閉じた恋の瞳 前篇
dive to anotherworldの例があるので、長くなりすぎないように前篇と後篇に分けたよ
「……」
私は博麗神社に向かっていく時、この帽子の事について思い出していた。
もしあの時並行フランが見つけてくれていなかったら…私はきっと、この帽子は二度と被れなかっただろう。
私に人の温かさを教えてくれた大切な人。
二度と、帰ってこれなくなってしまった人。
−『しばらく会う事は出来ないが……大丈夫だ!また必ず会いに来る!』
彼の事は一生忘れる事はない。
私の帽子の持ち主の名は……
磯崎大河。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私はかつて、お姉ちゃんと地上で暮らしていた。
地上と言っても、幻想郷ではないが……。
山奥の家で、お姉ちゃんと私の二人でひっそりと暮らしていた。
「お姉ちゃん、どう?最近この街の人達の反応も変わってきたんじゃないかな?」
「全然よ。人間の手助けはしているけど、やっぱり人間は私達の事が気に入らないみたい」
「えぇ〜…!何でだろうね」
「心を読まれるのはいい気分にならないもの。仕方がないわ」
「だってそんなの私達の能力なんだからどうしようもないじゃん!」
「まあね…」
「ていうかお姉ちゃんは何でわざわざ人間なんかと仲良くなろうとするの?あんな連中と仲良くしようとしたって無駄だって」
「もう…そういう事言わないの」
昔はお姉ちゃんは人間達と良好な関係を築こうと頑張っていた。私にはその行為が理解できなかった。そんな事をして努力が報われるとは思えない。
「他の妖怪は受け入れるくせに、私達だけはいっつものけ者だよ?底が知れるってもんだよ。そんな低俗な連中にお姉ちゃんが従う必要なんてないよ」
「…そうかもしれないわね。けど私達はこのままじゃいつか生活が続けられなくなって死んでしまうわ。それは嫌でしょ?」
「だったらあいつら殺して奪えばいいんだよ」
「こいし!何を言ってるの!」
「だってあいつらすっごい弱いじゃん……大体お姉ちゃんは何を怖がってるの?あんな奴らの言いなりになって……悔しくないの?」
「…悔しくないわけじゃないけど……私はそういう物騒な事は嫌いなのよ」
「…それなら仕方ないね。もしそんな時が来たら私が代わりに殺ってあげるよ」
「……わかったわ」
この頃の私は少々荒っぽかった。
というより、人間の事が心底嫌いだった。
姉を悩ませ、格下のくせに私達の事を貶し、良好な関係を築こうとしてもそれを無視する。
そんな連中を、生かしておく理由はあるだろうか?
それからもお姉ちゃんは、街の人間の手伝いに毎日行っていた。
「行ってくるわ、こいし」
「いってらっしゃい」
しかし、私は気付いていた。
「それじゃあ、行ってくるわね」
「うん、行ってらっしゃい」
お姉ちゃんが、少しずつ……。
「行ってきます……」
「…いってらっしゃい」
元気がなくなっていっている事に。
ある日の事だった。
私はお姉ちゃんの体調が崩れてしまったため、できるだけ早く治そうと思い薬を買いに行く事にした。
「こいし、気をつけなさいね…」
「うん、わかってる」
気をつけなさい、とは人間達に気をつけろという事だろう。
−仮に襲ってきたとしても返り討ちにすればいい。
私は、今まで一度も家から出た事がなかった。だから、私の存在を知る者はお姉ちゃん以外に誰もいない。
