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王と王妃と側妾  作者: 氷雨
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 彩栄王の、異母妹であり側妾の一人である朔夜は、幼い時分より、病弱で子を産んだのちも、よく床に臥していた。

 朔夜の、産んだ幼い王子と王女は、その母の手により育てられている。

 一時は、王子をいまだに子の産めぬ王妃の養子にしてはとの話も出たのだが、彩栄王も王妃もそれを望まず、王子は朔夜の手元に置かれている。

 年齢のわりに、さとい王子は王の長子なれど嫡子ではなく、母は王の異母妹なれど王妃でないことをよく理解しており、いずれ誕生するであろう王妃腹の弟を慮り、おごりをみせず目立たぬようひっそりと母と暮らしていた。

 母の枕もとに、二人仲良く座り母を心配そうに見つめる、彩栄王家の血を色濃くひく王子と王女のもとに、二人の父である彩栄王が、側妾のもとを訪れた。

 あからさまに不機嫌な様を隠そうともせずつかつかと朔夜の休む寝台までやってきた彩栄王は、二人の子を抱き上げ膝にのせる。

 枕に、長い黒髪を扇のように広げ、ぐったりと瞑目する朔夜を、彩栄王は忌々しげに睨み付ける。

 その強い視線を、感じたか朔夜は、ゆっくりと目蓋を開いた。

 色合いの淡い瞳が、ふらふらとあたりをさまよい、子らと二人を膝にのせる彩栄王を見つけると瞳が和む。

 その朔夜に、彩栄王はつけつけと文句をいい始める。



「皓夜と百合を放っておいて何をしている。見ろ、泣いているではないか。母のお前が私の子を泣かせるとは何事だ」



 語調はきついが、声の調子はどこか、おさえられ、膝にのせた息子と娘をあやす手は紛れもない父親のものだ。



「お前が寝付いているせいで、王妃が気にかけているのだぞ。お前がゆっくり休めまいと、皓夜と百合を王妃のもとにつれてきてもよいとまで言っている。お前の病が、皓夜と百合にうつりでもすればことだ」



 彩栄王は、子らを王妃のもとに連れていくよう侍女に命じる。

 父に背を押され、心配そうに何度も振り返りながらも、皓夜と百合は大人しく部屋を出ていく。

 側妾の子であり、本来ならば目障りで仕方ないだろう皓夜と百合を、王妃は疎むことも蔑むこともせず、よく面倒をみてくれる。

 王妃の人柄は、確かなものだ。朔夜も、王妃に預けるのは勿体なくも有り難く何も案じてはいない。



「お前が病になると、何故かは知らぬが私のまわりのものらがよく失態を犯す。そのせいで、私まで苛立っているのだ。お前が寝付くといつもそうだ。それにお前は、私の側妾だ。私の与えられる情けにすがって伽をするのがお前の役目だろう。その役目をここのところこなしていないではないか。もう二週間もだ。容易く病などになりおって。私はそのようなこと許した覚えはないぞ」



 腕をくみ、高圧的な口調と態度で、彩栄王は臥せる朔夜を叱責する。

 朔夜は、申し訳なさそうに眉をひそめ、謝罪を口にしかけ大きく咳き込む。

 苦しげに咳き込む朔夜に、彩栄王は大声で常時控えさせている王医と侍女を呼んだ。

 すぐさま駆けつけた王医の処置で、次第に落ち着いたのを見届けてから、彩栄王は椅子から乱暴に立ち上がると捨て台詞をはく。



「早く病を治さねば、この部屋には二度と参らんぞ。そのつもりでおれ」



 足音荒く、出ていく王を見送った王医と侍女らは密かに忍び笑いをもらす。

 二度と来ない、といいながらも王は二日と開けずにこの部屋を訪れ、文句をいいながらも側妾の様子を、うかがわずにはいられないのだ。

 そのことは、この王宮に仕えるものならば周知の事実。知らぬは、王ばかりなのだった。


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