恋は盲目
もうちっとだけ続くんじゃ
並行世界のその後を書きたくなったので…
もうしばしお付き合いください!
これは、フランが不幸を破壊した後の並行世界の物語。
「……!ここは…」
こいしは、紅魔館の中で目覚めた。
「……紅魔館…?……でも、私の部屋じゃない……」
ふと、横を見ると……。
「……えっ…!」
「すー……すー……」
フランが机に突っ伏して眠っていた。
「……あ……ああっ……あああっ…!!」
こいしは、思わず涙が出てしまった。
「……んー…?」
「フラァァーーーンッ!!」
「うおぉう!?」
「フランフランフランフラン〜!!」
「こ、こいし…!お、おはよう」
こいしはフランの胸の中に顔を埋めて泣いていた。
「よかったぁ……ほんとによかったよぉ…!!」
「心配かけたね……」
「本当だよ!!何であんな無茶ばっかり…!」
「…貴女を守りたかったの。私の命に代えても、ね」
フランが優しく微笑み、こいしの涙を右手の人差し指で拭いた。
「…!…あ、ありがとう」
こいしは、頬を赤らめた。
「…?どうかした?」
「う、ううん!何でもないよ!それより、他のみんなは…!」
「みんな無事だよ。……別世界の私に感謝しないとね」
「…!」
その言葉で、こいしは先ほどまでの光景を思い出した。
−『さよなら』
「……」
「…今の私にも向こうの世界に飛ぶ力は残ってる。今度また……顔を出してみよう」
「…うん!…あ、あのさ、フラン」
「うん?」
「…す、少し……少しだけさ……このままで居てくれない?」
「…わかった。気が済んだら、自分で離れて構わないよ」
「ありがとう」
今、こいしはフランの胸に顔を埋めている状態である。
フランはそれを優しく抱きしめていた。
−……すっごくいい匂いだ……フランの匂いだ……。
……何だろう……凄く、凄く恥ずかしい気分だ……。
フランの事を考えると……胸がくすぐったくなる……。
私今……フランの匂いがわかるくらいにフランに密着して……?
「…〜ッ!!」ボッ
こいしの顔が真っ赤になった。
「う、うひゃあぁあぅっ!!」
「!?」
こいしが変な叫び声をあげてフランから離れた。
「はぁ…はぁ…!」
「…満足したみたいだね…大丈夫?顔真っ赤だけど…も、もしかして息できてなかった?」
「い!いやいや!そんな事ないよ!あ、ありがとう、フラン!み、みんなに顔見せに行かない!?」
「う、うん?わかった。行こうか」
「…あ、あのさ……フラン」
「ん?」
「…フランはさ……私の事……」
ガチャ
「!」
「おはようございます、フランさん!」
扉が開き、霊夢が入ってきた。
「ん!わざわざ見舞い?霊夢」
「フランさん!私読みたい本があるんですけど、それが少し難しい英文の本で読めないんです……今度少し読んでもらってもいいですか?」
「ん、いいよ。どんな本なの?」
「えーと……こういう奴です」
「ああ、持ってきてくれてたのか、助かるよ。どれどれ…?
……霊夢、これ何?」
「え?えーっと、たまたま目に入って……何となく取ったんですけど……」
「…これね、同性愛の本だよ。しかも丁度女性向けの」
「…えぇええ〜!?な、何でそんな…ええ!?」
「ていうか表紙で何となくわからない…?……まあいいけど、やめときな。貴女にはまだこういうのは早いよ。それに、限られた命なんだからちゃんとした運命の人を探した方がいいよ」
「は、はい、わかりました!」
「……!フラン、早く屋上行こうよ」
「あ、ごめんこいし。ちょっと待ってくれる?霊夢に色々と言うから」
「え〜…!」
「…わかった」
「ごめんね……それはそうと、霊夢!あんまりやたらめったに本を持ち出さないの!パチュリーが大事に保管していた大切な本ばかりなんだから!……その本はちょっと知らないけど」
「す、すいませんフランさん!」
「ったくもー…これに懲りたらもうやめなよ?」
「は、はい!」
「ん!素直でよろしい♪…それじゃあ私、少しこいしと屋上行ってくるから。もうすぐ昼ご飯だよね?その時呼んでよ」
「え、こいしさんと?二人っきりでですか?」
「うん。それじゃあね!」
「じゃあね、霊夢」
「…わかりました、また後で会いましょう!……」
その時、霊夢が一瞬だけこいしを睨みつけたのは、誰も気が付かなかった。
その後、こいしとフランは紅魔館の屋上に向かった。
「…今頃別世界のこいしは、苦しんでいるのかな……」
「……!」
「あの子は別世界の私の事が本当に大好きだったから……きっとショックを受けてるはずだ。……心配だ」
「……記憶は消えるって言ってたよ。それに、別世界の話でしょ?」
「別世界の話でも、私はあの子が心配なんだ」
「……」
−…何だろう、フランが私以外の…といっても私ではあるんだけど……私以外の誰かの事を思ってる姿を見るとイライラする………フランには私だけを見てもらいたい。
「…フランはさ、霊夢の事どう思ってるの?」
「…そうだなー…素直で優しい、可愛くて健気な女の子……かな。それに責任感もあるし、みんなからも好かれてる。私はあの子は好きだよ」
「……そっか」
「お昼ご飯ですよーフランさん!」
霊夢が屋上の扉から声をかけた。
「ん!わかったー!行こっか、こいし」
「…うん」
こいしは霊夢の方を見た。
霊夢はこいしを睨みつけていた。
「……」
−なるほどね……霊夢もフランの事が好きなんだ。
だけど、フランは渡さないから。
−こいしさんもフランさんの事が……はんっ、少し優しくされただけで気があると勘違いしてるんじゃないの?こいしさんじゃフランさんには釣り合わないですよ。
「…今日の料理担当、誰?」
「私です!美味しいですか?」
霊夢がフランの隣の席に座っている。
こいしは反対側でフランの隣の席である。
「……」
−こいつ……!