しかし、道は一応知っている。
サードアイを隠していけば、別に何かあるわけでもないだろう。
そう思い、スカートの中にサードアイを隠していた。
管は違和感のないように服に巻きつけ、装飾しているように見せた。
「……」
街はいつも賑わっている。妖怪と仲良く喋っている人間を見かけた時、とても嫌な気分になった。
−低俗なクズ共が…!差別しやがって…やっぱりクズばっかりだ……生きてる意味もない奴等ばかりだ。
小さく舌打ちをし、足早に薬局へと急いだ。
「いらっしゃい。ん?あんた見ない顔だな。どこの子だ?」
「…渚っていうの。両親は私が生まれたばかりの頃に死んじゃった」
「そ、そうかい。悪い事を聞いたな。で?今日は何の用だい」
「お姉ちゃんが体調不良でさ。風邪薬を貰えないかな。お金ならあるよ」
ポケットに手を突っ込んで、お金を出そうとした。
その時、ミスをしてしまった。
ズルッ
サードアイが少し下に落ちて、見えそうになった。
「…!!」
急いでしゃがんで、スカートの中に戻す。
「ん?どうしたお嬢ちゃん」
「い、いや、何でも。それより、風邪薬ある?」
「…そうかい。ほれ、風邪薬だ。代金ももらうよ」
お金を出して、風邪薬を貰った。
急いでその店を出た。
「……」ニヤァッ
その時、店員が不気味な笑みを浮かべた事を私は知らない。
この店員は、サードアイをしっかりと見ていた。
街を走って逃げるように山奥の家へと帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりこいし。大丈夫だった?」
「うん。何もなかった。はい、風邪薬だよ」
「ありがとう。貴女はしっかり者ね……私がいなくても大丈夫そう…ふふっ」
「縁起でもない事言わないでよ。私はお姉ちゃんがいないと生きていけないよ」
「あら、嬉しいわ。ありがとう…ふふ」
その時、お姉ちゃんが咳き込む。
「大丈夫?」
「え、ええ。ちょっと苦しくなっただけっ…げほっ!げほっ!」
お姉ちゃんが手を口からどけると、その手には血がついていた。
「…!?」
「げほっ!げほっ!うっ…げほっ!」
「お、お姉ちゃん!?どうしたの!?しっかりして!」
その後お姉ちゃんは、気を失った。
そして私は気付いた。
「…あいつだ……サードアイはちゃんと見えてたんだ…」
−あいつが…毒を盛ったのか……!!
お姉ちゃんの容体は落ち着いた。
さすが妖怪と言ったところか、毒程度では死なないらしい。
「……まあ、こうなるとは思ってたよ」
私は何故か、とても落ち着いていた。
感情を持つ生き物というのは、自分が今からとんでもない事を始めるという時は何故か冷静さを保てるらしい。
それは、自分がやると心に決めたからである。
それが自分の大切な人のためならば、尚更だ。
「…いってきます、お姉ちゃん」
眠っているお姉ちゃんにそう言って、私は家の扉を開けた。
ポケットに、ナイフを入れ込んで。
私はサードアイをさらけ出して街に行った。
極力、人に見つからないように。
そして、私はあの薬局に辿り着いた。
私は薬局の控え室のようなところを、窓から覗いていた。
あの店員がいたからだ。
「それでよ!俺が風邪薬に毒を盛ったんだ!あいつの姉、さとりの事だろ!?きっと死んでるぜ!」
「マジかよお前!最低だな!けどよくやった!はははっ」
−これで目障りな悟り妖怪が一人減ったぜ!今度あいつが来たら他の妖怪を呼んで殺してやる!
