悪夢の終わり
「エルギオスの……父親…!?」
「……」
フランは、ハデスを睨みつけていた。
エルギオスの過去を知っていたのは、フランが破壊神に覚醒した時に発現した能力があったからだ。
戦っている時に、相手の記憶や考えが頭に入ってくるというものだ。
「お前が……エルギオスを追い詰めた理由か」
「…エルは勝手に思い詰めていただけ……私の知った事ではない」
「…罪意識がないとはね……貴方のせいでエルギオスがどれだけ苦しんでいたかわかる?」
ハデスはふん、と鼻で笑い、フランに言った。
「さっきも言ったな……知った事か」
途端にフランがハデスに突っ込んでいった。
「フラン!!」
「貴様はかなり強いようだな……」
ハデスが手にサーベルのような物を出現させた。
フランがレーヴァテインを振るう。
ガッ
「…!」
ハデスはレーヴァテインを素手で掴んだ。
「私はエルとは違うぞ……
さて、私には勝てるかな?小娘よ」
「……ふん」
しかし、フランは全く動揺していなかった。
むしろ、怪しい笑みを浮かべていた。
「…何を考えている?」
「いやね…正直退屈だったんだよ……私が強くなりすぎてしまって、相手にならないような人ばっかりで……もちろん怒りの方が強かったよ?けど……何て言うのかな……私とそんなに力の差がない人と会うのは久しぶりでね」
「…ほう?貴様は私と同格だと言いたいのか」
「そうだね」
「…抜かしおるな……小娘が」
「なんなら……試してみる?」
ガキィンッ!!
「私のスピードについてこれるか?」
「!」
ハデスが消えた。
見えないほどのスピードで、高速移動をしている。
「……」
だが、フランとこいしにはハデスの姿が見えていた。
フランがレーヴァテインを自分の後方に向かって振るう。
「!!」
ガキィンッ!!
ハデスは咄嗟にサーベルで防いだ。
「捕まえた」
「…貴様…!」
「解放……禁忌『レーヴァテイン』」
「!!」
レーヴァテインから凄まじい光が放たれる。
次の瞬間、大爆発が起こった。
「…レーヴァテインを解放した…!」
−フランも、本気なんだ……!
「ちぃっ…!!」
「…やっぱりもううんざりだ。戦うのは」
「…何?」
「さっきは少し楽しめるみたいな事を言ったけど……さっきのは無しで。私はもう戦いたくない」
「……何を言ってる?」
「これで最後にするよ……全部ね」
フランがレーヴァテインをハデスに向けて翳す。
「やっぱり私は少し強くなりすぎたみたい……貴方でさえも強くは感じない」
「……!」
「…それに……何でだろうね……」
レーヴァテインをおろし、ハデスの顔を見つめる。
「…エルギオスの方が、強かったって思うんだ」
その言葉は、ハデスの逆鱗に触れた。
「…貴様……今何と言った」
「エルギオスの方が強かった。そう言ったんだよ」
ガキィンッ!!
「俺が……この俺があんな雑魚のクソガキよりも弱いだと…!?」
「……」
ハデスが斬りかかってきたのを、フランは右手に持つレーヴァテインで防いでいた。
「二度と言うんじゃねえ!!俺様はツヴァンクの王!!あんなガキと一緒にすんじゃねえよ!!」
「本性を現したね……余裕が無くなってきてる証拠だよ」
「俺様を怒らせた事を後悔させてやるよ!!クソガキがァッ!!」
「やってみなよ……私だって今はそうとう怒ってるんだ……!」
フランの顔から、怪しい笑みは消えていた。
「俺を舐めた目で見やがる奴は一人残らずぶっ殺す!!お前らはおとなしく俺様に支配されてりゃいいんだよ!!」
「人の心を理解しようとせず、自分の思い通りに動かない奴は殺していく……そんなものが許されるわけがない……!」
ハデスのサーベルに罅が入っていく。
「…!?」
「全てを受け入れ、種族を拒絶せず、皆が幸せに暮らす楽園……
それこそが幻想郷なんだ!!」
バキィンッ
「…何……だと……」
サーベルが折られる。
「私達は支配なんかされないよ……
貴方を倒して……全ての悪夢を終わらせる!!」
フランがレーヴァテインを振るう。
「ちぃっ!!」
ハデスは翼で飛び上がって躱す。
「フラン!」
「!」
「私達も手伝うよ!」
こいし、ぬえ、魔理沙、並行美鈴が現れる。
「…うん、行こうみんな。私達の手で、この悪夢に終止符を打つんだ!!」
「「おお!!」」
「最大出力のマスタースパークを撃つ!ぬえ、フラン!お前らの魔力を少しくれないか?」
「わかった!」
「けど奴もそう待ってはくれないだろうからね……私じゃなくこいしの魔力を……」
「なら囮役は私が!」
「!こいし!」
こいしがハデスに突撃していく。
「ちっ…!弱えくせに粋がってんじゃねえぞ!!」
「確かに私はフランよりも弱い!!だからこそ、フランの役に立ちたいと思うんだ!!」
「…はぁ…!?」