「すっごく美味しい。私にも今度教えて欲しいな……」
「何言ってるんですか!フランさんの料理は元々凄く美味しいですよ!」
「そう?それならいんだけどな」
「あ、そういえば、こいしさんって料理できましたっけ?」
「…できないけど」
「えーそうなんですか〜?女子力低いですよ、今時料理くらいできないと〜!」
「…!何よ、馬鹿にしてるの?」
「ええ、別にそんなつもりは…!どうして急にそんな風に怒るんですか?沸点低いですね」
「…あんた馬鹿にしてんでしょ」
「ええーしてないですってば〜」
「こらこら二人共…!落ち着きなよ」
二人が立ち上がって、フランを跨いで喧嘩を始めた。
「大体何で急に私に振ってくるの…!あんた私が料理出来ないこと知ってたでしょ!」
「ええー?知りませんよ!今日初めて聞きました!でも意外ですねー!フランさんの友達なんだからできると思ってましたー!あっはは!」
「…あんた、馬鹿にすんのも大概に…!」
ガッ
「「!!」」
フランが少しだけ魔力を解放させ、二人の肩を掴んで、笑みを浮かべて重く冷たい声で言った。
「ご飯、冷めるわよ」
「……!」
「……!」
二人が席に座った。
「……急にどうしたの二人共。前までこんな事なかったじゃない」
「…別に」
「それよりフランさん!ご飯食べましょう?」
「…このままほったらかしにしたらまた喧嘩するでしょ」
「しませんよ!ね?こいしさん」
「…うん」
「……ならいいけど」
その後、何事もなく昼食を終えた。
「霊夢、私ちょっと図書館で本の整理してくるから。また後で会おう」
「はい、また後で!部屋で待ってます!」
「ん、了解!それじゃあね」
フランが去っていった。
「あ〜…」(ポケットに手を突っ込む姿……イケ女ンだな〜…!)
「…!?」
−また会う約束…!?
「…あら〜?随分と嫉妬してますねこいしさん」
「……別に。ところで何の約束なの?今の」
「んん〜?やっぱり嫉妬してますよね!」
「約束は何なのって聞いてんの」
「まあそんな怒らないでくださいよー?魔法を教えてもらうんです。フランさんに、手取り足取り…ね。ふふふっ!」
「…!!何よ、煽ってんの!?」
「あ、そーだ!これ見てくださいよ!こいしさんの部屋から取ってきた写真ですよ!」
「…!それって、フランとの…!」
霊夢の手には、フランとこいし、そしてぬえと正邪が楽しそうに写っている写真が持たれていた。
「はい、ビリっと♪」
それを、霊夢は真っ二つに破いた。
「……なっ……!!」
「きゃははは!!大切な写真破れちゃいましたね!!」
「…ちょっと屋上来なさい」
「お?何だ何だ?ふふふっ!」
「……あんたにはちょっとお灸を据えてやらないとね…!!」
「はっはは!んじゃ、やりましょうよ!」
「私を怒らせた事、後悔しないでよ」
こいしと霊夢が、屋上で戦い始めようとしていた。
一方その頃、図書館ではーーー。
「これを使うとこうなるから、これをこうして……んー…」
「!へえ、魔理沙が魔法の勉強とは、珍しいものを見た」
「あ、フラン!何だよその言い草は」
「ぷははっ!ごめんごめん!…何の魔法?」
「フランの使ってた蘇生魔法だ。あれがあれば大体は生きられるだろう?覚えておこうと思ってさ!丁度いいフラン、教えてくれよ!」
「……んー、まあ教えてあげてもいいんだけど……その魔法を覚える必要はないよ」
「え?」
「もうこの世界は平和になったんだ。人の命を蘇生させる魔法を覚える必要はないよ。
もう二度と戦いが起こる事はないようにするにはどうすればいいか…それが一番考えるべき事だと私は思う」
「…フラン……確かにその通りだな……考えを改めるよ」
「まあでも覚えようとする事は立派だよ。代わりに治癒魔法教えようか?」
「お、ほんとか!?私治癒魔法が一番苦手で…!」
「ふふっ、コツを掴めば意外と簡単よ。まずはね……」
フランが蘇生魔法を教えなかったのには、理由があった。
まず一つは、自身の口で言ったようにもう覚える必要がないからだ。
二つ目は、蘇生魔法は自身の命を削る魔法だからだった。
フランは吸血鬼だったから、そこまでの影響はない。
しかし、魔理沙は普通の魔法使いであり人間である。
命の重みが違うのだ。
「……」
禁忌『フォーオブアカインド』
「…?フラン、何かしたか?」
「うぅん?何も。あ、じゃあ試しに…ッ…!はい、これ治してみて」
フランが自身の腕に爪で切り傷を入れた。