−面白い事するなこいつ。俺も今度悟り妖怪来たらしてみようかな……
「……一、二、三…四人……」
私は窓を開けた。
ガラッ
「おーい、そろそろ交代の時間だ。当番変わってくれー!」
………
「…?おーい、聞こえてんのかー?」
ガチャ
「……ひっ!?」
一人の男が入ってきた。
控え室は、あたり一面血で染まっていた。
私が、そこにいた店員を皆殺しにしたからだ。
「わ、わぁあっんぐぉ!?」
「おっと叫ばないでよ…せっかくいい感じなんだから……」
私は天井に触手を突き刺して、天井に立っていた。
そして上から、男の口を塞ぐ。
「そうだ、冥土の土産にいい事を教えてあげる」
「んん!?」
「私の名前は古明地こいし、悟り妖怪、古明地さとりの妹よ」
ズバッ
ナイフで男の首を切り落とした。
「……さてと、次はどこにしようかな」
控え室の窓のカーテンを閉めた。
「都会っぽい街だな……」
私は服に返り血が付かないように殺していった。
もうすでに四つぐらいは建物を制圧…っていうか鎮圧?いや殺戮?してきた。
けど、返り血は浴びてないから平然と街を歩ける。
ただ、悟り妖怪というだけで襲われる事もあるだろうと考えて出来る限り人通りの少ない場所を移動していた。
一つ建物を挟んで、先程の薬局の裏側まで来た。
薬局の前では、ざわざわと人集りができている。
私はそれを狙っていた。
「…さっきいい物を見つけてきたんだよね」
私は薬局の二階の壁から突き出ているものを引っこ抜いた。
さっきの薬局の控え室に置いてあったものだ。
それを持って薬局から出るわけにも行かないから、そうやって壁に突き刺して置いておいた。
「猟銃なんて、物騒なものを持ってるよね」
因みに今の時間帯は夜の八時頃。
薬局から少し離れた大きなビルの屋上に、誰にも気付かれないように飛んで上がった。
「今日は運がいいな……風が全然ない」
私は猟銃を構える。
「おい、中はどうなってるんだ!?」
「店員が皆殺しにされたってよ」
「ええ!?んなもん誰が…」
妖怪と人間が入り混じっている。
先に狙うのはもちろん人間だ。
「ポケットにちゃんと替え玉もあるからね……」
ドンッ
一人の男の頭を、銃弾が貫いた。
ドサッ
男が倒れる。
「…えっ」
「二人目」
ドンッ
「…おい…!?」
ドンッ
「三人目」
「うわぁあぁああ!?何だ!?」
「誰かから狙い撃ちされてるぞ!!どこからだ!?」
「いやぁあぁぁあ!!助けっ」
ドンッ
女の頭に銃弾が飛んでくる。
女は倒れた。
「うわぁあぁああ!!逃げろぉぉ!!」
「おい!!どけよお前邪魔だ!!」
「お前の方が邪魔だよ!!どけ!!」
「助けてください!!私の夫なんです!!誰か!誰か!!」
「うるせえ女!!どけ!!」
「おいしっかりしろよぉ!?なぁ、裕也!助けてくれよ!俺の女房なんだ!」
「…!!わ、悪い、晴樹!!」
「なっ…!おい裕也ァ!!」
これが人間の本性だ。自分の命が危ないとなるとすぐに逃げ出す。
「全く醜い生き物だわ……私がみんな殺してあげる」
ドンッ
ドンッ
ドンッ
ドンッ
ドンッ
「……あと、三人かな」
薬局の前にいた野次馬の連中は、残り三人だけとなった。
一人残らず、頭を撃ち抜いて殺している。妖怪はさすがにしつこかったが、まあしばらくすればみんな死んでいった。
脳を破壊されることは私達妖怪にとって致命的だからな。
「…こう見えて射撃は得意だからね……」
ガチャッ
「…あ、あああ……なん、なんだよぉこれぇ」
ドンッ
「…えっ」
「ぎゃっ!!」
怯えている男の少し離れた場所で、必死に逃げていた一人の男を撃ち殺した。
「……あ…あ…」
ドンッ
「いっ!?」
「えっ」
そのまた別の奴も、撃ち殺した。
「…ひっ…!!嫌だぁあぁぁあ!!」
男が逃げ出した。足を狙い撃つ。
ドンッ
「いってぇえ!!」
−な、何で俺がこんな目に…!!何でだよ!!
その時、私はわざと男の少し横側を狙った。
ドンッ
「…!!」
−…あっ…
私は立ち上がって、銃を降ろし、男の方を見ていた。
−悟り…妖怪…?