「いつも助けてくれるから……自分が弱いばっかりにいつも迷惑をかけてしまうから……!だからこそ役に立ちたいんだ!!」
こいしがハデスに向かっていく。
「…お前は確か、人の痛みをわかってやれるとかどうとか言われていた奴だな」
「くらえ!!」
「……本当にわかってあげているの?私の心の痛みを……」
「……えっ…」
こいしの手が止まる。
「!」
フランはその様子を見ていた。
「どうしたフラン!?魔力送ってくれよ!」
「……」
ハデスがこいしの頭を掴み、こいしに語りかけていた。
しかし、こいしの様子がおかしい
「こいしは知ってるよね……私はこいしのためなら命を張るという事を……それがわかっていてこいしはハデスに突っ込んでいったの?」
「……!」
「……今のこいしの行動は私にとってどう映る?」
「…違う…!」
「こいしは私を……」
「違う…!!」
「私を苦しめているんだ」
「違う!!」
こいしから、大量の汗が出ていた。
こいしは、ハデスの姿がフランの姿に見えているのだ。
ハデスの目を見たその瞬間、こいしは幻覚を見せられていた。
幻覚のせいで、声までフランの声となっている。
今こいしは、フランに声をかけられたと錯覚しているのだ。
「違う…違う!私は……私はただ…!」
「…役に立ちたくとも、お前の大切なフランは迷惑がっているだけだ。……いや、違うな」
ハデスがこいしの顔を自身の顔の前まで持っていく。
「お前の存在そのものが……
フランを苦しめているんだよ」
「……!!」
こいしの目尻からは、涙が出ていた。
「…フランの役に立ちたいのだろう?ならば、自分が何をすればいいかわかるだろう」
「……私は……邪魔なの…?」
「そうだ。お前はフランの邪魔になっているんだ」
「…フランにとって私は……いらない存在なの……?」
「……こいしのせいで私は……こんなになったんだよ」
「……あっ……あぁあ…!!」
こいしの目に映ったのは、ボロボロの姿のフランだった。
「……」
「……答えは出たか?ならば、俺がその答えを叶えてやる」
ハデスがこいしの首を手に出現させたサーベルで切ろうとする。
−…私はやっぱり……いらない存在だったんだ……。
その時、こいしの目に映ったのは何者かにフランの顔が蹴られている様子だった。
−……え…?
「こいし!!」
「!!」
こいしは名前を呼ばれた事により、我に返った。
「しっかりして…!大丈夫?」
フランが幻覚のフラン、すなわちハデスを蹴り飛ばしていた。
「…フラン……」
「こいし、前に言ったでしょ?貴女を迷惑だなんて思ったことはないって」
「…でも……私……」
「…もうっ!しっかりしてよこいし!私の知ってるこいしはもっと強い人だよ?」
「……」
「……こいし……」
こいしはこれまでの出来事のせいで、精神的にかなり危ない状態となっていた。
自分への自信は失われ、目の前で仲間を何度も失い、家族を自らの手で殺め、別の世界とはいえ大親友を殺された。
そんな時に、精神攻撃を受けてしまった。こいしの精神は、ズタズタだった。
「……ごめんね、フラン……やっぱり私は……」
「…こいし」
「……?」
「…確かに貴女は私よりも弱いかもしれないよ……それに、精神が強いとも言えないし、むしろ脆いくらいだ」
「……」
「けど、だからこそ……貴女は人の痛みを、心をわかってあげられるんだと思うんだ」
「…フラン…」
「それに前にも言ったよね?人には出来る事と出来ない事があるんだって。だから、貴女がどんなに弱くたって構わないんだよ」
「…それじゃあ…!フランに迷惑をかけちゃうだけだもん…!」
「それでもいいんだよ、こいし」
「!」
「一人で何でも出来る人なんて、誰もいない。どんな人でも必ず、誰かの助けが要るんだ。だから私に迷惑がかかる事があっても、それは悪い事じゃない」
「…でも……でも…それじゃ…!」
「こいし」
フランがこいしの両肩に両手を置き、笑顔で言った。
「私を信じて」
「…!」
「…ね?」
「……どうして…?」
「ん?」
「どうしてフランはそんなに強くいられるの!?」
「!」
こいしは泣きながらフランに言った。
「どうしてそんなに自分の事を信じられるの!?私は……自分の事を信じられない…!!」
「……貴女のおかげだよ、こいし」
「…え…?」
「私だって時には不安になる時があったし、自分の事が信じられず、後ろ向きになってしまう事もあった。…今のこいしみたいにね」
フランが自身の左胸に手を当て、俯いてそう言った。
「私はこの力が大嫌いだった。壊したくないものを壊してしまうし、この力が原因で大好きな人達が傷付いてしまった事もあったから。
けど、貴女があの時私を救ってくれて……私はこの力を使いこなしたいと思った。初めて自分の為じゃなく、誰かの為に強くなりたいと思ったんだ。……それからあの戦い……並行世界に行く時の話ね。その時にもう一つ、決めた事があった」
