ、気が向いたらね」
「…えっ?」
「ほら、帰るよ」
「お、おう!」
フランは、基本世界をこいしは存在しない世界として復活させていた。
消えるのは基本世界だけで、他の世界に影響はない。
世界を切り捨てたわけじゃない。
私は……あの世界のその後を考えないようにした。
きっとまた、新しい世界が始まってくれる筈だ。
私は……この世界を守っていこう。
それが今の私にできる唯一の事だから。
番外特別篇 Another World Story
~fin~
ぱっとしない終わり方なのは、お許しくださいまし
badendルートから派生したものだと思ってください。
基本世界にとってはbadendですからね、こいフラが消えて終わりっていう…。