「……はは、はははは…」
「嫌だ…死にたくねえよ…!」
「まだ、死にたくな…」
ドンッ
男の言葉は、そこで途切れた。
「……」
ガチャッ
その時、後ろから何かの音がした。
「…!?」
バンッ
「っと…!」
銃弾が飛んできた。私はそれを躱す。
どうやら、ハンドガンのようだ。
「…何者かな?」
スーツ姿で、細身で長身の黒髪の男が、右手にハンドガンを持ってこちらを見ていた。片手、ポケットに突っ込んでいる。
「まー…そうだな。簡単に言ったら…おまわりさん、かな」
「…ふーん、おまわりさんがわたしに何の用?」
「まー何だ。そんな歳のお嬢ちゃんがそんな物騒なもん持って、人を殺しまくってたとなると……ちょっと妖怪だと疑わざるを得ないというかだな」
「…回りくどいね。はっきりと言いなよ」
「…俺だってこういう仕事はあんま好きじゃねーのよ?けど、立場上わかってほしい」
「……」
「悟り妖怪。人間射殺の罪で逮捕する。大人しくしていれば、何もしないぞ」
「ぷっ…はっはははは!何その覇気のない脅し!脅すんならちゃーんと脅しなよ…おまわりさん」
「んじゃ、脅し方を変えよう。お前の命が惜しくば大人しく捕まれ」
今度は重く冷たい声でそう言った。
「…脅すっていうのはそういう事だよ、おまわりさん」
「…やれやれ……大人しく捕まる気はなさそうだな」
「当たり前じゃん」
私は銃口を男に向けた。
男も、私にハンドガンの銃口を向ける。
「……」
「……」
ドンッ
先に撃ったのは私だった。
バンッ
男は銃弾を素早く躱し、私にハンドガンを撃ってきた。
「やっぱり…そこらの人間より強そうだ」
頭を右に逸らし、銃弾を避ける。
私は上空から狙う事にし、空へ飛び上がった。
「さあ、当ててみなよ!」
私は不規則に旋回しながら男を狙う。
ドンッ
「おっと…!こりゃあ厄介……お嬢ちゃん、スナイパーの嫌いな事をよーくわかってんな」
「私は射撃も得意でね!」
ドンッ
「うわっ!…やられっぱなしじゃあな」
ポケットに突っ込んでいた左手を出した。
その手には、ハンドガンが握られていた。
「なるほど、二丁拳銃ね」
男は、右手に持つ銃のカートリッジを入れ替えた。
「行くぜ…」
バンッ バンッ バンッ
男は右手の銃をやたら滅多に撃った。
「…今、カートリッジを入れ替えたね。どんな銃弾になってるのかな」
その時、男が右手の銃のトリガーをずっと押し込んでいたのが見えた。
「…!?」
そしてよく見ると、銃弾がゆっくりと空中を進んでいた。
「見誤るなよ…お嬢ちゃん」
「!」
「よっ」バンッ
左手の銃を、ゆっくりと進んでいる銃弾の一つに向けて撃った。
「…!!」
−今撃った銃弾が跳ね返ってくる!
キィンッ
銃弾が高速で飛んでくる。
「ぐっ!」
何とか直撃は避けたが、私の頬を掠めた。
「…!」
「よく見破った…と言いてえところだが……」
「…!?」
ドンッ
「…おっ…?」
銃弾が私の腹部を貫いた。
「それ、地面でも跳ね返っちゃうんだよ」
「……」
体勢を立て直し、すぐに応戦する。
ドンッ
「おぉっと、まだそんな元気があるか」
男が右手の銃のトリガーを放した。
途端に、ゆっくりと進んでいた銃弾が飛んでいった。
「それじゃあ……」
ガチャッ
また右手の銃のカートリッジを入れ替える。
「こいつでとどめと行くぜ」
「…!」
コオオオ…
今度は、銃が光りだした。
何が起こるかは大方予想は付く。
「こいつはどうだ!」
ドオオオオオオオンッ
巨大なレーザービームが、私に向かって飛んできた。
「うおおっ!?青いレーザーだ!!かっこいい!」
「な、何だぁ…!?気に入ったのかい今の」
私は軽くそれを躱していた。
「やっぱり銃撃戦は性に合わないんだよね…ってことで……」
ドンッ
一発猟銃を放つ。
「おっと」
男はそれを避けた。
「そぉおれ!!」
猟銃を思いっきり投げる。
「おわっ!」
男はギリギリでそれを避けた。
「ナイフはいかが!?」
「そんな物理的な!!」
ナイフを取り出し、男に向けて振るう。