フランが顔を上げて、こいしに笑顔で言った。
「自分を信じてみようと思ったんだ。誰かに必要とされてる自分っていうのをさ」
「…誰かに必要とされてる……自分……?」
「自分の事を必要としてくれる人がいるって信じる事にしたんだ。私がいなくなれば悲しむ人がいるから、絶対に負けられない。そう思うようになった。
そしたらさ、誰にも負ける気がしなくなったんだ。自分を必要としてくれている人がいるからかな……何故か気持ちが凄く良くなった。私は一人で戦ってるんじゃないんだって……みんながついてるんだって思うと、嬉しくってさ。きっと並行世界の私も、そういう考えだったんだと思う。だからこそ、自分が犠牲になろうとはしなかったし、自信を持って戦えたんだと思う」
「……でも、その並行世界のフランでさえ…最後は……」
「……最後の行動はきっと……貴女の事を信じたんだと思うよ」
「……え…?」
「並行世界の私が、貴女を必要とした。だから自身が犠牲になってでも守ろうとした。…けど、それだけじゃない。
貴女の事を信じていたから、自分がいなくなってもきっと大丈夫だと思ったから、あんな行動を取ったんだと思う」
「……!!」
「もっと自分に自信を持ちなさい、貴女はみんなに必要とされてるのよ……こいし」
−…まあ、私も一回決心が揺らいだ時があったけどね……霊夢のおかげで、また決心が固まった。
「…誰かに必要とされている、自分……」
−……そうだ……フランがいつも私の為に戦ってくれるのは……私の事を失いたくないからなんだ……
−『こいし、今日の晩御飯は何がいい?』
お姉ちゃんがいつも仕事をしているのは……私に無理をさせたくないからなんだ……
−『こいし様ー!遊ぼー!』
−『あ、こらお空!仕事ちゃんとしないとさとり様に怒られるよ!こいし様!また後で遊んでください!』
お燐やお空だってそうだ……
−『全部任せて、こいし……私達、友達じゃない』
−『行くよ』
−『『おおっ!』』
並行世界のフランや他のみんなもそうだった……
−『こいし、私からも、その……あんまり無理はしないでほしいな』
−『悪いなこいし、私も援護に向かってやりたかったんだが……』
それにぬえも正邪も……
−『フランに、「今までありがとう」って伝えておいて』
レミリアのあの行動も……あの場にいるみんなを……私を守るためにした事なんだ……
そうだ……私は一人じゃない。
「……ありがとう、フラン。おかげで色々と目が覚めたよ」
「…うん」
−何だろう……凄く、良い気分だ……
あの時の……殺人鬼の時とは違う……
すっごく、安心する。
ドオオオオオオオンッ!!
「!?」
こいしから、碧色のオーラが発生した。
「私はもう……一人じゃない」
こいしの表情は、とても穏やかだった。
「お待たせフラン。いつでもいけるよ」
「…ふふっ♪それでこそこいしだよ!」
ドゴォンッ!!
ハデスが瓦礫の中から飛び出てきた。
こいしとフランの少し上空に滞空した。
「…ちっ…あんだけ弱ってたってのに……」
「精神状態が弱っている時の精神攻撃は一番手っ取り早い……まあ基本だね。けど、私には心強い味方がいたのさ」
「…横にいるガキの事か。たかが一人のガキに何が……」
「それだけじゃないよ」
「…何だと?」
「私達は私達だけで戦ってるんじゃないんだ」
フランとこいしが、ハデスの方へと歩いていく。
「…何を言ってる?」
「”自分だけ”しか信じられない貴方には……一生わからないだろうさ!」
「…何だか、ハデスは”昔の私”を見てるみたいだよ」
フランが帽子を取り、それを放り投げる。
魔法で、別の空間へと飛ばされた。
「ははっ、あの時のね……よーしフラン、信じる力がどれだけのものかを……」
こいしも同じように放り投げた。
フランがその帽子を別の空間へと飛ばした。
「いっちょ、教えてやろうよ!」ガッ
こいしが拳を合わせる。
「ええ!」ブンッ
フランが鞘からレーヴァテインを逆手持ちになるように引き抜き、鞘を放り投げた。
「……いいだろう。俺も全力を持っててめえらの相手をしてやる
これが最後の戦いだ!!どちらの強さが上か……決着をつけてくれよう!!」
「行くよ、フラン!」
「ええ、こいし!」
今、最後の戦いの火蓋が切って降ろされた。
To be continue…
実は最後のフランとこいしのくだり、とある漫画の映画のパロディだったりします。
主人公とライバルが並び立って共闘するシーンがあるんですけどそれが大好きで大好きで……作者は嬉しくなると、(パロディーを)ついやっちゃうんだ☆(某ハンバーガーショップのマスコットキャラ風に)
気持ち悪いね、ごめんなさい