「フラァァン!!ご、ごめんわざわざ!」
「ぷははっ!反応可愛いんだから!気にしないでいいわよ」
「…はっ…はっ…!」
「はぁっ…はぁっ…!い、意外とやりますね…!」
こいしと霊夢が、互角の攻防を繰り広げていた。
二人共、全身傷だらけである。
「…あんたなんかに、負けないわよ…!!」
「それはこっちの台詞ですよ…!」
二人の霊力と魔力のオーラが大きくなり、それが全て右手に凝縮される。
「これで決めます…!貴女の負けですよこいしさん!!」
「負けるのはあんただよ…自惚れたまま倒れろ霊夢!!」
二人が同時にお互いに向かって突撃していく。
「「うおおおおおおおおおお!!」」
二人の手がぶつかり合いそうになったその瞬間……
ドオォーーンッ
ガッ
「「!?」」
「度がすぎるよ……二人共」
フランが現れ、二人を止めていた。
「…フ、フラン…!」
「フランさん…!!」
「……何があったの。二人共」
「……別に」
「ふんっ!そこの悟り妖怪がふっかけてきただけです」
「いい加減にしなさい、二人共!!」
フランが大声で怒鳴った。
「せっかく平和が戻ってきたってのに、また争う気なの?……もう懲り懲りよ、戦いは…!貴女達だってそうでしょ?」
「……」
「…こいし、何があったの…?どうして私に教えてくれなかったのよ…!」
「…フランに迷惑がかかるから、言いたくなかった」
「…こいしは優しいね……けど、迷惑がかかるなんて事はないよ。貴女を助けられるのであれば私は何でも嬉しいんだから」
「…うん。ありがとう、フラン」
「どういたしまして!」
「………〜ッ…!!」
霊夢がフランの手を無理矢理引き剝がし、その場から立ち去ろうとする。
「…待て、霊夢。話は終わってない」
フランが重みのある声で言った。
「…何なんですか…!どうせ私は邪魔者ですよ!!」
「落ち着いてよ、何があったか話しなって」
「…私はただ……私の事をもっとフランさんに見てもらいたかっただけです」
「…!」
「いつもいつも、何かあるとこいしさんと一緒にいる……正直、羨ましかったんです。こいしさんが……その気持ちは日に日に増していき……!最早憎しみにまで変わっていって…!
私はフランさんが好きなんです!!だからフランさんに、私をもっともっと見てもらいたかったんです!!私だけを見て欲しかったんです!!」
「…霊夢……」
「でも……どうせそんな事無理なんですよね…!わかってました、私よりもこいしさんの方が関係上仲が良くて当たり前なのだから……!……けど…それでも……それでも私はフランさんに…!!」
フランが霊夢に抱きついた。
「……あの時の本は、そういう意味だったのね……霊夢。あの後、私は図書館に行ったから知っている。貴女はあの本をちゃんと借りて持ってきていた」
「……!!」
「…ありがとう、そういう形での好意は初めてだったけど……素直に嬉しいよ。…悪いけど、想いに応えてあげる事は出来ない。貴女は人間で私は吸血鬼…………いずれ訪れる最期が怖いから
けど、そばに居てあげる事ぐらいはできる。だから…それで許してもらえない?」
フランが少し低めの声で、優しく霊夢にそう言った。
「……フランさん……私…!!」
「……こいしに謝ってきなさい」
「…はい…」
「……」
「…ごめんなさい!」
霊夢が頭を深く下げ、誤った。
「…別にいいよ、もう」
「…写真…ほんとにすいませんでした…!」
「……別にいいって、もう……また撮り直せばいいんだから」
「……はい…!」
「…まあ、また仲直りするために今度この三人で少し遊ぼっか!今日は落ち着かないだろうし、霊夢は部屋に戻りな」
「は、はい…!本当にすみませんでした!!」
霊夢が屋上から降りていった。
「…さて、こいしは何があったの」
「……霊夢に、大切な写真を破られた」
「…そっか。はい」
「…え?…!!」
フランが渡してきたのは、元どおりに戻っている写真だった。
「これで、大丈夫でしょ?」
「……うん…!!ありがとう、フラン…!」
「お安い御用よ。…それじゃあ、少しここでお話でもしていこうか」
「うん!」
その後、その日の内に霊夢とこいしの二人は何事もなかったかのように仲直りした。
しかし、これだけでは終わらなかった。
もう一つ、大きな闇が並行世界を襲おうとしている事に、今は誰も気付かなかったのだった……。
To be continue…