「いよっ」
「!」
ガッ
銃でナイフを受け止めた。
「同じ鉄だからな…!」
「…切れ味ってもんがあるでしょ…!」
その時……。
「今屋上で磯崎さんと悟り妖怪が戦ってるらしいぞ!」
「急いで援護に向かうんだ!」
「…!」
そんな会話が聞こえてきた。
どうやら、ビルの緊急避難用の縄梯子から登ってきているようだ。
「……」
「…あー、お嬢ちゃん。逃げていいぞ」
「……は?」
「まー何だ。俺も数の暴力ってのは嫌いなタチでな。また今度、一対一で決着をつけようぜ。これ、約束な」
「……約束、か……別に構わないけど、あなたは甘いね。ここで私を逃したら…何しでかすかわかんないよ」
「俺の目には、お嬢ちゃんは約束は守る奴に見えるぜ」
「……ふん、まあいいわ。また今度ね」
この時、私は少しだけ嬉しかった。
人間の事だから、数の暴力なんて言う言葉は使わず私を一網打尽にしてくると考えていた。
しかしあの男は、私を見逃した。
あれだけ人を殺した私を見逃した。
これは勝手な憶測だが、きっとかつてあの男もそうだったのだろう。大量に人を殺した事があるんだ。
愛に飢えているが故に、大きな過ちを犯した事のある目……私と同じ目だった。
「…お姉ちゃん、ただいま」
「おかえりこいし……何処へ行ってたの?」
「…解毒薬買いに行ってた」
「…そう…薬に毒が盛られてたのね……」
「……別に何も気にしてないよ。人間がそういう奴だってのは知ってたから」
「そ、そう…よかったわ……貴女の事だから、人間を殺しに行くんじゃないかと不安で…」
「…大丈夫だよ。さすがにそこまではしない」
「そう……」
その日以来、私は夜にあのビルの屋上に行くようになった。
「よーお嬢ちゃん。やっぱりお前さんはいい奴だな」
「…別に約束を守った訳じゃないから。あんたは私の手で殺す…!」
「威勢がいいねぇ怖い怖い。そんじゃ、始めますか!」
何日も何日も戦い続けた。
しかし、一向に決着はつかない。
二人の実力は、互角だった。
ある日、私は男に負けた。
しかし、男は私を殺す事はしなかった。
「負けたからには俺の言う事を聞いてもらうぞ」
「…好きにしなよ」
「今日から、俺の助手になってくれ!」
「……は?」
これが、私と大河の関係の始まりだった。
「今日から俺の助手としてここに入ることになったこいしだ。よろしく」
「…よろしく」
『『よろしくお願いします』』
−あれ、悟り妖怪だろ?あんなのいて大丈夫なのかよ。
−いくら磯崎さんだからってこの行為はなぁ…。
「……」
「周りの声なんて気にするなこいし」
「…気安く呼ばないで」
「おっと、それは悪いねお嬢ちゃん」
「…あんた、名前は?」
「俺か?俺は、磯崎大河。妻と息子を持っている」
「…そんなことまで聞いてないけど」
「冷たいねぇ〜!いいじゃないかよ、仲良くやろうぜ!な?」
「人間なんかと仲良くなんて出来るわけないでしょ」
「大丈夫だ。お前は根はいい奴なんだ。だからすぐに周りもお前を受け入れてくれる」
「…よく言うよ」
「ま、その内な。その間は俺と一緒にいてくれ。これ、予定表だ。これにはちょっとした特殊なものが仕掛けられててな…これでいつでも連絡取れるぞ」
「…べつにいらないんだけど」
「まあまあ、受け取っといてくれ!」
積極的に私と関わろうとしてくる。そういう人間の心は、何故か読みたくなかった。
だから、いつも読まないでいる。
きっとまだ何処か、期待しているのだろう。
人間が私達を認めてくれる事を。
「今日の仕事は終わりだ!ほれ、給料」
「…!」
そう言って手に乗せてきたのは、五万円だった。
「…初日からこんなにあげちゃっていいの?」
「ああ、俺はこう見えて結構儲かってるんだ」
「…ふーん…んじゃ、もらってくよ」
「!おう!」
「……ありがと。また明日ね」
「…!!…ふふっ、ああ!また明日!」
大河が少し嬉しそうな顔をした。
この日以来、私は大河の助手として働き出したのだった。
To be continue…




